USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.32(2009年5月発行)

月刊 「オプトロニクス3月号」 オプトロニクス社

(2009年2月)

光配向装置

ウシオ電機(株)
三宮暁史

1.はじめに

弊社が「光配向制御技術」に対し、光配向装置を開発し始めてから10数年程度になる。これまでは他の配向制御技術で十分であり「光配向制御技術」は研究開発、段階のまま世間一般の方に知られることはあまり無く、 また光配向装置も同様であったと思われる。

しかし「光配向制御技術」は、特有のメリットがあるだ けでなく、近年の液晶パネル大型化に伴う従来配向制御技術が抱える問題が生じてきたことで、量産用技術としてクローズアップされてきた感が強い。

今回は光配向装置に対する弊社取組の一端を説明す ることで装置概要をご理解いただき「光配向制御技 、 術」に対して弊社が貢献できるところ、すべきところを 議論する礎としたい。

2.光配向装置とは

光配向装置とは、直線偏光紫外線で配向膜に異方性 を持たせて、所定の方向に例えば液晶を並べる装置で ある。光を用いる非接触でクリーンな配向制御を行うこ とが可能であり、歩留まりや本質的な性能改善が期待されている。

 光配向装置に用いるランプは大別して2種類で、ショートアークランプとロングアークランプである。それぞれのランプには特徴があり、光配向装置においてはその特徴を活かした光学系を用意する必要がある。一般に、パターニングが必要ならばショートアークラン プを、不要ならばロングアークランプを用いた光学系 になる。図1に弊社が考える光配向装置の用途と適用装 置光源を示す。

図1. 光配向装置の用途と適用装置光源

3.ショートアークランプを光源とする光配向装置

ショートアークランプを光源とする光配向装置(以下、ショートアーク光配向装置)は、マスクに偏光を照射する偏光照明系、偏光性能をモニタする偏光測定系、およびマスクとワークのアライメントを行うアライメントステージから構成される。照射形態はワーク全面に一括露光、または分割露光を基本としており、駆動部が少 なく、非常にシンプルな装置である。装置概念図を図2に示す。

図2. ショートアーク光配向装置の概念図

3.1 偏光照明系1)

ショートアーク光配向装置において偏光照明系とは、マスク(原画)を通じてワーク上の配向膜に必要な偏光を照射するためのものである。偏光照明系には、パターニング精度に適した、明るく均一な光が求められる。これを満足するために有効な手段が、従来からある インテグレータと、その近傍に偏光板を組み合わせる ことである。以下に偏光照明系の基本性能を示す。

図3. 放射照度

(1)放射照度

放射照度(W/m2)は、照射光の単位時間当たりのエネルギーを単位面積当たりにしたもので、光配向装置の生産性を決める重要な要素である。放射照度Eは図3の場合、照射面から見た光源の見込み角αと光源の放射輝度Bを用いて、下式で表される。

従って、高い放射照度を得るには、光源の放射輝度を高くするか、光源見込み角を大きくすることが必要である。光源の放射輝度を高くするには、使用するランプの放射輝度を高くすればよいが、限界はある。ランプの放射輝度は、電力が大きく電極間の寸法が短いほど高くなるが、これは電流の増加を意味する。電流が大きいほど電極の損傷が進みやすくなり、ランプの寿命が短くな る。必要放射照度を踏まえた上で、最適なランプ電力、電極間寸法を選択する必要がある。

また、必要放射照度を得るためにランプを新規開発することもあり、この場合の開発期間は寿命評価も含めて1年程度を見込んでいる。

(2)分光分布

分光分布は、波長毎の分光放射照度(W/m2/nm)で表される。偏光照明系に必要な波長は配向膜の種類によって異なるが、一般に波長200~400nmといった紫 外域から、その一部を要求されることが多い。

偏光照明系では、照射に必要な波長帯域の光を効率よく取り出すとともに、マスクやワークの温度上昇による加工精度悪化や光学部品の劣化を避けるため、必要波長以外の光をできる限り除去する必要がある。一方、必要波長域での光を増加するにはランプ灯数の増加 と、ランプからの放射の増大が有効である。ランプ灯数の実績最大としては、電力7kWランプ×2灯式(図4)であるが、将来は更なる大電力ランプ×4灯式を予定している。またランプを改良することで、電力を変更することなく波長300nm以下での放射効率を高くすることが できる。その例を図5 に示す.

図4.7kW ランプ×2灯式

図5. ランプ分光分布例(波長365nmで規格化)

(3)偏光軸ムラ

偏光軸ムラ(±°)は、照射面における偏光方向θの場所ムラを表す量で、下式で表される。

この偏光軸ムラは後述の消光比と共に、光配向装置の配向性能を決める重要な要素であり、弊社は開発当初か らシミュレーションおよび偏光照明系の最適化に取り組んできた。現在はシミュレーションと実測値の差異は±0.1°程度あるが、ほとんどは光学部品の組立・加工誤差 で説明がつくものであり、シミュレーションは確立できたと考えている。

実際の弊社装置でも偏光軸ムラは十分なレベルにある と考えており、約0.9m×0.9mの照射面において、偏光軸 ムラ実測値は±0.1°という結果がある。

(4)消光比

消光比の一般的定義は「光強度変調器で、透過光の強度を変化したときの最小と最大の透過光の強度の比2)」である。転じて光配向装置では、消光比ER(:1)は偏光の質を表す数値として、P偏光強度IpとS偏光強度Isを用いて下式で表される。

弊社のショートアーク光配向装置の標準的な偏光板は透過型パイル偏光板である。インテグレータ部にブリュースター角で偏光板を挿入して透過光を利用し、透過効率は50%である。この方式の特徴は、反射型パイル偏光板に比べて高効率で偏光を得ることができることであり、エコロジーの観点からも非常に有効である。また消光比ERはパイル偏光板の枚数を変更することで、5:1~30:1程度の範囲で調整可能である。

偏光の質を表すのにその他表現方法として偏光度Pがあり、消光比ERとの関係は下式で表される。

パイル偏光板の屈折率n、枚数mと偏光度Pの関係には、よく知られた以下の一般式がある3)

屈折率n=1.5としたときの消光比を(4)式と(5)式から計算した結果と、実際に製作した光配向装置の消光比測定結果を図6に示す。凡例に記載した数値は、ランプ電力と照射面寸法である。

消光比計算式と比較して実測値が高い原因は、消光比に大きく影響を与えるパイル偏光板同士による多重反射の度合いが、計算式(無限回反射)と実測値(有限回反射)で異なるためである。実際の設計では、消光比一般式を用いておらず、これまでの装置実績値から消光比を推定している。前述の多重反射のシミュレーション自体は簡 単であるが、十分な精度で計算するために要する時間が 偏光軸ムラの比ではなく、現在は現実的な手段と考えて いない。

図6. 消光比一般式と実測値

3.2 偏光測定系

ショートアーク光配向装置は、偏光測定系を2種類用意している。いずれも不良ワーク流出を防ぎ、安定生産を行うことを目的としたものであるが、測定頻度と設置場所が異なる。いずれも独自の測定アルゴリズムを採用することで、高精度測定を達成している。

(1)高精度偏光測定器

高精度偏光測定器は、ランプ交換毎に照射面での偏光性能に異常がないかを詳細に確認するためのものである。この治具は照射面に設置されるので、露光中は測定することができないが、配向膜に照射する光を直接測定できる点がメリットである。偏光 軸 方向測定再現性で±0.01°を達成しており、偏光性能を正確に把握するためには最適である。

(2)偏光性能モニタ

偏光性能モニタは、露光毎に偏光性能に異常がないかを簡易的に確認するためのものである。このモニタを照射面直近のミラー裏側に設置し、このミラーに設けたピンホール越しに偏光を測定することで、露光中でも偏光性能を確認できることがメリットである。弊社受光器UVDシリーズをベースに、偏光測定に特化した専用受光器を採 用している。

3.3 アライメントステージ

アライメントステージは、マスクとワークの位置を三次元で合わせることが必要である。弊社は全面一括露光、または分割露光に対応している。例えば大型液晶パネルのようにワーク寸法が□2mを越えるような場合は、照射とステージ移動を数回繰り返すといった具合である。このアライメントステージは、既に量産実績がある液晶カラーフィルター用露光機向けのステージをベースにして使用できると考えている。この場合マスクとワークの間隔は、半導体製造業界のように密着もしくは数µmというように厳しいものではなく、100~300µmというように比較的ラフなものになる。

3.4 まとめ

弊社は、生産性を高めるための光配向用高出力ランプと高利用効率偏光板による偏光照明系、不良ワーク流出防止のための偏光測定系、安定した露光を可能にするアライメントステージという、ショートアーク光配向装置に必要なキーパーツを揃えた。今後は液晶パネル生産において、既存の配向プロセスからの置き換え用として装置拡販を図りたいと考える。

液晶パネルは大型化の一途をたどり、それに伴い照射面積も広くなる。今後の課題としては、液晶パネルの更なる大型化に対応した光配向用高出力ランプである。装置だけでなく、ランプも開発製造している弊社としては、光配向に適したランプと装置を提案していきたいと考え ている。

4.ロングアークランプを光源とする光配向装置

ロングアークランプを光源とする光配向装置(以下、ロングアーク光配向装置)は、ワークに偏光を照射する偏光照明系と、ワークをスキャン露光するための搬送系から構成される。装置概念図を図7 に示す。

4.1 偏光照明系

ロングアーク光配向装置において偏光照明系とは、ワーク上の配向膜に必要な偏光を照射するためのものである。偏光照明系には、スキャン幅方向のみ均一な明るさの光が求められる。スキャン方向では光の均一性を問われないので、樋状に並べたコールドミラーを用いて、線状 の光を照射することが多い。以下にロングアークならではの、偏光照明系基本性能を示す。

図7. ロングアーク光配向装置概念図

(1)積算露光量

積算露光量(J/m2)は、放射照度の時間積分値で表され、光配向装置の生産性を決める重要な要素である。測定は搬送系に弊社製積算露光量計を組み込み、これを任意の速度でスキャンして行っている。

大型液晶パネル用途では、必要な積算露光量を得るために、例えばランプの発光長(アーク長)約3000mm、電力約50kWといった大電力ランプを複数本用いることを考えている。大電力ランプからの熱による悪影響を防ぐため、ランプを含めた光学部品の冷却が必要であるが、装置設置環境がクリーンルームであることを想定すると、排気風量を極力抑える工夫が必要である。弊社ではこういったユーティリティ低減を課題として、従来からある循環冷却システムや、その発展系の採用を検討している。そのシステムを図8,9に示す。

図8. 循環冷却システム

図9. 循環冷却システム発展系

(2)分光分布

分光分布の定義は3.1(2)項と同じである。ロングアーク光配向装置では、配向膜の感度波長域を考慮して、大別して2種類のランプを使い分けている。分光分布例を図10に示す。

図10. ロングアーク光配向装置分光分布例

(3)偏光軸ムラ

偏光軸ムラの定義は3.1(3)項と同じである。ロングアーク光配向装置では、単純にランプと偏光板を組み合わせただけでは偏光軸ムラが大きく、配向性能に不安がある。昔の液晶テレビを斜めから見ると、光が漏れているのと同じ効果である。そこで弊社は偏光軸ムラを小さくするため、例えばランプの下側に筒型ミラーを組込むなど、補助光学部品についても開発を行った。これを図11に示す。

図11. 補助光学系例

4.2 偏光測定系

原理的にはショートアーク光配向装置用と同じであるが、ロングアーク光配向装置の光と熱が大きいため、耐熱対策が大きく異なっている。偏光測定系を冷却するだけでは不足であり、弊社では受光素子に温度特性が優れているものを採用するなどの改善を続けている。

4.3 まとめ

弊社は、配向膜の感度波長域を考慮した2種類のランプを用意し、偏光軸ムラを小さくするための補助光学部品の開発を実施した。光としては顧客ニーズを満足できたと考えている。今後の課題としては、ランプを含めた偏光照明系の効率を改善することで、より環境に配慮した製品を提案していきたいと考える。

5.まとめ

「光配向制御技術」において、光を欠かすことはできない。弊社とそのグループが扱う製品は産業用装置だけではなく、紫外線を放射するランプやエキシマレーザもある。「光配向制御技術」の普及に向けて、光源の最適化、および光源に適した装置を用意して業界に貢献したい と考える。

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved.