USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.34(2011年3月発行)

電気学会 プラズマ・パルスパワー合同研究会

(2010年12月)

172nm 真空紫外光で励起した
アンモニアガスの脱硝反応特性**

神原信志1*, 近藤光浩1, 早川幸男1, 増井芽2, 菱沼宣是3
1.岐阜大学大学院工学研究科 2.株式会社アクトリー 3.ウシオ電機株式会社
NOx removal characteristics by ammonia gas activated by 172 nm vacuum ultra violet.
Shinji KAMBARA1*, Mitsuhiro KONDO1, Yukio HAYAKAWA1, Megumi MASUI2, Nobuyuki HISHINUMA3
1Gifu University, 2ACTREE Corporation, 3USHIO Inc

A unique De-NOx system by activated ammonia injection using a vacuum ultra violet (VUV) generated by an exicimer lamp have been developed for flue gas clean-up from an incinerator. In this paper, parametric study on NOx removal characteristics was carried out as parameters of NH3/NO molar ratio, oxygen concentration, and NH3 concentration in the exicimer reactor. Activated ammonia gas through a lamp of 172nm wavelength was reacted with nitrogen oxide under 700°C as well as the radical injection method using an atomospheric plasma. NOx remocal characteristics was concerned on the chemical reaction of NO-ammonia system.

キーワード:エキシマランプ,真空紫外光,NOx, NOx 除去

Keywords: Exicimer lamp, vacuum ultra violet, NOx, NOx removal

** プラズマ・パルスパワー合同研究会(2010年12月16日~18日、東京)にて発表。(電気学会研究会資料PST-10-72, pp.29-32)

1. 緒 言

我々はこれまでラジカル連鎖反応を利用したラジカルインジェクション脱硝法の開発を行ってきた1-5)。ラジカルインジェクション法とは、NH3ガスを大気圧アルゴンプラズマに通過させることでNOxの除去に効果的なアンモニアラジカル(NHi)を生成させ、それを燃焼排ガスに吹き込むことにより、無触媒で高効率に脱硝を行う方法である。

これまで、ラジカルインジェクション法における脱硝メカニズムを検討してきたが1, 6)、大気圧アルゴンプラズマにアンモニアを通過させると、NH、NH2、Nといった活性化学種以外にもN2H2、N2H4といった準安定化学種が生成し、それらの準安定化学種が温度場でNHiラジカルを生成し、脱硝反応に少なからず寄与しているのではないかという推論に至った。

この推論が正しければ、何らかの手段でN2H2、N2H4といった準安定化学種を生成できれば、大気圧プラズマを用いるよりも安価かつエネルギー効率の高い脱硝法を開発できる可能性がある。

アンモニアガスの光吸収係数は、160-210nmの間で大きく変化する。すなわち、この間の波長をもつ光をアンモニアガスに照射すれば、アンモニアは励起・改質され、N2H2、N2H4といった準安定化学種を生成する可能性がある。

160-210nmの間の光を発生する方法として、エキシマランプ(172nm:真空紫外光)、低圧水銀ランプ(185, 254nm:遠紫外光)などがあるが、本研究では、まずランプ出力を大きくとれるエキシマランプを用いてアンモニアガスを改質し、それを模擬排ガスに吹き込んだ時の脱硝特性を調べた。

2. 実験装置および実験方法

2.1 実験装置及び方法

Fig.1に脱硝実験装置の概要を示す。実験装置は、アンモニアガス供給部とエキシマランプ、模擬排ガス供給部、石英製ガス予熱管(500°C一定)、石英製反応管(500℃~850℃)、連続式ガス分析装置から成っている。

模擬排ガスの組成は、NO/O2/N2であり、NO濃度および酸素濃度を変化させた。

アンモニアガスは、NH3 /ArまたはNH3/N2を、混合器付マスフローコントローラー(KOFLOC Model 8500)で濃度と流量を制御し、エキシマランプに供給した。エキシマランプからでた改質アンモニアガスは、内径4mm、長さ1.0mのPFP製チューブを通って、ガス混合室で模擬ガスと混合される。

反応管温度は、500-800℃に変化させ、NOおよびN2O濃度の変化を測定した。反応管出口圧(ゲージ圧)は300-500Paで、ほぼ大気圧である。ガス分析は、赤外線式NOx計(HORIBA VIA510)、限界電流式ジルコニア法O2分析計(SHIMAZU NOA-7000)、赤外線式N2O 計(HORIBA VIA510)を用いて、脱硝前後の濃度変化を連続で分析した。

実験条件をTable 1に示す。まず、希釈ガスをAr、酸素濃度およびNH3/NOモル比を一定とした時の反応温度に対する脱硝率の変化を調べた。次に、希釈ガスをArからN2に変え、特性を比較した(Ex.1)。

Ex.2では、酸素濃度およびNH3/NOモル比を変化させ、脱硝率の変化を調べた。さらに、エキシマランプ内のNH3濃度を変化させた時の脱硝率の変化を酸素濃度およびNH3/NOモル比を一定として調べた(Ex.3)。

エキシマランプでアンモニアガスを改質して脱硝する方法(以下VUV脱硝法という)の結果は、熱的脱硝法(Thermalde-NOx)およびラジカルインジェクション脱硝法(DBD)とも比較した。

図1. エキシマランプ利用脱硝装置の概要
Fig.1 : Schematic diagrams of experimental apparatus.

表1. 実験条件
Table 1 : Experimental conditions

2.2 エキシマランプ

Fig.2にエキシマランプによる真空紫外光(VUV)発生装置の詳細を示す。外径40mm、長さ105mmのXeガス封入誘電体バリア放電方式のエキシマランプ(USHIOInc.製)の周囲に、アルミ製円筒カバー(内径80mm)を配置し、ランプ表面とカバー内面の間をアンモニアガスが流れるようにした。アンモニアガスは、流量0.3L/min程度で円筒流路を下から上に流れ、この間、光が照射される。エキシマランプからは、波長172nmのほぼ単一波長の真空紫外光が26mW/cm2の出力で放射される。

アンモニアに作用する光エネルギー(フォトン)は、アンモニアガスの濃度と滞留時間によって変化するため、Table1に示したように、実験ではこれらの影響も調べた。

図2. エキシマランプ装置の構造詳細
Fig. 2 : A detail of excimer lamp with a gas flow pipe.

3. 実験結果

3.1 VUV脱硝特性

Fig.3に、模擬排ガス流量2.7L/min、NH3/Ar流量0.3L/minとし、NO初期濃度500ppm、O2濃度2.1%、NH3/NOモル比1.5の時の脱硝率の変化を反応温度に対して示した。結果は、VUV脱硝法(VUV)、ラジカルインジェクション法(DBD)、熱的脱硝法(Thermal)、各々について比較した。

既知のとおり、熱的脱硝法では、800℃付近で急激に脱硝反応が開始した。VUV法では650℃程度から脱硝率が上昇し、800℃までの間、反応管温度の増加にともなって脱硝率は増加した。一方、ラジカルインジェクション法(DBD)は、600℃ですでに脱硝率11%を示し、VUVよりも若干ながら低温で脱硝反応が開始しているが、650℃以上ではVUV法とDBD法は同等の脱硝率を示した。

Fig.3から明らかなように、VUV法は脱硝反応を促進でき、かつ熱的脱硝法よりも高い脱硝率を得られることが明らかとなった。

NH3ガスの光吸収係数は、Fig.4に示すように波長依存性があるが、172nmで85atm-1cm-1である。NH3分子は、この波長により励起され、NHやNH2といった活性化学種を生成すると考えられる。しかしながら、本実験では、VUV装置出口からガス混合室までをパイプで連結しているため、このようなNHiラジカルがそのまま残存しているとは考えにくい。したがって、ラジカルというよりはNHiラジカルがN2H2やN2H4のような準活性種となり、これらが温度場でNHiラジカルを再生成することで、脱硝反応が促進したものと考えられる。

すなわち、VUVでは、例えば(1)、(2)の反応でN2H4が生成する。

生成したN2H4は、温度場で(3)の反応でNH2ラジカルを生成し、(4)、(5)の反応により低温でも脱硝反応が起こる。

図3. VUV法、DBD法、 熱的脱硝法による脱硝特性の比較
Fig.3 : NO removal characteristics by VUV, DBD, and thermal de-NOx as a function of temperature.

図4. 様々な波長におけるアンモニアガスの吸収係数
Fig.4 : Absorbtion coefficient of NH3.

3.2 希釈ガス種類の影響

ラジカルインジェクション法では、アンモニア希釈ガスをArとすることで低消費電力およびラジカル発生効率を高めている1)。液化アルゴンは比較的安価であり、固定発生源のNOx処理にはArの使用は問題ない。しかしながら、車両や船舶のような移動体のNOx処理をする場合、液化アルゴンの使用は困難であり、窒素を希釈ガスとして使用することが必要となる。

172nmでの窒素の吸収係数は低いため、エキシマランプでは窒素を希釈ガスとして使用できると考えられる。

Fig.5には、NH3/N2とNH3/Arの脱硝率の変化を比較した。希釈ガスをN2としても、Arの場合と脱硝率はほぼ同等であり、ほとんど影響しないことがわかる。VUVでは希釈ガスとしてN2を使用可能であり、安価な脱硝装置として有望である。

図5. 希釈ガスの影響
Fig.5 : Effect of carrier gas species on NO removal.

3.3 NH3 /NOモル比と酸素濃度の影響

Fig.6に、NH3/NOモル比を1.0-3.5に変化させた時の脱硝率の変化をO2濃度2.1%および8.3%について示した。また、比較として熱的脱硝(Thermal)の結果も示してある。

モル比を増加させると脱硝率は大きく変化し、モル比2.0では700℃で脱硝率80%を越えた。モル比2.0を越えると、脱硝率の増加率は緩やかになり、モル比3.5では脱硝率93.5%であった。

また、酸素濃度の影響は、O2 = 2.1%と8.3%の間で脱硝率の差は3-5%程度であった。酸素濃度が高い方が若干脱硝率が高くなったが、計測誤差を考慮すると、顕著な影響はないと判断できる。

NH3とNOの巨視的反応式は(6)で示される。すなわち、Fig.6のようにNH3/NOモル比が大きくなるほど脱硝率が高くなることは容易に予想される。

また、上式より酸素濃度も脱硝反応に影響するが、本実験条件では、模擬排ガスのNO濃度500ppmに対し、O2はその50倍以上の濃度(2.1%, 8.3%)であり、O2リッチの条件下であるため、Fig.6のように酸素濃度影響があまり見られなかったと考えられる。

図6. NH3/NOモル比と酸素濃度の影響
Fig.6 : Effect of NH3/NO mole ratio and O2 concentration.

3.4 活性化NH3分子数の影響

172nm真空紫外線で励起・改質されたアンモニアガスは、脱硝反応を促進することがわかった(Fig.3)。現在のところ、どのような物質がエキシマランプで生成されるのかは不明であるが、例えば(1)(2)式のように光エネルギーE=hvで活性化学種が生成すると考えると、光エネルギーによって励起されるNH3分子数と脱硝されるNO分子数の間に相関があるものと予想できる。

そこで、エキシマランプ内を通過するNH3濃度および流量(すなわちランプ内NH3滞留時間)を変化させて、両者の関係を調べた(Table 1, Ex.3)。

光エネルギーによって励起されるNH3分子数は、以下の手順で算出した。

すなわち、ηNはエキシマランプで活性化されたアンモニア分子数NAのうち何%が脱硝反応に利用されたかを示す。

Fig.7に、NAに対してηNをプロットした。同図には、(8)式で計算されたNH3の光吸収率も斜体字で示した。

活性化アンモニア分子数が増加すると脱硝分子効率も増加する傾向にあるが、脱硝分子効率は40%程度で頭打ちになった。これは、活性化されたアンモニア分子とNO分子の混合が反応を支配(反応律速)していると考えている。すなわち、本実験条件では、モデルガスの流れの途中から活性化アンモニアガスを供給しているが(Fig.1)、どちらも流速が非常に遅く(層流)、ガスの拡散と熱の対流のみでガスが混合している反応場(拡散混合)である。そのため、ガス混合が脱硝率を支配し、活性化アンモニア分子をいくら多量に吹き込んでも、ガス混合速度が遅いために脱硝率は増加せず、脱硝分子効率も頭打ちになったと考察される。

今後、モデルガスと活性化アンモニアをあらかじめ混合(予混合)した反応場で同様の実験を行い、Fig.7の特性を確認する。

図7. 活性化アンモニア分子数と脱硝分子効率の関係
Fig.7 : Relation between activated ammonia and molecular efficiency of NO removal.

4. 結 言

172nm真空紫外線で励起・改質したアンモニアガスは、熱的脱硝法よりも低温で脱硝効果があり、かつ脱硝率は非常に高くなることがわかった。また、大気圧プラズマを用いたラジカルインジェクション法の脱硝率と比較しても、700℃以上では、ほぼ同等の特性を示した。

脱硝率に及ぼすNH3/NOモル比、酸素濃度、活性化アンモニア分子数の影響を調べ、考察した。

謝 辞

本研究は、科学技術振興機構・研究成果最適展開支援事業A-STEP(フィージビリティスタディステージ探索タイプ、平成22年度)によって実施された。ここに記し、謝意を表す。

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