USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.34(2011年3月発行)

日本燃焼学会 第48回燃焼シンポジウム

(2010年12月)

真空紫外光照射アンモニアガスによる
無触媒脱硝特性**

神原信志1*, 近藤光浩1, 早川幸男1, 菱沼宣是2, 増井芽3, 隈部和弘1, 守富寛1
1) 岐阜大学大学院工学研究科 2) ウシオ電機株式会社 3) 株式会社アクトリー
Non catalytic De-NOx characteristics by ammonia gas excited by vacuum ultraviolet photolysis
KAMBARA, Shinj1*, KONDO, Mitsuhiro1, HAYAKAWA, Yukio1, HISHINUMA, Nobuyoshi2,
MASUI, Megumi3, KUMABE, Kazuhiro1, MORITOMI, Hiroshi1
1) Gifu University, 2) Ushio Inc., 3) Actree Co. Ltd.,
** 第48回燃焼シンポジウム(2010年12月1日~3日、福岡)にて発表。(講演論文集E331,pp.584-585)

1. 緒 言

我々はこれまでラジカル連鎖反応を利用したラジカルインジェクション脱硝法の開発を行ってきた[1]、[2]。ラジカルインジェクション法とは、NH3ガスを大気圧アルゴンプラズマに通過させることでNOの除去に効果的なアンモニアラジカル(NHi)を生成させ、それを燃焼排ガスに吹き込むことにより、無触媒で高効率に脱硝を行う方法である。この方法は固定排出源のNO除去に実用性を有しているが、低電圧(低消費電力)でプラズマを生成させるためにアンモニア希釈ガスとしてアルゴンを使用することから、車両や船舶等の移動体の脱硝装置として適用するには難しい。

本研究では、アンモニアラジカル生成方法を大気圧プラズマから真空紫外光(VUV)に変えることで、希釈ガスを窒素とすることを検討した。希釈ガスを窒素にできれば、移動体の脱硝装置として適用できるうえ、より安価に脱硝を行うことが可能となる。

本報では、VUVでアンモニアガスを励起し、それを模擬排ガスに混合した時の脱硝率に及ぼす反応温度、酸素濃度、NH3/NOモル比、ガス滞留時間の影響を実験的に調べた。

2. 実験装置および実験方法

Fig.1に脱硝実験装置の概要を示す。実験装置は、アンモニアガス供給部と真空紫外光発生装置およびモデルガス供給部、石英製モデルガス予熱管(500°C一定)、励起アンモニアガスと模擬排ガスのガス混合室、石英製反応管、連続式ガス分析装置から成っている。

モデルガスの予熱および反応温度の制御は、ゴールドファーネスを用いて迅速な昇温を可能とした。モデルガスおよびアンモニアガスは、混合器付マスフローコントローラー(KOFLOC Model 8500)で流量制御した。反応管出口圧が300-500Paとなるように、ガスサンプラー(SHIMAZU CFP8000)の流量を調節した。ガス分析は、赤外線式NOx計(HORIBA VIA510)、限界電流式ジルコニア法O2分析計(SHIMAZU NOA-7000)、赤外線式N2O計(HORIBAVIA510)を用いて、脱硝前後の濃度変化を連続で分析した。

Fig.2に真空紫外光(172nm)発生装置の詳細を示す。外径40mm、長さ105mmのXeガス封入誘 電 体バリア放 電 方式のエキシマランプ(USHIO Ltd.)の周囲に、アルミ製円筒カバー(内径80mm)を配置し、ランプ表面とカバー内面の間をアンモニアガスが流れるようにした。エキシマランプからは、波長172nmのほぼ単一波長の真空紫外光が26mW/cm2の出力で放射される。流量と濃度を調製したアンモニアガスをアルミカバー下方から供給して光励起し、上方出口からPFAパイプ(内径4 mm×長さ1 m)を通じて、ガス混合室に導入した。

実験条件をTable1 に示す。まず、希釈ガスをArとした時の反応温度に対する脱硝率の変化を、酸素濃度およびNH3/NOモル比を変えて調べた。次に、希釈ガスをArからN2に変え、特性を比較した(Baseline)。また、全ガス流量Fを変えて反応管内ガス滞留時間の影響を調べるとともに(Flow rate)、真空紫外光がアンモニアに作用するフォトン数の影響も調べた(Concentration)。

VUV励起アンモニア脱硝法の結果は、選択的無触媒脱硝法(Thermal de-NOx)およびラジカルインジェクション脱硝法と比較した。

Fig.1 : Schematic diagrams of experimental apparatus.

Fig. 2 : A detail of excimer lamp (172nm) with a gas flow pipe.

Table 1 : Experimental conditions

3. 実験結果および考察

3.1 反応温度の影響と反応機構の推定

Fig.3に総流量3.0L/min、O2濃度2.1%、NH3/NOモル比1.5、NH3希釈ガスArの時の反応管温度(管外壁の温度)に対する脱硝率の変化をVUV励起アンモニア脱硝法(VUV)、ラジカルインジェクション法(DBD)、選択的無触媒脱硝法(Thermal)、各々について示す。ここで、NO初期濃度500ppmである。

Thermalは750°C付近で脱硝が開始するが、VUVは600°C以上から脱硝反応が起こり、800°Cまでの間、反応管温度の増加にともなって脱硝率は増加した。一方、DBDは600°Cですでに脱硝率11%を示し、VUVよりも若干ながら低温で脱硝反応が開始している。

NH3ガスの吸収係数は、波長172nmでは59atm-1cm-1であり、この光によりNH3分子は励起され、NHやNH2といったラジカルを光生成すると考えられる。本実験では、VUV装置出口からガス混合室までをパイプで連結しているため、このようなNHiラジカルが残留しているとは考えにくい。しかしながら、NH2ラジカル同士は室温で反応し、HNNH、NH2NH、N2H4のような準安定種を生成する。これらが温度場でNHiラジカルを容易に生成することで、Thermalよりも低温で脱硝反応が起こったものと考えられる。

Fig.3 : De-NOx characteristics in three kinds of de-NOx methods (VUV, DBD, and thermal)as a function of temperature.

3.2 希釈ガス種の影響

Fig.4は、希釈ガスをArまたはN2とした時の反応管温度に対する脱硝率の変化である。希釈ガスをN2としても、脱硝特性にはほとんど影響を及ぼさないことがわかる。これはAr、N2ともに172nmの光を吸収しないことによるものである。VUVでは希釈ガスとしてN2を使用可能であり、安価な脱硝装置として有望である。

Fig.4 : Effect of carrier gas specieson NO removal.

3.3 モル比と酸素濃度,ガス滞留時間の影響

Fig.5に、NH3/NOモル比を1.0-3.5に変化させた時の脱硝率の変化をO2濃度2.1%および8.3%について示した。比較としてThermalの結果も示してある。モル比を増加させると脱硝率は大きく変化し、モル比2.1では700°Cで脱硝率80%を越えることがわかった。また、酸素濃度2.1%よりも8.3%の方が若干(5%程度)脱硝率が高くなった。

モル比の影響は、励起アンモニアガスとモデルガスとのガス混合の影響としてとらえることもできる.本実験ではモデルガスは層流であり、同じく層流の励起アンモニアガスとはガス混合しにくい条件にある。言い換えると、励起アンモニアガスとモデルガスを予混合すれば、低いモル比でもさらに高い脱硝率を得られる可能性がある。

Fig.6は、反応管内のガス滞留時間(ピストン流として計算)に対する脱硝率の変化を示した図である。滞留時間が長くなるほど脱硝率は増加し、6.0s程度で頭打ちにになる傾向を示すが、この図もまたガス混合の影響を含んでいる。励起アンモニアガスは、反応管内をピストン流で流れながら、半径方向にモデルガスと徐々に拡散混合することで反応が進行するものと考えられる。脱硝に関わる素反応式を用いた速度論的解析では、0次元完全混合反応モデルにおいて、脱硝反応は1.0s程度で反応が完結することから、十分なガス混合場では、これほど長いガス滞留時間を必要としないであろう。

Fig.5 : Effect of NH3/NO mole ratio and O2 concentration.

Fig.6 : Effect of gas residence time on NO removal.

4. 結 言

VUV励起アンモニア脱硝法を開発した。脱硝性能は ラジカルインジェクション法よりわずかに劣る程度で あった。本法は、希釈ガスにN2を用いることが可能であ り、より低コストの脱硝法であると思われる。

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved.