大学研究室を訪ねて Campus Lab㉒
エネルギー利用に関わる環境問題解決へ
国立大学法人岐阜大学大学院工学研究科環境エネルギーシステム専攻守富・神原・隈部研究室
准教授 神原 信志 先生
文化、産業、健康の学び舎が統合され、
形づくられた総合学府
岐阜大学
岐阜大学は、5つの学部と8つの大学院研究科が中核となって構成されている国立大学である。5つの学部の中で、最も歴史ある学部は教育学部である。その母体は1873年(明治6年)に設立された師範研習学校に遡り、137年の伝統をもつ。次いで1875年(明治8年)設立の岐阜県公立病院附属医学校を母体とする医学部であり、その後、1923年(大正12年)設立の岐阜高等農林学校を母体とする農学部、1942年(昭和17年)設立の岐阜県立高等工業学校を母体とする工学部と続く。地域科学部は最も新しく、1996年(平成8年)の開設である。
このように岐阜大学は、東海地域一帯の伝統ある文化や学術をはじめ、産業や人々の健康を守り育てるために設立された各種の学校が、時代の変転とともに統廃合されながら、今日の総合学府に形づくられてきた。岐阜大学の使命はこうした特色ある成り立ちに根ざしており、その理念や目標、ディプロマポリシー(卒業認定・学位授与に関する方針)に色濃く表れている。
理念
岐阜大学は、「学び、究め、貢献する」地域に根ざした国立大学として、東西文化が接触する地理的特性を背景としてこの地が培ってきた多様な文化と技術の創造と伝承を引き継ぎ、人と情報が集まり知を交流させる場、体系的な知と先進的な知を統合する場、学問的・人間的発展を可能とする場、その成果を社会に発信し、有為な人材を社会に送り出す場となることによって、学術・文化の向上と豊かで安全な社会の発展に貢献する。
目標
- 1. 岐阜大学は、人材養成を最優先事項として位置付け、質・量ともに充実した教育を行い、豊かな教養と確かな専門的知識・技能、広い視野と総合的な判断力、優れたコミュニケーション能力に加え、自立性と国際性を備えた高度な専門職業人を幅広 い分野で養成し、社会に輩出する。
- 2. 岐阜大学は、優れた教育を実践するための研究基盤を維持するとともに、生命科学及び環境科学分野をはじめとする独創的、先進的研究の拠点形成を目指し、その成果を社会に還元する。
- 3. 岐阜大学は、多角的な教育力及び研究力により、地域の諸課題に取り組み、地域社会において存在感のある大学として、地域社会の活性化に貢献する。
- 4. 岐阜大学は、教育と研究の特性を生かした大学の国際化を推進し、学生や教職員の国際的通用性を高め、地域社会の活性化に貢献する。
地域に根ざした国立大学として、その姿勢と責任を明示
「人材養成を最優先事項に位置づけ、質、量ともに充実した教育を行い、高度な専門職業人を幅広い分野で養成し、社会に排出する「」教育、産業、経済、文化、医療など、多くの分野において社会貢献する人材を育てる」
―― 岐阜大学第二期中期目標のメッセージである。
言い換えれば、「教育、産業、経済、文化、医療など、各分野で社会貢献する人材を世に送り出す。そのために、高度な専門知識と知見をもつ職業人の養成を最優先事項に位置づけ、質、量ともに充実した教育を行う」であろうか。こうした方針や目標は、学生、教員、社会貢献、大学運営という4つの憲章に掲げられ、さらに個々の学部憲章やディプロマポリシーに具体化されている。岐阜大学は、地域に根ざした国立大学としての姿勢と責任を明示し、学術や文化の向上、豊かで安全な社会の発展を目指している。日ごろの活動と成果を、学内はもとより、地域や企業、卒業生に発信し、理解と信頼を得ながら、一体となって社会貢献に向けた取り組みを推進している。
ものづくり技術の探究と未来に貢献する技術者を育成
工学部/大学院工学研究科
岐阜大学工学部は、社会基盤工学、機械システム工学など、9つの学科で構成されている。また、大学院工学研究科には博士前期と博士後期の2つの課程があり、環境エネルギーシステムをはじめ、あわせて14の専攻で構成されている。これらの体制を通して、ものづくりのメッカ東海地方の産業に根ざしたものづくり技術の探究と、日本の将来に貢献する技術者を育成している。
さらに金型創成技術研究センター、未来型太陽光発電システム研究センター、社会資本アセットマネジメント技術研究センター、先端創薬研究センターなど、付置された特色あるセンターや研究科と協同して、新たな学問や研究分野を開拓、これからの日本に何が必要かの学びの場を、広く地域社会に提供している。
2つのキーワード「環境問題」と「新エネルギー」を融合
環境エネルギーシステム専攻
地球規模で問題になっている温暖化は、今日、避けて通れない人類最大のテーマである。その対策のための太陽光発電技術やバイオマスの活用技術など、脱石油の切り札となる新しいエネルギーの開発やエネルギーの高度利用技術の開発は、まさに急務といっても過言ではない。
大学院工学研究科の環境エネルギーシステム専攻は、「環境問題」と「新エネルギー」という2つのキーワードを融合した、大学院単体の専攻(独立専攻)である。電気、化学、環境、機械などの専門知識をタテ糸に、従来の工学部の学科や専攻組織を超えた相互連携をヨコ糸にして、基幹講座である「環境システム」と「再生可能エネルギー」をはじめ、協力講座の「バイオマス変換システム(応用生物科学部)」、連携講座の「新機能エネルギー材料学(産業技術総合研究所)」を構成。クリーンで再生可能な新エネルギーの開発と、従来型エネルギーの新利用による自立(地域)分散型エネルギーシステムの構築に関する学際的な研究に取り組むとともに、高度な専門知識と幅広い知見をあわせ持つ職業人の育成、社会人の再教育を進めている。
現在、専攻主導プロジェクト「次世代太陽光発電システム開発プロジェクト」のもと、太陽光発電効率向上を目指したさまざまな新技術開発研究が進行している。さらに環境負荷低減・環境共生を目的とする新エネルギーの開発を目指した「環境対応型エネルギー転換システム開発プロジェクト」の発足も予定されている。
環境エネルギーシステム専攻 博士前期課程
21世紀における人類最大の課題である環境・エネルギー問題、特に地球環境保全とそれに関わるエネルギーシステムについて、これまでの学問領域を超えた次元での教育・研究を行い、再生可能な新エネルギーの開発と従来型エネルギーの新利用による自立(地域)分散型エネルギーシステムの構築に関する学際的知識を持つ高度専門職業人の養成及び社会人の再教育を行う。
環境エネルギーシステム専攻 博士後期課程
クリーンで再生可能なエネルギー、リサイクル可能なエネルギー、従来型エネルギーの新利用形態、未利用エネルギーの開発と自立分散型新エネルギーシステムの基盤を実現できる高い専門性を持ち、技術と社会及び生態系との融合を目指した「環境産業革命」の担い手となりうる独創性のある研究者や技術者の育成および社会人の再教育を行う。
石化資源の有効利用、環境負荷物質の低減を目指して
守富・神原・隈部研究室
環境エネルギーシステム専攻の基幹講座のひとつである環境システム講座には、守富・神原・隈部研究室と安田・小林・吉野研究室がある。この2つの研究室が両輪となって、CO2を排出せずにバイオマスや廃棄物から新エネルギーをつくるシステムの開発、プラズマによる環境汚染物質除去装置の開発、風力発電や太陽光発電などの戦略的な電力供給計画、発電システム設置の適地選定に必要な風況や日射の予測技術の開発などを推進し、これらを通して、エネルギー利用と環境保全の両立を目指している。
「私たちの生活に欠くことのできない電気は、石油や石炭、天然ガスなどの一次エネルギーから主につくられています。これらの石化資源の埋蔵量は限られており、また、その使用によって、環境に悪い二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物をはじめ、微量ながら水銀、ヒ素、ホウ素などを排出しています。当研究室では、
- ●高効率・低環境負荷のエネルギー転換法の開発
- ●環境負荷物質の生成メカニズム、低減法の開発
- ●発電プロセスの評価と効率化
といった研究を通じて、エネルギー利用に関わる環境問題の解決に寄与することを目的としています」と、守富・神原・隈部研究室の神原先生は話す。
研究テーマ
- ・ バイオマスから水素をつくる
- ・ 石炭から二酸化炭素を排出せずに水素をつくる
- ・ 天然ガスから二酸化炭素を排出せずに水素をつくる
- ・ プラズマで改質した化学種でNOx、SOx、N2O を除去する
- ・ 紫外線で改質した化学種でNOx、SOx を除去する
- ・ 燃料電池排水素をプラズマで低温燃焼する
- ・ ラジカル反応を利用して水素をつくる
- ・ 環境負荷物質の排出状況を調査・分析・評価する
- ・ 分析困難な微量成分や化学形態を分析可能にする
- ・ 化学反応を素反応レベルで解明する
- ・ エネルギープロセスを総合的に評価・分析する