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光技術情報誌「ライトエッジ」No.37〈特集ウシオの新しい取り組み第二回〉 2012年6月発行

光源

UVインクジェットプリンター用UV-LED

小野田 直人

1.はじめに

近年、産業用印刷分野において、デジタル印刷の占める比率が高くなりつつある。これは、従来の大量印刷ではなく、少量多品種印刷や印刷リードタイムの短縮等、デジタル印刷が最近の印刷市場ニーズに応えることができ、印刷ユーザーの注目が集まっているからといわれている。

産業用デジタル印刷の中で、特にインクジェットプリンターは、デジタル化のメリットを最大限に生かせる印刷機であり、さまざまな機種が各メーカーから市場に投入され、活況を呈している。

本稿では、その中で特に最近注目を浴びているUVインクジェットプリンターに関して論ずる。

表1. 印刷概観図(秀和システム「最新印刷の基本と仕組み」より 一部加筆 )

2.インクジェットプリンターについて

(1)構造

インクジェットプリンターは、印字ヘッドから微少なインクを印刷メディアに向けて液滴させて、画像を形成する構造である。

印字方式としては次の2種類が挙げられる。

スキャン方式:

印字ヘッドがメディア上を移動する。印字スピードが比較的低速。

シングルパス方式:

印字ヘッドは固定。メディアが移動する。印字スピードが比較的高速。

また、印刷メディアは、軟質材であるロール形状、シート形状の物と、硬質材であるリジット形状(板状)の物に分類されプリンターも、それぞれのメディア搬送に適合した仕様に分類されている。

(2)特長

インクジェットプリンターには、以下のメリットがある。

  • ・ 狭い面積から広い面積までの印刷が可能
  • ・ 少ロットでの印刷が可能
  • ・ メディアを選ばず印刷可能
  • ・ 印刷のシステムがシンプルであるため、印刷機の小型化に寄与できる
  • ・ 大がかりなシステムは不要であり、印刷のオペレーションが容易

インクジェットプリンターは、マシンも比較的小型で設置が容易であり、有版印刷機と比較すれば印刷オペレーションも容易である。少ロットでの印刷対応も得意であることから、小規模印刷ユーザーでも、導入は比較的簡単に検討できるメリットもある。

図1. インクジェット構造 (コニカミノルタIJ社hpより)

(3)種類

インクジェットプリンターは、使用するインクを水性インク、溶剤系インク、UVインクから選択することができる。主な使用インクの分類と特長を表2に示す。それぞれに特長があり、一長一短である。

主要インクジェットプリンターメーカーの大半が、それぞれのインク対応マシンを市場投入している。

図2. ロール式とフラットベッド式のインクジェットプリンター

表2. インクの分類と特長 (日本画像学界編「インクジェット」より一部加筆 )

(4)用途

インクジェットプリンターによる印刷は、幅広い印刷用途に適用ができる。以下に主な用途を列挙する。

  • ・ サイングラフィックス向け(ポスター、パネル、バナー、バス/電車ラッピング等)
  • ・ 各種表示板向け(料金表、方向指示板等)
  • ・ カード向け(各種カード類等)
  • ・ 電子部品向け(メンブレンスイッチ、操作パネル等)
  • ・ グッズ向け(ボールペン、キーホルダー等)
  • ・ デコレーション向け(携帯ケース、化粧箱等)
  • ・ シール・ラベル向け(各種シール、ラベル、バーコード表示等)
  • ・ 包装各種向け(組立包装箱、軟質包装材、ダンボール表示等)
  • ・ 建築用外装材、内装材向け(各種化粧ボード等)
  • ・ 捺染向け(衣類、タオル等)

3.UVインクジェットプリンターについて

本稿の目的であるUVインクジェットプリンターについては、新技術として、おおよそ2000年以降にプリンター各社において開発・市場投入が進められた。

特に、2008年Drupaにおいて、ミマキエンジニアリング社より世界初のUV-LEDを搭載した産業用UVインクジェットプリンターが発売され、これまでのメタルハライドランプに代わってLEDにインク乾燥光源が進化している。

(1)構造

 画像形成については、水性、溶剤系インクジェットプリンターの方法とほぼ同じであるが、インク乾燥にUV光源を必要とする点が大きく異なる。

①インク

UVインクを使用する。印刷メディアへのインク液滴後にUV光を照射して、インクを乾燥させる仕組み。UV乾燥光源としてUV-LEDを使用する場合は、通常のUVインクよりも高感度であるLED専用インクを使用する必要がある。

(2)UVインク乾燥用光源

UVインクの乾燥のためには、インク液滴後にUV光の照射が必要となる。UV光源としては、放電式のメタルハライドランプと最近注目されているUV-LEDの2種類が挙げられる。

図3. UVインクの硬化イメージ (ミマキエンジニアリング社hpより)

(3)特長

 UVインクジェットプリンターは、水性、溶剤系インク ジェットプリンターと比較して、以下の印刷上のメリッ トがある。

  • ・ インクの瞬時乾燥が可能。高スループットが可能となる。
  • ・ インクの非吸収メディアへの直接印刷が可能。
  • ・ 溶剤系インクで問題となる揮発性有害化合物(VOC)が生じない。環境にやさしい。

(4)UV光源

インク乾燥用UV光源としては、従来よりメタルハライドランプが使用されてきた。メタルハライドランプとは、各種金属のハロゲン化物(ナトリウム、タリウム、インジウム、スカンジウム等のハロゲン化物の単体か組み合わさったもの)を蒸気中のアーク放電によって照射する、高輝度放電ランプである。ランプの発光スペクトルは、金属特有の光を利用することで、紫外~可視域に及んでおり、各種UV反応用途、照明用途に用いられている。

これに対し、新たな光源として、近年、UV-LEDが注目され、次世代硬化光源として、市場での関心が高くなっている。ランプと比較して、発光スペクトルは紫外域の極めて狭い範囲となっており、消費電力も低く、光源からの発熱も低いというメリットがある。

それぞれの仕様比較を図4、表3に示す。

図4. メタルハライドランプとLEDの分光分布図

表3. UVランプとUV-LEDの比較 (筆者作成)

4.UVインクジェットプリンターの市場

(1)最近の市場動向

UVのメリットを生かし、UVインクジェットプリンターは、販売数量、機種数量ともに増加する傾向にある。

大判印刷向けであるワイドフォーマット用インクジェットプリンターを例にとると、世界全体の販売数は、2010年で約13万台。うち、UVインクジェットプリンターは約4千台と予測されている。

ここ数年の伸び率から見ると、2015年には、世界全体の販売数は約16万台前後となることが予想され、うち、UVインクジェットプリンターは約1万台程度が見込まれている。

インクジェットプリンター市場は、今後とも大きな伸びが期待できる分野と考えられる。また最近では、ミマキエンジニアリング社、Roland DG社より、UV-LED搭載の小型UVインクジェットプリンターが販売され、特に小型中心の立体メディアへの印刷用途が市場で注目されている。富士フィルム社もIGAS2011において、UV-LED搭載のワイドフォーマット機を披露している。

ワイドフォーマット・小型サイズ機以外では、IGAS2011で、印字幅が狭いラベル向けプリンターへのUV-LED搭載マシンも出品されており、特にUV-LEDへの市場の関心が高まっているものと考えられる。

図5. UV-LED搭載の小型UVインクジェットプリンター

(2)今後の予測と課題

印刷処理の高速化、印刷メディアの多様化、環境適合等のメリットから、UVインクジェットプリンターの市場での拡大傾向は、今後も当面続くと予測する。大判印刷向けワイドフォーマットインクジェットプリンター、ラベル印刷向けのラベル・シールインクジェットプリンターのジャンルで、UV化が進んでいくと推測する。

ただ、最近の世界経済の低迷、印刷業界全体の地盤沈下の状況を踏まえた場合、市場での一層のUVインクジェットプリンターの普及拡大には、以下の課題をクリアする必要が考えられる。

  • ・ 水性、溶剤系インクと比較してUVインクの価格が高い。さらにUV-LED専用インクは高い。
  • ・ インク価格の低減が必要。
  • ・ 水性、溶剤系インクと比較して、UVインクは色の発色、光沢性でやや劣る。
  • ・ マシン価格の低減。UV硬化光源のコスト低減。
  • ・ インク乾燥光源にUV-LEDを選択する場合は、処理スピードUPのために高照度化が必要。

また、UVインクジェットプリンターの採用拡大に伴い、今後のインク乾燥光源は、メタルハライドランプからUV-LEDへ移行してくることが予想される。LEDの採用課題としては、LED専用インクのバリエーションアップと、LEDの高照度化への取組みが必要となることが予測される。

5.ウシオの取組み

ウシオ電機では、UV光による硬化・接着光源として、従来よりメタルハライドランプ、高圧UVランプの製品化を行ない、販売を展開してきた。これらのランプは、灯具・電源・排気システムと、一括して専用ユニット化し、ユニキュアシステムとして現在も販売中である。

また、最近のUVインクジェットプリンターの注目アイテムであるUV-LEDに関しても、JAGAS2009においてコンセプト出展を実施し、2010年以降は、プロトタイプ品を使用して、印刷各メーカー様と各種評価試験を実施してきた。

これらの結果を踏まえて、今回、IGAS2011会場にて、インクジェットプリンター専用のUV-LED光源を発表、展示を実施した。

UV-LEDは、スキャン方式プリンターへの搭載を前提とした小型・軽量タイプの空冷式と、シングルパス方式プリンターへの搭載を前提とした幅広・高照度タイプの水冷式の2種類をラインナップしている。

今後は、これらUV-LEDの仕様へのブラッシュアップを行ない、高照度化・照射サイズの大型化等、お客様の将来のニーズに応えることができる開発をさらに推進していく計画である。

図6. メタルハライドランプを搭載したユニキュアシステムの灯具

図7. インクジェットプリンター向けUV-LEDモジュール

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