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光技術情報誌「ライトエッジ」No.37〈特集ウシオの新しい取り組み第二回〉 2012年6月発行

シネマ/特殊映像/デジタルサイネージ・メディアファサード

特殊映像プロジェクター・システムの
技術動向

関内 進 (CDS日本支社)

1. はじめに

Christie Digital Systemsグループ(本社:アメリカ、以下CDS)は、ウシオ電機の100%子会社であり、さまざまな映像ディスプレイや映像ソリューションを提供するデジタル映像機器メーカーである。

シネマ・ホール・イベントなどのエンターテインメント分野、プレゼンテーション・インフォメーション・監視制御などのビジネス分野、産官学の研究・教育・研修分野など、さまざまな分野で求められる大型映像、立体視(3D)・バーチャルリアリティ(VR)、シミュレーション、デジタルサイネージなど、多彩な映像システムを開発している。

近年、デジタル技術をはじめとしたエレクトロニクスの急速な進展によって、映像技術も大きな進化を遂げている。大画面、高画質が実現し、最近では3D、VRといった特殊映像が台頭してきた。CDSでは、3D・VR向けに「Mirageシリーズ」を、シミュレーション向けには「Matrixシリーズ」を、業界に先駆けてラインナップし、市場投入している。

本稿では、これらの特殊映像システムの技術動向、および最新技術を披露させていただく。

2. 3D・VR市場に対するソリューション

2001年、CDSは、DLPを採用した3D対応のデジタルプロジェクター「Mirageシリーズ」を発表し、以来10年あまりの間、処理スピード、解像度、明るさを格段に向上させてきた。

直近では、最新の入力処理アーキテクチャにクセノンランプを搭載した「Jシリーズ」を商品化し、高演色性に加え、一挙に安定性、汎用性を高めた。このJシリーズを従来のMirageシリーズにも取り入れ、さらにDIPC(Dual Image Processor Card)を搭載。これにより、新しいMirageシリーズは330Mhzのピクセルクロックまでの映像処理ができ、120Hzそのままの周波数で、WUXGA(1920×1200ピクセル)解像度での3D対応を可能とした。

写真1. Jシリーズ (HD20K-J)

写真2. Jシリーズ Inputパネル

写真3. Jシリーズ 内部

2-1. 3Dの方法

Mirageシリーズでの3Dの実現方法は、左目の映像(フレーム)、右目の映像(フレーム)を交互に、もしくは同時に入力し、プロジェクター内部で処理を行い、左目のフレーム、右目のフレームを交互に表示する。この映像を、完全に同期を取ってシャッタリングする液晶シャッターを通して見ると、3Dが行える。

(1) Frame Doubling

48~60Hzの周波数で左目のフレーム、右目のフレームを交互に入力し、このフレームを2倍の周波数(96~120Hz)で処理し、左目、右目と交互に出力するが、この時、入力フレームは2度使用される。

図1.

(2) Native

96~120Hzの左目、右目のフレームを交互に入力し、入力と同じ周波数(96~120Hz)で左目、右目と交互に出力する。

図2.

(3) Dual Input

48~60Hzの周波数で左目のフレーム、右目のフレームを同時に並行して入力し、このフレームを2倍の周波数(96~120Hz)で処理し、左目、右目と交互に出力する。

図3.

(4) Auto3D

HDMI 1.4a規格では、動画/ゲーム/放送に対して3D形式を規定しており、一般的には、Blu-Ray3D、ゲーム機等にて採用されている3D形式をMirageシリーズでも処理できる。

a. Frame Packing (フレームパッキング)

1080P@23.98/24Hzあるいは720P@50or59.94/60Hzの解像度/周波数の映像で、1フレーム内に左目・アクティブライン・右目のデータで構成され、縦方向のライン数は、2倍以上になる。例えば1080Pの場合、縦方向は、2160ライン以上となる。

図4.

b. Side by Side (サイド バイ サイド)

1080i@50 or 59.94/60Hzあるいは720P@50or59.94/60Hzの解像度/周波数の映像で、1フレーム内に於いて左右に左目・右目のデータで構成され、横方向の解像度は、半分となる。例えば1080iの場合、左目に対する横方向の解像度は、960ピクセルとなる。

図5.

c. Top and Bottom (トップ アンド ボトム)

1080P@23.98/24Hzあるいは720P@50 or59.94/60Hzの解像度/周波数の映像で、1フレーム内に於いて上下に左目・右目のデータで構成され、縦方向の解像度は、半分となる。例えば1080Pの場合、左目に対する縦方向の解像度は、540ピクセルとなる。

図6.

2-2. 3Dの入力信号カード

Mirageにおいて、3Dの映像信号の入力には、次の4種 類の入力信号カードにて対応している。

3Dの方法と入力信号の関係は、表1の通りである。

写真4. Dual link DVI input card

写真5. Dual 3G SD/HD-SDI input card

写真6. Analog input card

写真7. Twin HDMI input card

表1. 3Dの方法と入力信号の関係

3. シミュレーション市場に対するソリューション

「Christie TrueImage」は、シミュレーション市場に対するソリューションとして提供する機能の総称であり、Christie AccuFrame、Christie AutoCal、ChristieMotoBlend等にて構成される。

古くから陸、海、空の乗り物の操縦訓練等で有名なシミュレーションの分野に対して、Christieは、表示装置としてMatrixシリーズのプロジェクターを提供しており、Matrixシリーズは、より自然な色を再現するCPF(Color Purity Filter)と、高速な動きに対して、より鮮明な映像を再現するAccuFrame機能を内蔵している。また、この分野では、プロジェクター単体のみならず、5台、10台、20台と複数のプロジェクターで一つのシミュレーションシステムを構成することが多く、この時に問題になりそうな事案を解決するために、ChristieTrueImageは開発された。

3-1. AccuFrame

高速な映像を再現すると、映像にブロックノイズが発生したり、残像が目に残ったり、不鮮明なイメージになってしまうことが多くある。特に高速な乗り物のシミュレーションで、不鮮明な映像を感じてしまうことが多い。CRTプロジェクターでは、あまり感じられなかった現象であり、デジタルプロジェクターでは、表示した物体が高速に動くと、物体の視認性が悪くなる。CRTプロジェクターのように、より鮮明な映像にするために、Matrixプロジェクターで、残像、ブロックノイズを低減させる目的で開発された機能がAccuFrameである。

写真8. Christie AccuFrame を使用していない場合(左)と、 使用している場合(右)

3-2. AutoCal

プロジェクターを使用している間に、幾何的なズレおよび光学的なズレがどうしても発生してしまうケースがある。特に、複数台のプロジェクターを使用するシステムでは、そのズレが目立ってしまう。AutoCalは、このような状態の時にCCDカメラで判断し、幾何補正およびブレンディング調整を自動的に行う補助システムであり、設置および保守の時間を大幅に削減できる。スクリーンは、平面、湾曲面、球面など、どのようなタイプでも対応できる。

写真9. Christie AutoCal による補正中のテストパターン(左)と、 Christie AutoCalを使用した映像(右)

3-3. MotoBlend

複数のプロジェクターの映像を重ね合わせて表示し、あたかも一枚の繋がった映像にする機能をブレンディングと呼ぶ。Matrixシリーズにもブレンディング機能が内蔵されている。

シミュレーションの世界では、昼間の映像、夜間の映像を切り替えてトレーニングすることが多い。また、明るいシーンや暗いシーンでシミュレーションすることもある。この時、内蔵のブレンディングだけでは、明るいシーンもしくは暗いシーンのどちらかでの調整になってしまう。そのため、どうしてもプロジェクターの映像の繋ぎ目が目立ってしまうシーンがある。この問題を解決するのがMotoBlendである。光学フィルターを、夜間の映像のような暗いシーンで動作させ、繋ぎ目を目立たないようにする。

写真10. Christie MotoBlendを使用していない場合と(左)、使用している場合(右)

4. 最後に

3D・VRシステムの代表格ともいえるCAVEシステムは、1992年に米国イリノイ大学EVLにて開発された。その当時は、Electrohome社(1999年に同社映像機器部門をCDSの前身であるChristieが買収)のCRTプロジェクター「Marquee」が採用されていた。20年が経過した現在、CDSはCAVEの商標使用権を得た。また、CAVEの応用・発展形である「HoloStage」も、研究機関や大学に多数導入している。

一方、シミュレーションの世界では、研究機関でも使用しているが、古くから実用化されており、きちんとカリキュラム化された訓練に使用されている。

CDSは、今後も映像を通じて社会に貢献していく。(記載されている会社名、製品名は、各社の商標もしくは登録商標です。®,TM は省略しています)

写真11. Holostage 「東海大学 情報通信学部」 情報メディア学科

写真12. シミュレーション「United States Naval Academy 操船シミュレーター(アメリカ)」
Photo Credit @United States Naval Academy, Kongsberg Maritime Simulation, Inc., Electric Picture Display Systems, Inc.

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