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光技術情報誌「ライトエッジ」No.37〈特集ウシオの新しい取り組み第二回〉 2012年6月発行

シネマ/特殊映像/デジタルサイネージ・メディアファサード

「メディアファサード」ビジネスと製品展開

根岸 健次郎 (ウシオライティング)

1.はじめに

「デジタルサイネージ」とは、屋外、店頭、公共空間、交通機関など、さまざまな場所で、ネットワークに接続したディスプレイ(電子表示機器)などを使って情報を発信するシステムの総称であり、現在は「電子看板」という概念で一般的に理解されている。

これに対して、聞きなれない言葉かもしれないが、当社では「メディアファサード(Media Façade)」というビジネスを展開しており、「デジタルサイネージ」とは一線を画している。

メディアとは「ある作用をほかのところに伝達するもの(媒体)」であり、ファサードとは「建築物の前面、(道に接している)表面」である。この2つの言葉が1つになったメディアファサードは、「建築物前面の表面をメディアとして用い、照明で行う映像表現」を意味する。

メディアファサードは、昼間は建築デザインの一部である建物の表面を、夜に、光の明るさや色合いを調整したり、光そのものを動かしたりして、動的なグラフィック、テキスト、イメージ映像などを表示し、変形不可の建物に視覚的価値を付加する照明映像システムである。代表的な施行例として、アメリカのタイムズスクエア、日本では銀座のシャネルビルなどがある。

本稿では、このメディアファサードの市場動向を述べ、当社の製品を紹介する。

2.市場動向

メディアファサードは、ヨーロッパを起点に、アートフェスティバルなどを通じて世界的に広がりはじめている。

最近の傾向としては、アジア諸国では原色を使用した直接的かつ派手な演出が多く、欧米では中間色を用いた間接的な演出へと嗜好が変わりつつある。日本では、条例などによる規制が多いことから、大規模な導入は難しいものの、欧米同様の中間色や間接的な光を使用した、日本独自のスタイルの演出方法が確立しつつある。

また、メディアファサードで欠かせないLEDは、日進月歩の技術革新により、高輝度、高出力モジュールが登場し、これによってメディアファサードへの応用の可能性が飛躍的に高まってきた。

以下は韓国の例であるが、日本と同様に、原色から中間色の間接利用へ向かいつつあり、加えてコンテンツの充実に、より重きを置く方向に変わってきている。

写真1. Seoul Square (Korea) 提供:Galaxia Electronics (Korea)
2009年:A-deco 3dotを42,000個設置。Video Control Systemで有名デザイナーのコンテンツ映像を縦78m、横98mのビル外壁へ送出。

写真2. Kyungwon Univ. Vision Tower (Korea)
提供:Galaxia Electronics (Korea) 2010年:A-deco 3dotを13,500個設置。 Video Control Systemで抽象的な映像を送出。

写真3. Floating Island(Korea) 提供:Galaxia Electronics(Korea)
2011年:H-Bar、Hypershotをガラスに間接的に照射、Video Control Systemで全体に抽象的な映像を送出。

3.製品ラインナップ

当社のメディアファサード製品は、LED素子を1つ搭載したSMDタイプから、複数のLED素子を組み込んだハイパワータイプ、バータイプ、投光器タイプまで、幅広くラインナップし、顧客のさまざまな光の要望に応えている。

また、制御システムには、映像をそのまま送出できるビデオコントロールシステムと、個々の任意設定を可能にするDMXコントロールシステムを揃え、その双方に対応している。(図1参照)

以下に、メディアファサード製品とその特長をまとめる。

図1. コントロールシステム例

(1) A-deco (3dot/9dot)

灯体それぞれにアドレスをもったフルカラーLEDモジュール。

数珠状につらなるフレキシブルな形状により、立体造作にも組込みが可能で、設置環境に合わせた自由度の高い演出を実現する。

3ドットタイプと、輝度感の高い9ドットタイプをラインアップしており、ともに防滴仕様で屋外への設置が可能。

(2) Senbei

円盤型の大型フルカラーLEDモジュール。遠距離からの視認性に優れ、大規模な建築物や建造物に適する。

器具径90mmの大きさながら、わずか12mmの薄型設計。

中央のネジ1本で取付けられるため、設置も簡単。

(3) A-debar

個別に制御可能なLEDを25mmピッチで配したバータイプLEDモジュール。

ビルの壁面や橋など、凹凸の少ない建築物や建造物において、映像やグラデーションの演出が可能。

ドットの視認性が高いクリアタイプ、シームレスで柔らかい光を照射する乳白カバータイプを揃えており、演出用途に合せた選択が可能。

(4) C-Bar

バータイプのフルカラーLED器具。

コンパクトながら、115°のワイドなビーム角で細やかな光の演出が可能。

(5) H-Bar

ウォッシュタイプのバータイプフルカラーLED器具。

スリムでスタイリッシュであり、屋外での使用が可能なことから、メディアファサードだけでなく、ライトアップにも適する。

(6) Hypershot

屋外向けスポットタイプのLED投光器。

高いパフォーマンスを備え、フレキシブルなライティングが可能。

写真4. 種々のメディアファザード製品

4.メディアファサード効果

次に、実際、どのように製品を設置することでメディアファサード効果が発揮できるか、施工事例を通じて検証する。

本案件は、パートナ企業である韓国GalaxiaElectronics社の例である。

建築物のみならず、不可分であるビル内の活動に支障をきたさぬよう、ガラス以外の壁面のみにLEDを配置し、取り付けた。

その結果、建築物が縦78m、横98mの超大型スクリーンと化したが、実際のLEDピッチは300~970mmであり、これだけの間隔があっても、映像としての視認が充分可能である。また、LED素子のビーム角を110゚以上にすることで、映像の視認エリアを大幅に拡張している。

また、メンテナンス性も考慮し、小単位のLEDごとに取り外しできる設計にしている。

写真4. 韓国Galaxia Electronics社の施行例<Seoul Square(Korea)>

5.今後の展望

日本では、屋外照明に関する規制や条例が種々に定められているため、光害防止、景観保護といった観点から、照明の色や照射方法について十分に配慮したプランでなければならず、加えて、コンテンツや仕上がりについても、高い完成度が求められる。

また、省エネ、節電のための効率性や安全性、メンテナンス性についても問われることから、これらすべての条件を満たす製品と、コントロール技術やコンテンツの制作能力などを備えているかどうかが、ビジネスを展開するうえでのキーポイントになると思われる。

6.まとめ

日本のメディアファサードには、素材との関わり、古(いにしえ)と近未来との融合、独自の応用力などを活かして、より文化度が高く芸術性に優れたものを誕生させる力が備わっている。

当社は、各種のメディアファサード製品に加え、建築物に外から3D映像を照射できる3D ProjectionMapping (ウシオグループのChristie Digital Systems社製)なども取り扱っており、充実したハードで、日本のメディアファサードをサポートしている。また、これまでに培ってきた光源・製品開発力、応用力、システム開発力などを駆使し、顧客ニーズにきめ細かく応えながら、総合的な照明映像ソリューションを提案している。

このように、当社は、充実したハードと付加価値の高いサービスといったソフトを併せることで、他社とは一線を画した独自のビジネススタイルを深耕させている。

今後は、メディアファサードの新たな市場創出を視野に入れ、事業展開を図っていく。

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