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光技術情報誌「ライトエッジ」No.38〈特集号第三回〉 2012年10月発行

医療の光

紫外線治療器

佐賀 崇、木村 誠

1.はじめに

紀元前より、光感受性物質であるソラレン(Psoralen)と紫外線を用いて、皮膚の治療が行なわれてきた。1953年、Lernerによって、白斑の治療に、ソラレンの主成分8-MOP(8-Methoxypsoralen)と紫外線が有効であることが明らかにされ、1970年初頭からは、PUVA(プーバ)療法として普及した。PUVAは、ソラレン(Psoralen)のPと、これに必要な紫外線であるUV-Aをとって名付けられた。その後、自己免疫細胞を抑制するために、ブロードバンド(broad band)のUV-Bを用いた治療や、更にそれを進化させて、ナローバンド(narrow band)のUV-Bを用いた治療が行なわれ、現在では、波長308nmのエキシマ光を用いた治療が注目され始めている。(図1参照)

紫外線治療には、主に、次のような4種類の方法がある。

  • ●UV-Bよりも真皮中層から深部にまで届く340-400nmのUV-Aを照射する「UV-A治療」
  • ●280nm近辺からUV-A領域までの幅広いUV-Bを照射する「ブロードバンドUV-B治療」
  • ●311±2nmの狭帯域のUV-Bのみを照射する「ナローバンドUV-B治療」
  • ●ソラレンを投与しUV-Aを照射する「PUVA治療」

これらの光源には、主として、必要な波長に変換できる蛍光体を塗布した低圧水銀ランプや、フィルタを使用したロングアークメタルハライドランプが用いられているが、我々は、ピーク波長308nmのエキシマ光を放射するXeClエキシマランプ(以下エキシマランプ)を用いて、難治性皮膚疾患用治療器を開発した。

本稿では本装置について報告する。

図1.電磁波と光

2.紫外線治療のメカニズム

一般的に、自己免疫疾患は免疫システムの暴走に起因する。暴走を起こす根本的な原因は特定されていないが、食物、ストレス、喫煙、そして遺伝など、さまざまな因子が考えられている。免疫細胞が暴走して自己組織を攻撃し始めると、その破壊された部位が疾患として露呈する。例えば、円形脱毛症は、毛髪を生成する毛母細胞が特異的に攻撃された結果、その機能を失い脱毛する。白斑は、色素を生成するメラノサイトが攻撃された結果、その部位が脱色する。

現時点では、原因の特定がなされていないために完治させることは難しいが、免疫抑制作用を持つ紫外線を利用して、しばらくの期間、症状を抑えることは可能である。これを皮膚科領域で端的に表現すると、皮膚の表面に紫外線を照射し、免疫細胞を減少・不活性化させて、免疫力を落とすというものである。自己免疫疾患に罹患した皮膚は免疫細胞が過剰に働いている。そのため、紫外線を照射して、活動を沈静化させるという考え方である。

具体的には、病因となっている免疫細胞(リンパ球:T細胞)を直接Apoptosisへ誘導することと、この病因となっているT細胞を抑制するための制御性T細胞(T-reg)の誘導である。制御性T細胞とはCD4陽性CD25陽性Foxp3陽性の細胞のことで、T細胞とサブセットで免疫抑制的に働き、自己免疫性疾患の進展を抑制することが知られている。この直接的なApoptosisとT-regの誘導という2つのデュアルアクションが紫外線の免疫抑制作用として働き、過剰反応を起こしている病変部を沈静化させるのである。

この作用が最大で、しかも光発癌リスクが最少の波長領域はどこか?

この疑問を解明すべく、我々は以下の通り、エキシマフィルタの開発を行なった。

3.エキシマフィルタの開発

免疫抑制を行なうために、最も効率のよい波長を探査する研究を行なった。

まず、副作用を誘導する波長を示す。(図2、図3)

図2.日本人健常人74例のMED1)

図3.日本人のMED2)

この様に300-310nmにかけて、皮膚を赤くする反応曲線が急激に立ち上がっている。つまり、300nm以下の短い波長は非常に効率よく、少ないエネルギーで皮膚を赤くする。この皮膚を赤くする波長は、発癌を誘導する波長と近似であることは既に報告がある1)。そのため、赤くさせずに治療をすることが、まず、発癌リスクを回避する意味で大前提になる2)。ここで、皮膚を赤くする最小のエネルギー量を最少紅斑量(MED、MinimalErythema Dose)と呼ぶ。

次に、乾癬において、治療効果が高い波長を示す。(図4、図5)

乾癬における治療効果がある波長

MPsD:乾癬の治療効果が確認できる最小光量(minimal psoriasis treatment dose)

図4.コーカソイドのMEDとMPsD4)

図5.コーカソイドのMEDとMPsD5)

この様に300nmよりもやや長い波長側にピークがある。ここで、乾癬治療効果が出る最小エネルギー量をMPsD(Minimalpsoriasis Treatment Dose)と呼ぶ。

そこで、図3のMED曲線で図5のMPsD曲線を除した結果が、図6に示す赤い曲線である。

図6.MED曲線でMPSD曲線を除した曲線

このことから、295nmより短い波長は、皮膚を赤くする作用はあっても、乾癬治療効果が期待できない領域であることが分かる。

次に、実際のヒトのT細胞を培養して照射実験を行なった3)。実験方法は次の通りである。

T細胞(RIKEN cell bank:つくば)に対し、当社で本実験用に設計・製作したオリジナルランプを採用した。308nmをピークとしたインコヒーレント光の「エキシマランプNormal」と、Normalと比較して300nm以下が多く発光する「エキシマランプShort」で照射を行なった。その際、エキシマランプNormalは、更に「、Aフィルタ」で297nm以下を「、Bフィルタ」で300nm以下をカットした。

また、比較光源として「、ブロードバンドUV-B」の光源には305nmをピークに275-375nmの範囲で発光するUVB Torex FL20S lamp(Toshiba,Japan)を採用し、「ナローバンドUV-B」の光源には313nmをピークに290-320nmの範囲で発光するTL01 lamp(Philips,Netherland)を採用した。

波長測定にはUSB2000(Ocean Optics,FL,USA)を、UV強度測定にはIL1700(International Light,MA,USA)を使用した。

細胞への紫外線影響評価については、治療効果を示すApoptosis、副作用を示すCPD(CyclobutanePyrimidine Dimers)をそれぞれ測定した。Apoptosisは、照射した細胞に対し、annexinV(MBL Co.Ltd.,)で蛍光を付けて、FACS解析をFACSan flow cytometer(BD Immunocytometry Systems CA, USA)で行ない、CPDは、薬液処理を行なった後、Immuno ReaderNJ-2000(Spectroscopic Co.,Tokyo,Japan)でELISA解析を行なった。

副作用(紅斑)が起きる照射強度

MED:最少紅斑量(minimal erythema dose)

4.結果

それぞれ50mJ/cm2の照射を行なったApoptosisの結果は、次の通りである。(図7)

図7. 治療効果(Apoptosis)

  • ●エキシマランプnormal/フィルタなし 19.7%
  • ●エキシマランプnormal/Aフィルタ付 9.8%
  • ●エキシマランプnormal/Bフィルタ付 3.3%
  • ●エキシマランプShort/フィルタなし 35.4%
  • ●エキシマランプShort/Aフィルタ付 1.6%
  • ●ナローバンドUV-B/フィルタなし 0.7%
  • ●ブロードバンドUV-B/フィルタなし 24.6%

一方、CPDの産生を、それぞれ50mJ/cm2の照射条件で行なった結果は、次の通りである。(図8)

図8. 副作用(CPDの産生)

ナローバンドUV-B/フィルタなしを1.0とした場合、
●エキシマランプnormal/フィルタなし 4.9%
●エキシマランプnormal/Aフィルタ付 2.2%
●エキシマランプnormal/Bフィルタ付 1.5%
●エキシマランプShort/フィルタなし 7.8%
●エキシマランプShort/Aフィルタ付 1.9%
●ブロードバンドUV-B/フィルタなし 8.3%

これらの結果から、治療効果としてのapoptosisを、光発癌リスクとしてのCPD数値でApoptosis/CPDとして除することで、治療効率を導いた。

その結果を次に示す。(図9)

図9. 治療効率(治療効果/副作用)

ナローバンドUV-B/フィルタなしを1.0とした場合
●エキシマランプnormal/フィルタなし 5.7%
●エキシマランプnormal/Aフィルタ付 6.3%
●エキシマランプnormal/Bフィルタ付 3.1%
●エキシマランプShort/フィルタなし 6.4%
●エキシマランプShort/Aフィルタ付 1.2%
●ブロードバンドUV-B/フィルタなし 4.2%

このことから、副作用が相対的に低く治療効率が高いランプは、6.4を示す「エキシマランプShort/フィルタなし」と、6.3の「エキシマランプnormal/Aフィルタ付」である。この2つのランプのCPD値を比較すると、前者が7.8、後者が2.2であり、有意差を持って後者の方が副作用は低い。

従って「、エキシマランプnormal/Aフィルタ付」は治療効率が高く、副作用を低減すると考えられる。そのため、我々としては、このコンビネーションにより誘導される波長を推奨する。

5.まとめ

近年、ブロードバンドUV-BからナローバンドUV-Bを経て、エキシマランプによるエキシマ光へのシフトが進んでいるが、本結果からも明らかなように、エキシマランプをそのまま使用するのでなく、エキシマフィルタの採用が必要と考える。

我々はすでに細胞による実験を終えて、人工皮膚での研究においてもほぼ同様の結果が得られたことから、本機能を持った紫外線治療器「セラビーム®UV308」(図10)を発売した。現在、日本では、名古屋市立大学附属病院、大阪大学附属病院、京都大学附属病院の皮膚科を始め、皮膚科開業医を中心に150施設で導入されている。一方、海外においても、中国、台湾、インドネシア、インド、ミャンマーなど、アジア諸国で販売活動を開始しており、今後も導入施設数が増加する見込みである。

最後に、エキシマランプが放射するエキシマ光の対象疾患は、乾癬4)を始め、白斑5)、円形脱毛症6)、結節性痒疹7)、REM症候群8)、掌蹠膿疱症9)10)のように、希少な疾患も含めて、さまざまに広がりをみせている11)

世の中に貢献できる波長の「探求」と「普及」に、今後も邁進したい。

図10.セラビーム®UV308(ウシオ電機製)

6.謝辞

本研究を遂行するにあたり、終始熱心なご指導、ご鞭撻を賜りました名古屋市立大学大学院 医学部皮膚科の森田明理教授、小林桂子先生、奈良県立医科大学の森俊雄教授に心から深く感謝の意を表します。また有益なるご教授、ご助言を賜りました平本立躬氏、当社の住友卓氏に深勘なる謝辞を表します。

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