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光技術情報誌「ライトエッジ」No.38〈特集号第三回〉 2012年10月発行

医療の光

直接投射型静脈イルミネーションデバイス
「VeinViewer®

Erin Shelton (Christie Medical)

1. はじめに

一般的に、医師や看護師が行う侵襲的な処置のうち、静脈穿刺はもっとも痛みを伴う1つとされている1)。アメリカでは、90%近くの入院患者が末梢静脈(IV)のカテーテルを必要とし、そのうちの25%には中心静脈アクセスが必要である2)。しかも、検査用の血液検体を採取するために、年間10億回近くもの静脈穿刺が行われている3)

外来治療の移行が進む中で、入院患者の多くには、経過観察と治療のために、一生にわたって繰り返し静脈アクセスが必要な慢性内科疾患があり、ますます複雑な傾向となっている。静脈アクセスが困難(DVA)な患者は、当然ながら静脈アクセスを数多く経験することになり、進行性合併症に悩まされる可能性も指摘されている。

一方、医療用画像はこの20年で飛躍的に進歩してきた。しかし、外科や治療、あるいは検査用血液検体の採取を目的とした、ごく一般的な静脈穿刺には、あまり注目されて来なかった。

直接投射型静脈イルミネーションデバイス「VeinViewer®」は、テネシー健康科学センター大学の研究者によって開発されたが、当初は、黄斑変性症向けの画像システムの開発が目的であった。黄斑変性症は、高齢者に典型的に生じる疾患である。網膜中央部または黄斑部の劣化によって、中心暗点(視野に影または見えない部分ができる)や色(特に暗色と暗色、明色と明色のような似た色同士)の識別困難、コントラストの感受性の低下などを引き起こす。幸運にも、研究者は、この技術が静脈の可視性を向上させることを発見したのである。

本稿では、このVeinViewer®について述べる。

2. VeinViewer®の画像システム

VeinViewer®は、人体に無害な近赤外線(NIR)と特許技術を使って、深さ10mmまでの静脈を検知し、皮膚表面に直接、血流パターン画像をリアルタイムで投影する画像システムである。

以下に、画像システムのメカニズムを簡単に紹介する。

1個または複数個のLEDから放射される近赤外線は、皮膚にあたると血液中のヘモグロビンに吸収されるが、周辺組織では反射する(図1a)。この情報を近赤外線アレイ検出器がとらえてコンピュータに送り、コントラストおよび画像強調アルゴリズムで処理される(図1b)。処理された情報はデジタル強調されたグレースケール画像に生成され(図1c)、LEDプロジェクターによって、血管の正確な位置である皮膚表面に表示される(図2)。

VeinViewer®で表示される画像は、世界中の医療機関で、静脈を映し出すデバイスのスタンダードとなり、末梢血管アクセスの実務基準に革命をもたらしている。

図1.VeinViewer®の画像システム

図2.VeinViewer®による静脈のグレースケール画像(成人の肘前部)

3.VeinViewer®3つのモデル

オリジナルモデルである「VeinViewer®1.0」は、2006年秋、Luminetx Corporation(以下Luminetx)によってアメリカで発売された。この技術は、2008年春、次世代機として登場したグローバルスタンダードモデルの「VeinViewer®GS」によって、世界的に利用されるようになった。

2009年末、Christie Digital Systems Inc.はLuminetxを買収し、新たに医療部門としてChristieMedical Holdings, Inc.(以下Christie Medical)を創設した。以来、VeinViewer®は大規模な技術進歩を遂げ、現在では、幅広い臨床医のニーズに対応した3つのモデルが発売されている。

Christie Medicalによる最初のモデルは、2010年5月に発売された「VeinViewer®Vision」(図3、以下Vision)である。Visionは、VeinViewer®のハンドフリー技術であるEOP(Eyes On Patient)がそのまま使用でき、より小さく、より操作性を高めた仕様となっている。また、Visionの登場によって、反転およびサイズ変更という新しい画像機能もプラットフォームに組み込まれた。

「VeinViewer®Vision XTND」(図4、以下Vision XTND)は2011年秋に発売され、ポータブルビジョンシステムと同じ画像性能を、半永久マウントで実現している。

製品ポートフォリオの最後を飾る「VeinViewer®Flex」(図5、以下Flex)は2012年2月に発売された。Flexは手に持って操作ができる超小型タイプで、救急医療サービスや在宅医療など、病院以外の場所でも利用できるように設計されている。

図3.VeinViewer®Vision

図4.VeinViewer®Vision XTND

図5.VeinViewer®Flex

4.VeinViewer®の画像モード

VeinViewer®は形が進化しただけでなく、患者のニーズとユーザーのフィードバックに応えて、画像モードのオプションも次第に強化された。

患者も患部もさまざまで、画像の仕様もそれぞれに異なる。ユニバーサルモード(図6)と詳細モード(図7)は、初代のVeinViewer®から利用できたが、特に詳細モードは、成人や青少年の患者に比べて静脈の細い小児患者に好評であった。

小児患者よりも、さらに手足の細い乳幼児患者に必要とされたのが、画像ウィンドウのサイズが変更できる機能であった。それに応えて開発されたのがサイズ変更モード(図8)である。

また、病室の照明状況もさまざまであり、そこで開発されたのが反転モード(図9)である。VeinViewer®の標準カラーが、うす暗い病室では眩し過ぎると気づいたのはユーザーであった。色を反転させ、暗色の背景に血管をグリーンで表示することで、眩しさを抑えた。

これらの画像モードを組み合わせることで、完全なイメージングスイートASSESSが得られる。VeinViewer®のイメージングスイートASSESSは、前述のユニバーサル、詳細、サイズ変更、反転の4つのモードからなる。これらのモードは、Vision およびVision XTNDでは標準装備であり、Flexではライセンスのアップグレードによって装備が可能である。

図6.ユニバーサルモードVeinViewer®のすべてのモデルの基本。グリーンの背景に暗色で血管が表示される。

図7.詳細モード微細な構造を強調することから、小児患者やクモの巣状静脈の治療に適する。

図8.サイズ変更モード画像ウィンドウのサイズを3段階に調節できることから、小児患者や乳幼児患者の細い手足を見る場合に適する。

図9.反転モード表示カラーが反転され、暗色の背景にグリーンの血管が表示される。これによって、各患者に合わせて画像のカスタマイズができる。

5.ヘルスケアに与える影響

患者体験に影響を与えるVeinViewer®独自の能力は、画像生成の特許技術とともに、繊細に設計されたイルミネーション、検知、投影の3つのサブシステムである。光学設計上の重要なポイントは、非常に均一なイルミネーション、絞り込んだ検知、シャープな画像を再現する投影の、この3つのサブシステムすべてで、きっちりと統制がとれていることである。

これらによりVeinViewer®は、デジタル画像によって最大10mmの深さの血管を検知し、皮膚表面の正確な位置に正確な幅で投影できる。

末梢静脈穿刺にあたって、医師のアクセスオプションを増やすために重要なのが、可視性の深さである。TrueViewは、カテーテル口径を選択する際の決定プロセスを補佐し、これを装備したVeinViewer®は、超音波で測定した場合の97%の精度で静脈幅を表示できる。同様の仕様で設計されたFlexは、現在、治験中である。

VeinViewer®は、医療関係者や患者にとって、静脈へのアクセス回数を減らし、時間を節約し、患者に余計な痛みを与えないという利点がある。しかし、VeinViewer®の最大の価値は、穿刺が最初の1回で済むという利点に加え、穿刺後のアクセスの前、最中、後においても、それ以上の効果をもたらすことである。

アクセス前では、より多くの血管や静脈弁、分岐の位置が把握できるために、看護師や医師は、これらの情報に基づいて、どこに静脈注射をすればよいかの選択が可能になる。また、それによってカテーテルの滞留時間を向上させることにもなり得る。アクセス中では、静脈の曲がり方やねじれ方といった追加情報が得られるために、医師は、望ましい位置に穿刺できるよう調整することができる。それによって静脈注射跡などのリスクが解消される。アクセス後では、血流が通るときの血液柱の分散を視覚化することで、静脈注射の開通性を評価でき、薬剤が適切かつ適時に投与できるようになる。また、静脈注射跡で血液が漏れだす血腫を医師が早期に見つけることができれば、それに伴う浸潤などの合併症を避けられる可能性がある。浸潤もしくは血管外組織への静脈注射漏れは、患者に不快症状や組織の壊死といった重篤な症状をもたらすことがある。このようなリスクを避けることは、患者の健康状態および病院の質や評判に多大な影響を与える可能性があるからである。

6.おわりに

VeinViewer®のようなイノベーションは、医療機関の問題への取り組み方に変化をもたらし、新しいテクノロジーが医療現場に入るための門戸を開くと考える。Christie Medicalのミッションは、光テクノロジーに基づく技術開発であり、これからも新しいデバイスを世に出していく。

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