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光技術情報誌「ライトエッジ」No.38〈特集号第三回〉 2012年10月発行

MEMSの光

μTAS接着装置「SUS504A」

高垣 光一

1.はじめに

メディカル・バイオ分野におけるゲノム解析、環境分野における化学物質検出などで使用されるμTAS(Micro Total Analysis System)チップは、数mmから数cmの基板上に、多様な微細流路と電極を集積することによって、1枚のプレート上で評価を効率的に行なうためのチップである。

μTAS接着装置「SUS504A」は、研究開発機関向けに開発し、μTASチップ装着における「洗浄」、「表面活性」、「貼り合わせ」、「加圧」の4工程を1台で可能にしたものである。

本稿では、その「SUS504A」を紹介する。

2.開発背景

昨今、新事業として、μTAS製造を検討する企業・団体・個人が増加傾向にあるが、μTASチップ製造工程には、「洗浄」、「表面活性」、「貼り合わせ」、「加圧」という各工程に専用の装置が必要なため、初期研究開発においてコスト面、スペース面が大きな課題となっている。

また、表面活性化工程において、薬品やプラズマを使うことにより、材料にダメージが発生しやすいという課題がある。

SUS504A(写真1)は、独自の機構(特許出願中)により、従来別々の装置によって行なわれてきた「洗浄」、「表面活性」、「貼り合わせ」、「加圧」の4工程を、デスクトップタイプの小型装置1台で可能にし、工程ごとに必要であった専用装置を不要にした。

また、従来薬品やプラズマで行なわれてきた「洗浄」、「表面活性」を真空紫外線で行なうことにで、材料へのダメージや欠陥要因を軽減することを可能にした。(表1)

写真1.μTAS接着装置「SUS504A」

表1. 各工程の既存の処理方式における課題と解決

3.装置の用途と特徴

用途

  • ・ シリコーンゴム(PDMS)μTASチップの接合
    (シリコーンゴム同士、またはシリコーンゴムとガラス、またはシリコーンゴムとSi基板など異種基板との接合)
  • ・ 各種基板の接合前処理および接合実験センサチップ、光学部品、デバイス試作
  • ・ μTASチップの表面処理(洗浄・改質/172nm Xeエキシマ光を用いた精密ドライ洗浄)

特徴

  • ・ 低温処理
    (172nm Xeエキシマ光を用いて、加熱レス、接着剤レスでμTASチップの製作が可能→他用途のように数百度まで加熱しないので、被照射物に対してダメージレス(少ない)となり、被照射物の可能性が広がる)
  • ・ オールインワン/イージーオペレーション
    (加圧装置を標準搭載したオールインワン設計。写真2のように基板をセットしたら、洗浄/改質から接合まで、基板に触れずにμTASチップの製作が可能)
  • ・ 省スペース
    (大型設備を伴わない省スペース設計。デスクトップサイズ)

写真2.接着ステージへのチップセットの様子

4.要素技術

本装置にはランプハウスが内蔵され、172nm Xeエキシマランプが採用されている(表2)。以下に、172nmXeエキシマ光とその応用事例について説明する。

表2. SUS504Aのシステム構成と主要仕様

172nm Xeエキシマランプの特徴

従来、紫外線を用いた洗浄/改質には低圧水銀ランプが使用されてきた。現在では、185nmと254nmに主なスペクトルのピークを持つ低圧水銀ランプよりも、より短波長の172nm Xeエキシマ光が広く使用されるようになってきた。172nm Xeエキシマ光を発光するエキシマランプの特徴を以下に示す。

  • ①従来のランプにはない短波長紫外線の発光が可能。
  • ②線スペクトルに近い単一波長を持ち(図1参照)、低温処理が可能であり、エネルギー変換効率が高く、低電力でも高い光エネルギーを発生する。
  • ③水銀を使用しておらず、環境にやさしい。

・省スペース

(大型設備を伴わない省スペース設計。デスクトップサイズ)

図1.172nmXeエキシマランプの分光分布

図2.172nm Xeエキシマランプによる精密ドライ洗浄

LCD製造での導入事例

現在、172nm Xeエキシマ光を用いた精密ドライ洗浄/改質は、いろいろなプロセスで採用されている。中でもLCD製造においては、基板の大型化およびプロセスの高速化の需要から、早くに採用されてきた。LCD製造プロセス例を図3に示す。

LCD製造では、TFT/カラーフィルタ製造プロセスの基板投入前、成膜、エッチング前後といった各プロセスで導入されている。またセル製造では、配光膜塗布前、実装前の洗浄にも導入されている。

図3.LCD製造プロセスと172nmXeエキシマ光の導入箇所

濡れ性効果

洗浄効果の簡易的評価法の1つとして、純水の接触角が用いられている。図4に、LCD製造に使用される基板(無アルカリガラス)の洗浄効果を表したグラフを示す。

LCD製造では、基板洗浄の目標値として、純水接触角10°以下が一般的な目標値となることが多い「。高出力タイプ」では、図4に記す条件下において、照射時間5秒以下で純水接触角10°以下を実現できる。図5に、純水の接触角変化を示す。

図4.LCD基板洗浄データ

図5.純水の接触角変化

5.今後について

接着技術の確立は、μTASチップ製造だけでなく、MEMS/ナノテク、バイオ分野にとっても、大きな課題である。今後、デバイスの高機能化、多様化が進み、本技術の用途は、新たな分野やプロセスに拡大していくことが予想される。

現在、当社はPDMSやガラスに限らず、他材種の接着や接合に、光の応用の可能性を追求している。今後も、光技術により、市場ニーズに応えることができるよう開発を進めていく。

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