USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.38〈特集号第三回〉 2012年10月発行

環境の光

エキシマランプと
紫外線蛍光ランプ「UV-XEFL」

菱沼 宣是

1. はじめに

誘電体バリア放電エキシマランプ(以下エキシマランプ)が商品化されてから19年が経過する。エキシマランプのスペクトルは特定波長にピークを持ち、半値幅が小さく、実用上は単一波長と扱えることから、研究用光源として重宝がられ、各種の研究に使用されてきた。一方、工業用途では、Xeエキシマランプ(ピーク波長172nm)が多く使用され、中でも、液晶パネル製造工程におけるVUV/O3洗浄用の標準光源として定着している。他にも、常温接合の表面改質、P板等のレーザー加工後の残渣除去、プラスチックの表面濡れ性改善等々に使われている。

エキシマ発光には、マイクロ波放電励起、ホローカソード放電励起、電子線励起などの方式があるが、本稿では、商品化され多用されている誘電体バリア放電励起方式のエキシマランプについて概説し、Xeエキシマランプの内面にUV蛍光体を塗布した新しい紫外線光源「UV-XEFL」を紹介する。

2. エキシマの生成と発光原理

エキシマ(Excimer)とは、一般に励起状態(エネルギーの高い準安定状態)にある多原子分子のことを指し、2原子分子ではXe2*(キセノンエキシマ。ここで、*は励起状態にあることを表す)、Kr2*(クリプトンエキシマ)、Ar2*(アルゴンエキシマ)などの希ガス2量体や、KrF*(フッ化クリプトンエキシプレックス)、ArF*(フッ化アルゴンエキシプレックス)、KrCl*(塩化クリプトンエキシプレックス)、XeCl*(塩化キセノンエキシプレックス)などの希ガスハロゲン化物などのエキシプレックスを指す。

Xe2*を例にとり、図1を用いてエキシマの生成と発光の過程を簡単に説明する1)

放電空間中のXe原子は、放電プラズマ中の電子(e)により、励起(Xe*、Xe**)あるいは電離(Xe+)される。更に、これらとXe原子との様々な衝突過程を経て、エキシマ発光の基となるXe2*が生成される。Xe2*の寿命はナノ秒オーダーと大変短く、直ちにエネルギーの低い状態に戻り、解離して、最終的に安定な状態(基底状態)のXe原子に戻る。この時、開放されるエネルギー(E)が、光(エキシマ光;ν=E/h)として放射される。

ν:波長 h:プランク定数 6.63×10-34 J•s

図1.Xe2*のエキシマ光の発光機構 分子モデル(左)と概略のエネルギー準位(右)

3.誘電体バリア放電

誘電体バリア放電は、オゾン(O3)生成用として古くから使用されており、別名、オゾナイザ放電あるいは無声放電として知られている2)

図2は二重円筒型のエキシマランプと誘電体バリア放電の概略を示したものである。2つの誘電体(石英ガラス)でリング状断面の放電空間を形成し、この空間に放電用ガスが充填される。2つの誘電体の外側(放電空間でない側)に金属電極が配置され、電極間に高周波、高電圧(数Hz~数MHz,数kV)が印加1)される。電圧の印加に伴って、誘電体の放電空間表面にはプラス、マイナスの電位が誘電され、表面電位差が放電破壊電圧に達すると、放電空間内で放電し、放電プラズマが発生する。放電によって誘電体表面の電化が放出され、放電は終止する。放電の寿命は数10ナノ秒程度である。次のサイクルで電極間に電圧が印加されると、放電破壊電圧で再放電し、放電と終止を繰り返す。

放電時の電子と封入ガス分子との衝突によって、前節で記述したようにエキシマ発光する。

放電に休止期間があり、封入ガス温度の上昇が抑えられるため、ランプ温度は比較的低温である。

図2.誘電体バリア放電の原理

4.エキシマランプ

誘電体バリア放電励起方式のエキシマランプの基本構造は、対をなす電極の間に、誘電体が存在することにある。基本構造を満たせば形状の制限はなく、いろいろな形のエキシマランプを作ることができる。各種の実際のエキシマランプを紹介する。

図3、4に電極間に誘電体が2つあるダブル誘電体方式のエキシマランプを示す。

図3は二重円筒型のダブル誘電体方式のランプである。“3.誘電体バリア放電”の節で図示したものと同構造で、大小2本の石英ガラスで放電空間を形成している。図4は断面が矩形の形状をしたランプで、平面形状のワークを処理するのに適している。ランプの内面には反射膜が設けられ、効率よく光を取り出すことができるよう、設計されている。

ダブル誘電体方式の特徴は、高電気入力の駆動が可能なことである。高出力が求められる産業用途にはこの方式が多用されている。また、放電空間内に金属電極が存在しないため、希ガスハロゲン系のエキシマランプに適した構造である。しかし、高い印加電圧が必要となるため、電源設計上の負担が大きくなる傾向にある。

図5に、2タイプのシングル誘電体方式のエキシマランプを示す。シングル誘電体方式のエキシマランプは低い印加電圧で点灯させることができるため、電源設計上の負担が少ない。しかし、電気入力が大きくなると内部金属電極が過熱し、放電が集中することがあり、安定した放電が得られなくなることがある。さらに、放電空間に金属電極があり、反応性のガスが内部金属電極と反応して、寿命特性に影響を及ぼすため、希ガスハロゲン系のエキシマランプには適さない。目的によって構造を選択する必要がある。

エキシマランプの特徴として以下のような点を挙げることができる。

  • 1) 特定波長にピークを持つスペクトル(詳細は後述)
  • 2) 瞬時点灯が可能
  • 3) 点滅しても寿命に及ぼす影響が少ない
  • 4) 比較的低温である
  • 5) 取付方向に制限がない

図3.ダブル誘電体方式のエキシマランプ(二重円筒型)

図4.ダブル誘電体方式のエキシマランプ(矩形型)

図5.シングル誘導体方式のエキシマランプ

5.各種の発光波長

放電用ガスとして、希ガス、希ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いると、表1に示すように、いろいろな波長のエキシマ光を発光させることが可能である3)

現在、商品化されている希ガスエキシマランプには、

  • • Xeガス(発光中心波長172nm)
  • • Arガス(発光中心波長126nm)
  • • Krガス(発光中心波長146nm)

の3種類がある。

また、商品化されている希ガスハロゲンエキシマランプには、

  • • ArBr(165nm)
  • • ArF(193nm)
  • • KrCl(222nm)
  • • XeI(253nm)
  • • XeCl(308nm)
  • • XeBr(283nm)
  • • KrBr(207nm)

などがある。代表的なエキシマランプの分光スペクトルを図6に示す。

表1. 確認されている各種のエキシマ光

図6.代表的なエキシマランプのスペクトル

6.エキシマランプの各種用途

エキシマランプの特徴的な発光特性を利用して、用途がいろいろある。表2に、実験、実用、検討中の各種の用途を示す。

表2. エキシマランプの種類と用途

7.完全水銀フリーの紫外線蛍光ランプ「UV‒XEFL」

UV蛍光ランプや低圧水銀ランプの内面にUV発光蛍光体を塗布した「ブラックライト」が市販されているが、

  • • 水銀を使用している(環境負荷が大きい)
  • • 使用温度範囲が狭い

といった問題がある。

UV-XEFL は172nm Xeエキシマランプの内表面にUV発光蛍光体を塗布した、言わば“エキシマ蛍光ランプ”である。Xeエキシマランプの特徴を兼ね備え、環境に優しい完全水銀フリーのUV蛍光ランプである。

UV-XEFLの構造、発光波長と特性

図7はダブル誘電体方式とシングル誘電体方式のUV-XEFLである。ダブル誘電体方式のランプは細管形状のものに、シングル誘電体方式のランプはやや太い管形状のものに適している。用途に応じて選択される。

各種蛍光体を塗布したUV-XEFLのスペクトルを図84)に示す。スペクトルはピーク波長でノーマライズされている。

環境負荷の少ないUV光源として、殺菌、植物栽培、雑草の成長抑制、水中のTOC分解等々に使用が検討されている。前述の平板、二重円筒型のUV-XEFLも製作可能である。

図9にUV-XEFLの点灯初期の出力特性を、図10に低圧水銀ランプとUV-XEFLの雰囲気温度に対する出力特性を示す。瞬時点灯が可能で、雰囲気温度に対して安定な光出力の光源であることがわかる。

図7.ダブル誘導体方式(左)とシングル誘導体方式(右)のUV-XEFL

図8.各種UV‒XEFLのスペクトル

図9.各種UV‒XEFLの点灯初期特性

図10.UV‒XEFLと低圧水銀ランプの雰囲気温度と出力特性

8.おわりに

エキシマランプ、UV-XEFL共に特徴的なスペクトルを持つ紫外線ランプであり、特定波長領域の化学反応、生物反応への適用が期待できる。各分野での用途展開に期待したい。

本文執筆に際し、当社技術統括部の田川氏よりUV-XEFLの技術資料の提供を頂いた。紙面を借りて謝意を表する。

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved.