USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.38〈特集号第三回〉 2012年10月発行

環境の光

真空紫外光照射により励起した
アンモニアによる脱硝法

神原 信志1)、早川 幸男1)、隈部 和弘1)、守富 寛1)、増井 芽2)、菱沼 宣是3)
1) 岐阜大学 大学院工学研究科 環境再生可能エネルギーシステム専攻
2)株式会社アクトリー
3) ウシオ電機株式会社
※ FUEL(Vol.94,April2012)掲載論文を和訳、加筆

抄 録

無触媒還元法(SNCR法)による脱硝処理において、脱硝反応温度域を拡げ、脱硝反応開始温度を低温化するため、励起したアンモニアを還元剤として使う方法を検討した。

アンモニアを励起させるために、172nmの真空紫外光(VUV)を放射するエキシマランプ(本号48ページ参照)を使用した。室温でVUVを照射して励起したアンモニアをラボスケール反応容器内の模擬燃焼排ガス(NO/O2/N2)に吹き込み、脱硝処理に及ぼす反応温度、酸素濃度、NH3/NOモル比(MRs)の影響を調べた。

模擬排ガス温度を500~850°Cで変化させたところ、脱硝反応開始温度が、従来法に比べ150°C低下した。これは、励起したアンモニアを吹き込むSNCR法(以下、励起アンモニアSNCR法)では、初めて達成できた成果である。

高温域にアンモニアを吹き込む従来のSNCR法(以下、従来型SNCR法)では、脱硝反応の開始温度は750°C以上である。これに対し、励起アンモニアSNCR法では、600°Cから脱硝反応が開始し、酸素濃度8.3%、NH3/NOモル比2.0、操作温度700°Cで脱硝率が約80%に達した。

本実験では、励起アンモニアの化学組成は不明であるが、アンモニアを励起させた場合、脱硝反応に有効なNH2、H2といった化学種が生成されることが、結果から推論できる。

脱硝反応に及ぼす反応容器内のアンモニア濃度と滞留時間の影響を評価するため、アンモニア1モルに照射されるフォトン個数(Np)を提案した。Npの最適域では、最大脱硝率が得られる。

1. 諸 言

固定発生源から排出される排ガスの窒素酸化物(NOx)を除去することは、環境管理と公衆衛生の上で強く望まれており、日本では、廃棄物焼却炉を含む小規模焼却プラントなどの固定発生源に対して、厳しい排出規制が設けられている。

NOx管理技術は、燃焼方法改良技術(発生抑制)とNOx処理技術(排ガス処理)に分類される。燃焼方法改良技術の分野では、低NOxバーナーと2段燃焼法により、NOx発生量の低減を目指している。他方、NOx処理技術は、NOx排出量規制に見合うように装置が設置されている。

選択的触媒還元法(SCR法)は高効率な脱硝技術であり、石炭火力発電所など、世界中の大規模燃焼施設でNOx除去に貢献している。SCR法では、NOxは酸素と触媒により、350°C付近でアンモニアと反応し、窒素分子と水に分解される1)。日本では、商業用SCR法として、1978年に大規模火力発電所に設置されたのが最初である2)。SCR法が廃棄物処理に適用される場合の問題は、二酸化硫黄による触媒の活性力低下をはじめ、硫酸アンモニウムによる目詰まりや腐食、また、灰分等が堆積することにより触媒の交換頻度が増えてコスト高となることである。さらに、一般の廃棄物焼却炉にはSCR法を設置するだけのスペースがないこともあげられる。

廃棄物焼却炉の脱硝処理には、無触媒還元法(SNCR法)という選択肢がある。SNCR法は、触媒を使用せずアンモニアを燃焼排ガスに吹き込むという、簡単な処理法である。1975年にLyonによって開発され、パテント化されたのが初め3)であり、以後、多くの研究が行われた。このため、脱硝技術の性能やメカニズムについては、多くの文献を入手することができる4-6)。SNCR法はコスト効果の高い脱硝技術であり、実用においてはまだ多くの問題点はあるものの、有望な技術である。

SNCR法では、NO/NH3/O2のガス気相反応は850~1,175°Cの領域で起こり、最適反応温度は950°C付近であり、脱硝率もこの温度域で最大の90%に達する7)。NOx除去反応が起こる温度域を脱硝反応温域という。廃棄物焼却炉のほとんどは、固形廃棄物の燃焼にロータリーキルンを使用している。固形廃棄物のために燃焼が不均一となり、炉内の燃焼ガスの温度分布は大幅に変動する。従って、こうした環境下で、SNCR法に適した脱硝反応温域を維持することは困難である。例えば、アンモニア・インジェクターの設置は炉の出口部が適切であるが、出口付近の排ガス温度は700~800°Cで、脱硝反応温域よりも低温である。このため、焼却炉用SNCR法の実用化には、脱硝反応温域の低温化を可能にする新たなシステム構築が重要な課題である。

アンモニア分子に化学物質を添加することで、脱硝反応温域の拡大と低温化が可能なことは、すでに報告されている。水素3)、過酸化水素8)、炭化水素9)、一酸化炭素10)、シアヌル酸11)、アルカリ塩12)、エステル、フェノール、カルボン酸、アルデヒド、エーテル、アルコール13,14)など、さまざまな化学物質が検討され、結果はいずれも有効である。ところが、化学物質を添加するには余分なコストがかかり、加えて安全管理も複雑化する。そこで、添加物質を使用せずに、いかに脱硝反応温域を広げるかが、当面の課題である。

脱硝反応温域を広げるには、NOの生成と還元についての基本的反応メカニズムを詳細に調べることが必要である。多くの研究者が、NO/NH3/O2システムにおける還元メカニズムについて、動力学的基礎に基づいた検討を行っている15-17)

次に、主な反応フローを示す。850°C以上でアンモニアがヒドロキシルラジカル(OH)と反応し、アミドゲンラジカル(NH2)を生成する。次にNH2とOHが反応し、脱硝が起こる。脱硝にはNH2ラジカルの存在が最も有効であるため、アミドゲンラジカルを添加すれば、脱硝反応温域を下げられると推論できる。

2001年以降、外部で生成したNHiラジカルを燃焼システムへ吹き込む方法が検証されてきた18,19)。アルゴンガスで希釈したアンモニアを大気圧プラズマ中に通過させて、NHiラジカルを生成し、NO/NH3/O2の模擬排ガスに吹き込むNHiラジカル・インジェクション法では、脱硝は550°C以上で開始し、脱硝反応温域の低温化は150°Cまで達成できた。しかし、その反応メカニズムは未解明である20)。このインジェクション法は廃棄物焼却炉にも適応できるが、低電圧でプラズマを発生させるためにアルゴンガスを使用する必要があり、このためコスト高となり、実用化は難しい。

本研究の目的は、アルゴンガスを使用せず、脱硝に有効な化学種の生成方法を新たに見つけることにある。アンモニアの励起には、172nmの真空紫外光(VUV)を放射するエキシマランプを使用した。VUVで励起したアンモニアをインジェクションするSNCR法は、過去に研究事例がなく、本研究はユニークな試みである。従来型SNCR法と、励起アンモニアSNCR法で、反応温度、酸素濃度、NH3/NOモル比(MRs)が脱硝処理に及ぼす影響を調べた。さらに、反応容器内におけるNH3濃度と滞留時間が脱硝処理に及ぼす影響も詳細に検討した。

2. 実 験

図1に励起アンモニアSNCR法の脱硝実験装置の構成を示す。装置は、石英管ゴールドファーネス(2個)、ガス混合システム、ガスフローシステム、VUV励起反応管、ガス分析計で構成される。

予熱管(内径46mm×長さ500mm)と脱硝反応管(内径46mm×長さ600mm)は、断熱材で保温された混合室を介して接続されている。NO、O2、N2ガスは、マスフローコントローラー(MFC)とガスミキサーを経由して混合され、模擬排ガスとして予熱管に流される。予熱温度は、反応が起きないように500°Cに設定した。脱硝剤として窒素(N2ガス)で希釈したアンモニア(NH3)を用い、脱硝剤は室温でVUV励起反応管に流入される。NH3とN2ガスの流量比はマスフローコントローラーで制御し、ガスミキサーで完全に混合した。

波長172nmのアンモニアの吸収係数は59atm-1cm-1 21)であり、アンモニアはエキシマ光(172nm)の照射によって励起される。窒素は172nmに対して不活性である。本研究において、VUV照射で生成される化学種を励起アンモニアという。

励起されたアンモニアは、テフロン(PTFE)製チューブ(長さ1.0m、内径4mm)を通して混合室に導入され、模擬排ガスと共に脱硝反応管へ流入される。脱硝反応管は2ゾーン加熱制御方式のゴールドファーネスで均一な温度分布に保たれる。脱硝反応温度は500~850°Cに変化させた。この温度範囲における脱硝反応管の等温域は、全長600mmのうち、500mmである。

NO/O2/NH3/N2混合ガスの総流量は、全ての実験条件で3.0L/minに設定した。NO/O2/NH3/N2混合ガスの脱硝反応管での滞留時間は850°Cでは4.5秒で、これはNOがNH3と反応するのに十分な時間である3)。脱硝反応管内の圧力は、ガスサンプラー(SHIMAZU CFP 8000、吸引ポンプ,クーラー付)で大気圧よりやや高めに設定した。また、アンモニア吸着剤で未反応のアンモニアを除去した後、NOx 計(HORIBA VIA510)、O2計(SHIMAZU NOA-7000)、N2O計(HORIBAVIA510)を用いて、脱硝処理後の模擬排ガスを連続で分析した。

図2にVUV励起反応管の構造を示す。電源装置の上部に、172nmのVUVを放射するエキシマランプ(外径40mm、ウシオ電機製)を設置し、ランプにアルミ製円筒カバーを同軸で配置し、ランプ表面とカバー内面の間をNH3/N2の混合ガスが流れるようにした。混合ガスが流れる空間の容積は377cm3で、NH3/N2の流量が0.3L/minの時、VUV励起反応管内の混合ガスの滞留時間t gは75.4秒となる。172nmのVUVの出力はランプ表面で26mW/cm2である。

表1に実験条件を示す。実験Iでは、NOの濃度を一定にし、反応温度、酸素濃度、NH3/NOモル比が脱硝反応へ及ぼす影響を調べた。比較データとして、アンモニアによる脱硝(従来型SNCR法)も調べた。酸素濃度を2.1%または8.3%にし、NH3/NOモル比を1.0~3.5に変化させた。実験IIでは、同等なガス滞留時間におけるVUV励起反応管内のNH3濃度が脱硝に及ぼす影響を調べた。実験IIIでは、NH3濃度を一定とし、VUV励起反応管内のNH3/N2混合ガスの滞留時間を幅広く変化させた。

図1. 励起アンモニアSNCR法の実験装置の構成

図2.VUV励起反応管の構造

表1. 実験条件

3. 結果と考察

3.1.反応温度の影響

従来型SNCR法において、NO除去に対する反応温度の影響に関する多くの研究報告がある4-6)。実験ガスの組成、実験装置の構造、NOとNH3の混合法など、パラメーターによって脱硝率は異なるが、一般には、NOは800°C以上でアンモニアにより還元されると認識されている3,4,7)

図3に、実験Iの結果と、従来型SNCR法の反応温度に対する脱硝率の関係を示す。脱硝率は、700°Cでは3~4%であるが、800°C以上になるとモル比1.0と1.5の双方で顕著に高くなった。従来型SNCR法による脱硝率は、論文で周知の内容と一致し、従って比較用のデータとして使用できる。

脱硝率は、以下のように定義できる:

ここで、[NOIN]はNOの初期濃度(ppm, dry)、[NOxOUT]は脱硝反応管出口のNOx(= NO+NO2))濃度(ppm, dry)。

励起アンモニアを吹き込んだ場合の脱硝率も図3に示す。励起アンモニアSCNR法では、600°Cで脱硝反応が開始し、反応温度の上昇にほぼ比例して、脱硝率の増加が見られた。励起アンモニアを吹き込むことで、従来型SNCR法よりも脱硝反応の温域を拡げ、反応開始温度を低下できることが明らかである。この結果は、励起アンモニアSCNR法で初めて達成できた実験結果である。脱硝率20%における温度シフトは150°Cであった。これは、VUV照射により、脱硝に有効な化学種が生成されたことを示唆している。

水素やヒドラジンを添加すると、脱硝反応温度が下がることはよく知られている。Wenliら22)とLyonら23)は、従来型SNCR法で水素をわずかに添加すると、脱硝反応開始温度を145°C下げることが可能と報告している。LeeとKim24)によると、N2H4 /NOモル比1.0、温度600°CのN2H4/NO/O2システムでは、最大脱硝率が70%になったと報告している。これは、以下の反応式(2)~(5)のように、アンモニアが一次反応で部分的にNH2、NH、Hのようなラジカルに分解したためと推論できる。化学種は脱硝反応温域を拡げ、反応式 (6)~(7)に示すように、2次反応で、N2H4、N2H2、H2の生成を促進する25)

本実験において、VUV励起反応管出口のガスクロマトグラフィーによる水素濃度は、約1,700ppmであった。NH3濃度=4920ppm、流量=0.57L/min、tg=19.6秒で、アンモニアの分解率は30.3%、水素への変換率は23.3%である。水素は、反応式(8)~(10)の反応経路で2つのOH分子を生成し、反応式(11)のように、NH3をNH2に変換する。NH2ラジカルはNOと選択的に反応し、酸化雰囲気においても、適温では、全体としてNOは減少する26)。今後、励起アンモニアによる脱硝メカニズムを明らかにする予定である。

図3. 従来型SNCR法(サーマル法)と励起アンモニアSNCR法(VUV法)の脱硝率比較(NH3/NOモル比(MRs)1.0および1.5、酸素濃度2.1%、NH3濃度5,080ppm)

3.2.モル比と酸素濃度の影響

図4に、700°CでNH3/NOモル比を1.0~3.5に変化させた時の脱硝率の変化を示す。励起アンモニアSNCR法と従来型SNCR法との脱硝率の変化をプロットした。励起アンモニアSNCR法では、モル比が2.0まで増加するに伴い、脱硝率も増加している。モル比が2.0以上では、脱硝率は緩やかに増加するのみであった。従来型SNCR法では、700°Cは脱硝反応温域から外れているため、モル比を高くしても脱硝反応はほとんど見られなかった。励起アンモニアSNCR法では、700°Cでモル比2.0の場合、約80%の脱硝率を達成した。これは廃棄物焼却炉には十分な脱硝率である。従来型SNCR法のモル比が脱硝率に及ぼす影響については、複数の研究者による報告がある4)。最適な例として、LodderとLefersによるNH3/NOモル比を変化させた実験報告がある10)。彼らの実験で、モル比を2.0以下にした場合、モル比の脱硝率への影響は顕著であるが、モル比が2.0以上では、脱硝率は緩やかな増加を示したのみと報告している。

また、酸素濃度2.1%に比べ、わずかに5%上昇した。従来型SNCR法では、酸素濃度の脱硝率に及ぼす影響はほとんどないが、酸素濃度の増加に伴い、脱硝率は単調に増加している27)。励起アンモニアSNCR法では、反応温度はそれぞれに異なるが、脱硝メカニズムそのものは、従来型SNCR法と同様の反応経路で進行するものと推論できる。

図4. NH3/NOモル比(MRs)を変化させての従来型SNCR法(サーマル法)と励起アンモニア SNCR(VUV法)の脱硝率変化(反応温度700°C、NH3 濃度5,080ppm)

3.3.VUV励起反応管内でのアンモニア濃度と滞留時間の影響

次に、VUV励起反応管内のアンモニア濃度が脱硝反応に及ぼす影響を詳細に調べた。図5aは、アンモニア濃度を4,920~20,000ppmに変化させ、モル比1.5、酸素濃度を2.1%と8.3%、反応管の温度を700°Cと750°Cに設定した場合の脱硝率の変化を示す。VUV励起反応管内の滞留時間が49.2~59.5秒の時、脱硝率への影響はほとんど見られなかった。700°Cと750°Cいずれの設定温度でも、アンモニア濃度が7,333~10,000ppmの領域では、脱硝率はアンモニア濃度の上昇と共に若干の低下を示した。最大脱硝率(NO濃度973ppm、ガス総流量3.0L/min、電力供給3.27Whで脱硝率85.2%)では、エネルギー効率は61g-NO kW h-1を示した。これは大気圧プラズマによるラジカル・インジェクション法の場合に比較して、わずかに高い効率であった20)。これに比べ、モル比が1.0の場合(図5bを参照)は、脱硝率は反応温度が700°C、750°C共にほぼ一定であった。このように、モル比が1.0と1.5では、温度による脱硝率の変化は異なることが分かる。

また、アンモニア濃度による脱硝率変化に対する酸素濃度の影響も、図5aと図5bより読み取ることができる。脱硝率については、酸素濃度の影響を受けないことが分かる。これは、上述の通り4.10)、従来型SNCR法と励起アンモニアSNCR法とで、反応メカニズムが類似するためと推論できる。

図6は、酸素濃度8.3%、モル比1.5、アンモニア濃度4,920ppmに設定し、脱硝反応管の設定温度を変化させた場合の、アンモニアのVUV励起反応管内滞留時間に対する脱硝率の変化を示す。アンモニアの滞留時間は28.3~133.1秒に変化させた。各設定温度で、アンモニアの滞留時間が70秒付近の時、最大脱硝率を示した。

図5. 励起アンモニアSNCR法での脱硝率の変化 (NH3濃度4,920~20,000ppm、温度700°Cおよび750°C、酸素濃度2.1%および8.3%)

図6. VUV励起管内のNH3ガス滞留時間が脱硝率に及ぼす影響(モル比1.5、酸素濃度8.3%、NH3濃度 4,920ppm)

3.4.アンモニア1モルあたりのフォトン個数の影響

興味深いことに、図5aと図6では脱硝率は最大値を持つ特性を示すが、図5bでは脱硝率はほぼ一定である。脱硝率はVUV励起反応管内で生成されるH2やN2H4といった化学種の量に強く影響されると考えられる。

本実験では、VUV出力は一定であり、生成する化学種は、VUV励起反応管内におけるアンモニアの濃度と滞留時間に影響される。図5と図6に示す脱硝率を考察するため、アンモニア1モルに吸収されるフォトン個数Np[mol-1]を考える。Npは、光量子仮説に基づくフォトンエネルギーとランベルト・ベールの法則に基づくアンモニアの吸収方程式によって計算できる。また、VUV照射により、励起されるアンモニア分子の数は、Npの増加によって増大すると推論できる。

ここで、Vp [s-1]は1秒あたりのフォトン個数、E[J]はフォトンエネルギー、P[Js-1]はエキシマランプ出力、h[Js]はプランク定数、ν[s-1]は振動数、γ[m]はエキシマランプの波長、c[m/s]は光速、A[-]はアンモニアの吸収率、α[cm -1]は大気圧、波長(λ)におけるアンモニアの吸収係数、C[ppm]はアンモニアの濃度、d[cm]はVUV励起反応管のガス流路のギャップ長、F[mol s-1]はアンモニアのモル流量を示す。

図7は、アンモニア濃度に対するNpとAの変化を示す。Aは0.44と0.91の間で対数的に増加し、その時、Fは1.4x10-6~5.2x10-6mol s-1に変化した。従って、アンモニア濃度が増加するに伴ってNpは大きく低下している。図5aで示した最大脱硝率に対応するNpの最適領域は、図7では四角で囲んだ部分である。Npの最適領域は、6.4x1023~7.3x1023molでアボガドロ数よりもわずかに大きかった。

図8は、図6に示した滞留時間に対する影響を、Npの関数としてプロットしたものである。図7で得られた Npの最適域を図中に点線で示した。Npの最適域において、最大脱硝率となっている。最適範囲外では、脱硝率は低かった。

Muzio27)らの研究では、水素をわずかに添加するとNO分解が増加すると報告している。しかし、水素の添加量が多いと、アンモニアの酸化をまねきNOが生成するため、H2/NH3比には最適域がある。このことより、Npの最適領域を調べれば、H2/NH3最適比が得られるという推論が成り立つ。図5aと図6のグラフから各条件において最適脱硝率が存在することが分かる。図5bではNp域は図7に示す最適域よりも大きく、従って、グラフは最適脱硝率を示すような曲線となっていない。現状では、脱硝率に対するアンモニアの濃度および滞留時間の影響を説明する上で、Npは重要なファクターである。

図7. VUV励起管内のNH3濃度に対するアンモニア分子(Np)1モル当たりの
フォトン数とアンモニア吸収率

図8. アンモニア分子(Np) 1モル当たりのフォトン数に対する
VUV励起反応管内でのNH3ガス滞留時間の脱硝率に及ぼす影響

4. 結 論

SNCR法による脱硝処理における脱硝反応温域を拡大かつ低温化するために、VUV励起アンモニアSNCR法を検討した。アンモニアの励起には、172nm VUVを放射するエキシマランプを用いた。脱硝処理における反応温度、酸素濃度、NH3/NOモル比の影響を、従来型SNCR法とVUV励起アンモニアSNCR法とで調べた。

従来型SNCR法に比べ、VUV励起アンモニアSNCR法では、脱硝反応温域が拡がり、脱硝開始温度も低下した。脱硝は600°Cから開始し、反応温度の上昇にほぼ比例して増加した。反応温度が700°C、モル比2.0では、脱硝率は約80%に達した。酸素濃度については、濃度を2.1~8.3%に増加しても、脱硝率の増加は5%程度に留まり、酸素濃度の脱硝率への影響はほとんど認められなかった。これに比べ、モル比の脱硝率への影響は大きかった。モル比1.0~3.5の領域では、脱硝率は対数的に増加した。

脱硝反応に対するアンモニア濃度と滞留時間の影響を説明する上で、1モルあたりのアンモニアに対するフォトン個数(Np)が有効な因子であるとして提案した。最大脱硝率が得られるNpの最適域は、6.4x1023~7.3x1023mol-1で、アボガドロ数よりわずかに大きいことが分かった。

謝 辞

本研究は、科学技術振興機構・研究成果最適展開支援事業A-STEPの資金提供と、近藤光浩氏による実験補助によって実施された。深く感謝の意を表す。

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