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光技術情報誌「ライトエッジ」No.38〈特集号第三回〉 2012年10月発行

環境の光

紫外線消毒によるウイルス不活化の
波長依存性

常喜 貴法1)、佐々木 雄輝2)、須田 和樹2)、藤井 麻子2)、神子 直之2)、亀田 真二3)、渡邊 英典3)
1) 立命館大学大学院 理工学研究科総合理工学専攻
2)立命館大学 理工学部環境システム工学科
3) ウシオ電機株式会社
※ 第15回日本水環境学会シンポジウム講演集から抜粋、加筆

1. 背 景

耐塩素性病原微生物対策として紫外線(UV)消毒が一部の上水で適用可能となったが、UV消毒についてはまだ知見が不足している。その一つが波長による消毒効果である。一般的に用いられる254nmの波長以外の単一波長を用いた場合の消毒効果については、研究事例が少ない。

本研究では、分光器を用いて254nm以外の波長による不活化効果を調べ、ウイルスの波長依存性を明らかにすることを目的とした。また、230nm及び250nmを中心とする2種類のUV-XEFLや222nm、282nmの単一波長を照射可能なエキシマUVランプなど、数種類のUVランプを用いて、ウイルスに対する不活化効果について調べ、254nmの結果と比較・検討した。

2. 実験方法

分光器を用いた不活化実験では、大腸菌ファージΦx174を滅菌蒸留水に投入したものを試料とした。それを石英セル(内径1cm、高さ4.5cm)に試料を入れ、スターラーで撹拌しながら、横から任意の波長のUVを照射した。光源はキセノンランプ、分光器は島津製作所製(SPG-120UV)を用いた(図1)。

また、UVランプを用いた回分式の不活化実験は、大腸菌ファージMS2を滅菌蒸留水に投入したものを試料とした。ガラスシャーレ(内径4.2cm、水深1.7cm)に試料を満たし、気泡が入らないように石英ガラスで密閉し、上からUVを照射した。UVランプは254nm低圧水銀ランプ(AY-1、日本フォトサイエンス)(LP)、222nm 及び282nm エキシマランプ(ウシオ電機試作機、本号48ページ参照)(EX222、EX282)、230nm及び250nmを中心とする2種類のUV-XEFL(ウシオ電機試作機、本号48ページ参照)(230BB、250BB)の5種類を用いた(図2)。

UV照度はUV照度計で測定し、その値をKI/KIO3による化学光量計を用いて補正した値を使用し、紫外線量を算出した。この時の各波長の量子収率はBoltonら1)の論文を参考にした値を用いた。また、ファージ濃度は重層寒天培地法2)を用いて測定した。

図1. 分光器による不活化実験方法

図2. UV ランプを用いた回分式不活化実験方法

3. 実験結果

図3より、分光器を用いた不活化実験では、254nmより短波長はほぼ同じ様な傾向を示した。

図4より、UVランプを用いた回分式不活化実験では、光源ごとに異なる傾向を示した。波長が短くなるほど少ない紫外線量で不活化出来ていることが分かる。また、230BBと250BBは幅広い波長が照射されているため、試料の吸光度分布やUV照度計の受光分布、ランプの照度分布を考慮し、平均照度を計算した値を用いた。230BB及び250BBの90%不活化に必要な紫外線量(1Log 不活化線量D10)は254nmの1.3~1.4倍の値となり、254nmの方が不活化効率は良いという結果となった。

図3. 分光器を用いた不活化実験結果(Φx174)

図4.UVランプを用いた回分式不活化実験結果(MS2)

表1. ウイルスの不活化実験結果

4. 考 察

UV消毒は、核酸(DNAあるいはRNA)に損傷を与えることで微生物を不活化する。今回の結果は、UVの波長ごとの核酸に対する吸収率が異なることから、D10に差が出来たと考えられる。分光器による不活化実験の結果は、222~250nmにおいてほぼ同程度の傾向を示し、予想していたよりも波長ごとの明確な差が見られなかった。また、今回用いた分光器のスリットは半値幅が±3nmとなっているため、この影響により、差は明確に表れなかったと考えられる。

5. 結 論

分光器を用いて、様々な波長でウイルスの不活化について検討し、波長ごとに不活化効率が変わることを確認した。

また、数種類のUVランプを用いた回分式不活化実験では、短波長且つ単一波長であるほど不活化効率が良かった。

以上より、ウイルスの不活化は波長に依存していることが示唆された。

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