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光技術情報誌「ライトエッジ」No.39(2013年6月発行)

光技術コンタクト(日本オプトメカトロニクス協会)

(2013年1月)

複写機用LED光源の導光体設計による実現

至極 稔

1.はじめに

普通紙複写機(PPC)は広く一般に普及して久しく、ファックス・スキャナ・プリンタ等の機能を統合し、複合機(MFP)として販売されるようになっている。

複写機には、スキャナ機能として代表されるような原稿の情報を読み取る装置があり、その装置内には原稿を照明するための光源を備えている。原稿上に表された二次元の画像に対して光を当て、反射してきた光の情報を読み取るのであるが、カメラのように一度に二次元の情報を取得するのではない。線状(一次元)の情報を読み取る受光素子を内蔵し(この読み取り方向は主走査方向と呼ばれる)、所定の間隔で読み取る位置を移動させながら(この移動方向は副走査方向と呼ばれる)、繰り返し情報を取得することで、結果として二次元の画像情報を構築する方法が採られている。このような読み取り方をするため、読み取り領域を効率よく照明できる線状の光源が求められている。

読者も複写機で黄緑色に輝く光源を目にしたことがあるかもしれないが、あのような光源の開発・製造を、筆者らは長年にわたり行ってきた。本稿では、複写機で用いられる原稿読み取り用光源の変遷を紹介し、近ごろ急速に普及が進むLEDを用いた光源の導光体設計による実現について報告する。

2.原稿読み取り用光源

2-1 光源の変遷

一般的な複写機では、感光ドラムを露光して潜像を形成し、現像により画像を得る、いわゆるカールソンプロセスを使用することは共通であるが、ドラムを露光する方法によってアナログ方式・デジタル方式に大別され、それぞれに使用される光源のすみ分けがなされている。

(1) アナログ方式

アナログ方式は、原稿面で反射した光を、光学系を介して直接感光ドラムに導き感光を行う方式である。

この方式では感光ドラムを露光するのに十分な光量が必要とされるため、ハロゲンランプ(図1)が用いられている。直線上にフィラメントを配置することで線状の光源が得られ、可視域に連続スペクトルを有することから演色性にも優れており、原稿読み取り用光源として好適である。

しかし、消費電力や発熱が大きく、更に点滅点灯に弱いことなどから、近年では複写機での使用範囲は限定的になっている。

図1. ハロゲンランプ1)

(2) デジタル方式

デジタル方式は、原稿の情報をCCD等により電気信号に置き換え、プリンタ部へ伝送する方式である。

感光ドラムを露光する絶対的光量が必要とされなくなったため、ハロゲンランプに比べ消費電力が少なく、点滅点灯性に優れる外部電極式希ガス蛍光ランプ(図2:以下、希ガス蛍光ランプ)が、1990年代後半から現在に至るまで、原稿読み取り用光源の主力として用いられている。発光管内に電極を持たないため、原理的に電極の損耗による寿命がなく、また、冷陰極蛍光ランプのように水銀を用いないため、周囲温度依存性が少なく、光量の立ち上がりが早いといった特徴を持ち合わせている。

図2. 外部電極式希ガス蛍光ランプ2)

2-2 LED光源

昨今、LEDの発光効率の改善は目覚しく、また低価格化と相まって、希ガス蛍光ランプの主戦場とされた複写機用の読み取り光源に採用されるようになってきている。

しかしながら、ハロゲンランプ・希ガス蛍光ランプは、それ単体で線状照明を得ることが可能であるのに対し、LEDは点光源であるため、線状の照明を得るための光学系が必要とされている。

これらの光源の特徴を簡単に表1にまとめる。

表1:複写機で使用される原稿読み取り用光源の特徴

2-3 LED線状光源の方式

LEDで線状の照明を得るために、大まかに以下のような方式が採られている。

(1) アレイ方式

LEDを線状に並べ、照明する方式(図3)である。発光点を分散することで、個々のLEDで消費される電力が少なく、発熱が抑えられることから、発光効率の面で有利となる。

反面、多数のLEDを使用することから、個々の特性ばらつきの影響を受けやすく、配光特性や色度分布特性にリップルを生じやすい。これらを解消するために、拡散部材を設けたり、LEDを個別に駆動する回路を設けたりと、付加機構が必要となる。また、LEDの寿命特性のばらつきによって、配光特性が経時変化しやすいことも問題となっている。

図3. アレイ方式

(2) サイドライト方式

線状の導光体の端部にLEDを取り付け、照明する方式(図4)である。LEDの使用数が少ないため、発熱による発光効率の低下が懸念されるが、上記のアレイ方式の問題点である配光特性のリップルや経時変化などの問題は解消される。

筆者らはLED線状光源を開発するに際して、サイドライト方式の特性が希ガス蛍光ランプのそれに近いこと、また、形状もランプに似ていることから、我々のお客様が光源の置き換えを行う場合、比較的容易に対応できるのではないかと考え、この方式で開発を進めることにした。

図4. サイドライト方式

3.導光体の開発

3-1 サイドライト方式の技術課題

サイドライト方式の導光体では、LEDから導光体に入射した光は、導光体と空気との界面で全反射を繰り返しながら長手方向に伝搬していき、プリズム等の反射面に到達した光が出光面から取り出される。このような構造に加えて、LEDが指向性を持った配光特性を有するため、入光面近傍では、LEDから出た光が直接もしくは少ない界面反射回数で反射面を照射することになり、反射される光が特定方向に鋭いピークを持つことになる。このようなピークがあると、複写機の読み取り領域がわずかにずれた場合でも、配光特性が大きく変動し、安定した読み取りができなくなる。

この課題を解決するために、プラスチック成形加工メーカーの協力を得て、入光面近傍に光拡散用凹凸部3)(図5)を設け、指向性を持った反射光を拡散する方法で導光体を開発することにした。

開発当初に採られた手法は、次のようなものである。光学シミュレーションで導光体の形状を設計し、金型を製作する。でき上がった導光体の配光特性を計測する。特性の満足しない部分の金型を追加工で修正し、というサイクルを繰り返すことで、求める特性に漸近させていく。

ところが、実際に金型を製作(追加工)して分かったことは、金型自体は高精度で加工されており、成形の再現性も高いが、設計した形状と全く同一の形状は得られないということである。例えば、光学シミュレーション上では、出光面を円弧として定義していても、現実の導光体にはわずかながら真円からのずれが存在する。そして、ある場所の形状が設計値からずれていると、その場所から出射される光の特性に影響があるのはもちろんのこと、界面反射される光の分布も変化するため、その光が伝搬した先の特性に影響が出て、という具合に形状のずれが累積的に影響を及ぼすことになる。

設計した理想形状でシミュレーションを行っても、現実の導光体の配光特性との対応が取れないため、金型修正の方向性を見いだせず、開発が行き詰まることになった。このことから、現実の導光体の形状をシミュレータ上に構築し、配光特性と相関が得られるように検討を行うことになった。

図5. 光拡散用凹凸部3)

3-2 シミュレーションによる形状検討

まず、導光体の形状をできる限り正確に計測することに努め、上述のように、真円からのわずかなずれも特性に影響があるため、数ミクロンオーダーで再現できるように工夫を凝らした。

こうして得られた形状をシミュレータに入力し、計算を行えばよいのだが、一般に、照明系の計算では、評価面に入射した光線の数で計算精度が決まるため、膨大な数の光線追跡が必要となる。この場合は、計算機を5台並列で計算させたとしても、必要な計算精度が得られるのに、およそ60日が必要であった。光拡散用凹凸部を設けて、形状を複雑にしたことも足かせとなり、光学シミュレーションを行うことが容易ならざる状況となってしまった。

このような状況を打開するには、もはやハードウエアの増強では足りず、ソフトウエアでの対応が必要であると考えた。当然ながら、既成のソフトウエアが用意されているわけではなく、この目的のために一から作り上げる必要があったが、計算誤差が最小となるように評価を行いながら、シミュレータにパラメータを与える手法を用いて、計算精度を保ったまま、およそ1時間で計算が可能になった。

現実の導光体の形状と配光特性との相関が迅速に得られるようになったので、あとは、必要最小限の形状変更箇所を導出し、金型形状を近づけることで、所望の配光特性が得られるようになった。

3-3 LED線状光源の光学特性

図6に、配光特性の測定を行った導光体とリフレクタの光学配置を示す。原稿読み取り位置を2方向から照明することで、原稿に段差があっても影が生じず、また、それを1本の導光体で実現したことで装置を小型化できる構成となっている4)

図7に、実測した副走査方向の配光特性を示す。A3サイズの原稿読み取り領域(297mm)を2mm間隔で測定し、重ね描きをしたものであるが、特定方向へのピークはなく、安定した配光特性が得られていることが分かる。

図6. 光学配置

図7. 副走査方向配光特性

4.製品の紹介

弊社では、上記導光体とリフレクタとの光学配置を最適化したモジュールや、希ガス蛍光ランプからの代替を御検討のお客様向けに、DC24V入力で駆動できる電源一体型モジュール(図8)をラインナップしている。お電話・ファックスでのお問い合わせ・御相談は、弊社ホームページ5)を参照いただきたい。

図8. 電源一体型モジュール

5.おわりに

本開発案件では、特定の問題を解くためだけにソフトウエアをしつらえることが、予想以上に有効であるという貴重な経験をさせてもらうことになった。ここで紹介したのは成功した例であって、実際には書きつぶしたソフトウエアで死屍累々ではあるが、若手の技術者には、このような試みに身を投じていただくことを期待している。

謝辞

導光体の開発は筆者らが単独で行えるものではなく、金型製作・成形は言うに及ばず、設計においてもプラスチック成形加工メーカーの協力を頂いている。ここに感謝の意を表する。

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