USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.39(2013年6月発行)

電気化学会 第80回大会

(2013年3月)

食品中に含まれる違法薬物の
全自動高感度検知システムの開発

川口 俊一a、森田 金市b、 鈴木 信二b、嶋津 克明a
(北大院環境科学a、ウシオ電機b)
DEVELOPMENT OF AUTOMATIC TOTAL SENSING SYSTEM
FOR DETECTION OF ILLIGAL CHEMICAL
Toshikazu KAWAGUCHIa, Kinichi MORITAb,
Shinji SUZUKIb, Katsuaki SHIMAZUa
a Graduate School of Environmental Science, Hokkaido University,
Sapporo-shi,Hokkaido 060-0810
b Ushio Inc.,Tokyo 100-8150

In practical aspect of the sensing, multiple pretreatment steps such as filtering,purification, separation, and sometimes condensation process, are required before a userinjects the sample into the sensing system. We believe that the total sensing system shouldequip those functions, and simplify the manual handling process. Hence, this workproposes the total Surface Plasmon Resonance (SPR) sensor system with immunosensorchip using thiol compounds, aiming to minimize the manual handling process. This workalso reports the various pretreatment modules assembled in the flow system.

It is well known that thiol compounds easily forms well-ordered monolayer on Ausurface by immersion method. However, in fact, it is difficult to make the high-qualitymonolayer of thiol compound on Au surface, because Au surface is often covered withcontamination from air pollutants. This work also proposes the cleaning system usingExima light to achieve a good reproducibility in the sensor chip production process.

In order to optimize the SPR sensing performance, various thiol compounds wereexamined. The surface structures in molecular scale were characterized by electrochemical methods, scanning tunneling microscopy (STM), X-ray photoelectron spectroscopy (XPS),and FT-IR RAS.

1. 緒 言

表面プラズモン共鳴(SPR)センサは、被検物質を数pg/mL(ppt)の高感度検出することができることから、環境モニタリング•食品分析•医療診断•爆発物検知などへ応用した研究が数多く報告されている。しかし、SPRセンサを実用化するためには、まだいくつかの課題が残されている。SPR装置は光学系の配置が必要であるため、小型化することが難しい。これまで、小型化したSPR装置で製品化されたものは、大型のSPR装置(BiaCore-SPR、GEヘルスケアなど)と比較して100倍以上感度が低い。そのため、小型化したSPR装置では、大型のSPR装置で得られた高いアッセイ感度が再現できず、ELISAなどの競合する測定法とほぼ同程度の感度しか得られなかった。さらには、生化学反応を使った測定では、正確な実験操作が要求されるため、測定者には熟練したスキルが要求される。実験操作のわずかな誤差がアッセイ感度の大きなエラーとなるため、SPR装置を一般に広く使われるようにするための大きな障害となってきた。

本研究では、小型化したSPR装置で大型のSPR装置を越える高感度測定を目指すとともに、人の手を介することなく自動で試料を操作することができるシステムを開発し、誰でも高い再現性を得る方法について検討を行った。

2. 実験方法

SPRセンサ基板には、ショットガラス上に蒸着した50nmのAu薄膜を用いた。Au基板をマイクロチップとするために、リソグラフを使ってマイクロ流路を形成させたポリジメチルシロキサン(PDMS)板をエキシマランプによって貼り合わせた。SPRセンシングでは、本研究で開発した角度固定型(67.5度)のSPRセンサを用いた。また、フローシステムには、本研究で開発した超小型ペリスタポンプと超省電力型小型電磁バルブを組み合わせた卓上型の溶液導入モジュールを用いた。この溶液導入モジュールには、溶液の温度制御ユニットを組み込んであり、人の手を介すことなく、全自動で、導入試料の容量•圧力•温度•反応時間を制御することができる。そのため、図1に示した本システムを用いれば、実用的な高い再現性を得ることができる。また、Au薄膜の上には、自己組織化法を用いて、機能性チオールの自己組織化単分子膜を構築した。

本研究では、豚肉中に含まれる違法薬物のクレンブテロールをターゲットとしているので、クレンブテロールを末端に有するクレンブテロールエタンチオールを固定化してセンサ表面とした。

図1. Total Surface Plasmon Resonance sensor system

3. 結果と考察

図2には、本研究で作製したクレンブテロールエタンチオールを固定化したセンサ基板のSTM像を示した。ここで得られた明点間距離を、Chem.Officeで作成した分子モデルから得られた分子サイズと比較したところ、クレンブテロールのベンゼン環と側鎖の酸素原子が明点として現れていると考えられる。また、このSTM像から、クレンブテロールは横に倒れてセンサ表面に固定化されていることがわかった。ここで得られたクレンブテロールの表面密度は2.5x10-10molcm-2となり、この値は、クレンブテロールチオールの固定化プロセスをSPRで測定したときの共鳴角変化量から得られた表面密度の2.1+0.1x10-10mol cm-2とほぼ同じであった。XPSやFT-IRによってもそれぞれ構造に由来する結合を確認したことから、センサ表面へクレンブテロールチオールが固定化できたと結論した。

このセンサ基板を用いて、食品中に含まれるクレンブテロールの検出を検討した。今回の発表では、前処理モジュールを用いていないため、リン酸緩衝溶液中での検討結果を報告する。図3にSPRセンサを使って溶液中のクレンブテロールを検出したときのセンサグラムと検量線を示した。クレンブテロールは分子量277の小分子であるため、直接法で検出するのが難しい。そこで、間接競合阻害法1)-3)を用いて、クレンブテロールの検出を行った。間接競合阻害法では、はじめに試料溶液と抗体溶液を混合して、前反応させる。図1に示した25°Cの反応槽の手前に混合モジュールが組み込まれており、試料溶液と抗体溶液がこのモジュール内で反応を完了させる。未反応の抗体がセンサ表面に固定化されたクレンブテロールと反応すると、角度が固定化されたSPRの反射光強度が大きく変化した。共鳴角が大きくなる方向でシフトすることにより、67.5度における反射光強度が増加したことを示している。溶液中のクレンブテロールの濃度が増えると未反応の抗体の量が減少するため、シグモイド型の検量線が得られることが期待できる。図3には、試料溶液中のクレンブテロール濃度に対する阻害率 (percentage of inhibition)を示した。

本システムの検出濃度域は10pg/ml(10ppt)から1μg/ml (1ppm)の広範囲であることがわかった。この検出可能濃度域は、食品分析で求められているクレンブテロールの検出感度の100ppbを満たすものであったと考えている。

図2. STM image of clenbuterol immobilized Ausensor surface.

図3. SPR sensorgram and calibration curvewith respect to the solution concentration of clenbuterol.

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