光技術情報誌「ライトエッジ」No.40(2014年3月発行)
第24回 廃棄物資源循環学会
(2013年11月)
オゾンの熱分解によって生成する原子状酸素を用いた
一般廃棄物焼却飛灰中の鉛不溶化技術の開発
◦(正)藤川拓朗1)、(正)佐藤研一1)、 菱沼宣是2)、 森 純一郎2)、(正)肴倉宏史3)
1)福岡大学、 2)ウシオ電機、 3)(独)国立環境研究所
1.はじめに
著者らは、一般廃棄物焼却残渣(焼却主灰や焼却飛灰)中に高濃度で含有する鉛を不溶化させる手法として、これまでに紫外線に着目した検討を行ってきた1)-4)。その結果、図-1に示すように紫外線を焼却残渣に照射させることで、pHを低下させることなく鉛の溶出濃度を低下出来ることを発見し、そのメカニズムは、図-2に示すように、焼却残渣中に含まれるTiO2を利用して活性酸素を生成させ、溶解度の高い鉛化合物を酸化させ鉛酸化物へと形態変化させる手法であることを実験的に示している1)-4)。しかしながら、この手法は不溶化までに時間を要すること、焼却残渣中に含まれるTiO2をはじめとする金属酸化物半導体の存在が必要であること、紫外線を灰粒子に万遍なく照射させる必要があること等、実用化に向けて課題が残されている。そこで今回、本不溶化メカニズムを応用させ、活性酸素に着目した不溶化手法の検討を行った。すなわち、焼却飛灰等に元々含まれるTiO2に頼ることなく、意図的に原子状酸素を発生させ、不溶化効果を促進させる新しい不溶化処理手法の検討を行った。
本報告では、この不溶化手法を用いることで、焼却飛灰中の鉛を短時間で土壌環境基準値以下まで低減させることに成功した一連の実験結果について示す。
2.実験概要
写真-1にオゾンを用いた鉛不溶化処理装置を示し、図-3に装置の概略図を示す。まずO2とN2の流量を調整した混合ガスにオゾナイザーを用いてオゾンを発生させる(オゾナイザーは、一般廃棄物焼却飛灰中に含まれるPb化合物を酸化させるために必要なオゾン濃度発生量を計算し、オゾン発生器を選定している)。ここで発生させたオゾンは、マントルヒーター加熱チャンバーを用いることにより最大500°Cの温度条件下で熱分解させてラジカルを生成し、テストセル(Φ=90mm,B=170mm)内の酸化力を高めることが可能である。セル内には撹拌フィンが搭載されており、焼却飛灰を撹拌させながらオゾン処理することで鉛化合物の酸化を促進させることが可能である。なお発生したオゾンは、検知管を用いて濃度の測定を行っている。
本研究では、不溶化効果に寄与する因子として、1)オゾン濃度及びセル内温度の影響と、2)不溶化効果に含水比の影響に着目して実験的検討を行った。いずれの条件も、不溶化処理を終えた後にテストセルから焼却飛灰を採取し、1)の条件ではL/S=50の下で1時間振とう、2)の条件ではL/S=10の下で6時間振とうさせ、減圧濾過(フィルター孔径:0.45µm)を行って検液を作製し、ICPプラズマ発光分析装置(ICP7000-Ver.2:島津製作所)を用いて鉛を定量している。
3.実験結果および考察
3-1 鉛の不溶化効果に寄与するオゾン濃度及びセル内温度の影響
表-1に示す実験条件においてオゾンを用いた不溶化処理実験を行った。表-2に各条件における溶出液の最終pHを示し、実験結果を図-4に示す。なおここでは、処理時間に伴う濃度の変化を見ることを目的としており、処理後の溶出操作はL/S=50で行っている。いずれの条件においても、pHは高いアルカリ性を示しており、中性化が進行していない鉛の溶出しやすい環境下にあることが分かる。このような条件下において、焼却飛灰にオゾン処理を行うことで、Pbの溶出濃度の低下が見られ、オゾン濃度の増加とセル内温度の増加に伴う影響が顕著であることが分かる。特に、オゾン濃度500ppmかつセル内温度177°C(マントル設定温度:200°C)の条件が最も短時間で溶出濃度の低減効果が得られた。これらの効果は、オゾンによる酸化促進効果により焼却飛灰中に含まれる溶解度の高い鉛化合物が鉛酸化物に形態変化し不溶化したものと考えられる。さらにセル内の温度を高めることで、オゾンが熱分解により活性化され、酸化反応が促進された結果と考えられる。
3-2 鉛の不溶化効果に寄与する含水比の効果
前節より得られた結果及びこれまでの紫外線照射実験で得られた不溶化メカニズムをもとに、不溶化促進効果の検討を行った。図-5は紫外線のみの照射による焼却飛灰の含水状態に着目した鉛溶出濃度の低減効果を示した結果3)である。焼却飛灰中に含まれたH2Oが光触媒反応の過程において強酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成し(正孔が飛灰中の水を酸化させる反応:H2O + h+ →•OH + H+)、反応を促進させることで鉛溶出濃度を著しく低下させていることが分かる。この結果をオゾン処理にも応用し、表-3に高濃度オゾン・高温度条件下における含水比の影響に着目した実験条件を示し、得られた結果を図-6に示す。ここで、オゾン濃度1400ppmかつセル内温度373°C(マントル設定温度:500°C)は、本実験装置で得られる最大値である。焼却飛灰の含水比0%における条件では、処理時間の経過に伴い鉛の溶出濃度が顕著に低下し、3時間以降は完全に不溶化し、鉛の埋立基準及び土壌環境基準値を下回る結果を得た。さらに、焼却飛灰の含水比を40%とした条件においては、僅か1時間の処理で0.15mgと埋立基準値以下まで不溶化させることに成功した。これは、セル内においてオゾンが熱分解される際、水分雰囲気下にあるため、酸素ラジカルのみならずヒドロキシラジカルも生成され、不溶化処理を促進したものと捉えている。
以上の結果より、オゾンを熱分解させ原子状酸素を発生させて飛灰を酸化させることにより、極めて短時間で鉛を埋立基準値あるいは土壌環境基準値以下まで不溶化させることが可能であることが判明した。
4.まとめ
1) オゾンを熱分解させ原子状酸素を発生させた結果、僅か1時間で鉛を埋立基準値以下まで不溶化させることに成功した。今後は、さらに短い時間で不溶化処理に向けた検討を行っていく予定である。2) オゾン処理による鉛の不溶化効果は、オゾン濃度とセル内温度に依存し、これには最適な範囲が存在する。3) 焼却飛灰に加水しておくことで、オゾン分解中にヒドロキシラジカルを生成し、不溶化効果を促進できると考えられる。謝辞:本研究を進めるにあたり、元福岡大学大学院の隈本祥多氏(現:(株)NIPPO)、の協力を得ました。末筆ながらここに記して謝意を表します。