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  • 光技術情報誌「ライトエッジ」No.40(2014年3月発行)

常温・無触媒の光反応脱硝法の開発

神原信志、野村俊介、武山彰宏(岐阜大学)、菱沼宣是(ウシオ電機)

1.緒言

種々の燃焼プロセスから排出される窒素酸化物(NOx)は、世界的にその排出規制(濃度と対象設備)が強化・拡大されている.近未来のNOx排出規制として、船舶ディーゼルエンジン排ガスへの適用が予定されており,何らかの排ガス処理対策を行わねばならない。

船舶ディーゼルエンジンの排ガスはターボチャージャー出口以降では180°C以下の低温であること、触媒を被毒する硫黄酸化物を高濃度で含むことから、従来技術である選択的触媒脱硝法(SCR)の適用は不都合が多く、低温かつ無触媒で脱硝する新規な反応法の開発が求められている。

我々は、NO/NH3/O2混合ガスに真空紫外線(VacuumUltraViolet: VUV)を照射すると、室温かつ無触媒で光反応による脱硝反応が起こることを見いだした(光反応脱硝法と呼ぶことにする)。本研究では、光反応脱硝反応に及ぼすNH3/Oモル比(MR)、ガス流量(ガス滞留時間)の影響を調べたので報告する。

2.実験装置および方法

実験装置(Fig.1)は、模擬ガス(NO/O2/N2)供給部,脱硝剤(NH3)供給部、光反応器(VUV照射部)、副生成物捕集部(ガラスビーズトラップ)、連続式ガス分析装置(NOx,、O2,、N2O)から成っている。

模擬ガスと脱硝剤流量をガス混合器付マスフローコントローラー(KOFLOC MODEL 8500)で流量制御し、Xeガス封入誘電体バリア放電方式エキシマランプを中心軸に配置した円筒型の光反応器(ウシオ電機製)に導入した。光反応器を通過した混合ガスは、ガラスビーズトラップで副生成物を、吸着剤で未反応NH3を除去した後、一部のガスがガスサンプラーにより分析計に導かれる。

光反応器の詳細をFig.2に示す。外径4 0 m、長さ100mmのエキシマランプの周囲に、内径80mmのアルミ製円筒カバーを配置し、ランプ表面とカバー内面の間を混合ガスが流れる。エキシマランプからは、波長172nmのほぼ単一波長の紫外光が26mW/cm2の出力で放射される。混合ガスは、円筒流路内を流れる間。紫外光が照射される。

反応前後のガス組成は、赤外線式NOx計(HORIBAVIA-510)、赤外線式N2O計(HORIBA VIA-510)、ジルコニア式O2計(SHIMADZU NOA-7000)を用いて連続分析した。

光脱硝反応実験では、NO初期濃度(NOIN)600 ppm、O2濃度8.28%に固定し、混合ガス流量(1.0-3.0L/min)とNH3/Oモル比(1.0-3.0)を変化させ、脱硝率の変化を追跡した。なお、脱硝率(NO removal)は次式で定義した。

ここで、NOOUTは光反応器出口のNOx(NO+NO2)濃度である。

Fig.1 Schematic diagrams of experimental apparatus.

Fig.2 Configuration of the photochemical reactor.

3.実験結果および考察

(3.1) 混合ガス流量の影響

Fig.3に、混合ガス流量F = 1.0-3.0 L/minの時の脱硝率の変化を、MR=1.0, 1.5について示す。光反応を利用すると、室温かつ無触媒であっても脱硝反応が起こることがわかる。F=1.0L/min、MR=1.0では脱硝率72.8%を得た。また、Fを増加させると、脱硝率は指数関数的に減少した。

これまで、無触媒の脱硝反応(SNCR)では800°C前後が低温側の限界、また触媒を用いる脱硝反応(SCR)では約350°Cが低温側の限界であることが報告されている。これらと比較すると、温・無触媒での脱硝法を見いだしたことは画期的であると言える。

室温・無触媒での脱硝反応メカニズムとしては、脱硝剤であるNH3が紫外線で励起されて(2)式のようにNHラジカルを生成し、(3)-(5)式のラジカル脱硝反応が引き起こされたものと考えている。これらの反応は活性化エネルギーが0であり、室温で反応は進行する。

流量Fを増加させると,脱硝率は減少する傾向が見られるが,これはNH3ガスの滞留時間の減少によって(2)式で生成するNHラジカル濃度が減少することが原因であると考えられる.

Fig.3 DeNOx characteristics by VUV irradiation.

(3.2) モル比の影響

Fig.4は,NH3/Oモル比MRを1.0-3.0に変化させた時の脱硝率の変化を混合ガス流量Fをパラメータとして示した図である。MRを増加させると脱硝率も増加し、F = 1.0, MR = 2.0,の時、最大脱硝率99.3 %を得た。MRの増加は、(2)式におけるNHラジカル濃度の生成を増加させるため,脱硝率を増加させたと考えられる。

ここで,最大脱硝時のエネルギー効率(消費電力1kWhあたりのNO除去重量)を考える。Fig.2で示した反応器の消費電力は90Wであるから、

(1.0 [L/min]×60 [min/h]×600 [ppm]×10-6/ 22.4[L/mol]×30 [g/mol]×0.993)/(90 /1000) kW=0.53g-NO/kWh

となる。この値は、光脱硝反応法を実用化するためには、さらなる改良が必要であることを示しており、本法の反応メカニズム解明が急がれる。

Fig.4 Effect of molar ratio on DeNOx characteristics.

(3.3) 副生成物

光脱硝実験を行なうと、光反応器出口に白色の微粒子が副生成物として捕集された。この副生成物組成を特定するために,微粒子を収集し示差熱・熱重量同時測定装置(SHIMADZU DTG-60/60H)で熱分析を行なった(Fig.5)。反応物の化学種から副生成物は硝酸アンモニウムと推定されるため、その熱分析結果(文献値、Fig. 5 A)と比較した。Fig. 5 AとBは完全に一致し、副生成物は硝酸アンモニウム(NH4NO3)であることがわかった。

硝酸アンモニウムは,NH3と硝酸(HNO3)の気相反応で容易に生成することが知られている。したがって、本脱硝反応には(2)-(5)式の反応以外にHNO3が生成する反応経路も考慮する必要がある。

Fig.5 TGA and DTA analysis for co-products.(A: Literature data, B: this work)

4.結論

波長172nmの紫外線をNO/O2/N2/NH3混合ガスに照射すると、室温・無触媒で脱硝反応が起こることを見いだした.脱硝率は,ガス流量Fの増加により減少し、MRの増加により増加した。F=1.0, MR=2.0,の時、最大脱硝率99.3 %を得た。この光脱硝反応で生成する副生成物は、硝酸アンモニウムであることがわかった。

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