USHIO

(2016.12)
色材協会誌 Vol.89

色と光

ウシオ電機株式会社 バイオメディカル事業部 木村 誠

要旨

色は光の反射によって生じる現象であり、色と光(光源)の種類や波長、その構造は密接に関連している。また、特殊な波長をもつ光源の種類や、各種光源の分類、発光原理に加え固体発光素子であるLED、LDについて解説した。次に産業で色彩を判断するための標準光源について説明し、光や色が人間に与える影響について、具体的な商品開発現場から、その経験を含め解説し、医学的な観点からの色彩について述べた。
キーワード: 光、色、放電、ランプ、LED、LD

Abstract

A color is a phenomenon caused by the reflection of light, and the mechanism of the color is closely associated with types of the light source and wavelength. In addition to types of light source with a special wavelength, the classification of various light sources, and the light-emitting principle, we described LED and LD. Then, we explained a standard light source for determining the color in the industry and described the effects of light source and color on human beings from the specific product development site’s experience.

1.はじめに

『真珠の耳飾の少女』に代表されるヨハネス・フェルメールの作品は、優れた遠近法と写真のように忠実な画法とにより、多くの人を魅了している。彼は、ただ目の前の世界を再現したいということから、それまで表現できなかった色を作り出し、的確にその世界を再現している。現存する彼の37作品の多くは、窓や窓ガラス(ステンドガラス)越しの陽光と、それが作りだす陰影が描かれているだけでなく、陽光の反射の仕方による微かな色の変化や違いも十分に再現されている。

このように色は、照射した光の反射によるものであり、その種類や照射の仕方で大きく変化する。本編では、色と光とをテーマに、現在、さまざまな分野で用いられている人工光源の種類、発光原理、特徴などについて概説する。また、人間の心理に及ぼす色の影響についても説明する。

2.光源の種類と波長

光は電磁波であり、その波長によって呼称が異なる。図1に示すとおり、1~400nmの波長の光を紫外線、400~780nmを可視光線、780~1mmを赤外線とよび、さらに紫外線は波長が短いものから真空紫外、UV-C、UV-BおよびUV-A、また赤外線は近赤外線、中赤外線および遠赤外線、極端遠赤外線に分類される。また、紫外線より短いものとしてX線やγ線、赤外線より長いものとしてマイクロ波や電波がある。人間が網膜にある錐体細胞で認識することができる波長は380nmの紫色から770nmの赤色まである。太陽光にはこれらの波長がすべて含まれている。

図1:各波長分類

人工光源の分類を図2に示す。図2に示すように、人工光源はランプ光源、レーザ光源およびLight Emitting Diode(LED)/ Electroluminescence(EL)光源の3種に大別される。さらに、ランプ光源は白熱球類および放電灯類に、レーザ光源は気体レーザ、固体レーザ、液体レーザおよび半導体レーザに、LED/EL光源はLED光源およびEL光源に分類される。

図2:光源の分類

図3:ランプ分類と各波長

白熱球の構造を図4に示す。白熱球類は、1879年にエジソンがカーボン電球を発明して以来、家庭内の照明として用いられてきた。その後、カーボンフィラメントの変わりに、耐久性の高いタングステンが用いられ、長寿命、高発光効率の白熱電球が生まれた。その後、バルブ内部にハロゲンガスを用いることにより寿命や輝度も改善され、現在でもスタジオや百貨店などの装飾品売り場の照明に用いられている。ただし、白熱電球類は、あくまでも材料を燃やして発効しているため、色温度(光源が発している光の色をケルビンで定量的にあらわしたもの)は低く2000~3400K程度で、赤の成分が強く含まれている(図5)。そのため、赤色の照射が必要な用途や、熱が必要な用途に主に用いられている。

図4:白熱灯(ハロゲンランプ)の構造

図5:代表的なハロゲンランプの分光分布図(2500Kランプ)

次に、放電ランプの構造を図6に示す。放電灯類は、陰極と陽極の間でプラズマを発生させ、バルブ内部のガスあるいは金属イオンを放電させている。例えば、キセノンガスを封入し、太陽光に近い波長を有するランプがキセノンランプである(図7)。また、水銀蒸気放電によって放射された紫外光を利用してバルブ内壁に塗布した蛍光体から可視光を放射する蛍光ランプ、High Intensity Discharge lamp(HID)のように高圧の水銀と金属ハロゲン化物との放電を用いて特定波長の光を強く放射するランプ、さらに希ガス(Xe、Ne、KrおよびAr)を封入したランプ、殺菌灯に代表される低圧の水銀輝線を用いたランプなどがある。

図6:代表的な放電灯の構造

図7:代表的なキセノンランプの分光分布図 (700w映写機用)

LED/EL光源は、電界による発光現象を利用した素子である。主に半導体のPN接合を持つ結晶体に一定方向の電流を流して結晶内で発生するエネルギーを光として放射させるものをLED、発光材料の結晶を誘電体の中に入れて交流電圧を加えて発光させるものをEL という1)。ELは1960年代に照明用平面光源として開発され、表示用に実用化された。また、LEDは、二十世紀後半から、SiやGeだけの半導体接合ではなく、GaPやGaAsなどのⅢ-Ⅴ族のPN接合の利用により需要が拡大した。ランプ光源と比較して光の変換効率が高いことや寿命が長いことなどの特徴を持つ。近年、赤(レッド)、緑(グリーン)および青(ブルー)のLEDが開発されて白色光化に成功し(表1)、ディスプレイやサインランプ、計測器の光源などに用いられるようになった2)

表1:LEDの種類(半導体材料と光の関係)

次に、レーザ光源について説明する。レーザ(LASER)とはLight Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字を取ったものであり、ある励起種に対して、その励起エネルギーと同じエネルギーを持つ光を外部から照射したときに、励起種が照射された光に同調して同波長と同位相の光を放出するものである。歴史的には1960年にMaimanがルビーを用いてパルス発振に成功し、続いてJavanがHeとNeとの混合気体を用いて連続発振に成功した。レーザ光源は自然光にはない優れた単色性および指向性をもち、さらに強力な点光源となることから学術研究だけでなく、医療をはじめさまざまな分野で用いられており、新たな可能性を秘めた光源である3)

レーザ光源の分類と波長を表2に示す。レーザ光源は、主に固体レーザ、気体レーザ、液体レーザおよび半導体レーザに分類される。固体レーザは、YAG(Y3Al5O12)レーザやルビーレーザに代表されるように、レーザ媒質として単結晶もしくはガラスに微量のイオンなどを含んだものが用いられる。また、励起光としては、連続発振用としてKrランプが、またパルス発振用としてキセノンフラッシュランプが用いられている。近年、半導体レーザを励起光に用いた固体レーザも商品化されている。

気体レーザは、He、Ne、Ar、Kr、Xeなどの希ガスや、F、Cl、Br、Iなどのハロゲンガスが用いられ、放電によって生成した電子との衝突を利用して発振を得るものであり、外部からの光は不要である。また、これらのガスに加え、Au、Cu、Mnなどの金属元素を気化させた気体レーザも作られている。

液体レーザは、有機色素を用いたレーザで、アルコールや有機結晶に色素を分散・蒸着させたもので、波長可変レーザとして用いられ、唯一実用化されている。当初、希土類のキレート化合物を用いたものも検討されていたが、配位子による吸収が高く、効率が悪かったため実用化されていない。

半導体レーザ光源は、LEDと同様に、PN接合からできている。すなわち、数μmから10μm程度の狭いストライプ状の領域に注入電流が集中する構造になっており、この領域内で電子と正孔が再結合して発光する。

表2:各レーザの種類と波長

3.特殊な色(波長)を持つ光源

メタルハライドランプは放電灯に属し、ランプ内部に金属元素(金属ハロゲン化物)を封入することで、炎色反応と同じ原理で、特異的な色(波長)の光を放射することができるランプである。表3に封入する金属元素と光の波長とを示す。メタルハライドランプは、その特徴的な色を利用して、トンネル内の照明や植物育成用などに用いられている。また、液晶プロジェクターや自動車用ヘッドライトなどに用いられている。ただし、金属ハロゲン化物を気化する過程で、ランプ内部の圧を上昇させるために水銀が用いられることから、環境面に配慮し、徐々にLEDやELに置き換わりつつある。

表3:メタルハライドランプの各発光元素と波長

エキシマガスを封入したエキシマ(Excited dimerの略)ランプと呼ばれる放電ランプも、内部の封入するガスの種類を変えることで特徴的な色(波長)の光を放射する。表4に放電ガスと波長との関係を示す。また、図8はランプの構造図である。エキシマランプの放電方法は、メタルハライドランプは異なり、アーク放電でなく、誘電体バリアー放電という放電方式で、可視光よりも紫外光放射用ランプとして、多方面で利用されている。特に、真空紫外線、UV-C、UV-BおよびUV-Aを放射することができるため、真空紫外線による材料の表面改質や分解、UV-Cによる殺菌、UV-BやUV-Aによる治療などに用いられている。

表4:各発光元素と波長

図8:エキシマランプの構造図

我々の身近にあって最も色と密接に関係している光源は蛍光ランプ、いわゆる蛍光灯であろう。蛍光ランプは低圧水銀ランプに属し、水銀が放出する254nmの紫外線でランプ内壁に塗られた蛍光体を励起して、いろいろな波長の可視光を発光している。尚、蛍光ランプのガラスには紫外線を通さないガラスが用いられているので、放出される紫外線の人体に対する影響は極めて少ない。

蛍光体としては、主に、赤色、緑色、青色あるいは白色を放出する蛍光体が用いられ、光としては色温度5700~7100Kの昼光色、色温度4600~5400Kの昼白色、色温度3900~4500Kの白色、色温度3200~3700Kの温白色および色温度3150K以下の電球色の5種類に分類される。また、最近では、食肉やマグロなどの生鮮食品をおいしく見せる赤色を基調とした蛍光ランプや、青物野菜を新鮮に見せる蛍光ランプなども販売されている。ただし、ここ数年LEDの販売価格が低下したため、同色のLED ユニットへの置き換えが進んでいる。

特異的な光を放射する光源とは逆に、色そのものを判断するために用いられる光源もある。それらは国際的な標準光源として国際照明委員会(CIE)で定められている。標準光源を実現するために、CIEによって定められた人工光源は、以下の5つに分類される。

  1. ① 標準光A : 色温度2856.6Kである黒体の放射(白熱電球)を再現したもの。
  2. ② 標準光B : 色温度4874Kの直接太陽を放射したもの(※現在廃止)
  3. ③ 標準光C : 色温度6774Kの平均昼光(紫外部を除く)
  4. ④ 標準光DT : 任意の相関色温度Tに対して、相対分光分布が定義された昼光
  5. ⑤ 標準光D65 : 相関色温度6504Kの昼光

中でもD65光源は、自動車、家具、家電、壁材などの色を見るための光源として用いられ、垂直照明を90°で行い、拡散光を45°の角度から受光器で受光する方式が用いられている。

D65のランプとしてはキセノンランプが用いられている。キセノンランプは太陽光とほぼ同じ色温度(6500K)で、色を判断する光源としては最適である。そのため、キセノンランプは標準光源以外にも、写真撮影用ストロボ、フィルムタイプの映写機、内視鏡用光源、灯台用光源、スポットライト、太陽電池の検査器など、自然光を再現する必要がある用途に多用されている。

4.色を放射する光源の重要性

最後に、さまざまな光源によって作り出される色が人間の心理に及ぼす影響について、代表的なエピソードを2つ紹介する。

一つ目は電気炬燵(コタツ)である。約20年前に大手家電メーカーからの依頼を受け、ビルトイン家具調炬燵の開発に取り組んだ。依頼内容は、それまで炬燵の真ん中にあった大きな赤外線ランプをスマートなハロゲンランプに変え、足を入れてもぶつからず、従来の赤外線ランプよりも暖かい炬燵の開発であった。従来型の炬燵の赤外線ランプは、可視光線(赤)に加え近赤外線を強く照射するランプであり、体を温めるための波長成分が少なく、投入電力に対する効率が悪かった。そのため我々は、体の芯まで温まることが知られていた遠赤外線に着目し、棒状ハロゲンランプにセラミックを塗布し、近赤外線でなく、遠赤外線を照射するハロゲンランプ(図9-a)を取り付けた新型の炬燵の販売を開始した。しかし、販売は低迷であった。発売後、マーケティング調査を行ったところ、「赤色の出ない炬燵は暖かさを感じない。」というアンケート結果が多数あった。遠赤外線は目に見えないため、炬燵の中は真っ暗な状態であり、顧客は「赤色=暖かい」というイメージが定着していることがわかった。その後、ハロゲンランプに赤色のコーティング(図9-b)を施し、赤色と近~遠赤外線とを放出するランプを取り付けた結果、ヒット商品になり、すべての炬燵にこの技術が採用されるようになった。

図9:赤外線ランプ

二つ目は、結婚式や舞台照明で用いられているピンスポットライトである。舞台にあがった主人公を、離れた場所から照射させなければならないために、光学系で集光させる必要があり、輝点(光っている部分)が小さなキセノンランプ(色温度6500K)が採用されていた。我々はこのランプよりも効率の高い、メタルハライドランプ(色温度9000K)を採用しピンスポットライトを販売したが、これもまったく売れなかった。使用した顧客にアンケート調査をしたところ、「花嫁の顔色が悪い。」、「舞台の主人公が綺麗に見えない。」、「顔色が悪すぎる。」など、色温度が高いため、すべて人の顔色が青白く見えてしまったのである。同じような事例は美容院やスーパーマーケットの食肉売場でもあった。美容院では、白色蛍光灯では女性の顔色が綺麗に見えないことや、髪の毛のカットが上手に感じないとの心理的なことから、赤色成分を多く含むハロゲンランプが主に用いられている。また、スーパーの食肉売り場でも、赤色成分が多い方が肉の色が綺麗(美味しそう)に見えることから白色蛍光灯は用いられていない。ただし、現在では、各々の用途にあった蛍光灯が開発され、食肉売場では赤色を主体とした蛍光体、また青野菜では青色を主体とした蛍光体を用いた蛍光灯やLEDが使われるようになった。

5.おわりに

これらのように、光あるいは光源は人間の心理と密接な関係があり、商品の売り上げにも直結している。また、心理的なものだけでなく、光の人間に対する直接的な影響についても研究が行われている。例えば、毛根に赤色光を照射する脱毛の治療4)、コラーゲンの再生5)、炎症の改善6)などである(表5)。今後、医学、環境、衛生、美容、福祉などの様々な分野で色の有効性が確認され、実用化されていくと考えている。

表5:各波長における医学的作用

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