USHIO

一般社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS

(2016.12)
信学技報, IEICE Technical Report,vol. 116, no. 355, SDM2016-102, pp. 55-58, 2016年12月

アイランド状a-Ge膜のFLA結晶化

吉岡 尚輝 1 部家 彰 1 松尾 直人 1 中村 祥章 2 横森 岳彦 2 吉岡 正樹 2

1 兵庫県立大学大学院工学研究科 〒671-2280 兵庫県姫路市書写 2167
2 ウシオ電機株式会社播磨事業所〒671-0224 兵庫県姫路市別所町1194
E-mail: et14e040@eng.u-hyogo.ac.jp
 

あらまし

 

  GeはSiに比べて高い電子移動度を持つため,次世代MOSFETのチャネル材料として期待される.本研究ではフラッシュランプアニール(FLA)結晶化において,アイランド状a-Ge薄膜のアイランドサイズ依存性,場所依存性を検討した.ラマンスペクトルの結晶相に起因するピークの半値幅(FWHM)からFLA結晶化を行った基板内での端部と中心のGeアイランド膜に結晶性の違いが見られた.このことはFLA照射後の基板内での冷却速度が異なったためと考えられる.低印加電圧条件(2600V)では,2mm以上のサイズのa-Ge膜では結晶化が起こらなかった.
 

キーワード

 

 Ge,フラッシュランプアニール,アイランド状

 

Island shape of a-Ge film by FLA crystallization

 

Naoki YOSHIOKA1 Akira HEYA1 Naoto MATSUO1 Yoshiaki NAKAMURA2 Takehiko YOKOMORI2 Masaki YOSHIOKA2

1 Department of Materials and Synchrotron Radiation, University Hyogo, 2167, Shosha, Himeji, Hyogo 671 -2280
2 USHIO INC.,1194,Sazuchi,Bessho,Himeji ,Hyogo 6710224

E-mail: et14e040@eng.u-hyogo.ac.jp

Abstract

 

 Ge is expected as a channel material for the next generation MOSFET because the electron mobility is larger than that of Si. In this study, the island size dependence and the location dependence of an island a-Ge film by the flash lamp annealing (FLA) -crystallization were investigated. Full width at half maximum (FWHM) estimated from Raman spectra of the island Ge films prepared by FLA -crystallization indicated that the difference in crystalline was observed in the edge and the center of Ge island film in the substrate. This is probably because the cooling rate in the substrate after FLA irradiation is different. In low voltage condition (2600 V), crystallization did not occur in a-Ge film with a size of 2mm or more.

 

Keywords

 

 Ge,Flash lamp anneal,Island shape,

 

1.はじめに

 

 GeはSiに比べて3900cm2/Vsと高い電子移動度を持ち,低温での結晶化が可能であるため,次世代MOSFETのチャネル材料として期待されている [1].また無機半導体膜の低温結晶化はフレキシブルシートコンピュータに用いられる高性能薄膜トランジスタ(TFT) の実現のために重要な技術であり,急速熱処理 (RTA) やマイクロ熱プラズマジェット照射 (μ-TPJ) などによるa-Geの結晶化が検討されている[2-3].我々はこれまでにa-Si膜のエキシマーレーザーアニール (ELA)結晶化を検討しており,固相状態での2次元結晶成長について,原子空孔を仮定した固相成長による結晶化機構を提案した[4-6].また ガラス基板への熱損傷を回避しつつ,ミリ秒台での熱処理が可能であるフラッシュランプアニール(FLA) 結晶化についても検討している[7] [8].FLA照射時のランプ印加電圧が低印加電圧時(2600V)では固相結晶化(SPC),高印加電圧時(3400V)では溶融結晶化(LPC),と異なる結晶化過程が 確認でき, ランプ印加電圧により結晶化過程を選択できることが確認された[9].  本研究ではアイランドa-Ge膜にFLAを照射したときの基板内でのアイランド状a-Ge膜の場所,およびサイズでの特性を調査し,アイランド状 a-Ge膜の結晶化の機構を検討した.

 

2. 実験方法

 

 電子ビーム (EB) 蒸着法により , 基板温度 RT で膜 厚 60nm の a - Ge 膜を 20×18mm 2 の石英基板上に 4 種類 のメタルマスク ( MA, MB, MC, MD ) を用いて 堆積させ た . MA, MB, MC, MD の条件は , MA では D=0.2mm の 同サイズのも の を 17×17 個 , MB では D=0.5mm の同サ イズのものを 17×17 個 , MC では D=0.1~1.0mm の 0.1mm ずつ増加させたものを 7×10 個 , MD では D=1.0mm~5.0mm の 1.0mm ずつ増加させたものを 3×5 個 となっている Fig.7. 堆積させた後 , 400 ℃ に予備加 熱した状態で FLA による結晶化を行った . FLA の条件 は , ランプ印加電圧 2600, 3400V , 照射回数は 1 回 であった . 結晶性評価にはラマン分光 ( Ar + レーザ , 波 長 514.5nm ) を用いた . 表面観察には 光学顕微鏡 を用 いた。 膜厚 測定には触針計 ( Dektak ) を用いた . ラマンス ペクトルは 1 つのアイランド につき , 3か所測定した.

 

3.結果と考察

  

3.1.FLAアイランド状 poly-Ge膜の結晶構造および結晶欠陥(場所依存性)

 

 FLA結晶化を行ったアイランド状a-Ge膜のラマンスペクトルから得られた結晶相のピーク半値幅(FWHM)をFig.1 にピーク位置をFig.2 に,結晶化率をFig.3 に示す.低印加電圧側と高印加電圧側のFWHMから共に端数点を除き,真ん中を中心に結晶欠陥が増加していく傾向が見られた.高印加電圧側ではばらついてると考えられる.このことから基板内でのFLAによる熱の分布が関係していると考えた.低印加電側では1cm×1cm膜に比べ,ピーク位置が低波数側にシフトしていた.このことはアイランド化にすることによって膜応力が大きくなったと考えられる.低印加電圧側でのFLA結晶化したGe薄膜は全条件について90%以上結晶化していたが,中心付近のアイランドではわずかながら結晶化率が低くなり端部に向かって増加する傾向を示した.

 

3.2.FLAアイランド状 poly-Ge膜の結晶構造および結晶欠陥(サイズ依存性)

 

 FLA 結晶化を行ったアイランドサイズの異なるa-Ge膜のラマンスペクトルから得られた結晶相のピーク半値幅(FWHM)をFig.4 に, ピーク位置をFig.5 に,結晶化率をFig.6 に示す. 半値幅は低印加側, 高印加電圧 側共にばらつきが見られた.ピーク位置は共に減少傾向が見られた.アイランドにすることで,膜応力が増加 したと考えられる.低印加電圧側ではアイランドサイズが2.0mm 以上のサイズでは結晶化が見られなった. 通常の熱エネルギーの伝播ではサイズに関係なく結晶化が起こるが,アイランドでは起こらなかった, このことから他の要因を考える必要がある.

 

3.3.FLAアイランド状poly-Ge膜の表面形状

 

 低印加電圧側, 高印加電圧側のアイランドサイズが0.6mmのpoly-Ge膜光学顕微鏡像をFig.7に示す. また.各印加電圧の膜厚分布をFig.8に示す. 光学顕微鏡像と膜厚分布から低印加電圧側では黒い粒が見られ, その黒い粒が大きな突起となっていることが分かった.また高印加電圧側では低印加電圧側に比べ段差が大きくなっていることが分かった.このことからアイランド状Ge膜にも, 印加電圧による結晶化機構の違いが見られた. 


 

4.まとめ 


  基板内でのアイランド状a-Ge膜の場所,およびサイズでの特性を調査し, アイランド状a-Ge膜の結晶化の機構を検討した結果, 以下のことが明らかとなった. 
1)場所依存性 
  基板内での端部と中心のGeアイランドでは結晶性,結晶化率に違いが見られた.
このことはFLA照射による基板内での冷却速度が異なるためと考えられる. 
2)サイズ依存性 
  低印加電圧側では2.0mm以上のサイズのものでは結晶化が起こらなかった.
原因として例えばFLAから発生する電磁波が起因していると考えられる.熱エネルギーの伝播以外での結晶化機構のさらなる検討が必要である. 
3)表面形状評価 
  光学顕微鏡像と膜厚分布から, 低印加電圧では黒い粒が大きな突起となっており, 高印加電圧では全体的に膜厚が大きくなった. アイランド状Ge
膜でも低印加電圧, 高印加電圧では結晶性に違いが見られた. 

 

文献 


[1] S.M.Sze“Semiconductor Devices:Physics and Technology”Physics and Technology Wiley, New York, p.513, 1985. 
[2] K. Toko, Y. Ohta, T. Tanaka, T. Sadoh and M.Miyao. “Chip-size formation of high-mobility Ge strips on SiN films by cooling rate controlled rapid
-melting growth, ”Appl. Phys. Lett. 99, 032103, 2011. 
[3] 中谷太一,森崎誠司,東清一郎,”アモルファスゲルマニウム細線への大気圧マイクロ熱プラズマジェット照射により作製した薄膜トランジスタの特性評価,”薄膜材料デバイス研究会 第12回研究集会 pp.47-50, Oct. 2015. 
[4] 松尾直人,河本直哉,Fakhrul Anwar Bin Abd AZIZ,長谷川勲,山野耕治,浜田弘喜,“エキシマ・レーザ・アニールによる多結晶シリコンの結晶成長,”J. Vac. Soc. Japan, Vol. 46, No. 10, pp.745-751, 2003. 
[5] Naoya Kawamoto, Atsushi Masuda, Naoto Matsuo, Yasuhiro Seri, Toshimasa Nishimori, Yoshitaka Kitamon, Hideki Matsumura, Hiroki Hamada and Tadaki Miyoshi., “Grain Enlargement of Polycrystalline Silicon by Multipulse Excimer Laser Annealing: Role of Hydrogen,” Jpn. J. Appl. Phys. 
Vol. 45, No. 4A, pp. 2726.2730, 2006. 
[6] Akira Heya, Naoto Matsuo, Hideki Matsumura and Naoya Kawamoto., ”Effect of Hydrogen on Secondary Grain Growth of Polycrystalline Silicon Films by Excimer Laser Annealing in Low-Temperature Process” Jpn. J. Appl. Phys. Vol.45, No. 9A, pp. 6908-6910, 2006. 
[7] Kouji Usuda, Yoshiaki Kamata, Yuuichi Kamimuta, Takahiro Mori,Masahiro Koike and Tsutomu Tezuka.,“High-performance tri-gatepoly-Ge junction-less p-and n-MOSFETs fabricated by flash lamp annealing process”IEDM Tech. Dig.,pp.16.61-16.6.4,2014. 
[8] B.petz, L. Dobos, D. Panknin, W. Skorupa, C.Lioutas and N. Vouroutzis: Appl. Surf. Sci., 242(2005) 185. 
[9] A.Heya, N.Matsuo, S.Hirano, Y.Nakamura, T.Yokomori, M.Yoshioka and N.Kawamoto,”Role of 
Vacancy for Crystallization of Amorphous Silicon and Germanium Films by Flash Lamp Annealing,”Proc. The 9th Pacific Rim Intern. Congress on Advanced Materials and Processing (PRICM9), 2016 August 1-5, Kyoto Japan, pp.443-444.