USHIO

(2017.12)
日本工業出版社「光技術アライアンス」2018年1月号

半導体レーザを用いた新しい照明の応用

ウシオ電機(株)光源事業部

Fumihiko Oda, Ushio Inc.

 

1. 背景


 可視域の半導体レーザの高出力化・高効率化の進展は近年目覚ましく、その応用も広がりつつある。特にプロジェクタをはじめとする映像用途への応用は大きな市場を形成しつつある。レーザの単色性、高輝度、直線偏光といった、これまでのランプ光源やLEDでは実現できない特徴を活用して広色域、大光量、高コントラストの実現することに加え、波長差や偏光による3D映像を表現できるプロジェクタ、ディスプレイの開発に注目が集まっている1) 2)。
ウシオ電機では大型プロジェクタ向けのR/G/B高出力レーザを主力製品としている。Fig.1に代表的な製品例として、R/G/Bそれぞれのレーザパッケージの写真を示す。このうちGreenレーザはIR面発光レーザとPPLNによる波長変換の組合せによるもの、Red, Blueは直接発振の半導体レーザである。

Fig.1 ウシオのR/G/Bレーザパッケージ製品 (左からBlue, Green, Red)

 映像用途にとどまらず、可視域半導体レーザによる「広義の照明」用途の開拓は広く進展中である3)。
Fig.2はLEDやランプなど他光源に比較してレーザ照明が持つユニークな特性を示したものである。
(1) 容易な多色合成
(2) 高輝度・集光照射
(3) ライン状照明
(4) ファイバ導光
(5) 蛍光励起による高輝度白色光発生
例えば(1)(4)を使った装飾照明4) や(3)を用いたレーザショーといったようにレーザの特性が活かされている。
本稿では、広がりつつあるレーザ照明の応用例として、検査用照明へのレーザの応用、レーザ励起による高輝度白色光光源、流体可視化用照明光源を紹介する。


Fig.2 レーザ照明が持つ特性
 

2. 検査用照明へレーザ照明の応用

 

2.1 検査光源用照明

 

 製造ラインにおける形状検査やキズ検査等において、適切な光源による照明、検出系(カメラ)及び画像処理の組合せによるマシンビジョン画像検出が広く使われている。適切な検出画像を得るために、照明はその波長、照度、平行度などを制御することが必要である5)。
照明用の光源として従来からあるキセノンランプ、高圧水銀ランプ、あるいはフラッシュランプなどが用途に応じて用いられるのに加え、近年高効率化・高出力化が進んだLEDが広く用いられるようになっている。
 

2.2 レーザを使用するメリット


 Table1は検査用照明としてのランプ、LED、レーザの比較とレーザを用いるメリットを整理したものである。ランプやLEDに対してレーザは遥かに高輝度であるため、ワーク上で非常に高い照度を実現でき、高速撮像・検出に威力を発揮する。またファイバ導光可能かつ多色合成出力が可能であるので、ワーク表面や形状に合わせた波長の照明を、光ファイバを接続するだけで得ることができる。
Fig.3はウシオの高出力・多波長半導体レーザを搭載した汎用モジュールと、それを用いた製造ライン照明の模式図である。このレーザモジュールには最大5波長のレーザダイオード(独立の駆動可能)が搭載可能であり、光学的に合成した出力を1本の光ファイバから出力する。
光ファイバを投影レンズ等へ接続するだけで、切り替え可能な多波長、高照度照明を実現できる。
一方、レーザを用いる事のデメリットとしては、スペックル(干渉)ノイズの存在が挙げられる。スペックルノイズの影響度合いはワーク表面状態や撮像時間(シャッタ速度)により異なるが、スペックルノイズの影響が無視できない場合は、例えば拡散板でレーザ光の干渉性を落とすことで改善が期待できる。


Fig.3 高出力・多波長半導体搭載の汎用レーザモジュール(上)とそれを用いた検査用照明例


Table.1 マシンビジョン用光源としてのランプ、LED、レーザの比較
 

3. レーザ励起蛍光(LDP)方式高輝度白色光源

 

3.1 レーザ励起蛍光光源の概要


 青紫~青色レーザでの蛍光体励起による高輝度白色光発生(ここではLD pumped Phosphorの略称でLDP光源と呼ぶ)は先述のプロジェクタ用のみならず、自動車用ヘッドライトへの応用6)も進む注目の光源である。Fig.4はLDPと白色LEDの比較を示す模式図である。励起光+蛍光で白色光を作る原理は同じであるが、励起光がレーザであるため高輝度化できる点が特色である。輝度の点ではレーザには劣るものの、LEDの数~10倍程度であり、その意味ではLEDとレーザの中間的な性能・性質を持つ光源と言える。


Fig.4 LDP光源(レーザ励起蛍光光源)とLEDの原理模式図
 

3.2 応用例

 

 Fig.5に我々が製作したマシンビジョン等検査用途向けのLDP光源照明装置の写真を示す。またTable2にはその概略スペックをこの用途に多く用いられるメタルハライドランプ光源と比較したものを示す。高効率の半導体レーザ/蛍光体の使用によりほぼ同じ消費電力でありながらおよそ2倍の光量(lm)を得ている。また瞬時点灯・消灯やパルス点灯が可能な点も優位点である。先に述べた通り、近年ではマシンビジョン用光源としてLEDも多く用いられているが、LEDに比較してのLDP光源のメリット例として、
(1) 特に大光量が必要な場合、ワーク周りに多数のLEDを配置するのに比べ、LDP光源ならファイバ導光で大光量照明が可能でありワーク周囲のカメラ等の配置自由度が大きい。
(2) 平行光生成が容易であり凹凸の大きいワークへ効果的に照明できる。
(3) ライン状高照度照明が可能であり、ラインセンサでの検出に対して効率的に照明できる。
等が挙げられる。上記はメリットの一例であるがLDPの高輝度・大光量を活かした用途が今後ますますひろがるものと考えている。


Fig.5 LDP光源照明装置の写真


Table2  LDP光源照明装置とランプ照明装置とのスペック比較

 また高輝度であるLDP光源は適切な光学系により平行光化するのに適している。LEDに比較すると特に平行光化した際の光束密度を高くできる。この特徴を活かた製品例としてLDP光源を用いた「サーチライト」(ウシオライティング(株)製)をFig.6に示す7)。なおFig.6には比較のためにキセノンランプ(ランプ入力2kW)を搭載したサーチライトも合わせて示している。消費電力にしてLDP光源サーチライト(663W)はキセノンランプサーチライト(2,851W)の約1/4であるが、ほぼ同じ光束密度(約6千万cd)を得ており、投光時の「光柱」はほぼ同様の明瞭さである。さらにLDP光源は調光(減光)やON/OFF動作を自由にでき、様々なモードの点灯に対応できる点が大きなメリットである。


Fig.6 レーザ励起蛍光光源(LDP)およびキセノンランプサーチライトの比較


4. 流体計測用シートビーム光源

 

4.1 流体計測の手法

 

 自動車や航空機の空力をはじめ、機器冷却のためのファンやヒートシンクの能力・形状・配置、オフィスの空調やクリーンルームのコンタミネーション管理、パイプやマニホールドといった流路内など、「流れ」のデザインはあらゆるエンジニアリングから切り離せないものと言えよう。計算機を使った流体解析は広範に取り入れられている一方、流れを「実測する」手段、特に流れの空間分布を把握する/計測する手段を誰もが手にしているとはいえない状況である。
流体の現象理解のための計測には従来からキセノンランプや大型パルスレーザといった大光量光源による「照明」と「高速撮像」の組合せが使われてきた。近年ではレーザによる大光量シート照明と高時間分解能撮像の組合せにより流速ベクトルの空間分布を取得するPIV(Particle Imaging Velocimetry)が広く使われている。PIV用照明にはDPSSが専ら使われているが、我々はより小型・高効率な半導体レーザをベースとした光源を開発した。以下その特徴・特性について述べる。
 

4.2 PIV用レーザに必要な特性とウシオのシートビームレーザ

 

 PIVは流速ベクトルの空間分布を計測するための手法であり、一般には可視化のため散乱粒子(可視化粒子)を流れ中に混入したうえで、観測したい空間を照明し高速撮像し、粒子挙動を解析することで流速ベクトル分布を取得する。Fig.7に典型的なPIV測定の構成を示す。一般にPIVは解析したい空間の断面をシート状に照明し側方から撮像することで速度(照明平面内の2次元)ベクトルを取得する8)。高速(=短時間間隔)撮像の為には大きく二つの方法があり、一つは高繰り返しパルスレーザで照明する方法、もう一つはCW照明しハイスピードカメラで撮像する方法である。後者は撮像時間間隔が前者程は短くできず、高速度現象の解析には不向きな面があったが、近年のハイスピードカメラの高性能化を受け、比較的安価にシステムを組めることもあって広く用いられている。このCW照明によるPIVに求められる照明の要求は次のようにまとめることができる、
(1) 出力数100mW~10W程度
(2) シートビーム厚さ 1-2mm程度
(3) 波長 可視、特に緑色が適する
出力への要求(1)は測定(照明)する領域の大きさや、撮像速度にも依存する。当然ながら出力が大きいほど大きな領域、高速度の現象まで照明・撮像可能である。上述のとおりPIVでは解析したい空間の断面照明し、速度(照明平面内の2次元)ベクトルを取得する。この断面照明のために(2)の要求があり、薄い(1-2mm)のシート照明が求められる。(3)の波長については、カメラ感度と目視での感度(カメラ撮像に平行し、現象を目視で観察することも多い)が高いほうが好ましいため、緑色が適している。


Fig.7 PIV計測系の構成

 上記の要求を満たす照明光源には緑色でハイパワーを、しかも(2)のシート化に適した良モードビームが得やすいDPSSが一般的に用いられてきた。
弊社が開発したシートビームレーザの外観と照明の様子をFig.8に、主要スペックをTable3に示す。
使用する光源としては従来のDPSSに代えて、赤色帯の半導体レーザを用いた。Fig.9に従来のDPSS使用のシートビームとの半導体レーザをそのまま使用したウシオのシートビームの光源部分の比較を示す。半導体レーザを使用する最大のメリットは、高効率にある。レーザそのものの電力効率は大よそ25%-30%であり、DPSSの3倍程度の高効率である。このことはドライバ・冷却系を含めた小型・軽量化に大きく寄与している。またFig.9に示す通り半導体レーザの出力を直接使用するため構成が単純であることも小型化及び信頼性の観点から有利である。ここで、PIV光源として魅力ある数W以上の出力を得るためには、マルチモード・マルチエミッタの出力を合成したうえでシートビーム化する必要がある。弊社では独自のアライメント手法とシート化光学系の開発を行い、結果、5Wの高出力と十分な品質のシートビーム厚さ(≦1.5mm)を両立することができた。
波長が赤色帯(640nm)であることは従来の緑色帯レーザと比較して、目視観察を行う場合は比視感度の低さからやや不利(同じパワーでは暗く見える)であるが、カメラ波長感度の観点からは各社いくらか異なるものの緑色と赤色で大差ないことが多く、PIV計測に於いては問題となっていない。


Fig.8 ウシオ電機製シートビームレーザ外観(上)と照明の様子(下)


Table 3 ウシオ電機製シートビームレーザの主要スペック


Fig.9 DPSSシートビームとウシオ(半導体レーザ)シートビームの比較


5. おわりに


 高出力半導体レーザの用途展開の一例として、検査用途向けのレーザ光源、レーザ励起蛍光(LDP)方式高輝度白色光源及び、流体計測(PIV)照明用のシートビームレーザを紹介した。いずれも半導体レーザの優れた特性を活かした、これまでにない照明光源である。半導体レーザの持つ、小型・高効率、さらにはUV~IRに至る種々波長が得られるといった優れた特性は、本稿で挙げた用途に限らず、様々な計測・検査用途に活かせると考えられ、今後も様々な用途・製品の展開が期待される。

文献
1) 「解説 レーザー照明・ディスプレイ」(オプトロニクス社, 2016) 
2) 畑中他 : ウシオ電機株式会社 ウシオ技術情報誌「ライトエッジ」No.37(2012年6月)
3) レーザ照明・レーザディスプレイに関する最新動向調査(オプトロニクス社, 2014)
4) Necsel社Web site: http://necsel.com/application/remote-source-lighting
5) 増村; 電気情報通信学会誌 vol.88 no.4 p.284 (2005)
6) Kwak, Namhyeok, et al. "Laser Headlamp Based on Laser Activated Remote Phosphor." 11th International Symposium on Automotive Lighting?ISAL 2015?Proceedings of the Conference: Volume 16. Herbert Utz Verlag, 2015.
7) 松岡; 第21回レーザーディスプレイ技術研究会 (2017)
8) M.ラッフェル他; 「PIVの基礎と応用 粒子画像流速測定法」(シュプリンガー・フェアラーク東京, 2000)
-B7-14, 2016