第59回労働衛生工学会
(2021/11/17)


真空紫外線によるホルムアルデヒド分解と作業環境改善

 

内藤敬祐、後藤一浩(ウシオ電機株式会社)、中家隆博、安田知恵(関西環境科学株式会社)、
清原一益、吉田晃至(昭和電機株式会社)、石田尾徹、保利一(産業医科大学)

 

    
 

【はじめに】

 ホルマリンは病理検査室、手術室、解剖室、保健所など様々な場所で使われており、年間約25万tも出荷されるほど使用量も多い物質である。ホルマリンを使用する作業場では作業環境中のホルムアルデヒド濃度を許容濃度の0.1ppm以下に維持するために局所排気装置と全体換気装置を使用しているが、空調のランニングコストと作業変更に伴って発生する追加工事の負担が大きいことが課題となっている。この課題の解決に対して我々は2012年に通達された発散防止抑制措置に注目している。実際に屋外排気不要の室内循環型のダクトレス換気装置が市販され、作業現場で活用されている。しかし、現在市販されているダクトレス換気装置は活性炭等の吸着材により有害物を除去する方法のため、ホルムアルデヒドのような吸着が著しく困難な物質で使用するには大量の吸着材と、頻繁なメンテナンスが必要となる。
 我々はこの課題はエキシマランプによる真空紫外線でホルムアルデヒドを光分解することで解決可能と考え、開発を行っている。


【方法】

 図1.に実験系の概略図を示す。実験系はエキシマランプを搭載したリアクター(XOR-CO1-Z2, ウシオ電機株式会社)、ヒュームフード(MHT-0706STAC, 昭和電機株式会社)、オゾン分解触媒(NHC-453, 日揮ユニバーサル株式会社)で構成されており、各構成要素がφ100のアルミダクトで連結されている。リアクターに搭載したランプは13.2Wタイプ(UXFL95-172F-Z1, ウシオ電機株式会社)と250Wタイプ(UXFL540-172UI-Z, ウシオ電機株式会社)の2通りである。ホルムアルデヒドガスはパラホルムアルデヒドをホットプレート(RSH-1DN, アズワン株式会社)で加熱気化させることによって所定の濃度が得られるよう温度と投入量を調整した。
 リアクターを通過する風量は風速計(Testo417, 株式会社テスト―)で、ホルムアルデヒド濃度はサンプリングポンプ(GSP-400FT, 株式会社ガステック)にてオゾンスクラバー(080150-0761, 柴田科学株式会社)を介してDNPHアクティブカートリッジ(815H, 光明理化学工業株式会社)に500mL/minで10min, 計5L捕集、アセトニトリルで抽出し、HPLC(L-2000, 株式会社日立ハイテクサイエンス)にて分析を行った。また、ホルムアルデヒド分解前後のガス組成の変化を確認するため、ガスFT-IR(Matrix-MG5, ブルカー株式会社)を使用した。
   

 


 

【結果】

 図2.に0.3m3/min, 13.2Wランプ使用時のホルムアルデヒドのINLET/OUTLETの濃度の時間変化を、表1に風量とホルムアルデヒド濃度を振った際の30min後のINLET/OUTLETの結果を示す。
 13.2Wのエキシマランプによって、0.5m3/minの風量、約10ppmのホルムアルデヒドが許容濃度0.1ppmの1/10以下まで除去されていることが確認できた。
 




 図3.にガスFT-IRで取得した結果を示す。なお、ここでは250Wランプ、風量1m3/min、入口のホルムアルデヒド濃度を100ppm, 50ppm 10ppm の3通りとしている。これは実験系に室内空気を使用しているため、バックグラウンドのCO2に変動が出てしまうためである。ホルムアルデヒド分解前後のCO2の差分をわかりやすく取るために高濃度で実施している。


【考察】

 エキシマランプを用いたホルムアルデヒドの除去は下記の反応によるものと考えられる。
H2O / O2+ VUV →OH + H / O(3P) + O(1D)・・・(1)
O(1D) + H2O →2OH・・・(2)
HCHO + OH →HCO + H2O・・・(3)
HCO + O2→CO + HO2・・・(4)
CO + OH →CO2+ H・・・(5)

 上述した化学反応により分解されるとすると、分解前後においてHCHO濃度とCO+CO2濃度は炭素の収支から考えて等しくなる。図3.より、上記が成り立っていることが確認できる。COが出ないよう流量とランプ電力を考慮して設計すれば、最終生成物はCO2とH2Oだけとなり、有害物質を無害化するダクトレス換気装置として使用することができる。電気効率の点からも13.2Wのランプで0.5m3/minの処理が可能なため、3m3/min程度の小型の換気装置であれば、分解に必要な電力は80W程度で動作させることが可能である。
 紙面の都合上詳細は記載できないが、我々はエキシマランプを用いたダクトレス換気装置を試作し、97.3m3の作業現場にて試験的にホルマリンを使用し作業環境測定を行ったところ、A測定、B測定共に0.01ppm未満であり、第一管理区分を達成した。本内容は学会当日に発表させて頂く。
 

【まとめ】

 エキシマランプを用いてホルムアルデヒドを分解除去することが可能であること、それが現場適用可能な電気効率であることを示した。ホルムアルデヒドの分解はエキシマランプから発生するOHラジカルによって行われ、最終生成物がCO2とH2Oになることを実験的に確認した。


 

(連絡先)

 内藤敬祐

 ウシオ電機株式会社兵庫県姫路市別所町佐土1194


 
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