エレクトロニクス実装学会 第31回マイクロエレクトロニクスシンポジウム 秋季大会

オンライン(2021)


VUV照射によるプラズマインジケータの変色特性
Discoloration characteristics of plasma indicator by vacuum ultraviolet radiation 


 

清水 昭宏1,羽生 智行1,遠藤 真一1,大城 盛作2


1ウシオ電機株式会社
2株式会社サクラクレパス


 

 With the rise in the requirement of high functioning material surfaces stemming from social needs, the shift from wet processes that use chemicals to dry processes that use atmospheric pressure plasma and excimer lamp is progressing. The “Plasma Indicator for atmospheric plasma” (hereafter called “Indicator”), which can detect oxygen-based radicals and can change its color according to the amount of the radicals, is now used as a new tool for evaluating the processing effect of atmospheric pressure plasma. We investigated whether the indicator can be used to evaluate the characteristics of vacuum ultraviolet (VUV) radiation from an excimer lamp, which also generates oxygen-based radicals. The indicator changed its color according to the integrated VUV radiation dose when oxygen concentration is constant. It was also found that the indicator changed its color not only by oxygen-based radicals but also by VUV itself. Thus, we concluded that the indicator is useful for relative evaluations such as confirmation of VUV irradiation reproducibility from an excimer lamp.
 

 

1. はじめに

 近年,材料表面の高機能化の社会的ニーズの拡大に伴い,従来用いられてきた薬液によるウェットプロセスから,大気圧プラズマやエキシマランプによるドライプロセスへの転換が進んでいる。
 大気圧プラズマは,主に酸素系ラジカルによる化学反応を利用して,材料表面の有機物の分解除去(洗浄)や,材料表面への親水基の付与(改質)を行う。一 般に,大気圧プラズマによる洗浄効果は,濡れ試薬で定性的に,あるいは,接触角測定で定量的に評価され,改質効果は,例えば,別の材料と接合したときの引張試験の強度で評価される。
 これらの大気圧プラズマの処理効果を簡便に,即座に評価するために,(株)サクラクレパスは,大気圧プラズマで発生する酸素系ラジカルを検出し,検出量に応じて変色する大気圧プラズマ用プラズマインジケータを製品化しており,大気圧プラズマ処理効果の新たな評価手法として利用が始まっている 1, 2)
 一方,エキシマランプは,中心波長 172nm などの真空紫外光(VUV:Vaccum ultra violet)を照射し,雰囲気中の酸素との反応で,酸素系ラジカルを発生させ, 材料表面の洗浄・改質を行う。
 このように,大気圧プラズマとエキシマランプは,酸素系ラジカルを発生させるという点で類似しており,原理的には,エキシマランプからのVUV 照射の特性も大気圧プラズマ用プラズマインジケータで評価できると考えられるが,未だ詳細な報告例はない。

 

2. 大気圧プラズマ用プラズマインジケータ

2.1 プラズマインジケータ

 Table.1に,プラズマインジケータの製品ラインナップを示す。プラズマインジケータは,過酸化水素ガスプラズマ滅菌用のケミカルインジケータの技術3)を水平展開した有機色素を用いるO2クリーニング用,Ar クリーニング用,大気圧プラズマ用,ウェハ型メタルフリータイプが製品化されている。さらに,耐熱性を高めるために,新たに開発された無機色素を採用した耐熱性ラベル,ウェハ型セラミックタイプも製品化されている。


Table 1. Product line-up of Plasma Indicator



 

2.2 大気圧プラズマ用プラズマインジケータ の概要

 大気圧プラズマ用プラズマインジケータの基材は無塵紙(クリーンペーパー)で,検知部は青色とピンク色 の2種類の有機色素と樹脂からなる。検知部に酸素系ラジカルが照射されると,ラジカルへの耐性が低い青色の有機色素が優先的に分解され,相対的に耐性の高いピンク色の有機色素が残るため,水色からピンク色に変色する。感度は変色し易い高感度 No.41 と変色し難い低感度 No.42 の 2 種類,形状はラベル型(本体:35mm×300mm,検知部:15mm×300mm)とシート型(本体:210mm×300mm,検知部:190mm×300mm) の 2 種類があり,用途・目的に応じて使い分けが可能である。
 以下では,大気圧プラズマ用プラズマインジケータ のことを単にインジケータと称する。

 

3. エキシマランプ

3.1 発光原理

 エキシマランプは,放電空間に封入するガスを変えることで発光中心波長を変えることができ,本報では, 封入ガスにキセノンガスを用いた発光中心波長が 172 nm のキセノンエキシマランプを対象とし,以下では単にエキシマランプと称する。

 Fig.1 に,一般的なエキシマランプの形状を示す4, 5)。 ランプ封体の材料は VUV を透過させるために,真空紫外域の透過率特性に優れた合成石英ガラスが用いられる。外側のガラス管と内側のガラス管を両端部で 封じ中空円筒形状に形成し,外側のガラス管の内側と内側ガラス管の外側の間の放電空間にキセノンガスを 所定のガス圧で封入する。外側のガラス管の外表面には真空紫外線を通過させるための網状の外部電極を, 内側のガラス管の内表面には内部電極を配置し,それら電極間同士に数十 kHz~数 MHz の高周波電圧 を印加することにより誘電体バリア放電が発生し,放電空間内のキセノンガスが励起状態(エキシマ状態)となる。励起されたキセノンガスが,基底状態に戻る際に 172nm を中心波長にもつ VUV を放射し,網状の外部電極の開口から光を取り出す構造である。


 

Fig.1 Illustration of device structure of excimer lamp

 

3.2 特徴

エキシマランプの主な特徴を以下に列挙する。
(1) エキシマランプが放射する高いフォトンエネルギー (7.2eV)は,分子の励起作用に有効であり,直接的な光分解効果が高い。
(2) エキシマランプが生成する放射スペクトルは,発光中心波長 172nm,半値幅 14nm の単一波長である。
(3) エキシマランプが放射する VUV は酸素に対する吸収が高いため,効率的に酸素ラジカルを生成可能 である。
(4) エキシマランプは水銀フリーで環境面の負荷が少ない。
(5) エキシマランプは瞬時点灯・消灯可能である。

 

4. インジケータの特性評価方法

4.1 VUV 照射実験

 No.41 高感度 ,No.42 低感度のロングラベルを 10mm 幅にカットし,白色 PET 台紙に貼り付けたサンプルを準備した。VUV 照射には,Fig.2 に示すウシオ電機(株)製エキシマ照射装置 SVC232 シリーズを用いた。本装置は,窓面放射発散度 50mW/cm2 以上で, 最大 250℃まで加熱可能なステージを搭載している。 また,プロセスガス(CDA,N2)を導入することで処理室の酸素濃度を制御可能という特徴がある。サンプルを常温のステージに載せて,照射距離(サンプル-窓面)10mmで,酸素濃度を 20.9%,0.3%,<50ppmの 3水準で,サンプル上への積算光量(照射時間)を変えて VUV 照射した。なお,積算光量は,ウシオ電機(株) 製紫外線積算光量計 UIT-250(受光器 VUV-S172)で測定した。


 

Fig.2 Excimer  light  irradiation  unit:USHIO  SVC232 Series. The VUV irradiation part of photograph (a) is enlarged in (b).

 

4.2 色差ΔE*ab 測定

 インジケータの変色は,色を 3 次元的に表した L*a*b*色空間における座標距離で表される色差 ΔE*ab で評価した。具体的には,VUV 照射前の色座 標を(𝐿1,𝑎1,𝑏1),VUV 照射後を(𝐿2,𝑎2,𝑏2)とすると, ΔE*ab は次式で与えられる。
 



 VUV 照射前後の色座標は,コニカミノルタ(株)製蛍光分光濃度計 FD-5 (条件:測定光源 M1,照明系 C 光源,2°視野)で測定した。

 

4.3 接触角差ΔC/A 測定

 色差 ΔE*ab とガラス基板における水接触角差 ΔC/A の相関性を検証した。水接触角差 ΔC/A は,VUV 照 射前の水接触角を C/A1,VUV 照射後を C/A2とし,次 式で求めた。

ΔC/A=C/A1-C/A2


VUV 照射前後の水接触角は,協和界面科学(株) 製接触角計 DMs-401 で測定した。

 

5. インジケータの特性評価結果

5.1 積算光量 vs. 色差ΔE*ab

 Fig.3 に,No.41 高感度, No.42 低感度における積算光量 vs. 色差 ΔE*ab を示す。低酸素濃度ほどサンプ ル上照度は大きいため,同一の積算光量では,低酸素濃度ほど照射時間は短いことに注意が必要である。 No.41 高感度,No.42 低感度共に,積算光量に応じて色差ΔE*abは大きくなる,すなわち,変色が進むことが明らかになった。また,酸素濃度が高いほど,生成される酸素系ラジカルが多くなるため,色差 ΔE*ab が大きくなった。一方,酸素系ラジカルの生成量が極めて少ないと考えられる酸素濃度<50ppm でも変色が進行し, 色差 ΔE*ab は No.41 高感度と No.42 低感度で変わらなかった。これは,VUV が変色に関与することを示しており,高いフォトンエネルギーで有機色素の化学結合に作用しているためと考えられる。

 

Fig.3 Discoloration characteristics of indicator by VUV radiation

 

5.2 接触角差ΔC/A vs. 色差ΔE*ab

 Fig.4 に,ガラス基板における水接触角差 ΔC/A に対して,同じ条件で VUV 照射した No.41 高感度と No.42 低感度の色差 ΔE*ab をプロットした結果を示す。 VUV 照射前のガラス基板における水接触角は 50°~ 60°であった。No.41 高感度, No.42 低感度共に,酸素濃度に依らず,色差 ΔE*ab または水接触角差 ΔC/Aが飽和するまでは,ΔC/AとΔE*abは直線関係にある, すなわち,相関性があることが分かった。

 

Fig.4 Color difference ΔE*ab vs. water contact angle difference ΔC/A

 

6. インジケータの特性評価結果

 以上の評価結果から,インジケータの色差 ΔE*abは, VUV 照射の積算光量や VUV 照射前後のガラスの水接触角差 ΔC/A と相関性があることが明らかになった。 しかし,大気圧プラズマとエキシマランプでは,酸素系ラジカルを生成するという点では共通しているものの, 材料表面の洗浄・改質メカニズムは異なっているため, インジケータの色差 ΔE*ab を比較することで,大気圧 プラズマ装置とエキシマ照射装置の性能までは比較 できない点に留意しなければならない。例えば,有機物洗浄では,エキシマランプでは酸素系ラジカルの他に VUV も存在するため,VUVが有機物に吸収され励起状態になることで,酸素系ラジカルとの反応を助長すると考えられる。
 同様に,インジケータは,エキシマ照射装置の処理性能の絶対的な評価方法にはなり得ないことに注意が必要である。なぜなら,インジケータはあくまで主として酸素系ラジカルを検知しているのであり,窓面照度, 照射距離,酸素濃度,温度のいずれのパラメータが変わっても酸素系ラジカルの生成量は異なるからである。 したがって,上記パラメータが同一条件の場合に, VUV照射の再現性を確認するなどの相対的な評価方法として有効である。

 

7. 結論

 酸素系ラジカルを検知して変色する大気圧プラズマ 用プラズマインジケータは,VUV 照射によっても変色することが確認された。酸素濃度が一定であれば,積算光量に応じて,感度通りに変色が進行した。また, 酸素系ラジカルの生成量が極めて少ないと考えられる酸素濃度<50ppm でも変色が進行したことから,VUV 自体によっても変色すると考えられる。したがって,照度,酸素濃度,照射距離,温度など同一条件で,エキ シマ照射装置のエキシマランプからの VUV 照射の再現性確認などの相対評価を簡易的に行うのに有効である。

 

参考文献

1) 釆山和弘:“プラズマ処理効果の可視化ツール”,計測技術, 第 44 巻 13 号,pp.13-17,2016.
2) 澤木敏浩:“プラズマインジケータ『PLAZMARK®のご紹介』, 真空ジャーナル,2021 年 1 月, 175 号.
3) 板良敷朝将,大 城 盛 作,作 道 章 一,林 信 哉: “プラズマ を用いた医療用滅菌器開発の現状”, 核融合学会誌, Vol.91, No.8, pp.505-513, 2015.
4) 松野博光:“光化学の分野で注⽬の"エキシマランプ" ①”,ウシオ電機ライトエッジ,11, 1997.
5) 菱沼宣是:“エキシマランプと紫外線蛍光ランプ「UV-XEFL」”,ウシオ電機ライトエッジ,38,2012


 

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