エレクトロニクス実装学会 実装フェスタ関西2021

オンライン(2021)


VUV照射によるプラズマインジケータの変色特性(2) 


 

清水昭宏1,遠藤真一1,大城盛作2


1ウシオ電機株式会社
2株式会社サクラクレパス

 

1. はじめに

筆者らは,エキシマランプからのVUV(Vacuum Ultra Violet)照射の相対評価を簡易的に行う手段として,(株)サクラクレパスの大気圧プラズマ用プラズマインジケータ(以下,大気圧プラズマ用と略す)が有効であることを明らかにした1)。しかし,大気圧プラズマ用は,No.41高感度,No.42低感度共に,酸素雰囲気では,高積算光量で色差ΔE*abは飽和しており,洗浄や改質などの低積算光量の用途には適用可能であるが,アッシングやデスミアなどの高積算光量の用途には適用が難しい特性がある。一方,(株)サクラクレパスは,大気圧プラズマ用では対応できない高出力・長時間のプラズマデスミア処理に対応したデスミア用プラズマインジケータ(以下,デスミア用と略す)を製品化している。デスミア用も酸素系ラジカルに反応し,さらに,大気圧プラズマ用に比べて低感度という特徴から,VUV照射の高積算光量まで色差ΔE*abは飽和しないと考えられ,アッシングやデスミアの用途に適用できると期待される。

 

2. デスミア用プラズマインジケータ

デスミア用の基材はアルミ箔/PET複合材で,検知部は感度ごとに異なる1種類の有機色素(No.61高感度:赤色,No.62低感度:青色)で構成される。検知部に酸素系やCF系のラジカルが照射されると,有機色素が分解され,照射量に応じて,No.61高感度は赤色から銀色(基材の色),No.62低感度は青色から銀色に変色する。形状はロール to ロール処理が可能なフレキシブルラベルである。2021年10月にリニューアルし,変色性能は変えずに,サイズは従来の約半分の12 mm×12mmとし,再剥離可能な粘着剤を用いることで,利便性を向上させている。

 

3. デスミア用プラズマインジケータの変色特性の評価方法

3.1 VUV照射実験

デスミア用No.61高感度,No.62低感度のラベルを白色PET台紙に貼り付けたサンプルを準備した。VUV照射には,ウシオ電機(株)製エキシマ照射装置SVC232シリーズを用いた。サンプルを常温のステージに載せて,照射距離(サンプル-窓面)は10mmで,酸素濃度は20.9%,0.3%,<50ppmの3水準で,サンプル上への積算光量(照射時間)を変えてVUV照射した。積算光量は,ウシオ電機(株)製紫外線積算光量計UIT-250(受光器VUV-S172)で測定した。なお,低酸素濃度ほどサンプル上照度は大きいため,同一の積算光量では,低酸素濃度ほど照射時間は短い点に注意が必要である。

 

3.2 色差ΔE*ab測定

デスミア用の変色は,色を3次元的に表したL*a*b*色空間における座標距離で表される色差ΔE*abで評価した。色差ΔE*abは,VUV照射前の色座標を(𝐿1,𝑎1,𝑏1),VUV照射後を(𝐿2,𝑎2,𝑏2)とすると,次式で与えられる。
 



VUV照射前後の色座標は,コニカミノルタ(株)製蛍光分光濃度計FD-5(条件:測定光源M1,照明系C光源,2°視野)で測定した。

 

3.3 接触角差ΔC/A測定

色差ΔE*abとガラス基板における水接触角差ΔC/Aの相関性を検証した。水接触角差ΔC/Aは,VUV照射前の水接触角をC/A1,VUV照射後をC/A2とし,次式で与えられる。

ΔC/A=C/A1-C/A2


VUV照射前後の水接触角は,協和界面科学(株)製接触角計DMs-401で測定した。

 

4. デスミア用プラズマインジケータの変色特性の評価結果

4.1 積算光量vs. 色差ΔE*ab

Fig.1に,No.61高感度,No.62低感度における積算光量vs.色差ΔE*abを示す。色差ΔE*abは,積算光量に応じて,No.61高感度,No.62低感度の順に大きくなる,すなわち,感度通りに変色が進行することが確認された。No.61高感度の色差ΔE*abは,酸素濃度20.9%では積算光量6000mJ/cm2程度で飽和傾向を示したものの,酸素濃度0.3%では少なくとも積算光量10000mJ/cm2まで飽和しなかった。また,No.62低感度は,酸素濃度20.9%,0.3%共に,少なくとも積算光量10000mJ/cm2まで色差ΔE*abは飽和しなかった.したがって,デスミア用は,酸素雰囲気でも,高積算光量まで色差ΔE*abは飽和しないことが明らかになった。さらに,酸素濃度<50ppmでは,No.61高感度,No.62低感度共に,積算光量を大きくしてもほとんど変色しなかった。これは,VUVは変色に関与しない,すなわち,高いフォトンエネルギーでも有機色素の化学結合に作用しないことを示唆している。
 


Fig.1デスミア用における積算光量vs.色差ΔE*ab

 

4.2 水接触角差ΔC/A vs. 色差ΔE*ab

Fig.2に,ガラス基板における水接触角差ΔC/Aに対して,同じ条件でVUV照射したNo.61高感度,No.62低感度の色差ΔE*abをプロットした結果を示す。VUV照射前のガラス基板における水接触角は50°~60°であった。No.61高感度,No.62低感度共に,酸素濃度に依らず,水接触角差ΔC/Aと色差ΔE*abには直線的相関性があることが分かった。ただし,色差ΔE*abまたは水接触角差ΔC/Aが飽和しない範囲に限られる。
 


Fig.2デスミア用における水接触角差ΔC/Avs.色差ΔE*ab

 

5. 結論

デスミア用は,酸素濃度が一定であれば,積算光量に応じて,感度通りに変色が進行し,また,VUV自体ではほとんど変色しないことが明らかになった。また,大気圧プラズマ用に比べて,酸素雰囲気でも,高積算光量まで色差ΔE*abは飽和しないことから,アッシングやデスミアなどの用途に適用可能と考えられる。したがって,エキシマランプの洗浄,改質用途では,大気圧プラズマ用またはデスミア用,アッシング・デスミア用途ではデスミア用と,必要な積算光量に応じて,大気圧プラズマ用とデスミア用を使い分けることが重要である。

 

参考文献

1)清水昭宏,羽生智行,遠藤真一,大城盛作,“VUV照射によるプラズマインジケータの変色特性”,MES2021


 

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