化学工学会第87年会
神戸大学 鶴甲第1キャンパス / オンライン(2022)
エキシマランプによるCO2光分解の光子利用効率
(ウシオ電機) 中村謙介・島本章弘・三浦真毅・相浦良徳・大塚優一
1.緒言
地球温暖化防止の観点から二酸化炭素(CO2)の分解技術に注目が集まっている。気体分子の分解方法の一つに光分解がある。例えば、Xe2*エキシマランプから放射される紫外光(中心波長λ = 172 nm, FWHM ~20 nm)は、以下の反応初期過程1)によって CO2を分解できる。
CO2 + hν (λ < 227 nm) → CO + O(3P) (1)
CO2 + hν (λ < 167 nm) → CO + O(1D) (2)
光分解においては反応装置全体の光子利用効率を高めることが重要である。例えば、より多くの光子をCO2分子に吸収させるために光路長を長くすることが挙げられる。その効果を確かめるため、本研究では反応装置の形状やガス流量を変えて、各条件での光子利用効率を計測した。
2.実験方法
実験装置を図1に示す。試料ガス供給部、光反応装置 、 フーリエ変換赤外分光光度計 (FT-IR, BRUKER,MATRIX MG)から構成されている。試料ガスは除湿剤(モレキュラーシーブ 3A)に通した CO2(住友精化, > 99.9%)を使用した。光反応装置(図2)は、内径40, 52, 75, 118 mm の石英ガラス管の中央に Xe2*エキシマランプ(ウシオ電機,中心波長λ = 172 nm, FWHM = 18 nm 外径 φ26 mm, 発光部長さL = 190 mm, ランプ表面の放射照度40 mW/cm2)が設置されている。 試料ガスは0.05~5 L/min の範囲で定流量に調整されて光反応装置内を流れており、そこへ紫外光が照射される。照射後のガスを FT-IR に導入し、一酸化炭素(CO)濃度を測定した。
図1. 実験装置
図2. 光反応装置
3.結果および考察
図3に光子利用効率ηを示した。横軸の光照射時間は、反応容器の流路断面積および流量より算出した。ここでηは
η = [測定した CO 分子数]/[全放射光子数] (3)
と定義した。
図3. 各容器径における光子利用効率
ηの理論最大値は1である。図3でηの最大値が0.35であるのは、反応容器中の微量な水分などの影響により、光化学初期過程で生成した CO が反応容器中において CO2に戻るからである。
ここで、ΦおよびAを
Φ = [測定した CO 分子数]/[CO2吸収光子数] (4)
A = [CO2吸収光子数]/[全放射光子数] (5)
と定義すると、式(3)は以下に変形することができる。
η = Φ×A (6)
石英ガラス管の内径Dが大きくなると、ランプ表面から石英ガラス管の内壁面までの光路長が長くなる。すると、式(5)中の CO2吸収光子数が増加するためAは増加する。図3よりηはDに依存しないので、Dが大きくなるとΦが小さくなることがわかる。その理由としては、文献によると反応容器内での表面反応2)を考慮する必要がある。この点に関しては発表で述べる。
4.結言
Xe2*エキシマランプ (中心波長 172 nm) による CO2光分解の光子利用効率は、ガス流速に依存し、石英ガラス管の内径Dに依存しないことがわかった。この結果は CO2分解システム設計に有益である。
参考文献
1) S.K. Bhattacharya, et al., Res. Lett. 27, 1459 (2000)
2) L. Chao et al., Chem. Sus. Chem., 11, 1163 (2018)