第60回日本労働衛生工学会

レクザムホール(香川県県民ホール)(2021)


真空紫外線によるホルムアルデヒド分解装置の効果検証 


 

内藤敬祐、寺田庄一、西尾謙吾、(ウシオ電機株式会社)
中家隆博、安田知恵(関西環境科学株式会社)
猪口剛(千葉大学大学院医学研究院付属法医学教育研究センター)
武藤剛(北里大学医学部衛生学・千葉大学予防医学センター)
橋本晴男(橋本安全衛生コンサルタントオフィス)

 

【はじめに】

 ホルムアルデヒドは産業上様々な用途で使われているが、人体に対する毒性が高く、作業環境中の許容濃度は0.1ppm以下と定められている。実際の作業場では局所排気装置と全体換気装置を使用して作業環境を維持しているが、空調のランニングコストや作業変更に伴う追加工事の負担が大きいことが課題となっている。この課題に対して我々は屋外排気不要の発散防止抑制措置に注目した。現在認可されている発散防止抑制措置は活性炭等の吸着剤により有害物を除去する方法のため、吸着が困難な物質であるホルムアルデヒドの除去に使用する際には、大量の吸着材と頻繁なメンテナンスが必要となる。
 我々はこの課題をエキシマランプの真空紫外線を用いてホルムアルデヒドを光化学反応で分解処理することで解決した。この実験装置は発散防止抑制措置として厚生労働省より認可を得る段階にまで開発を進めている。今回はエキシマランプ装置を法医学の現場に設置して、除去効果の検証を行った。

 

【方法】

 実験は千葉大学・法医学教育研究センター旧棟の検体保管庫で実施した。なお、安全上の観点から実験は無人時に実施している。
 空気清浄機型試作ユニット(ウシオ電機株式会社)は、真空紫外線を放射するエキシマランプ(250W)を1灯搭載している。室内空気を取り込んで、真空紫外線による光化学反応で有機物を分解処理した空気を室内に放出する仕組みである。その処理能力は風量8m3/minで約10ppmのホルムアルデヒドをワンパスで0.1ppm以下まで除去できる。この分解時に副生する有害なオゾンはエキシマランプの風下に設置したオゾン分解触媒で0.1ppm以下まで除去している。
 図1に実験系の概略図を示す。検体保管庫の容積は26.8m3で保管庫壁面にはホルマリン漬けの検体がコンテナに詰められ、約1.8mまで積み上げられている。除去装置を保管庫中央に床置きし、排気口を出入口側に向け、60°上方に向けて風を吹き出すように設置した。保管庫内のホルムアルデヒド濃度の測定にはサンプリングポンプ(MP-Σ300NII, 柴田科学株式会社)にてDNPHアクティブカートリッジ(815H, 光明理化学工業株式会社)に1L/minで10min, 計10L捕集、アセトニトリルで抽出し、高速液体クロマトグラフ(Prominence, 株式会社島津製作所)にて分析を行う、作業環境測定と同様の分析方法を用いた。また、経時変化をより細かく観測するため電気化学式ガス検知器(ToxiRAEPro HCHO, RAE Systems INC.)も併用した。なお、実験器材運搬のため保管庫を開放しているため、測定は保管庫をの出入口を閉めて30 min後から開始した。
 


図1 実験系概略図(上:上面図、下:正面図)


 

【結果】

 図2に保管庫内のホルムアルデヒド濃度変化を示す。DNPHによる計測結果では、装置非稼働で約0.53ppmあった保管庫内のホルムアルデヒド濃度が、装置稼働後30minで0.05ppm以下まで低減している。ガス検知器の値は装置稼働前が約0.8ppmを推移し、装置稼働後80minで指示値が0 ppm(分解能0.05 ppm)になるまで低減した。



図2 保管庫内のホルムアルデヒド濃度変化

 

【考察】

 試作ユニットが実際の現場においてホルムアルデヒド濃度を許容濃度以下まで低減させる能力があることを確認した。室内容積が26.8m3なので装置風量8m3/minより17.9回/hの換気を行っているのと同等の低減能力があると考えられる。
 しかし、ガス検知器の値は80minかけて緩やかに低下している。ガス検知器はその特性上ホルムアルデヒド以外のガスも検知する。今回の環境ではホルマリンに安定化剤として添加されているメタノールや検体からの揮発成分を検知していたと考えられる。

 ホルムアルデヒドの除去は、光化学反応で生成したOHラジカルによる酸化分解によるものである。

H2O / O2+ 光→OH + H / O(3P) + O(1D)・・・(1)
O(1D) + H2O →2OH・・・(2)
HCHO + OH →HCO + H2O・・・(3)
HCO + O2→CO + HO2・・・(4)
CO + OH →CO2+ H・・・(5)

 分子量が大きい物質ほどCO2になるまでOHラジカルと多く反応する必要があるため、小分子であるホルムアルデヒドより分子量の大きい干渉ガスが除去される速度は遅くなる。従って、ガス検知器の値は緩やかに減少する結果を示したと考えられる。このことから、多様なガスが混在する現場で本原理の装置を使うと処理時間はかかるものの、室内空気全体を浄化できることがわかった。
 今後は250 Wの消費電力で他の現場でも適用可能か実証実験を行い、作業環境改善における実用の可能性を探査していく予定である。
 
 

【まとめ】

 エキシマランプを用いて法医学現場のホルムアルデヒドや共存するガスを実用レベルで除去することが可能であることを示した。ホルムアルデヒドの分解はエキシマランプが放つ真空紫外線から発生するOHラジカルによって行われるが、分子量の大きいガス程分解速度が遅くなるため多様なガスが共存する現場では必要能力の決定に注意が必要であることを確認した。

 

 


 

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