表面技術協会 第145回講演大会

オンライン(2021)


エキシマランプによる光照射を利用した高周波対応樹脂のめっき密着性向上 


 

(ウシオ電機株式会社)有本太郎,三浦真毅,竹元史敏
Taro ARIMOTO, Masaki MIURA, Fumitoshi TAKEMOTO



キーワード:エキシマランプ,表面改質,VUV,真空紫外線,高周波向け回路基板

 

1.緒言

 5Gに代表される「高速」「低遅延」「多数接続」な通信環境はCPS(Cyber Physical System)の進展に重要な要素であり,現在,技術革新が進められている.通信デバイスにおいても同様に,高周波対応のための部材/製法の検討が行われているが,5Gのような高周波帯域では,電気信号が導体表面に集中して流れる表皮効果の影響が顕著に表れるため,表面粗度に依存する伝送損失が新たな課題となっている.そのため,高周波帯域での高速伝送を実現するためには,基板と配線界面の凹凸に起因するアンカー効果に頼ることなく密着性を確保することが求められている1)
 このような課題に対して,高周波対応樹脂表面を粗化する事なく,密着性が得られる方法として,エキシマランプによる172nm真空紫外光(Vacuum Ultra Violet:以下VUV)を用いた処理方法に着目している2).前報3)では,VUV処理したLCP(液晶ポリマー)フィルムを接触角,XPS,AFMによる評価を実施し,表面改質後の状態変化を明らかにした.さらにめっき強度評価により,ピーク強度がVUV照射量に依存することがわかった.本報では,VUV照射量の違いによる水素結合成分を表面自由エネルギーにより評価し,結合成分と密着性の関係を確認した.また, TOF-SIMSによりVUV処理による改質深さ方向を評価し,めっき密着強度に影響する要因を検証した.

 

2.実験方法

 サンプルは厚さ100μm のLCPフィルム(Kuraray CTQ)を用いた.VUV照射装置(ウシオ電機製 SVC232Series)によりサンプルにGap 3mmでVUVを照射して表面改質を実施した.照射量の増加に伴いめっき密着に寄与する水素結合成分が変化しているのではないかと考え,表面のエネルギー状態を接触角計を用いて表面自由エネルギーにより評価した.測定には表面エネルギーが既知である水,ジヨードメタン,エチレングリコールの3種類の液を用いた.測定結果から,Kitazaki and Hata理論の式4)に従って表面自由エネルギーを算出した.TOF-SIMSによる改質深さ評価は,スパッタイオン源にAr-GCIBを用いて深さ方向にスパッタを行い,検出成分を同定することにより,VUV処理による深さプロファイリングを実施した.

 

3.結果および考察

 Fig.1にスタッド・プル試験法によるめっき箔膜の密着強度評価結果を示す.未処理のサンプルでは,金属膜の強度はほとんど0であり,密着を得られていないのに対し,VUV前処理を施したサンプルでは密着強度が向上していることが確認された.密着強度は照射量が500mJ/cm2付近でピークになり,それ以上の照射量では強度が低下することが示された.
 



Fig.1 スタッド・プル試験法によるめっき箔膜の密着強度評価結果



 照射量の増加に伴う水素結合成分の変化を検証するため,表面エネルギーを評価した.照射量を変えて評価した表面自由エネルギーの結果をFig.2に示す.照射量の増加に伴い双極子成分は増加する傾向が見られたが,分散成分,水素結合成分は500mJ/ m2以降はほぼ変化が見られなかった.したがって,500mJ/cm2以降は表面の結合成分の増減はなく,高い照射領域で見られる強度の低下は結合成分の変化によるものではないと考えられる.
 


Fig.2 表面自由エネルギーの結果


 次に,未処理サンプルとVUV処理サンプルを表面の分子構造の変化をTOF-SIMSにより評価し, 質量スペクトルからフラグメントイオンを帰属した.VUV処理サンプルでは骨格に-OHが付加したイオンや,酸化物と推定される分子イオンの存在が確認された.未処理サンプルとの差異が特に大きく見られた分子イオン(C7H5O3-)の検出ピークを深さ方向での変化が少ない主骨格のC6H5O-で規格化して比較した深さプロファイリング結果をFig.3に示す.未処理サンプルでは同イオンの変化が最表面からフラットであるのに対し,VUV処理サンプルでは,最表面から20~50nm程度にかけて減少して変化が落ち着くことがわかる.この分子イオンは共重合箇所に起因するフラグメントであり,VUV照射によって高分子の主鎖が一部切断され表面が低分子量化することで現れたと考えられる.VUV照射量の増加により低分子量化が進むと予想されることから高い照射領域で見られる強度の低下は低分子化の進行によって起きたものであると考えられる.




Fig.3 TOF-SIMS による表面構造評価結果
 


 以上の結果から、金属膜と樹脂との密着強度を最も高く維持するためには,表面に結合成分を発現しつつ,表面の低分子化が著しく進まない程度のVUVを照射することが重要であると言える.

 

4.結言

 LCPフィルムに対してエキシマランプでVUV前処理を行い,無電解めっきを実施した後,薄膜のめっき密着強度評価を実施した.結果,処理なしサンプルに比べて密着強度が大きく向上することが確認できた.さらに,今回,処理前後での水素結合成分と表面の分子構造を評価することで,VUV照射量が密着強度に及ぼす影響を推定した.一定の照射量以上では最表面の水素結合成分に増減がなく,深さ方向の分解が進んでいくと考えられる.今後,他の樹脂についても同様の評価を実施して,各樹脂の密着強度に最適な照射条件を検証していく.

 

文献

1) 有本太郎;レーザ加工学会誌, 27, No.3, (2020)
2) 吉原啓太 ; 表面技術, 69, (2), 80 (2018).
3) 有本太郎,三浦真毅,竹元史敏;表面技術協会第144回講演大会要旨集 16A-08 p3, (2021)
4) 北崎寧昭,畑敏雄;日本接着学会誌, Vol.8, No.3, (1972)


 

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