第37回エレクトロニクス実装学会春季講演大会
(2023.03)


Xe*2エキシマランプを用いためっき被膜と基材の密着性向上のメカニズム解析

Investigation of the adhesion mechanism of electro-less copper plating on surface 

reformed resin by using a 172 nm Xe2 excimer lamp 

 

有本 太郎,三浦 真毅,竹元 史敏
Taro ARIMOTO, Masaki MIURA, Fumitoshi TAKEMOTO 

ウシオ電機株式会社 
Ushio Inc 
 



With the increase in performance and high-speed transmission of semiconductors, a process for obtaining adhesion without roughening the surface of the package substrate is required. Vacuum ultraviolet (VUV, λ = 172 nm) excimer radiation can be used for the hydrophilization of polymer surfaces and the removal of contaminants. This allows the formation of stronger interactions, which improves the adhesion between the surface and the coating without conventional anchor effect. The surface modification of Cyclo Olefin Polymer (COP) films by VUV light was verified in a previous study, and the adhesion strength was assessed. In this work, Scanning transmission electron microscope (STEM) and Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy (HAXPES) were used to investigate the adhesion mechanism of electroless plating on surface reformed resin by VUV irradiation

 

1. はじめに 

Society 5.0の社会に向けて高速・大容量・低遅延通信を実現すべく,電気信号の高周波化が進んでいる。高周波帯域では,電気信号が導体表面に集中して流れる表皮効果が顕著に表れるため,表面粗度に依存する伝送損失が新たな課題となっている。そのため,伝送損失を低減するために,基材と回路の間には,nmレベルの平坦性が求められている。それに伴い,従来の表面の粗化による凹凸を利用したアンカー効果がなくても回路と基板の密着を得られるプロセスが要求されている。Xe2エキシマランプが放つ中心波長172 nmの真空紫外光(Vacuum Ultra Violet: 以下,VUV)を用いた表面処理は,光化学反応を利用した表面改質方法であり1-2),フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の洗浄やSiウェハ表面への親水基付与などに用いられている。シクロオレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer:以下,COP)は,その優れた光学特性から主に光学レンズや液晶部材向けに市場展開されている3)。近年では,液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)よりも優れた誘電特性を備えていることから,次世代通信規格の高周波対応基板としての用途展開が期待されている。通信関連用途での使用を考えるとその耐熱性の低さが課題であったが,近年ではリフロー工程にも耐えうる高融点のCOPフィルムが開発されている。しかしながら,COPは疎水性の飽和炭化水素樹脂であるため濡れ性が低い上に,高融点COPフィルムは従来品以上に難接着性の特性を持った材料であることが課題である。
前報4)では高融点COPフィルム表面への無電解銅めっき被膜形成の前処理としてVUV照射を適用し,表面を粗化することなく,めっき被膜の密着強度が著しく向上することを確認した。さらなる密着強度向上のためには,その密着メカニズムを明らかにすることが重要であると考えている。
本研究では,密着性向上の機構解明のため,樹脂/基材界面の形態観察,化学状態分析を試みた。具体的には,実製造プロセスを模擬した試料を作製し,樹脂とめっき被膜の界面を,原子分解能走査透過型電子顕微鏡,エネルギー分散型X線分光,及び硬X線光電子分光により調査した。

 

2. エキシマランプを用いた表面改質

空気中でVUV照射を行うと,VUVは酸素分子に吸収される。酸素分子の紫外吸収スペクトルは波長依存性を持ち,それぞれの吸収帯で励起された酸素分子は(1) (2)式に示す一重項酸素原子O(1D),三重項酸素原子O(3P)への解離反応を起こす。基底状態から励起されたO(1D)は高いエネルギーを持つためO(3P)よりも強い酸化力をもつ((3)式)5-6)。さらにO2の光分離による酸素原子と酸素分子との再結合反応により,オゾンO3が生成される((4)式)。O3は紫外域に吸収帯を持ち,300 nm以下で光解離してO(1D)を生成する((5)式)。Xe2エキシマランプによるVUV照射処理では,高エネルギーのフォトンによる分解作用と処理空間に発生した酸素活性種による酸化反応を利用して表面改質が行われる(Fig.1)。このように,VUV照射により改質が起こなわれた領域のことを改質層と呼んでいる2,4)
この改質層とめっき被膜との相互作用が密着強度に大きく関与しており,改質層での現象を把握することが密着強度メカニズムの理解にとっては重要である。

 





                  Fig. 1 Principle of VUV surface modification [編注]


3 実験方法

3.1 サンプル

試験サンプルには高周波対応基板材料として開発された高融点COPフィルム(厚さ:75 µm)を20×40 mmに切り出して用いた。COPの基本構造をFig.2に示す。

                  Fig. 2 Chemical structure of Cyclo Olefin Polymer

 

3.2 照射条件

VUV処理には,VUV照射装置(ウシオ電機製 SVS Series)を用い,乾燥空気内でサンプル面照度55 mW/cm2のVUVをフィルム全面に照射した。照射量は試料台の中心に照度計(ウシオ電機製,UIT-150)の受光器(ウシオ電機製,VUV-S172)を設置し,172 nmの波長の積算照射量を測定した。
 

3.3 無電解めっき被膜成膜 

無電解銅めっき処理には,クロム酸や過マンガン酸など有害なエッチング剤を含有しないJCU社のAISLプロセス7)を使用し,VUV処理後のサンプルをコンディショナー液,触媒付与液,活性化液に浸漬した後,無電解銅めっき液にてめっき被膜の析出を行った。
Table 1に無電解めっきプロセスを示す。
 

                 


 

4 めっき被膜密着メカニズム

4.1 走査透過型電子顕微鏡分析(STEM)

COPフィルム上に無電解銅めっき被膜が成膜された界面における改質層の状態,改質層内部の金属析出状態,パラジウム(Pd)触媒の分布状態を確認するため原子分解能 走査透過型電子顕微鏡 (Scanning Transmission Electron Microscope:以下,STEM,日本電子製 JEM-ARM200F)を用いて観測した。サンプルの前処理として,無電解銅めっき被膜が成膜されたサンプルを包埋樹脂後にウルトラミクロトーム(Leica製EM UC7)で約100 nm厚に薄片化し観察を行った。


 

4.2 硬X線光電子分光法(HAXPES) 

樹脂とめっき被膜の界面の結合状態の確認には硬X線光電子分光(Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy,以下HAXPES, Scienta Omicron社製 HAXPES Lab,X線源:GaKα)を用いて評価を実施した。汎用光電子分光法(XPS)は, AlKa 線(1.48 keV)などの軟 X線を光源としているために,光電子の脱出深さは試料表面から 5 nm 程度である。光電子分光の検出深さが小さいのは,固体内部における 光電子の非弾性散乱の平均自由行程が短いためである。そのため,表面状態の評価には適しているが,樹脂とめっき被膜の密着のように埋もれた界面の化学結合状態を,非破壊で観測することは不可能であった。そこで,より大きなプローブ深さを求めて,検出深さが大きな光電子分光として,励起光源に硬X線を用いた光電子分光が行われるようになった8-9)。このHAXPESでは,比較的高い励起エネルギー(5 keV~10 keV)の硬 X 線をプローブとして用いるため,内殻準位や価電子帯から発生する光電子は高い運動エ ネルギーをもち,通常のXPSよりも10倍程度深い,50 nm程度までのバルク状態評価,ダメージレスな界面の結合状態評価を行うことができる(Fig.3)。本研究では,無電解めっき後のサンプルを,Arイオンスパッタを用いてめっき被膜を薄片化した後に,めっき被膜越しにHAXPES評価を実施した。


                   Fig.3 Schematic image of HAXPES8-9)
 


 

5. 分析結果と考察 

5.1 樹脂とめっき被膜の界面形態

無電解銅めっき被膜近傍のSTEMによる断面構造およびエネルギー分散型X線分光(Energy dispersive X-ray spectroscopy,以下,EDX)によるマッピング像をFig.4に示す。また,EDXから得られた各元素の検出強度をめっき被膜析出方向にプロットした結果をFig.5に示す。Fig.4 (a)より,無電解めっきの触媒であるパラジウム(以下,Pd)粒子が,VUV処理により形成された改質層内部に一様に食い込むように分布している様子が観察された(Fig.4 点線枠内参照)。このことより,改質層にはPd粒子を取り込むような数nmサイズの微孔が形成されており,Pd粒子をトラップするような構造を持っていると考えられる。無電解めっき工程で,Pd粒子が改質層の微孔に担持されることで,改質層内部からCuが析出し,めっき被膜を形成したと推測される。
さらにFig.5 より,樹脂側の改質層下部においては,銅(以下,Cu)の析出がなく,Pd粒子のみ分布する領域が確認された。これは, Cuの析出反応がめっき液と接触した箇所から開始するためで,Cu粒子が析出した被膜より下部の改質層では,Cuで覆われめっき液が供給されなかったことを示唆していると考えられる。

   

     Fig.4 Cross-section STEM image (a) and with EDX mapping (b) of Cu (green), Ni (red) and Pd (blue)


 

                               Fig.5 EDX line scanning profile 


 

5.2 樹脂とめっき被膜の結合形態

HAXPES測定によるC1s,Cu2p3/2,Ni2p3/2,およびPd3dの結果をFig.6 (a) ~ (d) に示す。Fig.6 (a)のC1sを見ると,CはC-C,C-H状態が主として存在し,金属と結合した状態は認められなかった。前報4)では,VUV処理後のCOPフィルムの表面状態をFT-IRで評価し,COO-などの酸素系官能基がフィルム表面に導入されていることを確認したが,めっき被膜の界面においても同様にCOO-起因とみられるスペクトル形状が確認できた。Fig.6 (b)のCu2p3/2から,Cuは金属あるいは一価の酸化状態を主として存在していると考えられる。Fig.6 (c)のNi2p3/2より,Niは金属状態が主として存在しているがNi(OH)2状態も存在すると考えられる。また,Fig.6 (d)のPd3dから,Pdは金属状態で存在していると考えられる。

以上より,VUV処理による無電解めっき被膜形成のプロセスとして次の①~⑤のようなメカニズムを推定した。①VUV処理により樹脂表面には極性の官能基が導入された微孔構造からなる改質層が形成される。②導入された官能基は,触媒付与工程の溶液中でPd錯体の吸着サイトとして働き,微孔構造内部にPd錯体を取り込む。③その後,活性化により金属化されたPd粒子は樹脂材料とは結合はせずに改質層の微孔内部に存在する。④無電解銅めっき溶液中で,改質層内のPd粒子がめっき液と接触すると,Pd粒子を核として析出反応が開始され,その際に,VUVにより導入された官能基の一部が還元されたCuやNiと結合を形成する。⑤以降は従来の無電解銅めっきと同様に析出反応が進んでいくと考えられる。                
   
    
   
   

   Fig.6 Narrow scan HAXPES spectra for (a) C1s, (b) Cu2p3/2, (c) Ni2p3/2 and (d) Pd3d



 

6. 結論 

前報4)ではCOPフィルム表面への無電解銅めっき工程の前処理としてVUV照射を適用し,めっき被膜の密着強度著しく向上することを確認した。本研究では,STEM, EDX, HAXPESにより樹脂/基材界面の形態観察,化学状態分析を評価することで,VUV前処理の密着メカニズムの解明を試みた。Pd粒子は界面付近の改質層には食い込んだ状態で分布していることが確認され,さらにPd粒子は樹脂とは結合しておらず,めっき析出反応を開始するための核としてのみ機能していることが明らかになった。析出した金属は,VUV処理により樹脂に導入された酸化系官能基と一部結合していると考えられる。Pd粒子が改質層の微孔に食い込むことで,金属析出が改質層内部から開始されるため,樹脂と金属との間で微細な絡み合いが生じ,めっき被膜の強度が向上していると考えられる。以上のように,めっき被膜の密着は,VUV処理により樹脂表面に形成された微孔構造からなる改質層でのアンカー効果によるものであるが,従来の表面粗化による凹凸を利用したアンカー効果とは異なり,その絡み合いが~ 30 nm程度のオーダーで発現している。したがって,VUV処理によるこの密着機構は高周波帯域で生じる電気信号の表皮深さに比べ十分小さく,平滑性を維持したまま,伝送損失を抑制すること可能であると考えられる。今後,さらなるめっき被膜の密着強度向上を目指し,検証を進め,より効果的なVUV処理方法を検討していく。

 


 

7. 謝辞 

STEMおよびEDXの観察に関して,本研究(の一部)は,文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JPMXP1222JI0012)の支援を受けて実
施されたものである。

 

参考文献 

1) Taro Arimoto, Masaki Miura, Fumitoshi Takemoto, Proceedings of International Conference on Electronics Packaging (ICEP) 2022, Sapporo, Japan, 33-34, April 2022 
2) 有本太郎,三浦真毅,竹元史敏;表面技術協会 第145回講演大会要旨集 09B-08 p129, 2022 
3) 宮澤 慎介, エレクトロニクス実装学会誌, 16 巻, 5 号, p. 394-398, 2013 
4) 有本太郎,三浦真毅,竹元史敏, 第32回マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集, 6A3-2, p.43-46, 2022 
5) 鷲田 伸明, 光化学と分光計測, 分光研究, 40 巻, 4 号, p. 235-246, 1991 
6) M. Ackerman, F. Biaume, and M. Nicolet, Can. J. Chem. 47, 1834-1940, 1969 
7) 渡辺 充広, 杉本 将治, 本間 英夫, エレクトロニクス実装学会誌, 13 巻, 5 号, p. 383-387, 2010 
8) K. Kobayashi, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A601, 32, 2009. 
9) S. Yasuno, H. Oji, T. Koganezawa and T. Watanabe, AIP Conf. Proc. 1741, 030020, 2016
 

[編注]

図中の(5)式に関して、オゾンの光解離の波長域値は300 nmではありませんが、オゾンの吸光係数を加味した実質的な閾値の目安として300 nmと記載しています。



 

 
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