第39回エレクトロニクス実装学会春季講演大会

エキシマランプを用いた光表面改質によるフッ素樹脂の電気銅めっきの密着性向上 

Improvement of Adhesion of Electroplated Copper on Fluororesin by Photochemical Surface Modification Using an Excimer Lamp 


 

Kejun Wu,中村 謙介,島本 章弘
ウシオ電機株式会社

Kejun WU, Kensuke NAKAMURA, Akihiro SHIMAMOTO

Ushio Inc.  

 

  1. 1.はじめに 

 フッ素樹脂は誘電損失が低い特性により、次世代の高周波プリント基板材料として期待されている。しかし、フッ素樹脂はC-F結合により形成されているため、表面が不活性であり、異種材料との接着や金属のめっきが困難である1-4) 。一般的にC-H/C-C結合により形成される樹脂材料は、大気中のVUV(Vacuum Ultraviolet)処理で発生する活性酸素による酸素官能基の導入により、接着性が向上することが知られている5,6) 。しかし、フッ素樹脂のC-F結合は活性酸素との反応性が低いため、ほとんど改質されない。本研究では、エタノール蒸気雰囲気中でフッ素樹脂に中心波長172 nmのVUV光を照射し、エタノールの光分解により生成した水素原子を用いてフッ素樹脂のC-F結合を切断し、エタノール由来のOH基を導入した。さらに、大気中でのVUV照射により活性酸素を生成し、エタノール由来のCH結合とOH基をさらに酸化させてCOOH基を付与した7,8) 。 

 この表面改質したフッ素樹脂に無電解銅めっきを施し、表面導電性を付与した後、電気めっきで銅膜を厚くして剥離強度を評価した。先行研究により、基板と銅めっき膜の密着性は官能基の種類と関係していることが分かっているため、そのメカニズムを含めて考察した9)



 

Fig.1 フッ素樹脂表面改質メカニズム 


 

  1. 2.実験方法 

2.1 VUV照射による表面改質 

 表面改質の手順は、ステップ1のエタノール蒸気雰囲気中でのVUV照射(以下VUV/EtOH)とステップ2の大気中でのVUV照射(以下VUV/Air)に分かれている。Fig.2に示すように、反応容器はランプ室と処理室に分かれている。ランプ室内には中心波長172 nmのXe2*エキシマランプ(ウシオ電機、UXFL-130-172UI)を6本設置し、石英窓面直下の処理室には、3 mmの距離をあけてフッ素化エチレンプロピレン樹脂(ネオフロンFEP NF-0100、ダイキン工業、以下FEP)フィルムを配置した。石英窓面直下の放射照度は照度計(ウシオ電機、UIT-250、受光部S-172)により測定し、平均読み値は約10 mW/cm2であった。 

ステップ1のVUV/EtOH処理では、エタノール(富士フィルム和光純薬、99.5%)を入れたバブラーに窒素ガスを通し、得られたガスを処理室に導入した。エタノールの温度を保つためにバブラーは22℃の水浴中で使用した。ガス検知器(ガステック、GV-100S)により測定したエタノール蒸気濃度は6.5%であった。処理室を3分間パージした後、所定時間VUVを点灯した。 

 ステップ2では、VUV/EtOH処理後に処理室をクリーンドライエアーによって3分間パージし、所定時間VUVを点灯した。


 

                                                                       Fig.2 照射装置 

 

2.2 表面分析 

 未処理および処理後の試料の水接触角は、接触角計(協和界面科学、DMs-401)を使用して測定した。試料に2μLの水滴を滴下し、その画像からθ/2法によって接触角を算出した。また、各試料表面の化学状態は、ULVAC-PHI製のX線光電子分光装置(ULVAC-PHI、PHI Quantera II、以下XPS)を用いて分析した。 


 

2.3 無電解めっき、電気めっき 

 Table1に示した手順にしたがって、未処理および処理後の試料に無電解銅めっきを行った。使用した無電解めっき薬品はトップLECSシリーズ(奥野製薬工業)であった。無電解めっき後に、硫酸銅めっきにより電気めっきを行った。硫酸銅めっき浴には、陽極に含燐銅(B-89-002LA-P08、陽極板_含燐銅_28×120×t2 mm、山本鍍金試験機)を使用し、陰極にはサンプルを取り付けた。陽極と陰極には直流電源(KX-100H、高砂製作所)を接続して所定時間電気を流した。 

               Table 1 めっき工程 

工程 

浴温 

時間 

コンディショナー 

50 ℃ 

5 分 

プリディップ 

25 ℃ 

1 分 

触媒付与 

25 ℃ 

5 分 

活性化 

25 ℃ 

1 分 

無電解めっき 

32 ℃ 

10 分 

酸脱脂 

45 ℃ 

5 分 

酸活性化 

25 ℃ 

1 分 

電気めっき 

32 ℃ 

55 分 


 

2.4 剥離強度評価 

 JIS C5016に従って電気めっきしたフィルムの面内の銅膜を中央の幅1 cmだけ残し、両側の銅膜をカッターで剥離した。残った銅膜の先端を約1 cm剥がしておいた。剥がしておいた銅膜の先端を、デジタルフォースゲージ(ZTAシリーズ 50 N、IMADA)を搭載した引張試験機(FSA-0.5K2-50 N、IMADA)に掴ませ、50 mm/minの速度で剥離した。 

 

  1. 3.結果および考察 

3.1 水接触角 


                                                    Fig.3 水接触角


 Fig.3に示すように、VUV/EtOH処理を900 s行うと、水接触角が未処理の109.3°から62.5°まで低下した。その後VUV/Air処理を行うと、水接触角がさらに低下し、VUV/EtOH処理900 s + VUV/Air処理120 sで29.1°まで低下した。しかし、VUV/Air処理を300 sまで延ばすと、水接触角が再度上昇する傾向が見られた。この結果にいたる原因として、VUV/Air処理で発生する活性酸素がVUV/EtOH由来のCH成分の改質層を酸化させると同時にエッチング効果も発生することが考えられる。そのため、VUV/Air処理時間が300 sまで長くなると未改質のフッ素樹脂層が最表面に現れ、水接触角が上昇したと考える。 
 

3.2 剥離強度分析 


                                    Fig.4 めっきの剥離強度 


 Fig.4に電気めっき後のピール強度評価結果を示す。未処理およびVUV/EtOH処理のみの条件では、銅膜がうまく形成されず、ピール試験に至らなかった。一方で、VUV/EtOH900 s処理後にVUV/Air30 s処理を加えた場合、ピール強度が最大1.31 N/cmまで上昇した。ただし、VUV/Air処理をさらに長くすると、ピール強度が低下し、VUV/Air300 s処理ではほとんどピール強度がなくなっていた。この傾向について考察するために、XPS表面分析を行った。

 

3.3 表面分析  



                                            Fig.5 XPS-原子濃度比 
 

 Fig.5に、XPSにより求めたフッ素と炭素の原子濃度比(F/C比)および酸素と炭素の原子濃度比(O/C比)を示す。VUV/EtOH900 s処理を行うと、F/C比が未処理の1.97から0.08まで低下し、O/C比が0.22まで上昇した。その後にVUV/Air処理を加えると、O/C比が最大0.43まで上昇した。             

 一方で、VUV/Air処理時間を300sまで延ばすと、F/C比が1.12まで再度上昇し、O/C比も0.24まで低下した。この現象は水接触角の変化の傾向と一致している。 


                                    Fig.6 XPS-C1sスペクトル 

 

 Fig.6に、XPSにより求めたC1sスペクトルを示す。未処理のFEPフィルムでは、CF2と微量のCF3のピークが得られた。VUV/EtOH処理を900 s行うと、CF2のピークが消え、代わりにCC/CH、C-OH、C=Oに帰属されるピークが観察された。さらにVUV/Air処理を行うと、C-OH、C=Oが上昇する傾向を示した以外に、288.5 eV付近にCHFあるいはCOOHに帰属されるピークも見られた10) 。Fig.5の原子濃度比を参照すると、フッ素原子の濃度が非常に低いため、CHFよりCOOHの割合の方が圧倒的に高いと考えられる。 

 めっきの剥離強度を考察すると、未処理では官能基が付与されていないため、めっき密着性を示さない。また、VUV/EtOH900 s処理した場合はC-OH、C=Oなどの官能基が付与されたが、剥離強度が上昇しなかった。この結果から、C-OH、C=O官能基はめっきの剥離強度に寄与しないと考えられる。一方で、VUV/Air処理を加えた場合は、新たにCOOH基が付与されると共に、剥離強度が最大1.31 N/cmまで上昇した。この結果からCOOH基はめっきの剥離強度と関連していると考えられる。 

 Fig.7に無電解めっき工程における付与したPd触媒と炭素の原子濃度比を示す。VUV/EtOH900 s処理した場合は、Pd/Cは未処理と同程度であった。一方でVUV/Air処理を加えた場合は、Pd/Cが約3倍の値まで上昇した。この結果から、C-OH、C=O官能基は触媒の吸着に寄与しない一方、COOHはPd触媒吸着に寄与すると考えられる。


                                        Fig.7 XPS-Pd/C原子濃度比 


 Fig.8に示すように、密着性が向上されるメカニズムを考察した。VUV/EtOH + VUV/Air処理は、未処理およびVUV/EtOH処理のみの場合と比較して、吸着した触媒の密度が高いため、析出サイトが多くなり、基板と銅膜の接点が増えたことで密着性が向上したと考えている。


                              Fig.8 密着性向上のメカニズム 

 

  1. 4.まとめと展望 

 VUV/EtOH処理900 sに加えてVUV/Air処理を行うことで、FEP基板表面がより親水化された。そして、本処理方法により、フッ素樹脂FEPと銅めっきの密着性が改善された。XPSの表面分析結果により、VUV/Air処理を加えることでCOOH基が付与されることが分かった。また、触媒吸着量の評価結果から、COOH基が触媒の吸着に寄与し、触媒吸着量が増えることによって基板と銅めっきの接点が多くなったことで密着性が向上したと考察した。 

 現処理工程では処理時間が長く、積算光量が高いために、樹脂へのダメージにより脆弱層が形成されている可能性がある。脆弱層の存在により、樹脂表面の官能基密度が高くても銅めっきの剥離強度が制限されると考えられる。そのために、より低い積算光量でめっき剥離強度に寄与する官能基を付与する方法を検討する。たとえば、1ステップでCOOH基を付与できる処理雰囲気や、他に触媒吸着に寄与する官能基を付与できる処理雰囲気を検討する予定である。 

 

  1. 5.参考文献 

1) 渡邊充広: “低誘電材料に対する表面改質と回路形成,” 表面技術, Vol. 72, No.7, pp. 372-376, 2021 

2) 河合晃: “高周波 (5G, ミリ波) 対応のプリント基板,” 表面技術, Vol. 72, No.6, pp. 315-319,2021 

3) 山辺正顕: “フッ素系材料の応用技術”p.3, 2006 

4) 池田慎吾, & 小林靖之: “フッ素樹脂フィルムへの直接めっきを可能にするプラズマ表面改質,” 表面技術, Vol. 71, No. 12, pp. 775-780, 2020 

5) 有本太郎, 三浦真毅, & 竹元史敏: “エキシマランプを用いた高周波対応樹脂に対する無電解銅めっき膜の密着性向上,” 第 32 回マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集, Vol. 28, pp. 43-46, 2022 

6) 玉井聡行: “フレキシブル基板の表面修飾技術と無電解めっき技術: 高分子 金属界面の微細構造制御,” 表面技術 Vol. 72, No. 7, pp. 386 390, 2021 

7) Kejun Wu, 中村謙介, 島本章弘: “エタノール蒸気雰囲気中下でのVUV 光照射によるフッ素樹脂の無電解銅めっき密着性向上”.表面技術協会第149回講演大会講演要旨集P11 

8) 島本章弘, 水川洋一, 加藤啓子, & 福田忠司: “光化学反応によるフッ素樹脂の表面改質と接着強度の向上 ”. 日本接着学会第59回年次大会講演要旨集, Vol. 59, P01A, 2021 

9)Kejun Wu, 中村謙介, 島本章弘: “光化学反応により表面改質したフッ素樹脂への銅めっき密着性向上,”. 第34回マイクロエレクトロニクスシンポジウム要旨集, pp.211-213, 2024 

10) Alain Tressaud, Etienne Durand, Christine Labrugère, Alexander P. Kharitonov, Galina V. Simbirtseva, et al: “Surface modification of polymers treated by various fluorinating media,” Acta Chimica Slovenica, Vol. 60, No. 3, pp. 495-504, 2013  

 

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