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光技術情報誌「ライトエッジ」No. 4(1996年2月発行)

第23巻 第12号 レーザー研究

(1995年12月)

レーザ解説
誘電体バリア放電エキシマランプの
原理と応用

五十嵐 龍志*
(1995年10月27日 受理)
Principle and Applications of Barrier Discharge Excimer Lamps
Tatsushi IGARASHI*
(Received October 27,1995)

New ultraviolet and vacuum ultraviolet excimer lamps driven by barrier discharge are reviewed.Ar,Kr,Xe,KrCl and XeCl excimer lamps were developed,whose emission wave lengths are 126,146,172,222,and 308nm,respectively.These spectra have full width at half maximum(FWHM)as narrow as 2 to 14nm.An efficiency of 10% was obtained with a Xe excimer lamp.The principle,structure and application of lamps are described.

Key Words: Barrier discharge,Excimer lamps,Vacuum ultraviolet,Ultraviolet

1.はじめに

光化学反応を利用した乾式洗浄,表面改質,光CVD等は,一部については既に実用化されており,さらに研究開発が盛んに行われている。これらの光化学反応用の光源には,紫外領域あるいは真空紫外領域のある特定の波長範囲にだけ,高効率の放射を有することが望まれる。

現在実用化されている主な光源で,エキシマレーザー以外のランプは,重水素ランプ,Xeランプ,低圧水銀ランプなどがある。どのランプも,放射効率,波長選択性など十分とは言えない。最近になり,誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプが開発され,実用化されるに到った。

この方式でのエキシマ発光の研究は古く,1955年,田中が確認している1)。80年に入り,G.A.Volkoba2),U.Kogelschatzら3)によって,ランプとしての報告がなされた。我々は,放電の電界強度,封入ガス種,ガス圧,窓材等の最適化をはかり,126nm,146nm,172nm,222nm,および308nmの単色光を有するそれぞれのエキシマランプを開発した4,5)。本解説ではこれらランプの発光原理,装置の構造,発光特性,そして幾つかの応用について報告する。

2.発光原理

Fig.1を使用して,誘電体バリア放電の動作原理について簡単に説明する。ランプは石英ガラスの2重構造になっており,内管の内側には金属電極,外管の外側には金属網電極がそれぞれ施されている。また石英ガラス管内には,放電ガスが充満されている。電極間に高周波,高電圧電圧を印加すると,2枚の誘電体を通して放電空間に電圧が印加され,この電圧が放電空間の放電破壊電圧以上になると放電空間で放電が発生する。しかし,放電路に直列に誘電体が存在するので,誘電体表面に電荷が蓄積されると放電は終止してしまう。すなわち,放電の寿命は数十ns程度である。さらに,誘電体は,放電プラズマが放電路と直角方向に広がる事を阻止するので,一つの放電プラズマの直径は0.1mm程度になる。すなわち,直径は0.1mm程度,寿命は数十ns程度の放電プラズマが,放電空間に多数本発生することになる。この放電プラズマにより,放電ガスの原子が励起されて,瞬間的にエキシマ状態(Xe2*)となる。このエキシマ状態が基底状態に戻るときに,そのエキシマ特有のスペクトルを発光(エキシマ発光)する。発光スペクトルは,充填された放電ガスの組成によって設定することが出来る。

3.ランプの特性

3.1 発光スペクトル

放電ガスをそれぞれ,Ar.Kr,Xe,KrCl,XeClを選ぶことにより126nm,146nm,172nm,222nm,308nmの5波長が得られる。126nm,146nmランプは照射窓にMgF2を用いている6, 7)が他ランプの照射窓は石英ガラスを使用している。発光スペクトルはほぼ単色光である。Fig.2にAr,Kr,Xe20W型エキシマランプの分光分布を示す。半値幅は10~14nmである。比較のため,重水素ランプ(30W)の分光スペクトルも示してある。エキシマランプのランプ電力が20W,重水素ランプが30Wと,後者の方が大きいにもかかわらず,エキシマランプの方が大きな出力が得られている。XeCl*,KrCl*タイプの分光スペクトルをFig.3に示す。中心波長がそれぞれ,308nm,222nmで,半値幅が2nmの単色光に近い分光分布を持つ。放電ガスを選択することで,他の波長のエキシマ発光を得られることが,実験的に報告されている3)

3.2 効率

放電ギャップの大きさとキセノンガスの圧力を変えて,エキシマ光の発光効率を調べた(Fig.4)。ここでエキシマ光の全放射束の絶対値をランプへの入力電力で除した値を発光効率と定義した。電界強度Eをキセノンの圧力pで除した値E/pは,放電プラズマ中の電子のエネルギー,従って発光効率に関係すると考えられる。得られた結果をE/pで整理した結果,発光効率はE/pが約40から70V/cm/kPaにおいて最大になり,効率の絶対値はXeClで約11%,KrClで約8%であった8)。なお,供給電力密度は,現在,約0.25W/cm2である。今後,構造,冷却方法の最適化により,10倍程度まで入力密度を上げることは可能と考える。

3.3 寿命

初期出力の70%まで減衰する時間を寿命と定義すると,約1000時間の値が得られている。これは,連続点灯の場合の寿命であるが,点滅点灯しても寿命が短くなることがなく,点灯の通算時間がランプの寿命を決めており,1000時間の値が得られている。一方,後で述べるヘッドオン型構造のランプ寿命は,標準型のものに比ベ,寿命が幾分短く,約700時間である。将来は,材料,椎造を最適化することにより,両者とも,寿命を長く出来る可能性がある。

4.照射装置形状

Table 1 に照射装置の種類とそれぞれの仕様を示す。電力20Wタイプはランプと照射ユニット形状により,標準型とヘッドオン型に分けられる。また,照射面積が大きい200Wタイプ,1000Wタイプも開発されている。

Table 1 Specifications of Excimer Light Source.

Fig.5にランプの概略図を示す。外側管の側面から光を取り出すために外側電極を光透過性の金属網電極にした構造の管状ランプである。ミラーを装着し,照射ユニットとしており,内部は,オゾンの発生,エキシマ光の酸素への吸収を防ぐため,窒素パージしてある。

ヘッドオン型9)は高輝度光源を目的にしたもので,内側および外側電極を光反射板を兼ねた金属電極とし,放電管の一端から光を取り出す構造になっている。真空装置の中にも照射出来るように,直径70mmICFフランジに接続出来るようになっている。

大面積を照射出来るタイプのランプ10)をFig.6に示す。200W型のランプの形状は標準型と同じである。230mm×230mmの合成石英ガラス窓付きのランプハウス内で発光長250mmの管形Xeエキシマランプ4本を並列点灯する方式である。照度むらを小さくするために,ランプ間と照射窓の周辺部に高反射ミラーを装着している。さらに照射面積の大きい1000W型(650mm×550mm)照射装置も開発されており,半導体,液晶ラインに組み込んで,洗浄,改質が行える段階にまで来ている状況である。

なお,照射装置の放射強度(効率),照度分布であるが,標準型172nm,222nm,308nmで照射ユニット照射窓面で約10mW/cm2。ヘッドオン型の窓面照度は30~50mW/cm2。200W型では,照射窓面で17mW/cm2,172nmの全出力9Wであった。照度分布は200W型で±10%である。

5.応用

エキシマランプの応用例としては,液晶ガラス,ホトマスク,Siウエハーなどの光洗浄にはすでに使用が開始されている11-13)。プラスチックスへの表面改質の応用も報告されている。PPS,PET,PBT,PCなどは,空気中数10秒の照射で表面に数10%の親水基が導入され,改質されることがXPSで確認された14)。低圧水銀ランプで改質出来ないPE,PPもある程度改質出来る。光子によって,C-C,C-H結合が切断し,生成するラジカル量がESRを用いて測定されている15)。村原,津田らは,フッ素樹脂の親水化を本ランプと水を用いて行っている16)。172nmエキシマランプを用い,GaAsのエッチング17),SiCのエッチング18)についての報告もある。

光CVDについては,P.BergonnzoがSi3N419)とSiO220),横谷,黒沢らが,石英薄膜21)の光CVDを報告している。公害物質であるNOxの光分解22)などの報告もある。

6.まとめ

誘電体バリア放電を利用したエキシマランプの特性ついて報告した。Xeエキシマにより中心波長172nm,20W入力,出力2W,効率10%のランプが開発,商品化された。同様にクリプトン/塩素,キセノン/塩素により,222nm,308nmランプも商品化されている。ヘッドオンのタイプでは126nm,146nmタイプも開発された。大型化は比較的容易で,172nmタイプは,照射面積,230mm×230mmないし,650mm×550mmの照射面積を有する172nmエキシマ光照射装置も開発された。近年,バリア放電エキシマランプの放電のシミュレーションも試み始められ23),将来,さらに高出力ランプも開発されるであろう。応用についても,ホトマスク,液晶ガラス,半導体の光洗浄,表面改質などの用途に使用され始めた。今後さらに多くの用途に使用されることを期待する。

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