USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.14

技術セミナー 1998年7月9日(木)
インフォコムに関するパネルディスカッション…技術と市場の流れを読む!
液晶プロジェクタの設計技術

(1998年10月)

液晶プロジェクタ用ランプの特性と光源の動向

ウシオ電機株式会社
成田 光男

はじめに

私が液晶プロジェクタ用メタルハライドランプの開発・製品化に携わってから8年が経過し、この間光源はハロゲンランプからACメタルハライドランプ、つぎにDCメタルハライドランプ、さらに超高圧水銀ランプへとめまぐるしく変化してきた。これは、各ランプメーカのたゆまぬ研究開発によるところもあるが、さらに液晶プロジェクタの急速な技術進歩が牽引力となったことは言うまでもない。

本日は、僭越ながら私が携わってきた経験を中心に、以下の4つの項目に分けてご説明する。

1 どんな光源が使われてきたのか

ここでは、液晶プロジェクタに使われてきた光源の種類と特性、ならびにその背景を説明する。光源の選定は、光学系の影響を強く受けるので、光学系の推移についても触れる。とくに、この章ではハロゲンランプとキセノンランプについて、その特性の概略を述べる。各光源の詳細特性については、先輩諸氏による良い参考資料があるので、ここでは液晶プロジェクタに多用されるランプに重点を置き述べる。

2 メタルハライドランプ(以下メタハララ ンプと称す)とはなにか

現在、液晶プロジェクタで多く使われているメタハラランプについて、構造、材料、製造プロセスを説明するとともに、ACとDCメタハラランプの特性の差を述べ、さらにメタハラの電気特性、光学特性、寿命特性、安全性・信頼性、使用上の注意について述べる。ただし、ここでの説明は、標準ランプの一例とお考えいただきたい。プロジェクタメーカが要求するランプ仕様は、カスタムが多く、要求により電機・工学・寿命の各特性は異なる。

3 超高圧水銀ランプとはなにか

昨今、急速に伸びている超高圧水銀ランプの特性例を述べるとともに、弊社では開発中のDC点灯方式超高圧水銀ランプについてその特性に触れる。

4 ランプの将来展望

最後に、液晶パネルやDMD素子をにらんだ大きな二つのトレンドに触れつつ。光源の将来展望について述べる。

(追記)

具体的な光源のイメージや諸特性をつかんでいただくために、弊社カタログを参考として配布いたします。各ランプメーカから同様な資料も入手可能と思う。あくまで、光源選定の一助としてお使いいただければ幸いである。

(お願い)

顧客、他社ランプメーカのランプに関して、文献、学会発表、カタログ等以外の内容に関するご質問は、ご容赦願います。また、弊社ランプの詳細につきましてもできない部分もあるかと思いますが、重ねてご理解の上、ご協力の程よろしくお願いいたします。

1 どんな光源が使われてきたのか

1. 1 液晶プロジェクタ用ランプと光学系の変遷

図1に液晶プロジェクタ用ランプと光学系の変遷を示す。90年に入りACメタハラランプが使用されはじめ、94年にはDCメタハラランプが使用されはじめた。95年には超高圧水銀ランプが使用されはじめた。現在、AC/DCメタハラランプと超高圧水銀ランプがおもに市場で使用されている。

この間、液晶パネルは、アモルファスシリコンからポリシリコンに代わり、パネルサイズも3インチ程度から0.9インチにまで小型になった。さらに光学系はインテグレータレンズ、偏光変換素子、マイクロレンズの採用へと技術が進歩した。光源に対する要求は、発光効率重視から輝度重視へ、短アーク化へ、低電力化へと変化してきた。

図1 ランプと光学系(LCDパネル)の変遷

1. 2 液晶プロジェクタ用ランプの種類

ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタハラランプおよび超高圧水銀ランプの大きく4つに分類できる。ハロゲンランプは、一部のハンディプロジェクタのみに使われている。キセノンランプは、反射鏡一体型と通常のランプ単体に分けられる。昨今、とくに反射鏡一体型が、光源の大きさを小さくでき、防爆構造の利点から採用されるケースが多い。

本セミナーでは、現在おもに市場で使用されているAC/DCメタハラランプと超高圧水銀ランプを中心に述べる。ハロゲンランプとキセノンランプについては1章で概略特性についてのみ触れる。

図2 液晶プロジェクタ用ランプの種類

1. 3 液晶プロジェクタ用ランプの性能比較

図3に液晶プロジェクタ用ランプの性能比較を示す。色再現性の若干の課題はあるものの、超高圧水銀ランプは、他の性能もバランスよく現時点で理想に近い光源と言える。

図3 液晶プロジェクタ用ランプの性能比較

1. 4 ハロゲンランプ

色温度が低く、赤発光が豊富なため色再現性に優れるが、点光源とは言えない。ランプからの発熱の処理が困難でランプ発光効率も低く、現状ではあまり使われない。

1. 5 キセノンランプ

アーク部での色むらがなく、高輝度で太陽光に近い分光分布を持つ。ランプサイズが大きく、リフレクタが大きくなる欠点をもつが、最近は反射鏡一体型で解決している。瞬時再点灯が可能だが、ランプ電流が大きくバラストが大型になるのが欠点である。

図4 ハロゲンランプ

図5 キセノンランプ

2 メタルハライドランプとはなにか

2. 1 ランプ単体の構造・材料

ランプ単体の構造・材料を図6に示す。石英ガラスでできた発光管の中に相対する形でタングステン製の電極が封止されている。気密を保つためシール部はナイフエッジを持つモリブデン箔が封着されている。ランプ内には水銀・メタルハライドおよび希ガスが封入されている。

発光管の形状、寸法は、ランプ電力(管壁負荷)、点灯方式、冷却条件等を考慮して設計する。電極の設計は、点灯方式、アーク長、ランプ電流等から決まる。AC点灯では、両電極の形状・寸法は同じであるが、DC点灯では陰極は細く小さく、陽極は太く大きくなる。水銀は、発光に寄与する(436、546、578nm)とともにその封入量は、ランプ電圧から決まる。メタルハライドは、スクリーンの明るさや色 再現性を大きく左右し、その種類や組成比、封入量は、大きな設計要因である。ハロゲンとして、沃素や臭素が用いられ、封入金属は、効率に寄与するもの、演色性を改善するもの、アークを安定化させるのもなど、その目的に応じて種類と添加量が設計される。

希ガスは、おもに始動時の補助として封入されており、消灯時はランプ内の圧力は1気圧以下となる。一方、点灯時の圧力は10~40気圧程度に達する。参考までにタングステン、モリブデンの融点は、3683°C、2890°Cで、石英の軟化点は約1600°Cある。また、水銀の沸点は356℃で、点灯中は完全にガス状であるが、メタルハライドの沸点は、物質により300~1000°Cとさまざまで、点灯中は通常、最冷部に一部が液状で残っている。

図6 ランプ単体の構造・材料(メタハラランプ)

2. 2 リフレクタ付きランプ

リフレクタ付きランプの構造・材料を図7に示す。リフレクタのF値・曲面は、使用される光学系およびランプの寸法・光学特性を考慮し、シミュレーションや実験により決まる。曲面精度は、明るさに大きく影響し、一般に理想曲面からのずれが0.2mmを上回ると注意を要する。また、反射面の表面粗さも明るさに影響し、一般にはRa<0.05mmが推奨される。材質は、ほうけい酸ガラスと結晶化ガラスがあり、使用時のリフレクタの最高温度により選択する。ガラスの肉厚にもよるが一般には、ほうけい酸ガラスの耐熱温度は400°C、結晶化ガラスは500°C程度である。

蒸着膜は、シリカとチタニアの多層膜が30層前後で施されており、上の使用温度範囲であれば、ガラス基板と蒸着膜との接着力は実用上問題ない。線材、プラグその他の部品は、UL94の難燃規格を満足していることが必要である。

図7 リフレクタ付きランプの構造・材料

2. 3 製造プロセス

ランプの構成材料点数は上で述べたように多くはないが、高融点・高純度の材料であり、加工や処理にはかなりの工数が費やされている。

図8 ランプの製造プロセス

2. 4 ACメタルハライドランプの特性

DCメタハラランプより寿命は短いが実使用の範囲で問題にはならない。点灯中、時間の経過とともに高温下の石英ガラスとメタルハライドが反応し、石英ガラスが失透現象を起こし、光の直線透過率が落ちる。ACメタハラランプのスクリーン照度減衰の原因はここにある。また、アーク部の色がアーク中心から周辺に行くにしたがって変化するため、光学系によってはスクリーンで色むらが発生することがある。アーク部の色むらの原因は、封入している金属の発光する温度がそれぞれ異なることに起因しており、避けがたい。アーク部の色むらが、スクリーン上での色むらに影響するのを抑制するため、発光管にフロスト処理を施したりインテグレータレンズ等が用いられる。

アーク長を短くする設計では、フリッカや寿命が課題となり、むしろアーク長が3mm以上のランプが効率・全光束を考慮した光学系では、今後とも活用が見込まれる。たとえば、6.4インチサイズのパネルでは、アーク長8~10mm、発光効率90lm/WのACメタハラランプが有効である。

分光分布は、封入物の調整により若干の修正は可能であるが、発光効率と色再現性は一般には、トレードオフの関係になる。

図9 AC点灯方式メタルハライドランプ

2. 5 DCメタルハライドランプの特性

ACメタハラランプの寿命延長と短アーク化を実現したのがDCメタハラランプである。DC化することで、失透の原因となる金属イオンを陽極側に偏らせて、失透の進行速度を抑制している。また、DC化することで電極の役割を陰極と陽極とに分離することで、フリッカを抑制しながらアーク長を2mm台(250wクラス)まで短くすることができる。ただし、失透の進行を抑制した反面アークの軸方向(陰極―陽極)で色むらが発生する欠点があるが、インテグレータレンズにより実用上問題はない。インテグレータレンズがない光学系でのDCメタハラの使用には注意が必要である。

バラストの面から言うと、DCメタハラランプは交流切り替えの素子が削減できる分、バラストの大きさやコストの点で有利だが、反面アーク長を短くすることで、ランプ電流が増加しバラストの大きさやコストにも影響する部分もある。

図10 DC点灯方式メタルハライドランプ

2. 6 メタルハライドランプの電気特性

2. 6. 1 始動特性

始動前ランプは完全に絶縁状態にある。イグナイタから印加される高圧パルスにより絶縁破壊が起こり、放電が開始する。始動数秒後はランプ電圧は陰極降下電圧分の10V程度しかないが、その後水銀の蒸発とともにランプ電圧が上昇し、通常1分程度で安定時のランプ電圧の80~90%に到達する。ランプ電圧の立ち上がり時間はランプの冷却条件や始動後の初期電流に影響を受ける。

図11 ランプの始動特性

2. 6. 2 始動特性

バラストの役目は、確実に始動をさせることと、一定のランプ電力に保つことである。確実に始動をさせるため、イグナイタから印加される高圧パルスは15~20kVは必要となる。絶縁破壊後、バラストは定電流制御で定格ランプ電流の1.5~2倍をランプに与える。ランプ温度の上昇にともない水銀は徐々に蒸発しランプ電圧は上昇する。以降バラストは停電力制御に切り替わりスクリーンに安定した照度が得られる。

バラストとランプ間のマッチングの確認が不十分だと、不点灯や立ち消え、フリッカ破裂等の問題を引き起こすおそれがある。

図12 バラスト

2. 6. 3 再始動性

通常、再始動には消灯後1分以上は必要である。1分以内ではランプ温度が高く、内部圧力が高いため始動性が劣る。また、始動後数秒~数十秒でランプを強制的に消灯させた場合、発光管内面に水銀が付着しイグナイタのエネルギーを吸収し、次の始動時に点灯しにくくなる場合があるので、点灯後は1分は消灯しないことが望ましい。

図13 再始動性

2. 7 メタルハライドランプ光学特性

2. 7. 1 発光原理

AC点灯とDC点灯の差はあるが、メタハラランプの基本的な発光原理は変わらない。水銀のアーク中に金属蒸気を加え、金属特有の原子または分子スペクトルを得る。ランプ内に金属のみを添加した場合は、蒸気圧が低く、石英ガラスとの反応が急速に生じ失透が短時間で起こるため、ハライド化している。すなわち、メタルハライドとしてランプ内に添加することで、蒸気圧が上がり、安定した発光特性と寿命が得られる。アーク中心部では、ガス温度が約5000Kの高温で、メタルハライドは金属とハロゲンとに熱解離し、管壁付近では再結合してメタルハライドとなる。このため、管壁での金属と石英ガラスとの反応は緩和される。金属は、アーク中でその温度状態に応じた原子発光および分子発光を行う。これが、上で述べたアーク中の色むらの原因である。ランプ点灯中も金属の蒸気圧は水銀より遙かに低いが、励起エネルギーは金属の方が低いので発光に大きく寄与している。

図14 メタルハライドランプの発光原理

図15 ハロゲンサイクル

2. 7. 2 発光効率・分光分布・輝度分布・配光分布

発光効率および分光分布は、積分球の中で測定される。すなわち、ランプ内のすべての部分からすべての方向に放出された光を、積分球内の拡散反射面で多重反射した結果を、照度計や分光測定器で受ける。光学系が利用できる光源の実質の大きさが小さくなるにしたがって、このようにして求めた発光効率や分光分布は、次第にもつ意味がうすれてはいるが、それでも概略のシミュレーションを行うには十分意味のある特性である。

輝度分布や配光分布は、光学シミュレーション上重要な役割を果たすようになってきた。輝度分布は、弊社ではCCDカメラで輝度の画像を捕らえ、画像処理することで得ている。AC点灯では両電極の先端付近が同じ輝度であるが、DC点灯では陰極部は陽極部の1.2~2倍程度高い輝度となる。輝度は、アーク長が短く、点灯圧力が高い程高くなり、陽極と陰極での輝度の差も、アークが短く、点灯圧力が高い程少なくなる。

配光分布は、ランプから一定距離を保ちながら可動するアームに照度計を取り付け、アームの角度毎に照度を測定することで求める。AC点灯では軸方向に左右対称であるが、DC点灯では陽極側に多少偏っており、これはDC点灯の場合ランプに対してアーク中心が陰極側に偏っているためである。このため、DC点灯メタハラランプでは通常、陽極側がリフレクタのホール側に固着される。チップ部は、配光照度が極端に低くなるので、チップを配光への影響の少ない位置に置くかチップレス化が望まれる。

図16 発光効率・発光分布の測定方法

図17 AC/DCメタルハライドランプの代表的発光分布

図18 メタルハライドランプの輝度分布

2. 8 メタルハライドランプの寿命特性

プロジェクタにおけるランプの寿命は、一般にスクリーン照度の維持率50%の平均時間で定義される。たとえば、ハロゲンランプでは、照度寿命より、断線寿命(不点灯寿命)の方が先だが、放電灯は一般に照度で寿命を定義する。ただし、今後、照度寿命の延長とともに不点灯寿命と照度寿命を分けて明確にし、顧客側でのランプの使用条件に応じた実機設計が必要と考える。ここでは、照度寿命について述べる。

前述のとおり、照度低下の主要因は発光管の失透であるが、一方点灯とともに電極物質は熱蒸発し、黒化が起こる。黒化により、発光管の温度が上昇しさらに失透は促進するといった悪循環が起こる。DC点灯では、失透の反応を抑制しているが、それでも失透することは避けれない。さらに、点灯時間とともに電極先端は損耗し、、アーク長が伸びる。このため、反射鏡での光の利用率が落ち、照度低下をもたらす。AC点灯では一般に照度寿命は1000時間程度であるが、DC点灯では2000~3000時間となる。ただし、寿命は測定する光学系やランプの間壁負荷、封入物、アーク長、冷却条件、使用するバラスト、点滅回数等によっても左右されるため、寿命の取り交わしには前提となる点灯条件を明確にする必要がある。弊社では点灯モードを、2時間45分ON/15分OFFとしている。

一方、点灯中の色の変化は、失透による封入金属の消耗やランプ温度の変化等によって起こる。AC点灯では、一般に1000時間点灯後、色温度は1000K程度低下し、色度はほぼ黒体軌跡に沿って変化する。DC点灯の色温度の変化は、ACよりも少ないが、封入組成の影響で色温度は微妙に上がる場合と下がる場合がある。しかしながら、実使用上問題とはならない程度である。

図19 メタルハライドランプの寿命特性

2. 9 メタルハライドランプの安全性・信頼性

点灯圧力は、数十気圧であり、点灯中は常に破裂の危険は内在する。しかしながら、石英ガラスの球を想定すると理論的な機械強度は数百気圧に達し、発光管自体はかなりの安全係数をもった容器と言える。一方、実際問題として破裂は、非常にわずかな確率(10~100ppm)だが発生しており、破裂の起点はチップ部およびシール部に集約される。どちらも、形状的には内圧に対して応力が集中しやすい部分であり、さらにシール部は石英ガラスより一桁膨張係数が大きい金属が接しており加工精度が重要となる。

UL1492では、ランプを点灯圧力と内容積から得られるエネルギーで中圧ランプと高圧ランプに分類しており、とくに高圧ランプでは防爆構造が求められている。

ランプ破裂時の音は、ピストルの音に近似しており、PLの観点から、ほとんどの実機で一定時間以上のランプ点灯を防止し破裂確率を減らすためのシャットダウンのシステムが付加されている。シャットダウンの時間は、ランプの不点灯寿命から類推し、市場での問題の発生の頻度と商品性能とを照らし合わせ、各社で設定している。

ランプ破裂時を想定した、明確なユーザーへの提示および、実機での対策は必須条件となりつつある。

もちろん、シールドタイプでは、前面ガラスにより破裂時の減音と破片の飛散を防止でき、ランプの方向としては、今後シールドタイプに対する要求は益々増える。

各部品はUL94の難燃規格を満足すべきことは言うまでもない。

図20 ランプの安全性・信頼性

2.10 メタルハライドランプの使用上の注意

上述のように、メタハラランプは点灯時の温度条件によりその性能が左右される。ランプの冷却が過度の場合、発光管内部のメタルハライドの蒸気圧は低く、十分な発光効率や色再現性は得られない。一方、発光管の温度が高すぎると、短寿命や破裂の危険を伴う。また、シール部の温度が高いとモリブデン箔の酸化が進行し、導通不全から不点灯となる。リフレクタについても、推奨温度より高いとクラックの原因となる。

ランプメーカからの推奨温度の範囲に入るように冷却条件を設定していただくことが、安全にランプを使用していただくための大前提となる。

バラストは、原則ランプメーカが推奨するものを使うことがトラブルを避ける近道である。同一ランプ電力でも、駆動方式、電気特性、アーク長等によって、バラストとのマッチングには十分注意する必要がある。ランプメーカが推奨する以外のバラストを使用するときには、ランプメーカにマッチングを確認してもらうことが望ましい。バラストから、始動時に発生するパルスが実機内の電子部品に悪影響を与える可能性があるので、始動パルスのサージには注意が必要となる。IEC926では、非正弦波パルスに対する沿面距離と空間距離を規定しており、参考としていただきたい。

JIS8812に定められた有害紫外放射は、ランプ単体では規格をオーバーすることがあるが、リフレクタに組み付けた状況では、リフレクタ背面からの有害紫外放射量はほとんど無視しうる。

消灯後のランプ、リフレクタの高温時のやけど、感電、接触不良、ガラス製品に対する一般的な注意事項は言うまでもない。

図21 メタルハライドランプの使用上の注意

3 超高圧水銀ランプとはなにか

3. 1 AC点灯方式超高圧水銀ランプの特性例

フィリップス製UHP100Wの諸特性を示す。最近は同社製で120Wにランプ電力をアップしたランプや松下電子製の150W仕様としたランプが使用されているが、輝度アップによるスクリーン照度の向上を狙ったものである。水銀ランプは、点灯時の水銀圧力の増加とともにラインスペクトルから連続スペクトルへと分光分布が変化し、輝度も向上する。一方で破裂の危険性も増し、前面ガラスを付けることで破裂時の音と破片の飛散を防止している。また、超高圧水銀ランプは冷却条件によっては、水銀が点灯中に未蒸発になり、ランプ電圧の低下や輝度の低下を招くため、前面ガラスは点灯時の発光管温度を一定に保つ意味でも重要である。

超高圧水銀ランプは輝度が高く、理想に近い光源と言えるが、赤の演色性には課題が残る。従来、超高圧水銀ランプは半導体の露光・焼き付け用に広く使われてきたが、水銀の圧力設計は紫外放射を最適に発光するために調整されており、液晶プロジェクタ用の超高圧水銀ランプに比べると水銀圧力は低い。

図22 フィリップス社製AC点灯方式超高圧水銀ランプ

図23 水銀蒸気圧と分光分布

3. 2 DC点灯方式超高圧水銀ランプの特性例

弊社で開発した、DC点灯の超高圧水銀ランプ諸特性を示す。DC化することで、フリッカの低減とバラストのコストダウンが図れる。発光効率や輝度については、AC点灯と大きな差はない。従来のアーク長2mmのDC250Wメタハラに対し発光部の大きさが断面積で約1/4、輝度は約2倍となっており、光学系によっては、DC250Wメタハラランプと同等以上の照度が150Wで達成できる。

図24 DC点灯方式超高圧水銀ランプ

4 ランプの将来展望

ランプのみに将来展望があるわけではなく、常に光学系やパネルの進歩と歩調を合わせる必要がある。すなわち、今後光学系やパネルがどのように進歩するかで、ランプの将来も大きく左右される。

まず、透過型パネルについて言うと、モバイルを追求した、パネルサイズの小型化があり、それにともなって、アーク長は1mm以下へと確実に短くなると予想される。光源としては、今後とも超高圧水銀ランプが有望である。ただし、明るさには限界があ り、一方では明るさに重視の1:3インチ以上のパネルでの明るさ競争が今後も続くと思われる。この光源としては、超高圧水銀ランプでの高入力化やDCメタハラでの高圧力化が有望と考えられる。

超高圧水銀ランプで、アーク長を短くする場合、ランプ電圧を維持するためには水銀圧力のアップは必至であり破裂に対する信頼性の向上が課題となる。一方、アーク長やランプ電圧を一定に保ち、ランプ電力のアップで照度アップを狙う場合においては、ランプ電流のアップに対する電極設計の見直しが必要だが、寿命や信頼性を維持しながらランプ電力をアップさせるのは今後の技術課題である。

DCメタハラランプの高圧力化については、今回インフォルコムにおいて、M社に弊社DC330Wの高圧タイプメタハラを採用していただいた。環境問題や省エネルギーの観点から、大電力に対する抵抗はあるものの、今後の高照度化(~2000ルーメン)をターゲットとした光源として有望であると考える。また、反射型液晶パネルやDMDに対する光源としても、高輝度と言う特性よりは、ある程度のボリュームの中の全光束量と言う特性が求められる傾向があり、DCメタハラランプが今後も有望と考える。

以上

図25 ランプの将来展望

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