USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.15

特集 放電ランプ

(1998年11月)

第七章/産業への応用
7. 産業への応用

皆さん、東京ディズニーランドの数々のショーをご覧になりましたか、ディズニー映画のキャラクタ達が映像と音響の形で楽しい時問を提供してくれます。街の映画館の映画を見て感動と勇気を得られた経験もお有りでしょう。NHKテレビの紅白歌合戦の歌手の演技に拍手されたことでしょう。また、大阪や沖縄やつくばの万博のパビリオンで大きな映像を通じて太古の世界や21世紀の姿を感じとられたでしょう。これらの楽しい光の送り手はキセノンランプです。キセノンランプはこれらのエンターテイメントの光の世界と超高温材料のランブ加熱の世界まで巾広く応用されています。

7.1 舞台の照明(フォロースポットライト)

私達は舞台に向かって正面を向いて演劇を見て、舞台のエンターテイナーの輝く姿に感動します。このエンターテイナーを引き立てている光は観客席の後ろ上方からの光ビームです。フォロースポットライト、略してスポットライト。昔から若いエンターテイナーにとって、舞台でスポットライトをあびるのが夢なのです。昔のスポットライトの光源はカーボンアークを使い、ニューヨークのミュージカル劇場の舞台を飾っていました。このキセノン化は日本から始まりました、舞台照明のリーダであった小川昇さんとウシオ電機の開発チームはアメリカ製のズームレンズに水平点灯のキセノンランプを組み合わせて、キセノン化第1号機を試作させました。このスポットライトは熱海後楽園の天井桟敷から舞台に向かって照射されました。1966年の事です。

(天羽 弘)

光学系

キセノンフォロースポットライトは、劇場、野外会場の舞台の上に立つ歌手、俳優の正面を照明する舞台照明器具を総称している。

舞台の上にくっきりとピントの合った光ビームを投影するために別称ピンスポットライトと呼ばれている。

照射する距離の長短に対応してキセノンショートアークランプが使用される。350W~4000Wまであり、例えば、照射距離15m以上の場合はXe- 2kW、5m以上は3kWが使用される。

光学系はキセノンショートアークランプを集光ミラーと同じ光軸上に設定される同軸集光系になっている。

ランプからの光は集光ミラーで光軸上の集光点に集められる、この集光点は近くにアイリスシャッターを配置し、ズームレンズによってアイリスの像を舞台上に照射するようになっている。通常、ズームレンズによるビーム直径の変化はズーム比率を変化させて最大約2倍まで可変できる。

光学系の効率としては例えばXe-2kW、でみるとキセノンショートアークランプ(UXL-2000PR)は全光束64,000ルーメンであり、有効光束は14930ルーメン、計算によって23.3%の器具効率となる。

演出機能は先程のズームレンズによるビーム直径を変化させる他に、アイリスシャッタを絞ることでビーム直径を少さくして顔ぬきが行える。さらに除々に照度を低くするためのカッター、さらに暗転に使用するダウサーが装備される。

7.2 投光器(サーチライト)

サーチライトもカーボンアークからキセノンランプ化されました。キセノン軍用サーチライトは探索の目標によって、可視光の明視型サーチライトと近赤外光の暗視サーチライトの2通り応用があります。平行度に優れたキセノンサーチライトは夜空に光の柱を造り、夜のランドマークに成ります。サンマ漁船には3-4台のキセノンサーチライトが装備されて、集魚灯に集まったサンマの群れをサーチライトを操作して網に追い込みます。皆さん、東京ディズニーランドの夜のエンターティメントをご覧に成りましたか、花火が夜空を彩り、キセノンサーチライトの光の群れが踊りを演じます。サーチライトは変化に富んだ応用が有り、次世代の利用のされかたが楽しみです。

(天羽 弘)

光学系

サーチラィトは使用される目的から、遠方照明用と光ビームそのものを見せる照明に分けて考えられる。

遠方照明は漁船において魚群の探索に使用される。光ビームそのものを見せる照明では、イベント会場のランドマーク、光ビームの動きをショーとしてみせるために使用される。

サーチラィトの光学系はパラボラミラーとキセノンショートアークランプの組合せからなっており、ミラーの焦点とランプのア一ク位置の関係を調整することで、拡散、平行、集光の状態の光ビームをつくりだせる。

サーチライトはどれ位の平行度合なのか、またどれ位の明るさなのかは計算で求めることができる。平行度合は光柱角で表わし光ビームの明るさは最大光度で表示される。

7.3 映写用ランプハウス

かつては、カーボンアークを光源とした映画館の映写用ランプハウスもキセノンランプ化されました。ウシオ電機が開発した水平点灯キセノンランプと深型楕円ミラーを備えたランプハウスはフィルムの色彩も鮮やかで、キセノンランプの安定したアークは自動映写を可能にしました。私達は映画館や万博パビリオンの大きな画面を通じて、異次元の世界を感じたり、様々の人生を知る事で心を豊かにしてくれるでしょう。

(天羽 弘)

光学系

キセノンショートアークランプは映画フィルムの映写用の光源として採用され、16mm、35mm、70mmなどの映画フィルム映写するのに好適である。

キセノンショートアークランプは安定な演色性が得られるために映画フィルムのどの様な色も映写することができる。

映画を明るく映写するには映写装置のアパーチャにいかに多くの光を通過させるかで決まる。そのために、キセノンショートアークランプと同軸に回転楕円鏡を配し、磁石でアークを安定させる方法が開発されて以来、キセノンショートアークランプは急速にカーボンアークに代替されてきた。

7.4 アークイメージ炉

キセノンランプのアークを光学系でアーク像を空間に結像させた状態がアークイメージです。紫外から赤外までの連続した波長の集光した光エネルギーです。かって、フランス、アメリカにつずき日本において、太陽炉の研究のためにアークイメージ炉が多く使われました。しかし、省エネルギーの意識低下と地上の太陽光のあいまいさと付き合える技術が確立しなかったので、太陽炉研究は下火になっていました。ここに来て、クリーンエネルギーの必要性が求められて、再び大陽炉研究が行われようとしています。アークイメージ炉も再び使われる事になるでしょう。航空宇宙材料の高温の評価は大型キセノンランプ30kWを使用したアークイメージ炉によって行われています。

(天羽 弘)

光学系

光源

加熱温度が1800°C以下の場合はハロゲンランプが使えます。1800°C以上になりますとキセノンランプを使用する必要があります。

光学系

ミラー組合せの倍率によって最高加熱温度と加熱面積が異なってきます。キセノンランプ10Kwの例で光学系の設計を変えることで温度と面積の変化の様子を示します。

7.5 多目的灯具「オプティカルモジュレックス」

灯具の設計において、ショートアークランプは発光部が極めて小さいため、ランプ自体の発光を集光、拡散、平行と、各々の目的に応じた配光制御が比較的容易に行える。

今回、新しく商品化した多目的灯具「OPTICALMODULEX」は、ランプの後部配光をミラーにより補足し、前方配光をレンズにて一点に集光させる一般的な構造であり、灯具としての光学系は特に変わった点はない。従ってここでの説明は、技術的見地からの開発問題ではなく、既知の技術をどの様に商品化したかを説明する。

7.5.1 商品化の意図

1台の灯具で集光、拡散、平行のすべてを具現できれば、ユーザサイドから見れば大変便利である。しかし、メーカサイドから見れば、仕様が複雑となり、受注納期が長くなり、かつ高価になる。従ってメーカとしては、需要が多い平行光の仕様で販売せざるを得なくなる。平行光以外の仕様要求があった場合、特注品として対応することになる。一般に、特注品は価格が高く、納期も長期化する。

そのような理由で、メーカとしては止むを得ないことであるが、ランプが標準化(受注から納品に至る流通システムまで含めて)されているにもかかわらず、灯具の方が一種類しかなく、他はすべて特注品対応となっているのが実情である。はなはだしい場合は受注を断るなど、時としてメーカの一方的事情を市場に押しつけるケースさえある。

この様な状況を無くす意図のもとに、ユーザとメーカ双方にメリットのある灯具を商品化することにした。

その特徴は

  • ①構造をユニット化することにより多岐にわたるユーザの希望を組立調整段階で実現させられる。(その都度設計をしないため、特注扱いとならず、短納期対応を可能とした)
  • ②光の射出は、コリメータレンズ仕様とファイバ仕様が、同一灯具で可能とした。(従来は各々に専用光源装置を必要とした)
  • ③パーツの主要部分をアルミ成形品(押出材)にしたため、寸法決定の自由度が増し、光路長の変更に自由に対応できる。(従来品では鋳物系による構造のため、変更は不可能であった)
  • ④構造上のレイアウトとしては、レンズによる集光系も楕円ミラーによる集光系も、灯具の高さ寸法を変更するだけで、横幅、奥行共に同寸法で製作が可能のため、灯具のシステム性が向上している。

7.5.2 灯具の構成

光学系

(1)光軸合わせの工夫

光学系としては、従来の既知の技術を応用しているので特に新しい点はない。ユーザにとってわずらわしいことは、ランプ交換を行う毎に光軸合わせをしなければならないことである。本来は光軸合わせの不要が望ましい。この灯具の工夫として、ランプの支持方法に特徴がある。(図7-1参照)

専用ランプ(アーク中心から電極口金部までの寸法をランプの種類、ワット数に関係なく一定寸法にした)を使用することにより、光軸合わせが非常に簡単になった。ただし、ランプ及び灯具の製作上のバラツキを補正する目的で、簡易な微調整型の芯出桟構を設けた。

図7-1

(2)コンデンサレンズのスライド方式

①バックミラータイプ

ランプのアーク中心とコンデンサレンズによる集光点(ピンホールマスクが設置されている)を定寸固定とし、コンデンサレンズのみランプに対して移動できる構造とした。

目的はピンホールを通過する光束を可変とすることにより、明るさ(照度)、均一度等を変化させるためである。

データ(例)
・500Wキセノンショートアークランプ
・コリメータレンズ先端より100mmの位置にて
 照度 5万~70万ルクス
 均一度 20~80%

②空冷方式

ランプの表面温度が過冷却にならずに上・下口金部を冷却しなければならない。そのため、この灯具では、強空冷ファンに若干の工夫がしてある。

ファンの気流を直接ランプにあてた場合、500Wキセノンショートアークランプでは、発光部のガラス表面 が 380°C 、口金部 が 120°Cとなる。これを図7-2の構造にしたことにより、各々650°C、180°Cを得ている。

図7-2

③イグナイタの内蔵

イグナイタを灯具内に組み込むと、灯具とランプが固定的な関係になるが、灯具外での高圧結線が不要となる。この灯具では使用者の安全性、便利性を優先さるために、イグナイタ内蔵とした。

ユーザにとって使いやすく、またメーカにとっては作りやすい観点に立って商品化された新しい多目的灯具「OPTICAL MODULEX」について説明したが、この灯具のユニット部は産業用各種光源装置にも使用され、納期の短縮、価格の低下などから、その応用範囲も広がりつつある。今後とも、小型、高性能化への改良を更に追求して行きたいと考えている。

(吉田祐光)

■参考資料

7.6 分割投影露光装置「UX-5023SM」

BGA、CSP、MCMで用いられるビルドアップ法によるプリント配線板の露光を主目的とした分割投影露光装置「UX-5023SM」の特徴を、従来方式である一括密着露光装置、プロキシミティ露光装置との比較で説明する。

7.6.1 開発動向

携帯電話、モバイルパソコンなどの移動体通信機器の発展に伴い、これらに使用されるプリント配線板は、高密度化・小形化が進んでいる。このような技術動向により、実装技術は、BGA、CSP、MCMなどの新たな実装形態へと発展し、その中でビルドアップ法の役割が大きくなっている。

当社では、このような高密度化、小形化の流れに対応するべく、TAB市場、半導体市場で実績のある投影露光方式を採用したプリント配線板用分割投影露光装置「UX-5023SM」を開発した。

以下に、本機の特徴、今後の方向について述べる。

7.6.2 特徴および仕様

UX-5023SMの主要な仕様を表7-1、外観を写真7-1に示す。本装置の特徴は、以下の通りである。

  • ①有効露光範囲Φ150mm、解像力9µm、倍率1:1のテレセントリックレンズを使用している。
  • ②1ショット最大□106mm、または、Φ150mmの内接する長方形の露光を行う。
  • ③各ショット毎に、アライメント精度±3µmの画像処理オートアライメントを行う。
  • ④最大250x250mmのプリント配線板の露光が可能である。

以下に、詳細を述べる。

写真7-1 分割投影露光装置「UX-5038SM」

表7-1 UX-5023SM主要仕様

(1)マスクダメージのない深い焦点深度の投影露光方式

①従来のプリント配線板に使用される露光方式は、発散光による密着露光、あるいは平行光によるプロキシミティ露光であった。これら従来の露光方式では、マスクにレジストなどの異物が付着し、プリント配線板のパターン欠損による歩留り低下が問題となっていた。ところが、投影露光方式では、マスクとワーク(プリント配線板)が、投影レンズを介し完全に分離されているため(図7-3)、前述のパターン欠損は皆無となる。

また、密着露光方式あるいはプロキシミティ露光方式では、パターン欠損を回避するため、ひんぱんにマスクの洗浄が必要になり、生産性低下、マスクダメージによるランニングコストの上昇が問題であった。投影露光方式では、マスク洗浄は不要となり、マスクは半永久的に使用可能となる。これは、ビルドアップ基板に求められるファインパターンで、高価な石英マスクを使用できることを意味している。

②投影露光方式は焦点深度が深い(±50~100µm程度)という特徴も持つ。これは、パターン形成やビアホール形成に使用するドライフィルム、液状レジストなどの厚膜レジストを露光する場合有効である。なお、この特徴は、プリント配線板につきものの、反り、うねりに対応しやすいことも意味している。ドライフィルムを例にした焦点深度のデータを、写真7-2に示す。

③1:1テレセントリックレンズを使うということは、マスクの原画パターンを1:1の等倍で、ワークに結像させること、ワークに入射する光は平行光であることを意味している。

図7-3

写真7-2 焦点位置によるパターンプロファイルの変化

(2)ファインパターンの重ね合わせ露光に対応した分割露光方式

①従来の密着露光方式、プロキシミティ露光方式では、大形のプリント配線板を、全面一括で露光する方式がとられてきた。これは、生産効率を考えれば当然の処理方法であった。

ところが、ビルドアップ基板では、高密度化対応でΦ40~50µmのビアホール形成、30~50µmLSの配線パターン形成が求められている。これらのファインパターンを重ね合わせる際のアライメント(位置決め)精度が、従来の一括露光方式では大きな問題となってくる。なぜならば、プリント配線板では、プロセス上の問題により、基板が100µm以上伸び縮みすることが知られており、この大きな伸縮のある基板で、Φ50µmのビアホールを精度よく位置決めし、露光することは、従来の一括露光方式では困難だからである。

そこで、分割露光という手法が意味をもってくる。

大形のプリント配線板全体では、100µm以上ある伸縮も、小さいエリアに限定して見た場合には、伸縮は大幅に軽減される。つまり、基板の伸縮にほとんど影響を受けない小さいエリア(~□106mm)で位置決めし、そのエリアだけを露光することで、この問題は解決される。ワークステージをX-Y方向に駆動させ、繰り返し位置決め~露光を行い、プリント配線板の全面を露光する方式が、分割露光方式である。(図7-4)。

②UX-5023SMの場合、投影露光方式を採用しているため、1ショットの露光エリア内で、プリント配線板の伸縮に対応して、最大±0.1%の倍率変更(ズーム調整)も可能である。

図7-4 分割投影露光方式と一括プロキシミティ方式の比較

(3)独自のアライメント方式

従来の密着露光方式、プロキシミティ露光方式では、マスク―ワーク間の干渉稿とワークのアライメントマークをマスク越しに観察することで、ワークのアライメントマークのコントラスト低下が、アライメント精度に影響を与えていた。

ところが、UX-5023SMでは、独自のTTL 非露光波長アライメント方式(図7-5)を採用しているため、ワークマークをCCDカメラで、ダイレクトに観察できるようになり、鮮明なワークマークで、高精度なアライメントを実現している。

また、この方式では、マスクの大半が遮光のため黒く塗り潰されているケースでも、ワークマークを問題なく認識できる。

図7-5 TTL非露光波長アライメント方式

(4)キーパーツ内製による信頼性向上

前述の投影レンズを含め、半導体市場、液晶市場で実績のあるランプ、ランプ電源、ランプハウスなど、露光装置に必要不可欠なキーパーツをすべて内製しており、装置全体での保証ができ、高い信頼性を確保している。

7.6.3 課題と今後の方向

ここまで、UX-5023SMの特徴、優位性を述べてきたが、課題がないわけではない。それは、分割露光のため、一括露光に比べ、処理スピード(スループット)が遅くなることである。高スループット化の一環として、有効露光範囲Φ200mmの投影レンズ(UPL-38EX)を搭載した新バージョン装置「UX-5038SM」を現在開発中である。UX-5038SMは、500x600mmのプリント配線板を、12ショットで位置決め~露光する。各ショットをオートアライメントで位置決めすることで、露光時間を除き、1分/枚のスループットを目標にしている。

また、さらなる1ショット当たりの露光範囲の拡大、高解像力化、高アライメント精度化などの要求も今後高まってこよう。これら市場ニーズを先取りし、早め、早めの開発を行うよう努力していきたい。

7.6.4 ロールtoロール基板への対応

なお、これまで、リジッド基板用装置の話をしてきたが、T-BGAを主要としたロール材(FPC)の露光装置の引き合いも増えてきた。リジッド基板同様、露光方式に投影露光方式を採用し、搬送にはロールto ロールで自動搬送するタイプ「UX-4023SR」もラインナップとして揃えている(写真7-3、表7-2)。

(土屋純一)

写真7-3 ロール to ロール基板用投影露光装置「UX-4023SR」

表7-2 UX-4023SR主要仕様

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