光技術情報誌「ライトエッジ」No.16
Jampiaジャーナル/1998年11月号
(1999年3月)
アメリカ映画館の今昔(1)
ウシオ電気株式会社
第一事業部 技術2課
課長 吉良健裕
10年程前に映画館用キセノンランプの市場調査目的で約2年間、映画のメッカであるロスアンゼルスに駐在していました。又昨年3月と今年7月にも、全米映画館の市場調査を行ってきました。
この時のアメリカ映画館の状況と最近の日本の映画館について述べたいと思います。10年前というと、日本はバブル期で日本の各企業がアメリカに進出していました。そして不動産を買いあさっていた頃です。また私が駐在していた時に昭和天皇が崩御されました。
その当時、既に映画産業はテレビやビデオに押され斜陽産業でした。当時の入場料は$3~$4ぐらいが普通でした。
ロスアンゼルスのダウンタウンにはスペイン語の深夜映画館があり、入場料が$1ほどであるためホームレスの人達が一晩明かす宿にしていました。映画館の中は当然汚く座席もすわると服が汚れそうで、便所の臭いもひどく我慢ができないくらいでした。大便用は治安のためドアーがなく、用をたしている黒人が丸見えでびっくりしました。このような映画館へ行く時は背広ではなくTシャツ、ジーンズ、スニーカーと典型的なアメリカンスタイルで出かけたものです。
これら低価格の映画館で使用されているランプは1kW、1.6kWランプで画面のちらつきや照度に関係なく点灯しなくなるまで使うという状況でした。又地方に行くとカーボンアークのプロジェクターを改造したもの、といってもカーボンの装置を取外してそこにキセノンランプを取付けたものでした。そのために冷却不足によるランプ不良が多発していました。当時の映画館は斜陽産業のため、客席も空席が目立っていました。
さて話を現代に戻してみましょう。ここ数年、アメリカの映画産業は非常に活気を帯びてきました。その原因は次のような理由です。
- 1. エキサイティングな映画が上映されていること。
お金と時間と最新技術を使ったおもしろい映画が上映されていることです。 - 2. 音響効果がすばらしく立体感に富んでいること。
- 3. 映画館が豪華になったこと。
従来の座席は貧弱なシートでしたが、今はクッションが良く、背もたれが高く、リクライニング化され、肘置き、カップ置きなどが付いて便利になったことです。 - 4. コンプレックス映画館が増え集客率が高くなったこと。
コンプレックス映画館とは一つの建屋の中に多数の小さな映画館があるシステムです。映画館の数は少ないもで10館、多いもので30館ぐらいです。この映画館は普通ショッピングモールの中にあり、買物帰りあるいは奥さんが買物中に主人と子供が映画を観るという具合で観客数が増えています。観客にとっては入口で入場料を一回払えば時間さえあれば好きな映画を“はしご”できるわけです。写真は映画館の外観です。
(つづく)
アメリカ映画館の今昔(2)
ウシオ電気株式会社
第一事業部 技術2課
課長 吉良健裕
さてコンプレックス映画館が成功した理由について詳しく述べてみましょう。
まずはショッピングセンターに設置した事による集客力です。次にプラッターの採用です。それまではひとつの上映に数巻のフィルムを使用して、上映後はその都度映写技師が巻き戻しを行っていました。このプラッターにより長尺フィルムを採用でき、30台ものプロジェクターを一人の映写技師で管理できるようになりまた。つまりコストダウンができたわけです。また復数館が同じ映画も時間をずらして上映できるため、観客にとってはいつ行っても最初から映画を観られる事です。又観客が多い場合は一つのフィルムを数台のプロジェクターにながして同じ映画を同時に幾つもの映画館で上映できるため、観客は座ってゆっくり観られる事です。観客が多いと入場料の収入以上にコーラやポップコーンの売上げが上がる事も増収の要因です。写真はこの売店の様子です。このように観客、映画館にとって共に便利になり、週末には映画館を一周りも二周りもして、数時間待ってでも映画を観るというほど繁盛しています。
次に日本の映画館について述べてみます。日本では繁華街など人々が集まる所にロードショウ館があるのが今までのパターンでした。しかし最近ではアメリカと同じ様に大きな駐車場を備えたコンプレックス映画館が郊外に設立されてきました。料金面でも毎月1日や毎週特定曜日のレディースディ、あるいはラストショウなどが割引で安くなっています。このような割引き日には観客が多いと聞いています。私も毎月割引きのあるラストショウには妻と一緒にコンプレックス映画館に出かけ、気に入った映画を観ます。ラストショウは9時づらいから始まるため、夕食後落着いてから観に行くのにちょうど良い時間です。映画が終わると12時近くになりますが、満席状態です。このように日本も上映形態が変わって観客が戻ってきた様です。
最後に未来の映画館はどうなるか述べてみます。最近液晶などの素子を利用したビデオプロジェクターが目覚しい発展をとげています。今は会議などのプレゼンに使用されています。今後は大型プロジェクターが開発され、劇場用も近い将来商品化されるでしょう。このビデオプロジェクターを利用して配給映画を人工衛星から受信し、それをビデオプロジェクターで上映するようになると思われます。このシステムが完成すればフィルムが不要になり、編集作業も簡略され撮影から上映までの期間と人員が節約され大幅に映画産業が改革されると思います。
(おわり)