光技術情報誌「ライトエッジ」No.17
オプトニューズ ’99/No.2[1999年3月31日]
(1999年7月)
プロジェクタ用ランプの種類と変遷
ウシオ電機株式会社 東 忠利
プロジェクタキーパーツ ―高効率長寿命ランプ―
大画面表示装置の中で比較的手軽なのは、小型画像をレンズで拡大投写するプロジェクタである。その方式には、スクリーン前面から投写するフロントプロジェクタとスクリーン背面から投写するリアプロジェクタがある。
リアプロジェクタは一体の箱型で、主として米国の家庭でテレビとして使用されている。拡大後の輝度を確保するために、高輝度の赤色・緑色・青色発光CRT(ブラウン管)3本の画像を3個のレンズで拡大し、スクリーン上で重ねあわせて画像表示を行っている。
フロントプロジェクタも当初は3管CRT 方式であったが、3色の画像合わせが難しく重いため、固定設置して使用していた。その後登場した液晶プロジェクタは、3色画像を合成した後1 レンズで拡大する方式で軽量なため、気軽に設置し使用できる利点がある。ただ当初は、画素数が少ない、暗い、液晶を光らせるランプ寿命が短い、などCRT より劣る点があった。
この数年、プロジェクタを構成するランプ・表示デバイス・光学系・スクリーンなどキーパーツの特性が急速に向上し、解像度・明るさ共ほぼ満足できる水準に達した。たとえば、XGA 表示型で97年は400~600lmの明るさが普通であったが、99年は1,200~14,00lmとなっている。その結果パソコンの普及とも相俟ってデータプロジェクトタとしての需要が増大し、急激に市場を拡大して、平成10年の液晶プロジェクタ需要は、全世界で約50万台、日本国内需要は約5 万台となっている。
そこで今回、液晶以外の非発光デバイスにも必須な高効率長寿命ランプの動向について超高圧水銀ランプを中心に国内主要メーカに寄稿して頂いた。
【光産業動向調査委員会・ディスプレイ調査専門委員会】
1. はしがき
液晶プロジェクタが1989年に商品化されてから10年が経ったが、その間における液晶パネル、光学系、光源の発達はめざましいものがあり、液晶プロジェクタの解像度とスクリーン光束が画期的に向上した。またp-Si 形液晶パネルの実用化による液晶パネルの小形化と光源の短アーク化とによりプロジェクタの小形化も進んでいる。光学系の発達によりスクリーン上の照度均一性、光色の一様性などの特性も著しく向上した。
この10年の間に、液晶プロジェクタ用光源はショートアーク交流点灯型メタルハライドランプの利用から始まり、直流点灯型メタルハライドランプや超高圧水銀ランプの開発など著しく進歩している。
2. プロジェクタ用光源の概略
(1) ハロゲンランプ
白熱電球の一種であるハロゲンランプは、小形、軽量、低価格や色の再現性などに特長があるが、低効率と低輝度という欠点があり、とくに低価格のプロジェクタに使用されている。100V電圧用の300W~500W程度のランプや12V または24V 電圧用の50W~150W程度のランプが使用される。
図1 に光学機器用ハロゲンランプの外観例を示し、図2 に色温度3400K の高輝度型ハロゲンランプの分光分布を示す。
(2)キセノンランプ
キセノンランプは高輝度と色の良さ、ほとんど任意の電力のランプが製造できるなどの特長があるが、低効率と高価格の欠点があり、他のランプを使用しがたい反射形画像パネルを利用した大出力プロジェクタ用に主に使用されている。
プロジェクタに使用されるショートアークキセノンランプには400W~1,000W入力電力のセラミック製キセノンランプと1kW~7kWの石英ガラス製キセノンランプとがある。セラミック製キセノンランプは反射鏡を内蔵しており、小形であることと破裂の恐れがない特長がある。
図3(a)にセラミック製キセノンランプの断面構造を示し、図3(b)に2kW級石英ガラス製キセノンランプの外観を示す。図4 は点灯時アーク長3mm の1.6kWキセノンランプの分光分布である。
(3)メタルハライドランプ
ショートアーク形のメタルハライドランプは高効率と高演色性の光源なので、液晶プロジェクタが初めて商品化された時から標準的な光源として使用されてきた。当初はアーク長5mm 程度の交流点灯型メタルハライドランプが使用されていたが、交流点灯型ランプは短アーク化や大電力化したとき非常に短寿命になる欠点があるため、短アーク化や大電力化が比較的容易な直流点灯型ランプが開発された。1、2)。この数年は250W~280Wランプでアーク長が1.6~2.3mm、150Wランプでアーク長が1.5mm の直流点灯型メタルハライドランプが開発されて、液晶プロジェクタの中心的な光源として使用されてきた。
直流点灯型では125W、150W、250W~280W、330W、350W~400Wなどのランプが製品化され、また、交流点灯型では150W、250W、400Wなどが製品化されている。交流点灯型メタルハライドランプには初期効率が高い特長がある。
図5 に反射鏡付きの直流点灯メタルハライドランプの構造例を示す。図6 はアーク長1.6mmの280W直流点灯メタルハライドランプの分光分布例である。
(4)超高圧水銀ランプ
水銀ランプの点灯時の水銀蒸気圧を約100気圧以上に高めると、赤成分を含めた連続スペクトル成分が増大し、色温度8000K 程度の高輝度光源が得られる。この色温度と高輝度とはプロジェクタ用光源に適したものであり、超高圧水銀ランプの生産技術が当初フィリップス社により開発された3)。その後、国内メーカーも生産技術を開発し、現在はアーク長1.3mm程度で入力電力100W、120W、150Wなどのプロジェクタ用超高圧水銀ランプが製品化された。
100W超高圧水銀ランプは5,000時間以上の長寿命が得られるので箱形リアプロジェクタに適しており、120W、150Wランプはやや寿命が短く、スクリーン光束が1000lm前後の可搬型プロジェクタに適している。150Wランプは国内メーカーが生産しており、交流点灯型ランプと直流点灯型ランプとがある。交流型、直流型の超高圧水銀ランプのランプ構造はショートアーク形メタルハライドランプの交流型および直流型のそれとほとんど同じである。
図7 に直流点灯型150W超高圧水銀ランプの分光分布の例を示す4)。
3. 主な光源の変遷
1980年代の液晶プロジェクタ研究開発期には光源として主にハロゲンランプやキセノンランプが利用されたが、89年の液晶プロジェクタ製品化時点ではショートアーク形のメタルハライドランプが開発され、標準的な光源として短形波交流点灯型のメタルハライドランプが利用された。その後、短アーク化の要求や高電力化の要求に対して交流点灯型メタルハライドランプでは短寿命化が著しいため、これらの要求に対応しやすいランプとして直流点灯型メタルハライドランプが94年に開発・製品化され、95年~98年の間は液晶プロジェクタ用光源の中心的なランプとして使用されてきた。
さらに95 年には超高圧水銀ランプが開発されたが、当初は量産性に問題があり普及が遅れた。98年からは国内メーカー数社の生産も始まったため徐々に生産量が増大しており、1999年以降はプロジェクタの中心的な光源になる見込みである。
しかし超高圧水銀ランプは、少なくとも当面はランプ出力に限界があり(現在100W~150W)、大スクリーン光束を得られるランプとしてメタルハライドランプ(330W~575W)が、さらに高い光束を得るためのランプとしてキセノンランプ(1kW~7kW)が使用される見込みである。またプロジェクタの商品コンセプトによっては、今後も安価なハロゲンランプや小ワットのメタルハライドランプも使用されるであろう。
4. 将来の課題
プロジェクタ用超高圧水銀ランプの出現で、光利用効率が著しく向上した。今後の課題は超高圧水銀ランプに関しては10,000時間以上への長寿命化、多種定格ランプの開発、コストダウンなどである。メタルハライドランプについては330W以上の光出力ランプのさらなる高光輝度化と3,000時間程度の寿命確保が課題である。
今後、投写形映像機器は画像表示パネル、光学系、光源の低価格化による投写形TVへの本格的な展開により年産規模数百万台への拡大も期待される。因みに98年の液晶プロジェクタの生産量は約50万台とされている。