USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.18

日本分光学会「第35回夏期セミナー」(1999年7月)

(2000年3月)

エキシマランプ

ウシオ電機株式会社 松野博光

1. はじめに

光化学反応の応用は、半導体製造やLCD製造プロセスにおけるドライ洗浄、光CVD、プラスチックスの表面改質等において、既に実用化されている。これらの光化学反応用光源には以下の特性が要求される。

  • (1)それぞれの光化学反応に対応する特定の波長範囲(紫外および真空紫外領域が多い)にだけ放射を有する。
  • (2)電気から光への変換効率高い。
  • (3)小形で扱い易い。

しかし、既に実用化されているランプやレーザでは上記の特性を必ずしも満足できない。

従来の放電ランプは原子スペクトル、分子スペクトルあるいは再結合放射の何れかを利用しているのに対して、エキシマランプは、エキシマの発光を利用しているので従来のランプでは発生出来ない波長の光を発生できる。特に、真空紫外領域の光を単色光状に発生することが出来るので、上記(1)の要求を満すことができる。さらに、エキシマ励起用の放電を適当に選択することにより、(2)(3)の要求も満足することが出来る。

上記した背景のもとに、種々のエキシマランプの開発が進められてきたが、本報告では、我々が開発した誘電体パリア放電励起エキシマランブを主にして、エキシマランプとエキシマ光照射装置について述べる。

2. エキシマランプ励起用放電

放電励起におけるエキシマの生成には3体衝突励起過程が重要な役割していることが多く、効率の良いエキシマの生成を得るには、放電用カスは数kPa以上の圧力が必要である。また、放電電力のエキシマ光への変換効率は約10%から数10%程度と考えられるので、実用的な光量を得るためには放電電力密度は大雑把に0.1Wcm-3以上必要である。

実用的なエキシマランプのエキシマ励起放電に要求される第一の条件は、上記の条件で安定な放電が出来ることである。また、ハロゲンガスを利用する場合には、放電空間内に金属の電極が無い方が良い。これらの条件を勘案して、エキシマ励起用放電として、現在、(1)誘電体バリア放電、1)2)3)(2)マイクロ波無電極放電、4)5)6)7)(3)ガスジェット放電8)、(4)ホローカソード放電9)などが検討されている。

3. マイクロ波放電励起、ガスジエット放電励起
およびホローカソード放電励起のエキシマランプ

3.1 マイクロ波無電極放電励起工キシマランプ

マイクロ波放電励起エキシマランプは、誘電体バリア放電励起エキシマランプに比較し、高い放射輝度が得られるという特長がある。

直径30mmの球形放電管を使用して、中心波長248nmのKrF*エキシマ光が平均で56W(効率にすると8.3%)4)、中心波長193nmのArF*エキシマ光が平均で29W(効率4.4%)が得られている。5)マイクロ波励起の真空紫外フッ素ランプも検討されており、157nmを中心とする真空紫外光が、出力18.9W、効率6.2%で得られている。6)

また、直径8mm、長さ250mmの放電管を用い、マイクロ波共振器内に集光ミラーを装備したエキシマランプ装置が開発されている。200×10mmの範囲において、308nm エキシマ光の放射照度は200mWcm-2である。7)

3.2 ガスジエット放電励起エキシマランプ8)

真空中にノズルから希ガスを噴射すると、断熱膨張で希ガスが極低温まで冷却され、van der waals力によって結合した希ガスクラスタが生成される。この希ガスクラスタを放電で励起すると直接エキシマが生成される。Xeガスジェットを、直径0.5mmの針状タングステン陰極とノズル間の放電で励起することにより、Xe2*エキシマ光が効率3.0%でl.2W得られていう。

3.3 ホローカソード放電励起エキシマランプ9)

電極構成を直径100µmのホローカソードと平板状の陽極を200µmの間隔で対向させた方式にし、放電用ガスとしては100kPa程度のArおよびXeを使用し、1W程度の電力で直流放電を行うことにより、Ar2*エキシマ光(130nm)およびXe2*エキシマ光(170nm)を発光させている。実験は1 対の電極を使用して行っているが、この微小ホローカソードを平面に多数個配置することにより、平板型のエキシマ光源が出来るとしている。

4. 誘電体バリア放電励起エキシマランブの特性

4.1 ランプの概要

誘電体バリア放電は、オゾン生成用として古くから使用されており、別名、オゾナイザ放電あるいは無声放電として知られている。図1の概略図に、誘電体バリア放電励起エキシマランプの一例を示す。3)管径の大きな外側誘電体管の中に内側誘電体管を同軸に挿入し、両端を閉じて環状の放電空間を形成し、内側管の内面と外側管の外面に電極を設ける。

電極間に電圧を印加すると、2枚の誘電体を通して放電空間に電圧が印加され、この電圧が放電空間の放電破壊電圧になると放電が発生する。放電路に直列に、かつ放電空間に接して誘電体が挿入されているので、放電プラズマは、放電路に直角方向の空間的な広がりが制限され、かつ、時間的な進展も制限される。従って、放電の持続時間が数十nsで、直径が0.1mm程度の放電プラズマが放電空間に多数発生する。

図1(a)は、外側誘電体管を石英ガラスにし、外側電極を光透過性の金属網にして、外側管の側面から光を取り出す方式にした管状エキシマランプである。

管状の誘電体を平板状にして平板状の放電空間を形成することにより、平板型ランプが得られる。10)11)

図1(b)は、内側誘電体管と内側電極を光透過性にして、内側管の内側に光を放出する方式のエキシマランプで、被照射物が線状あるいは流体である場合には光を効率よく利用できる。

図1(c)は、ランプの一端に光取り出し窓を設け、放電路と直角方向に光を取り出す方式の、所謂、へツドオン型ランプである。エキシマ光は自己吸収が無いので、このように奥行きの深いプラズマからの光取り出しが可能になり、高輝度のランプが実現できる。

以上のように、誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプは形状の自由度が大きく、用途に応じて形状を選択することが出来るという利点がある。

図1 誘電体バリア放電励起エキシマランプの構造例

4.2 光出力特性

図2に、Xe2*エキシマランプの分光スペクトルを示す。3)試料ランプは、図1(a)に示した直径25mmの管状ランプで、放電ギヤップ長は約5mm、放電用ガスは40kPa のXe ガス、放電電力密度は約0.5Wcm-3である。中心波長が172nmで半値全幅が約14nmであるXe2*エキシマ光が単色光的に得られた。エキシマ光以外の発光は非常に少なく、可視光領域における単位波長当たりの発光強度は、エキシマ光の千分の一程度である。エキシマ光の発生効率は約10%である。

図3に、Ar2*、Kr2*およびXe2*へッドオン型エキシマランプの分光スペクトルを示す。12)試料ランプは、放電領域の長さは100mmで、ランプ電力は約20Wである。比較のために、30Wの重水素ランプのスペクトルも示した。

エキシマ光の中心波長入および半値全幅△ λは、Ar2*ではλ=126nm、△ λ=10nm、Kr2*ランプではλ=146nm、△ λ=13nm、Xe2*ランブではλ=172nm、△ λ=14nm が得られた。

中心波長が222nmで半値全幅が約2nmであるKrCl*エキシマ光、中心波長が308nmで半値全幅が約2nmであるXeCl*エキシマ光も得られている。これらのランプの可視光領域における単位波長当たりの発光強度は、エキシマ光の百分の一程度である。

放電管は図1(a)の管状ランプ、放電用ガスは希ガスとCl2の混合ガス、管壁負荷は0.1~0.5Wcm-2の範囲という条件において、換算電界強度E/pと電気入力のエキシマ光への変換効率との関係が調べられている。その結果を図4に示す。13)電界強度E は、実測した放電維持電圧を放電ギャップ長dで除したもので、E/pは放電ギャップ長dと放電ガスの圧力pを変えることよって変化させた。放電ギャップ長dと放電ガスの圧力pを変えてE/pの最適化を図ることにより、容易に効率を最大に出来る。

誘電体バリア放電励起Xe2*エキシマランプのエキシマ光の出力波形を図5に示す。14)点灯電源電圧は、正弦波状で、周波数は約20kHzである。光出力には鋭いピークと数µsの休止期間があるが、光出力の平均値に対する最大値の比は3.7である。エキシマレーザにおけるこの比は105程度であることと比較すると、この比は著しく小さい。

図2 Xe2*エキシマランプの分光分布

図3 希ガスエキシマランプの分光分布

図4 誘電体バリア放電励起エキシマランプにおける換算電界E/pと発光効率の関係

図5 誘電体バリア放電励起エキシマランプの光出力波形

4.3 大面積真空紫外平面光源

図6の概略図に示ように、円筒型Xe2*エキシマランプを複数本並べることにより、容易に、高出力・大面積の真空紫外平面光源を得ることが出来る。15)16)全ランプ電力200W、光取り出し窓の直径230mm の真空紫外平面光源では、Xe2*エキシマ光の全出力は約9W、照射窓面における平均放射発散度は16mWcm-2が得られている。照射窓面における放射発散度のむらは、±10%以下である。

さらに、LCD基板の乾式洗浄用として、580mm×680mmの光取り出し窓を有する真空紫外平面光源も開発されており、Xe2*エキシマ光の出力は約45Wが得られている。

以上のように、真空紫外光の全出力としては、真空紫外エキシマレーザの出力に相当する出力を比較的簡単に得ることが出来る。

図6 平面型真空紫外エキシマ光照射装置

5. おわりに

誘電体バリア放電を励起源としたAr2(* 126nm)、Kr2(* 146nm)、Xe2(* 172nm)、KrCl*(222nm)およびXeCl* (308nm)エキシマランプが実用化されており、これらのランプの効率は約10%で、単色光を放出するという特徴があり、種々の分野で使用され始めている。

応用のほんの一例を挙げれば、Xe2*エキシマランプを使用したUV/O3 洗浄17)18)19)、InGaAsおよびInAIAsの光選択エッチング20)、プラスチックのエッチング21)22)、SiO223)24)25)26)の成膜、Si3N427)の成膜、プラスチックスの表面改質としてはフッ素樹脂28)、PPS、PET、PBT、PC29)などがある。特に、Xe2*エキシマランプを使用した大面積真空紫外平面光源は、UV/O3洗浄用として実用の段階に入っている。

今後も、エキシマの発光を利用した新しいランプの開発と、その応用の研究が進められると考えられる。

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