USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.18(2000年3月発行)

第11回環瀬戸内光源研究会

(1999年7月)

希ガス蛍光ランプにおけるVUV光の
変換効率の見積もり

吉岡正樹、溝尻貴文
技術研究所 応用開発部
ウシオ電機株式会社
〒671-0224 姫路市別所町佐土1194
An estimation of conversion efficiency of electric power to VUV radiation
in rare gas fluorescent lamps
Masaki Yoshioka and Takafumi Mizojiri
R&D Center, USHIO Inc.
1194 Sazuchi, Bessho-cho, Himeji, 671-0224 Japan
E-mail:yoshioms@mail.ushio.co.jp

ABSTRACT

Conversion efficiency of electric power to VUV radiation in rare gas fluorescent lamps applied by sine wave voltage can be estimated from total luminous flux, escaping flux ratio from an aperture and quantum efficiency QL of phosphor. In case of adopting the value of 0.68 as tentative inner quantum efficiency Q2 of LAP(LaPO4:Ce3+,Tb3+)in 172nm region, the conversion efficiency was 0.26. This value is comparable to the previous results of other group. The validity of this value is discussed in this report.

Keywords: xenon, excimer, fluorescent lamp, VUV, phosphor

1. はじめに

長年にわたり、複写機(PPC)の読み取り用光源としては、ハロゲンランプが利用されてきた。ハロゲンランプは、近赤外域にピークを有し、可視領域に連続発光をもたらすことから、現在でも原稿の色再現性を求められるニーズの読み取り用光源としては優れた光源である。しかし、近年のデジタル化の流れから、受光素子として、感光性ドラムからCCDが利用されるようになり、読み取りに必要な絶対光量が少なくなったこと、またハロゲンランプからの排熱コスト低減などから、蛍光ランプが利用されるようになってきた。

このような状況の中、ランプ外部に電極を設け、キセノンガスを封入した外部電極式希ガス蛍光ランプは、従来の水銀入り熱陰極タイプの蛍光ランプやハロゲンランプには無い優れた特性からPPCやパーソナルスキャナー用光源として普及してきている。その特徴を上げると、数十ms内で安定な光量が得られる、周囲温度に影響されない、低消費電力などである。

従来、希ガス蛍光ランプといえば内部に電極を設け、キセノンガスを低圧で封入したタイプが一般的であった。しかし、移動縞(moving striation)や効率が低いことから一部のスキャナーやFAX用途としての普及にとどまった。1991年に藤岡らにより発表された外面電極型希ガス蛍光ランプは、キセノンガスを利用した蛍光ランプとしては、画期的といえる。1) しかしながら、このランプの発光原理や諸特性については、現在に至るまで詳しく議論されていない。今回我々は、このランプの真空紫外分光特性を測定するとともに、アパーチャを設けた外部電極式希ガス蛍光ランプの全光束、光り取り出し効率を測定し、使用した蛍光体の量子効率を推定することからランプ入力に対するVUV光の変換効率の妥当性を検討したので紹介する。

2.実験および結果

■真空紫外分光測定

真空紫外分光測定の実験系をFig.1に示す。実験に用いたランプは、鉛ガラス管の外部に1対のアルミテープ電極を設け、蛍光体を塗布せず端部にMgF2の窓をトールシールで貼り付けた。光の取り出しは差動排気した真空紫外分光計(ACTONVM-502)側のMgF2窓までの間を窒素パージして行った。基本的にこの実験系では、ランプ内部のガス圧をパラメータに真空紫外分光測定が可能であるが、ガス圧13.3kPa一定にした場合について報告する。結果を点灯条件と一緒にFig.2に示す。150nm付近のピークは、キセノン分子Xe2*のFirst continuum( high ν)からの発光であり、172nmの最大ピークは、同Second continuum(low ν) からの発光である。このときの半値幅は、19nmであった。このスペクトルプロファイルは、キセノン分子Xe2*に関する多数の文献2)で見られるものと類似しており、本ランプが誘電体バリア放電(DBD)によりキセノン分子Xe2*からの真空紫外光を利用したランプであることがわかった。キセノン原子(3P1)からの共鳴線147nmは、キセノン分子Xe2*からの発光と重なり、区別できない程度の強度であった。

Fig.1 外部電極式希ガス蛍光ランプの真空紫外分光側定系
A breaf corss sectional view of an experimental setup for spectral measurement of external electrode Xe discharge lamp in vacuumultraviolet region.

Fig.2 外部電極式希ガス放電ランプの高周波点灯時の真空紫外分光特性
A spectrrum of external electrode Xe discharge lamp in vacuum-ultraviolet region.
Sine wave high voltage (2000VO-p,35kHz) was applied to the lamp,First contiuum is denoted with an arrow.

■アパーチャからの光取り出し効率の評価

Fig.3にアパーチャからの光取り出し効率を求める方法を簡単に示す。まず、Φ100mmの積分球に小型電球をセットし、点灯したときの光出力をFoとする。次に管径と長さを決めたガラス管の内面に全光束を実測したランプと同じ手法で蛍光体を塗布したサンプルにアパーチャを設けて、先の小型電球がガラス管の中心かつ中央になるようにセットして、点灯したときの光出力をF1とする。ここで、実際のランプにおいては、真空紫外光が蛍光体に吸収されてはじめて、可視光が得られるため、小型電球から直接アパーチャを透過して出る光は差し引く必要がある。ここではアパーチャを65°としているため、Foの18%を差し引くこととした。また、その他ガラス管端部から直接取り出される光も余分な光であるが、立体角などの見積もりから1%程度であり、今回は無視した。以上の前提条件から、アパーチャからの光取り出し効率Kは、(1)式により

とした

次に管径10,15mmで長さが90mmのガラス管について、アパーチャ角度65°としたときのKの値を評価した結果、管径によらず、K=64±2%であった。この値を、後のVUV変換効率の推定に用いた。

Fig.3 アパーチャのある蛍光ランプからの可視光取り出し効率を求める方法
A determination of escaping flux ratio K of aperture type flourescent lamps.

■全光束の測定

今回全光束Φは、歓崎らの報告3)にあるようにランプのアパーチャ面を完全拡散面と仮定し、アパーチャ部の面積をS、その輝度をLとし、全光束Φ=SΠLの関係から求めた。実際にランプの全光束を積分球にて実測した値との差は±6%であった。本報告に用いたランプの全光束Φは、この計算から177lmであった。

■ランプ入力の測定

DBDにおけるランプ入力を正確に求める方法は課題の1つと言えるが、同じ放電形態をとるオゾナイザー放電の研究では、古くからVqリサージュの面積から求める手法が広く活用されている。最近では、民田らによりAC-PDPにおける放電計測への活用も報告されている。4) Fig.4は、本ランプのランプ入力測定に利用したV-qリサージュの測定系である。これから高周波点灯したときにDBDで典型的に見られる平行四辺形型のリサージュが得られた。このリサージュの面積測定からDBDへの入力電力を求めた。測定に用いた高周波インバータにおいては、入力電圧24Vランプ電圧2000V0-p,周波数35kHz入力電流514mA時にランプ入力9.8W、インバータ効率η=79%であった。したがって、本実験で用いたLAPを塗布したランプのランプ効率Lは、18.1 lm/Wであった。またこのランプ入力を次の、VUV変換効率の見積もりに使用した。

Fig.4 外部電極式希ガス蛍光ランプのV-q リサージュによるランプ
測定系の模式図。ランプの等価回路も一緒に示す。
A schematic diagram of an measurement of lamp power by using
V-q Lissajous' figure for external electrode Xe fluorescent lamp.
An equivalent circuit of this type lamp is also shown in this figure.

■VUV変換効率の見積もり方

蛍光体の量子効率は、種々の手段で複数のグループで測定されている。5) 成田は、ランプ内部の蛍光体の量子効率QLが既知である蛍光体においては、ランプのランプ効率Lとランプ内部の量子効率QLの間には、次式のような関係があること示した。6)

ここで、ηVUV は、VUV光のランプ入力に対する変換効率、QLは、ランプ内部の蛍光体の量子効率、ηEは、エネルギー変換率で、真空紫外光のフォトンエネルギーと蛍光のフォトンエネルギーの比であり、今回は、0.31とした。LEは蛍光体のルーメン当量で、次式(3)によって与えられる。

ここで、kmは最大視感度683lm/W、V(λ)は標準視感度である。LEは、今回使用したLAPについては、発光スペクトルの解析から510lm/Wとした。(2)式の右辺にアパーチャからの光取り出し効率Kを乗じることで、L、QL、ηE、LEが既知であれば、(4)式より、ηVUVを求めることができる。

以上、ランプ内部の蛍光体の量子効率QL以外の数値につていは、実験により決定することができる。しかしながら、LAPの172nm付近におけるランプ内部の蛍光体の量子効率QLの知見は皆無に近い。昨今のPDPの次世代大型ディスプレイとしての期待の高まりから147nmに関する蛍光体の内部量子効率の知見は増えつつある。5)しかしながら、同じ真空紫外領域とはいえ、Bourcetらの報告8)によれば、LAPに関して、160nm以下の領域においては真空紫外光は、主にLAPの母体のLaPO4での吸収であり、160-200nm領域では、Tb3+イオンによる吸収と報告されており、172nm付近でのLAPの内部量子効率は147nmは異なると考えられる。QLは、実際のランプ内部に設けられた蛍光体に172nm光を照射する実験等から得られものであるが、実験データ等が現在まだ不十分であり、今回我々は、この値について、暫定的にQ2=0.68という値を使用した。この値により、推定されたηVUVは、約0.26であった。

3.考察

真空紫外光の放射束の絶対値測定は、NISTなどで値付けされたサーモパイルやシリコンフォトダイオードなどを1次標準としており、多くの機関がこの1次標準を用いて独自の方法でDBDのランプ効率を評価している。しかしながら、真空紫外光の測定標準はまだ無く、したがって各機関から報告される効率も類似した放電条件でありながら広い範囲にわたっている。今回、ランプ内部の蛍光体の量子効率QLという観点から外部電極式希ガス蛍光ランプ内でのηVUVを求める試みにおいても、真空紫外域での蛍光体の内部量子効率Q2に関する知見および実際のランプ内部の蛍光体の量子効率QLに関する知見を得ることは避けて通れない。

KogelschatzらがDBDにおける効率として、約10%という値を示している。7) 今回は、この値より大きな値を得た。理由としては、先のLAPのランプ内部の蛍光体の量子効率QLが推定値に過ぎないこともあるが、Kogelschatzらは、同文献内で石英ガラスの透過率、ランプ構造からくる光の取り出し効率を考慮すれば、少なくとも30%である可能性が高いと示唆している。今回我々の報告においても、Q2=0.68をそのままQLとして採用しηVUV=0.26を得たが、Kogelschatzらの報告を含め様々なDBDに関するキセノンの真空紫外光の変換効率の知見から、本実験において用いたランプ内のQLの値は今回使用した値より低いと予想される。

4.結論

今回外部電極式希ガス蛍光ランプと同じ形態の放電ランプの真空紫外分光を測定することにより、このランプがDBDによりキセノン分子Xe2*からのエキシマー発光を利用しているランプであることがわかった。また、アパーチャタイプの外部電極式希ガス蛍光ランプについて、アパーチャからの光取り出し効率、ランプ効率、使用する蛍光体のランプ内部での量子効率QLなどからランプ入力に対する真空紫外光の変換効率として、0.26を得た。絶対値として信頼性のある値を得るためには、172nm領域の各蛍光体の内部量子効率Q2およびランプ内部での蛍光体の量子効率QLに関する今後の研究の成果が待たれるところである。

参考文献

  1. 1) 藤岡ら,平成3年度 照明学会全国大会 53(1991)
  2. 2) Gellert,B.,et.al.,Appl.Phys.B.,52,14(1991)
  3. 3) 歓崎ら,画像電子学会誌,5,60(1976)
  4. 4) 民田ら,電学論A,118、353(1998)
  5. 5) 大久保ら、第8回環瀬戸内光源研究会資料(1997)
  6. 6) 成田、照明学会誌、69、15(1985)
  7. 7) Eliasson,B. et.al.,Appl.Phys.B.,46,299(1988)
  8. 8) Bourcet,J-C. et.al.,J.Chem.Phys.,60,34(1974)
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