USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.18(2000年3月発行)

照明学会公開研究会「新しい短波長光源・材料技術」

(1999年10月)

CLBOによる全固体深紫外レーザー光源
All-solid-state, deep-UV laser source using CLBO crystals

佐久間 純,Andrew Finch,出来 恭一,北栃 直樹,
大迫 康、堀口 昌宏,横田 利夫
(株式会社ウシオ総合技術研究所)
Jun Sakuma, Andrew Finch, Kyoichi Deki, Naoki Kitatochi,
Yasu Ohsako, Masahiro Horiguchi, Toshio Yokota
(Ushio Research Institute of Technology、Inc)

1. はじめに

近年、光リソグラフィー、半導体関連部品の検査、高密度多層基板の穴あけ、DVDディスクマスタリング等、エレクトロニクスの小型化の流れを支えるツールとしての紫外コヒーレント光源の役割が拡大しつつある。中でも、光リソグラフィーへの応用という動機に支えられたエキシマレーザーは研究開発が活性化され性能が向上し続けている。現在、波長248nmのKrFエキシマレーザーは、繰返し数2kHz、平均出力20W、波長幅0.6pm程度の装置が半導体露光用光源として実用化されている。今後の同用光源としては、波長193nmのArFレーザー、同157nmのF2レーザーの適用も決定的な状況にある。また、連続発振の紫外コヒーレント光源としては、波長229~264nm、最大出力0.5W(@257nm)程度のアルゴンレーザーの第2高調波(ArSHG)も産業用として展開しつつある。

その一方、真空管からトランジスタへの変遷に准えるが如く、上述の各ガスレーザーから小型、取扱いが容易な全固体紫外レーザーへの転換への要求も高まっている。固体レーザーによる光リソグラフィー応用を想定した場合の利点としては、取扱い性のみならず、数10kHz以上の高繰返し発振による露光量の制御性の良さと、1パルス当たりのピークパワーが低いことによる光学系への負担減、長寿命化が期待される点がある。発振光の狭帯域化に関しても、可干渉性の良さに起因するスペックルの抑制が顕著な課題となりうるが、単一周波数発振によって波長幅0.1pm未満が可能であり、色収差が少ない高解像屈折光学系を用いた露光システムにより適合する。危険なガス等は不要かつ静寂な動作といった環境的側面においても大きな優位性が期待される。しかしながら、産業用の高出力全固体紫外レーザーとしては、波長355nmのNd:YAG3倍波で5W程度の装置が製品化されているにすぎず、その高出力化が大きな課題となっている。LD励起Nd:YAGレーザーはkW級の出力達成が目標となるほどに成熟しており、キーとなるのは主に波長変換結晶である。その候補の一つが、1995年に大阪大学により開発が報告されたセシウム・リチウム・ボーレート(CLBO)結晶であり、BBOを始めとする従来の非線形光学結晶では得られなかった高出力の紫外光発生の報告が相次いでいる。Nd:YAGレーザー第4高調波発生(波長266nm)では平均出力20Wを超える出力も報告され、エキシマレーザーに代わる高出力固体光源への期待を高めている1)

しかし、Nd:YAGレーザーの高調波発生では、発生可能な波長が離散的になるという問題がある。またArFエキシマレーザーの独壇場とも言える波長200nm未満の深紫外領域については、第6高調波発生は目処も立っていない。和周波混合等による発生は過去に様々報告されているものの、手段としても色素レーザーやランプ励起のNd:YAGレーザー等を利用した低繰返しでの実験結果であり、その殆どがmWオーダーの平均出力に止まっている。小出力の原因は、深紫外光発生用として広く用いられているBBO結晶の特性が不十分な点が第1に挙げられる。ところがCLBO結晶はその吸収端についてもBBOより短波長側にあり、200nm未満の光発生にもより適すると期待される。本報告では、このような背景の元で筆者らが取り組んだ全固体構成の波長可変の高出力紫外光源、特にCLBO結晶による波長200nm未満の深紫外コヒーレント光発生を中心として報告する。

2. 波長変換による紫外光発生方法

固体レーザーによる短波長光発生の基礎となるのは、入射する2つのコヒーレント光(波長λ1、λ2)に対して、2次の非線形光学効果を利用した変換媒質内の相互作用の結果であるエネルギー保存則

に従う波長λ3の発生、即ち和周波混合(SFM:Sum-Frequency-Mixing)である。第2高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)は下記の入射光の波長が等しい場合に対応する。

第3高調波発生(THG:Third Harmonic Generation) は、通常SHGで発生した2倍波と残存する基本波 とのSFMにより実現させられる。

また、第4高調波発生(FHG:Forth Harmonic Generation)は2倍波の更なる第2高調波発生、第5高調波発生(5HG:Fifth Harmonic Generation)は4倍波と基本波のSFMによる。これらは、通常一つのレーザー装置からの光に対して1~3個の非線形光学結晶をシリーズに配して構成される。Nd:YAGないしNd:YLFレーザーによる高調波発生により、SHG(532/524nm)では数100W、THG(355/351/349nm)、FHG(266/262nm)で数10W、5HG(213/209nm)で数Wが最大出力として報告されている。

変換媒質の条件としては、入射2光と発生光に対して透明であること、2次の非線形光学定数が大きいこと、そして媒質内での相互作用がコヒーレントに重ね合わせられる位相整合条件

を満足させられること(上記はCollinearの場合)が必要である。位相整合は通常複屈折現象を利用して達成させられるが、結晶と波長の組み合わせにより限定される。和周波混合には数~数100MW/cm2程度のピークパワー密度が必要なため耐光損傷限界が高いこと、特に高平均出力光の発生には、温度変化、ビームの角度変化に対する位相整合条件が鈍感なこと(広い温度許容幅、角度許容幅)等も求められる。

高調波発生では離散的な波長しか発生できないが、波長可変レーザーの出力を基本波とした高調波発生により波長同調が可能である。波長可変光源としては、光パラメトリック発振器(OPO: Optical Parametric Oscillator)、やチタンサファイアレーザー等がある。いずれも近年発展が著しい光源技術ではあるが、その高調波発生でエキシマレーザーの代替の可能性が議論されるほどの出力は達成されていない。そこで、[1]式右辺の一方の波長(λ1とする)は上記1µmレーザーの基本波ないし高調波としつつ、他方(λ2とする)の発生だけに波長可変レーザーを適用することが考えられる。例えば、Nd:YAGレーザー5HG(λ1=213nm)と赤外OPO光(λ2=2100nm)のSFMによりArFレーザー波長の193.4nmが発生される。

しかし、実際の装置構築においては、[1]式や[4]式には表れない技術的課題が存在する。その一つは、入射光の変換媒質内における相互作用領域の時間空間のオーバーラップである。高調波発生における各光のビーム径は、変換の非線形性に起因して、高次になる程縮小し、またパルスレーザーの場合のパルス幅は狭まる傾向にある。しかし、時間空間ともにオーバーラップはほぼ自動的に満足させられ、比較的簡素な光学配置で高効率な変換が達成させられる。特にSHGは、そのオーバーラップが時空ともに完全に満たされる理想的な変換であり、50%以上の効率が比較的容易に得られる。これに対し、独立した2台のレーザー装置からのビームによるSFMの場合、各ビームの波面、強度分布等を独立に制御した上で、結晶内でオーバーラップさせなければならない。時間のオーバーラップ(同期)については、OPOを利用する場合は、その発振タイミングが励起パルスにほぼ同期するため、一つのパルスレーザー装置をλ1の発生とOPO励起兼用とすることにより比較的容易に満足させられる。しかしゲインスイッチ動作によるチタンサファイアレーザー等を用いた場合では、励起光とレーザー光発生までのタイミングのずれがあるため、λ2光発生用レーザーとλ1光発生レーザー励起用のレーザーの共用は不可能となり、2台の独立したレーザーの発生タイミングを同期させる必要がある。また同期だけでなく2つのパルス波形をなるべく一致させる必要があるが、発生媒体の異なる二つのレーザーの波形を一致させることは一般に非常に困難である。

3. 波長193nm光発生方式

Fig.1に我々が開発した193nm光発生の構成を示す。Nd:YLFレーザーの3倍波(349nm)とチタンサファイアレーザー光(740nm)をCLBO結晶で和周波混合(SFM1)して得た紫外光(237nm)に、3倍波発生の過程で残存する基本波と再度和周波混合(SFM2)して193nmを得る2)

本方式の特徴の一つは、出力に余裕のある基本波を193nm光発生に利用し、かつその混合用結晶にCLBOを用いることで高出力化が期待される点にある。CLBOに関する分散方程式は1999年以前に3つのグループから公表されており3)~5)、それら全てから本方式の193nm発生に適用可能との計算結果が得られる(Table1上側)。しかしその後の研究により、本方式の193nm光発生に対しては室温では位相整合が得られず、Nd:YAGレーザー基本波でCLBO結晶を-180°C程度以下に冷却した場合に位相整合すること、室温で位相整合が得られる発生波長は195.0nmが最短であること等が実験的に見出された6)。1999年に報告されたセルマイヤー方程式 7) を用いると、この実験結果によく符合する結果が得られる(Table1下側)。Nd:YLFレーザー基本波の場合、最短波長は196nm程度と推測されたが、その波長発生の際のCLBO位相整合角は90度のノンクリティカル位相整合(NCPM)であり高効率な変換が期待されるため、W級の196nm発生を主眼として開発を進めた。なお本方式ではBBO結晶を用いれば193nm光の発生が可能である。

Fig 1. Schematic diagram of all-solid-state 193nm source.

Table 1. Calculated phase-matching properties of CLBO for final mixing stage.

4. 光源の構成と特性

4.1 全体構成

装置構築に際しては、全固体構成でのkHz繰返し、W級深紫外光の発生を目的として、平均出力50W級のLD励起QスイッチNd:YLFレーザーを基本波光源とした。波長同調光源としてはNd:YLFレーザー2倍波励起によるチタンサファイアレーザー(発振域741~805nm)を用いた。動作繰り返し数は、波長変換光の平均出力最大化の観点から5kHzに設定した。波長変換用結晶としては、各Nd:YLFレーザー光の2倍波発生には温度位相整合によるNCPM動作のLBO、3倍波発生にはType-II角度位相整合のLBO、最初の和周波混合にはCLBO、最終の和周波混合にはBBOないしCLBOを用いた。チタンサファイアレーザーのゲインスイッチ動作によるパルス発生と、和周波混合する3倍波とのタイミング調整のために、各Nd:YLFレーザーのQスイッチトリガーは、デジタル遅延パルス発生器により調整された。

4.2 基本波特性

上記の3台のNd:YLFレーザーはすべて、出力20Wのレーザーダイオードバー2ヶにより励起されるYLFのスラブ(Schwartz Electro-Optics社、現Q-Peak社製)のモジュールを、発振器として1~2個、増幅器として1~4個用いたMOPA(MasterOscillator Power Amplifier)構成であり、5kHzのQスイッチ動作における最大平均出力はMOPA-Aが45W、Bが25W、Cが19W程度、各パルス幅はいずれも約20nsecであった。横モードは、縦方向の強度分布はガウシアンであるが、横方向はややフラットであり、M2測定値は、縦方向1.2~1.3、横方向1.3~1.5であった。

4.3 第2、第3高調波発生

LBO(サイズ:3x3x15mm、両面ARコート付き)による2倍波(波長523.5nm)の平均出力としてはMOPA-Aで最大28.5W、Bで14W、Cで11.4W(変換効率55~60%)が得られた。カスケード配置のType-IIのLBO結晶(3x3x15mm、両面ARコート付き)によるMOPA-Aの3倍波(波長349nm)としては14.3W(基本波からの変換効率33%)を得た。3倍波の最大出力は、前段の2倍波発生用LBO結晶の温度を調整し2倍波の発生効率を低下させた際に得られた。一般に、基本波と2倍波の出力比率は光子数比の観点から2:1が最適とされるが、本装置での最適比率は約2:3であった。この現象は、ガウシアン型強度分布を仮定した場合の消耗基本波と発生2倍波との空間整合性に起因することが、非線形結合方程式による計算検討から説明される9)。3倍波のM2測定値は、縦方向1.2、横方向は1.3であった。

Fig.2. Schematic diagram of 196nm generation setup.

4.4 チタンサファイアレーザー

チタンサファイアレーザーの共振器は、4枚のミラーで構成される縦横収差補償構成のボウタイ型リングで、共振器内にはブリュースターカットのチタンサファイア結晶と、発振波長粗調用の複屈折フィルターが配置される。PZTに取り付けられた高反射ミラーの位置制御によって、外部共振器付きLD光に対して共振器周波数を一致させることにより単一周波数発振を得ている。MOPA-Bからの2倍波(最大入力9.2W)励起による出力特性としては、同調可能な波長域741~805nmにおいてM2測定値1.1未満、ライン幅測定値0.2pm未満(測定限界)の縦横単一モードで、5kHz動作時の最大平均出力3.4W(波長745nm)、パルス幅14nsecを得た。またMOPA-Cを励起源とした増幅器を構成し、11.3Wのグリーン光励起によるシングルパス増幅によって最大7Wまで増強させられた。

4.5 CLBO結晶による242nm光の発生(SFM1)

上記各光源からの光の混合には、サイズ7x8x20mm、カット角64°のType-I型CLBOを用いた。結晶は、防湿等を目的とした加熱オーブンにより温度を150°Cに保持しながら実験を行った。各入射ビームは、所有するレンズにより可能な限り縦横収差を除去しつつ空間整合するよう調整した後、ダイクロイックミラーにより同軸として結晶に入射させた。チタンサファイアレーザー光波長741~805nmに対し、上記CLBO結晶の位相整合角調整により、237.3~243.5nmの範囲で和周波が発生した。各光学部品での損失のため、入射した各光の最大出力は、349nm光が10.0W、波長785nmに同調された近赤外光は6.5Wであった。和周波光(波長241.6nm)の出力は、石英製プリズムによる分離後の実測で最大3.5W(総合効率21.2%)であった。Fig.3に入出力特性を示す。

Fig.3 I/O data for SFM1

4.6 196nm光の発生(SFM2)

主目的となる200nm未満の深紫外光発生には、サイズ7x8x10mm、カット角90°のCLBOと、比較評価用にBBO結晶(5x5x6mm、カット角70°)を用いた。いずれもType-I位相整合のため、混合する1047nm光は3倍波発生後に半波長板により偏光面を90°回転させた。実験時にCLBO結晶に入射した241.6nm光出力はミラーの損失等により2.2Wに止まった。基本波15Wに対し、結晶温度34°Cで発生した波長196.3nm光出力は、分離用プリズムでの損失を考慮して1.3Wであった。Fig.4に1047nm光入力は一定、241.6nm光入力変化に対する196nm光出力の特性を示す。また長さ10mm

のBBO結晶による196.3nm光は発生の最大出力は0.27Wであった。これらは固体レーザーベースによる200nm未満の光出力としては筆者らの知る限り世界最大と報告した文献1)の値を更に更新したものである。

Fig.4. I/O data for SFM2

5. 狭帯域193.4nm光の発生

本方式の特徴の一つである狭帯域深紫外光発生の立証を目的とした実験を行った。Fig.2におけるMOPA-Aを縦横単一周波数発振のNd:YLFレーザーに置き換え、また、チタンサファイアレーザーを波長741nmで動作させた。この場合、SFM1の波長は237.3nm、SFM2は193.4nmとなる。SFM2用結晶はBBOを用いた。SFM1では、4.5Wの3倍波と1.1Wのチタンサファイアレーザー光のCLBOでの混合により1.0Wの237.6nmが発生した。この光をBBOにより5Wの基本波と混合したところ、最大40mWの193.4nm光が発生した。発生した光をFSR7.5GHz、フィネス40のエタロンを用いたスペクトルアナライザーでバンド幅を測定した例をFig.5に示す。測定値は解像限界の186MHz(0.023pm)を示しており、それ以下であることが確認された[10]

Fig.5 Data for linewidth of DUV output

6. まとめ

全固体構成によるW級出力の193nm光源の実現を目指して開発を行った。CLBO結晶を用いることにより波長196.3nm、繰返し数5kHzにおいて平均出力として1.3Wを得た。またその中間段階の出力として波長241.6nmにおいて平均出力として3.5Wを得た。得られた特性は、現状のエキシマレーザーでは困難な高繰返し、またアルゴンレーザーSHGでは得られない高出力である。また基本波用Nd:YLFレーザーを単一周波数化させることにより、波長幅0.1pm未満の深紫外光の発生が可能であることも示され、計測、加工、医療用等の分野で従来にない新たなツールとしての展開が期待される。

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