光技術情報誌「ライトエッジ」No.19
第4章 特集 映像…デジタル化時代に向けて
(2000年7月)
4. 映像機器用光源
4.1 映像機器用光源の変遷
4.1.1 映像機器用光源に求められるもの
(1) 映像機器用光源
本節では、105年の起伏に富んだ歴史がある映写機用光源の変遷について、日本を念頭に置き光源自体を主軸として主に概観して行く。映写機の後に登場した、スライドプロジェクタ、オーバーヘッドプロジェクタ(OHP)、データプロジェクタ、リアプロジェクションTV(リアプロTV)などの光源についても折に触れ述べて行く。
(2) 映像機器用光源に求められるもの
4.1.1(1)で述べた映像機器は、光源からの光出力を回転楕円面反射鏡あるいは回転放物面反射鏡で反射させ、積分複合レンズ(ミキサーレンズ、フライアイレンズ、インテグレーターレンズとも言う)を通すかどうかを問わず、フイルム、LCD、DMD、ILA、D-ILAなどの画像媒体に投射し、画像媒体からの透過光あるいは反射光を投射光学系によりスクリーン上に画像イメージとして拡大投影するものである。このように使用する反射鏡、媒体、光の属性に違いがあり、厳密には各機器用光源として求められるものを考察しなければならない。しかし、スライドプロジェクタ、OHP、データプロジェクタ用光源については“3.プレゼンテーション用映像機器”で取り上げられること、各機器が光源に求めるものは大筋において映写機のものに共通する点が多いので、映写機用光源に求められるものに絞る。
以下に映画館向け映写機の光源に対する要求事項を恣意的に配列する。各項目の左側に考え得る既存光源(ランプ)候補を併記する。これら候補はすべて空冷方式であり、キセノンランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプのショートアークタイプ、ハロゲンランプ、白熱ランプのフィラメントが比較的小さいタイプを念頭に置いた。
① 演色性の良いこと
DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)1)
② 点光源に近いこと- 輝度が高いこと
DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、DC超高圧水銀ランプ(10数~40気圧)2)、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)
③ 確実に始動し安定時間が短いこと
DCキセノンランプ、ハロゲンランプ、白熱ランプ
④ 発光効率の高いこと
DCメタルハライドランプ、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)
⑤ 出力が安定していること
DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、ハロゲンランプ、DC超高圧水銀ランプ(10数~40気圧)、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)、白熱ランプ
⑥ 出力の光軸対称性がよいこと
DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、DC超高圧水銀ランプ(10数~40気圧)、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)、ハロゲンランプ、白熱ランプ
⑦ 連続点灯が可能なこと
DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、DC超高圧水銀ランプ(10数~40気圧)、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)、ハロゲンランプ、白熱ランプ
⑧ 寿命が長いこと- 光束維持率が良いこと
DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、DC水銀ランプ(10数~40気圧)、DC超高圧水銀ランプ(100~200気圧)、ハロゲンランプ、白熱ランプ
⑨ メンテナンスが容易なこと
DCキセノンランプ、ハロゲンランプ、白熱ランプ
上記の通り映写機用光源として、DCキセノンランプ、DCメタルハライドランプ、ハロゲンランプ、超高圧水銀ランプ(水銀動作圧10数~40気圧)、超高圧水銀ランプ(水銀動作圧100~200気圧)、白熱ランプが候補に上げられる。この内DCキセノンランプが①から⑨の9項目の内8項目を満たしている。これに加えて、要求される光出力の大きさ、その他の点での最適性から、DCキセノンランプのみが映画館用映写機の光源として採用されている。
4.1.2 映像機器光源の変遷
本項では、映写機の変遷、光源の白熱ランプから水冷キセノンランプに至る変遷に関連して、口石弘敬著「シネマ100年技術物語」(社団法人映画機械工業会1995年11月)を一部参考としている。その他の参考、引用は末尾に示している。
(1) 白熱ランプ
白熱ランプ(白熱電球)は、エジソンが1879年(明治12年)に発明した。その16年後の1895年(明治28年)にルミエール兄弟が、白熱ランプを光源に使用したシネマトグラフという装置を使って、パリ市の「サロン・アンディアン」という劇場で、布製スクリーンに映画を初めて映写して見せた。つまり、映画の最初の光源は白熱ランプであった。
1914年(大正3年)になると効率のいいガス入り白熱ランプが開発され、1916年(大正5年)には姫路電球(日本電球を経てウシオ工業そしてウシオ電機に)が家庭用白熱ランプの製造販売を開始している3)。その後1926年(大正15年)から1959年(昭和34年)にかけて約33年間の長きにわたり、白熱ランプを光源とした35mm映写機、16mm映写機が製造販売されていた。
一方で、ライムライト、カーボンアークランプ、キセノンランプが映写機用光源として順次使用されて行った。1959年の時点では、35mm映写機用光源の主流はカーボンアークランプであり、キセノンランプはカーボンアークランプの代替え光源として登場したばかりであった。
(2) ライムライト
1897年(明治30年)にルミエールのシネマトグラフが日本に輸入され、横浜で公開された。当時の電力事情や発電機の騒音から、光源としてやむなくライムライトが用いられている。水素と酸素の混合ガスを燃やし、炎をライム(生石灰)に吹き付けて白色に発光させるタイプのライムライトだつた。翌1897年(明治31年)には日本でも、御国工業がライムライトを光源に使用したミクニ映写機を生産開始した。こちらはアセチレンガスを燃やすタイプのライムライトだつた。その頃のフイルムは燃えやすいセルロイドでできていたので、上映は火災の危険と隣り合わせであった。結局、ライムライトは短命に終わったようである。
(3) カーボンアークランプ
1914年(大正3年)になると、直流点灯カーボンアークランプが登場したり効率のいいガス入り白熱電球が開発され、映写機用光源の幅が広がるとともに危険度も減ってくる。1918年(大正7年)に高密工場(後に高光工業)が、国産初のモーター駆動式映写機を作ったが、光源はカーボンアークランプを使用した。その後、カーボンアークランプは1960年代でも日本で映写機の光源として使用されていた。実に42年以上の長きに亘る期間である。
当時の映画用フィルムは可燃性であり、空気中で燃焼させるカーボンアークランプを映写機の光源として使用することは常に火災の危険と隣り合わせであった。火災防止の点から発光部を封止したランプが求められていた。更に、白黒からカラー映画への転換期にあり、色が忠実に再現でき、かつ大画面でも明るく映写できる高輝度ランプ化が時代の要請でもあった。また、カーボンの寿命、つまり燃焼し尽くす時間が一般的な映画の上映時間より短く、長時間の連続上映ができないという上映上の理由、カーボンが発煙し燃えかすが出るなど映写室の環境衛生上の理由も無視できない。
(4) ハロゲンランプ
1960年(昭和35年)に常盤精機がハロゲンランプを光源に使用した35mm映写機を発売した。35mm映写機用ハロゲンランプの規格はなくランプも存在しないから、特注で作ってもらったが、明るくなかった上に良く切れたそうである。その為、ハロゲンランプは登場間も無いキセノンランプに切り換えられている。ウシオ工業(後のウシオ電機)がハロゲンランプ(沃素ランプ)の製造販売を開始したのは1961年(昭和36年)である。3)
8mm映写機や16mm映写機でハロゲンランプを光源として使用するものもあったが、TVそしてビデオの登場後8mm映写機自体が急速に衰退し、新しい映像媒体、素子を用いた映写機(プロジェクタ)の登場で16mm映写機自体も、うかうかできない状況になって来ている。ハロゲンランプはスライドプロジェクタやOHPなどにも一時期使用されたが、その後後述するメタルハライドランプに取って代わられている。また、スライドプロジェクタやOHP自体が、新しい映像素子を用いた映像プロジェクタやデータプロジェクタの急速な台頭とともに、舞台の主役から脇役に既に移行しつつある。
(5) 空冷キセノンランプ
4.1.2(3)で述べた時代背景の中、1957年(昭和32年)にウシオ電機が垂直点灯方式のキセノンランプを世に出した。1958年(昭和33年)にはウシオ電機、日本音響精機(技術部門が後に日本ジーベックスに)が共同で、日本初のキセノンランプによる映画上映を新宿松竹第一劇場で実現した。1961年(昭和36年)に映機工業が、ウシオ電機の500Wキセノンランプを採用した世界初の水平点灯方式16mm映写機を世に出した。同社は更に1kW水平点灯キセノンランプや300Wキセノンランプを搭載した16mm映写機も作り、1966年(昭和41年)には2kWキセノンランプ使用の16mm映写機を世に出した。同年、日本ジーベックス(後のウシオユーテック)が、ウシオ電機が開発した水平点灯方式キセノンランプを使った水平点灯ランプハウスを開発し、神戸オーエス劇場で映画館用としては世界初のキセノンランプ水平点灯の快挙をなしとげた。この年ウシオ電機は、70mmシネラマ映写機用6.5kWキセノンランプを開発している。
こうしてキセノンランプは、300Wから6.5kWまでのフルレンジを揃えるに至り、遂に16mmのみならず35mm映写機用光源の主流となった。そしてキセノンランプの内でも、水平点灯方式が主流となっていった。現在では、7kW、8kW、10kW入力の水平点灯方式キセノンランプ(図4-1)もウシオ電機は製造販売している。
映画館では、スクリーンまでの投影距離、スクリーンサイズ、必要スクリーン輝度に応じて、入力500Wから10kWにいたる様々なランプが使用されている。日本では2kWクラスの水平点灯方式ランプが主流で3kWクラスが増えている。米国では3kW、4kWクラスの水平点灯方式ランプが主流で、4.5kW、6kW、7kWクラスが増えており、日米映画館のスクリーンサイズの違いを反映している。
1980年代から1990年代にかけて、フィルムを用いない映写機(プロジェクタ)が登場して来る。GEの油膜バルブ、Hughes-JVC(後にJDT)のILA、TIのDMDといった映像素子を用いた新世代のデジタルプロジェクタである。これらは、会議室用、集中監視センター用、プレゼンテーション用と用途は多岐にわたるが、スクリーンサイズの大きい用途は水平点灯式空冷キセノンランプを使用している。入力もスクリーンサイズ、必要スクリーン輝度に応じて1.6kW、2kW、2.5kW、3kW、4.5kW、5kW、6kW、7kWと多岐にわたっている。GEの油膜バルブを使用するプロジェクタは数年前に生産中止され、TIのDMDを用いたDLP方式プロジェクタと、JDTのILAやJVCのD-ILAプロジェクタが我が世を謳歌しつつある。昨1999年(平成11年)に“Star Wars Episode 1 - Phantom Menace”が米国でDLPプロジェクタとILAプロジェクタを用いてデジタル上映され、デジタルシネマの時代が幕開けした。今後、デジタルシネマの普及につれフィルム映写機は減って行くが、キセノンランプが光源であることに変わりない。
(6) 水冷キセノンランプ
1970年(昭和45年)に大阪万博が開催連された。この時の話題は、フジパビリオンに設置されたカナダのアイマックス社の70mm15p(pはパーフォレーションの略)、史上最大の画面サイズを誇るオムニマックスという映像システムであった。カナダのデューロテスト社の水冷15kWキセノンランプを通常光源としていた。ウシオ電機がアイマックス用水冷15kWキセノンランプを開発するのは、様々な理由から大阪万博の24年後の1994年(平成6年)になってである。
1985年(昭和60年)に筑波研究学園都市で国際科学技術博覧会が開催された。アイマックスもアイマックスドームもあった。ウシオ電機はデューロテストの水冷15kWキセノンランプ同等品を未だ開発していなかった。しかし、独自の水冷15kW、25kW、30kWキセノンランプを製造販売していたし、水冷10kWキセノンランプを完成していた。ウシオユーテック(日本ジーベックスの後身)が、三井館で滝をスクリーンとして映写する35mm映写装置に、この水冷10kWキセノンランプを光源として用いた。こうして水冷15kWキセノンランプに加えて、水冷10kWキセノンランプが映写機用光源としてデビユーした。
3年後の1988年(昭和63年)に高山博覧会が開催された。そこでウシオユーテックは、米国のオムニ・フィルム・インターナショナル社の“オムニU”というドーム映写装置を日本で初めて設置した。光源はカナダのデューロテスト社の12kW水冷キセノンランプであった。ウシオユーテックはオムニUを博物館、テーマ館などに導入していった。一方、アイマックス社のアイマツクス、アイマツクスドーム、アイマツクス3Dがその他のテーマ館などに導入されていった。こうして、12kW、15kW水冷キセノンランプの活躍の場が増えていった。
そういう背景で、アイマックス社はデユーロテスト以外の水冷15kWキセノンランプメーカーを望むようになり、ウシオ電機に打診、接触してきた。1994年(平成6年)になってウシオ電機は、形状、電気特性がデユーロテスト品と同等で、しかも極間がより短く効率がより良い水冷15kWを世に出した。1996年(平成8年)にはデューロテストの水冷12kWキセノンランプ同等品も開発した。ウシオ電機はこうして大型映像装置用の水冷10kW、12kW、15kWキセノンランプをもつに至った。アイマックスの2Dや3D大型映像装置などを設置したテーマ館、ミューゼアム、パークなどのアミューズメント施設が世界的に増加しており、おもに水冷15kWキセノンランプの需要が増えている。今後、スクリーンサイズの更なる大型化やスクリーン輝度向上のために、更に大入力の水冷キセノンランプが必要とされる場合、ソーラシミュレータ用で実績のあるウシオ電機の25kWや30kW水冷キセノンランプ(図4-2)の技術を展開して行くことになる。
(7) メタルハライドランプ
メタルハライドランプは1970年台に活躍の舞台を広げて行くのだが、発光効率、演色性ともに良く、かつ発熱が少ないという利点により、当初の中心舞台は店舗照明、家屋照明、スタジアム照明などの屋内外一般照明と、劇場照明、スタジオ照明、TV照明などのSSTV照明であった。1970年代から1980年代には、ファイバー照明、スライドプロジェクタ、OHPが活躍の舞台として登場し、1980年代後半から1990年代にはLCDプロジェクタが加わって行った。ドイツのオスラム、BLV(後にウシオ電機が買収)、オランダのフィリップス、イギリスのソーン(現在英国GEの一部)などのランプメーカが、これらプロジェクタ用メタルハライドランプを供給していた。その入力は、250W、400W、575W程度でAC点灯タイプであった。ウシオ電機がメタルハライドランプを、LCDプロジェクタ用光源として製造販売し始めたのは1990年になってである3)。当初はAC点灯タイプ125W、155W、160W、250W、400W、575Wランプ(ランプ単体あるいは反射鏡付き)を、1995年には長寿命DC点灯タイプ水平点灯方式125W、150W、250Wメタルハライドランプ(図4-3)を開発し4) 、主に日本のLCDプロジェクタ、登場し始めたD-ILAプロジェクタやDLPプロジェクタメーカに主に反射鏡付きで納入して来ている。これらのプロジェクタは会議室用、打ち合わせ用などのプレゼンテーション目的のデータプロジェクタが主である。
4.1.2 (4)で述べた通り、スライドプロジェクタやOHP自体が今や舞台の主役から脇役に移行しつつあり、更に4.1.2 (8)で述べるように、LCDプロジェクタやD-ILAプロジェクタ、DLPプロジェクタの光源がメタルハライドランプから超高圧水銀ランプに移行してきており、映像分野でのメタルハライドランプの出番は少なくなって来ている。その間、メタルハライドランプが映画館用映写機に使用されることは無かった。
メタルハライドランプの場合、同じ入力の映画館向け映写機用キセノンランプと比較するとアークギャップがより長く、点光源性という要求からはずれ、入力が大きくなる程その傾向が顕著になるためであった。2kWから8kWの入力で、キセノンランプと同等のアークギャップのメタルハライドランプが製造販売可能とならない限り、メタルハライドランプが映写機に使用されることは今後も無いであろう。
(8) 超高圧水銀ランプ(動作内圧100~200気圧)
1995年5月に開催されたSID国際シンポジウムで、ドイツのフィリップス研究所とオランダのフィリップスライティングが共同で、アークギャップ1.4mm以下の100W超高輝度ショートアーク長寿命ランプシステムについて発表した5)。このランプシステムは新世代の高輝度ランプであり、そのショートアーク、高輝度、長寿命により、LCDや他のライトバルブを用いた一般用、業務用リアおよびフロントプロジェクタに最適である、と紹介されていた。このランプシステムは、ランプ、コールドミラーコーティングを施したハードグラス製回転放物面反射鏡、および内面に無反射コーティングを施した前面ガラスからなっており、その光束は6000lm、色温度は8500K、演色性指数Ra 60、平均寿命は4000時間以上とも紹介された。
このフィリップスの発表と前後して、同じ場所でウシオ電機の東忠利氏が、長寿命DC点灯タイプ水平点灯方式125W、150W、250Wメタルハライドランプについて発表している4)。筆者はこの時、東忠利氏に同行していたがフィリップスの発表を聞き「一体どんな種類のランプなのか」と自問した記憶がある。
その後、フィリップスはこのランプシステムを、日本のLCDプロジェクタ、後にDLPプロジェクタメーカに積極的に紹介し、納入に成功している。入力を増やしたものも段階的に市場投入して来ている。フィリップスのこのランプシステムに使用されているランプは、超高圧水銀ランプであった。超高圧水銀ランプの分光分布は水銀蒸気圧によって支配され、水銀蒸気圧が高くなるほど、線スペクトルはブロードニングを示し、連続発光が強くなるが2)、この性質を利用したランプだったのである。
ウシオ電機もその後同用途の超高圧水銀ランプを開発し、現在までに直流点灯タイプを主に反射鏡付きで、日本のLCDやDLPプロジェクタメーカに納入して来ている。ランプ入力は、150W、200W程度である(図4-4)。これらのメーカのプロジェクタは、データプロジェクタやリアプロジェクションTVプロジェクタであり、それらの販売台数、ランプ生産本数共に急増している。データプロジェクタ無しには、効果的で効率的なプレゼンテーションは最早困難になりつつある。一方、リアプロジェクションTVは市場に出始めた段階であり、今後のホームシアタやホームシネマの普及と共にその生産販売台数が増えて行くだろう。そして、超高圧水銀ランプの製造販売数量が引き続き増加して行くことは疑いない。
アークギャップと入力が2kWから8kWキセノンランプ並みで、しかもキセノンランプの発光効率を越える超高圧水銀灯ができるかどうかは、点灯時の100~200気圧という動作内圧に耐えられる、信頼性の高い大型石英ガラス発光管やシール部構造の製造技術を確立できるかどうかにかかっている。そういう超高圧水銀ランプがシネマに適した演色性で実現した暁には、日本で1958年(昭和33年)から42年間使用されているキセノンランプも、それに取って代わられるのかも知れない。しかし、社会と会社での環境意識が高まりつつある中、一般用途、民生用途プロジェクタ用での水銀ランプ使用の是非も問われてくるだろう。この点から言うと、上述のような未来の選択肢は存在しないのかも知れない。水銀を代替えし、既存のものとは異なる原子や分子の気体発光を利用した、既存ランプの性能をしのぐランプが発明、開発されれば、何の苦労も問題も無いのだが。
(南雲 秀夫)
4.2 ハロゲンランプ
4.2.1 はじめに
かつて、歴史的に見ると、映像機器用光源の主流は白熱ランプであった。この白熱ランプはサイズが大きいため、レンズ系との関係で光の利用効率が低く、寿命との関係でも色温度を高くできないという短所があった。
ハロゲンランプの発明により、特徴であるハロゲンサイクルにより光束を寿命末期まで維持し、バルブ内の封入ガス圧を高めることにより白熱ランプの寿命よりさらに延ばすことができるようになった。さらに、ダイクロイック(2色性)楕円ミラーと組み合わせることにより、コンパクトで集光効率が高く、高色温度の演色効果の優れた映像機器用ハロゲンランプを実現してきた。
4.2.2 構造と特徴
代表的なJCR12V-100Wについて説明する。
フィラメントはC-8タイプの縦型コイルで、バルブは無機接着剤にて鏡面のダイクロイック楕円ミラーの第一焦点にフィラメントが一致するよう固定される。
封入ガスにはクリプトン(Kr)またはクセノン(Xe)に微量のハロゲンガスを添加して、タングステンの蒸発を抑え、さらに長寿命化をはかる目的で常温時約0.3MPa程度に加圧している。
口金(ベース)はピンタイプでピン径Φ1、ピン間隔6.35mmのGZ6.35となる。
赤外域をバックに透過し排熱するダイクロイックミラーを使用しているため、アルミミラーに比べて可視光部の光束はほとんど変わらないながら、集光部の温度が約1/2に低くできる。
4.2.3 特性
映像機器用光源として主に使用されてきたJCR12V-100Wの特性について以下に述べる。
(1) ダイクロイックミラーの分光透過率
図4-6に示す通り可視域を反射し赤外域を透過させる。この赤外線を透過する膜をコーティングしたミラーは熱線となる赤外線をバックへ透過させ、フィルムやOHP用紙に過大な熱線を当てないで、像を投影するのに必要な可視光だけを対象に反射する作用がある。このミラーとハロゲンランプを組み合わせたコンパクトなユニットは従来の外付きの重いミラーと白熱ランプにとって代わった。
(2) ランプの分光放射分布
図4-7に示す通りバルブからの熱放射をミラーでその赤外域をバックに透過・排熱させ集光部の温度を下げる。
(3) 電圧変動特性
電圧を定格電圧から変化させた場合、フィラメント温度が変化し、電流、電力、色温度および照度などの各特性は、電圧変化に応じて図4-8のようになる。フィラメントの形などにより必ずしも一定ではないが、一般的に次の関係式によって表され、kの値は表4-1のようになる。
(4) 中心照度と照度比の関係
図4-9に示すように相対的に中心照度が低下するにつれて周辺照度比は逆に上昇する。そのためスクリーン上の中心と周辺の照度比を上昇させて、明るさに差があまり生じないようにするフィラメントの設計も考えられる。
(5) 光量立ち上がり特性
図4-10に示す通り約0.2secで光量は安定する。立ち上がりが早いことがハロゲンランプの、他の放電ランプに対する特長である。
(6) 光量立ち下がり特性
図4-11に示す通り約0.25secで光量は消失する。
4.2.4 プロジェクタにおける使われ方
当初、8mmおよび16mm映写機、スライド映写機などの各種映写用プロジェクタの光源としての使われ方が主流であった。光学系を図4-12に示す。
現在、OHP用光源として反射型にはJCR100V-300W、透過型にはJC36V-400Wが主に使われている。
(朝生 実 ウシオライティング株式会社)
4.3 キセノンランプ
4.3.1 はじめに
マルチメディアの急速な進展とともに、液晶やマイクロミラーアレイを画像表示素子として使用した各種プロジェクタが映像ディスプレイとして急速に使われるようになってきた。使用される光源にはハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、超々高圧水銀ランプがある。ハロゲンランプは低コストであるが、可視域の、発光効率が低い、短寿命であることなどから通常、携帯型や廉価なプロジェクタに採用されていた。メタルハライドランプは中程度までの光出力において発光効率が非常に優れていることから民生用や半業務用のプロジェクタに広く採用されている。これらに対してキセノンランプは色温度が自然昼光に近いこと、瞬時再点灯が可能、点光源に近いショートアークが可能、高出力化ランプが可能などの利点があるが、一方では赤外光が多いため発光効率が低く点灯装置が高価で大きいなどの欠点がある。映写機にはもっぱらキセノンランプが使われており、空冷方式でも10kWまでの高出力のランプが製品化されている。プロジェクタ用には最近超々高圧水銀ランプを採用する製品が急速に増加しているが、高出力になるに従って破裂のリスクが高くなるので、300W以上の高出力は現在のところ難しいと考えられる。色再現性を重要視したプロジェクタに採用されている。なおメタルハライドランプや通常のキセノンランプ、超々高圧水銀ランプでは点灯中のランプ内圧が高いために安全対策が必要である。この安全対策として、ミラー一体型にする方法がある。ミラー一体型にすると、安全性だけでなくその他にも色々なメリットが生じる。それについては、ミラー内蔵型セラミックキセノンランプの項で述べる。また、プロジェクタ用光源として求められる、高効率化やコンパクト化に対しては、pXLシリーズにて対応している。
4.3.2 発光原理と点灯方式
(1) どうしてガスが発光するのか
封入されているキセノンガスが光るのは、キセノンの原子あるいは分子の励起によって光が発生することによる。原子内の電子は普通の状態ではいずれの内核電子も、定常状態としては、それぞれの電子に規定されたただ一つの特定状態しか持ちえないという、フェルミ分布に従って最低準位の状態から順次席を占めている。最外殻電子も同時に取りうる準位のうちの最低の準位に位置している。この状態を基底状態という。外部から光やX線があたったり、あるいは運動電子が衝突したりすると、内核電子は基底の状態よりも高いエネルギー準位に移ることができる。このような現象を励起と呼び、その状態を励起状態という。励起状態は非常に不安定で、短時間(約10-8秒)でもとの基底状態に戻る。しかし水銀や不活性ガスにおいては、これよりずっと長く10-2秒程度励起状態にとどまる場合がみられる。このような状態を準安定状態と呼ぶ。原子が励起状態から低いエネルギー状態にもどる時に、余ったエネルギーを光として放射する。このエネルギー差によって放射される光の波長が違う。言い替えると色が違ってくる。図4-14に代表的なキセノンのエネルギー準位を示す。
以上は線スペクトルが発生する機構であるが、キセノンランプにはイオン化エネルギー以上のエネルギーでたたき出された自由電子が、イオンと再結合する時に放出される連続スペクトルと自由電子が原子の強いクーロン場の中で加速・減速運動することにより放出される制動幅射による連続スペクトルを発生する二つの機構があり、キセノンランプの場合は、これがむしろ線スペクトルを凌駕するため、図4-16の分光スペクトルに見られるような特徴的スペクトルを発生する。連続スペクトルは、Arでは1.1nmから1.7nmの範囲、Krでは1.2nmから1.9nmの範囲という具合に、他方の不活性ガスにおいても現れるが、いずれも紫外領域であるのに対して、Xeは不活性ガスの中で最も重い元素であるため、紫外、可視光から近赤外にかけて強い連続スペクトルが現れ、照明光源の封入ガスとしてそれ自体最も有用なガスであるといえる。
さてこの光を励起するためには上に述べたように最初に運動している電子が必要となってくる。この電子は電極から最初に引っ張り出す必要がある。
(2) 電極からの電子放出
電極の中には自由電子がたくさん存在するから、これらの電子に十分なエネルギーを与えると、電子は電極から外へ飛び出す。この電子に十分なエネルギーを与え、電子を電極から外へ飛び出させる方法には次のような方法がある。
- ・電極に熱を与える。
- ・電極の表面に光を与える。
- ・電極に強電界を与える。
- ・イオンを当てて二次電子を励起する。
これらの方法で飛び出してきた電子が加速され陽極に向かいながら図4-15のように次々と電離と励起を起こし、電子なだれが発生し放電が開始していく。キセノンランプではイグナイタと呼ばれる高電圧の発生装置(約30kv)で電極に強電界をかけて電子を飛び出させる。この電子によって次々に発生した電子あるいは陽イオンが電極に衝突することによって、電極に熱を与えさらに多くの電子を飛び出させることになる。
(3) 点灯方式
キセノンランプは点灯する方法によって直流型と交流型に分類される。直流型は電極の片方が陰極になり他方が陽極となる。電極の温度が高すぎると電極材料であるタングステンが蒸発して管壁内壁に蒸着し照度の減衰になる。そのため、特に電子が衝突する陽極は陽極温度が高くなるため、熱容量を大きくして温度の上昇を押さえるように、陰極に比べて大きくなっている。交流型は両電極が交互に陽陰極になるためどちらも同じ大きさである。その為、交流型は電極の温度が直流型に比べ高くなりタングステンが蒸発し易い。しかし点灯装置において電流を整流する必要がないので小型で安価にできる利点がある。
4.3.3 特徴
次のような特徴がある。
① 分光分布が太陽光に類似しているため昼光色と同じで演色性が良い。
キセノンランプは主にキセノン発光を利用する。その発光スペクトラム(分光分布)は可視光領域では太陽光のそれに良く似ている。このキセノンランプの演色性を確保するために、キセノンガスをランプ入力に応じた必要ガス圧(ガス量)で、許容される公差内に収まるように封入することがキセノンランプの重要工程の一つであり、、それに応じた管理が当社ではなされている。
② 紫外域から赤外域まで連続スペクトルである。
図4-16に示すように紫外域から赤外粋にかけて比較的一様な強い連続スペクトルを持つ。これは可視光だけを利用したプロジェクタ用光源には、熱が機器内の温度を上げるため短所であり、ミラーに赤外線をバックに排熱するコーティングを施して上手に逃がす必要がある。また、この赤外光の発光により、キセノンランプは発光効率が低いという短所がある。
③ 高輝度で、点光源である。
キセノンランプのキセノンからの発光は極間でなされる。極間に発生するアークの長さ、つまりアーク長は極間距離よりやや長くなるものの、極間距離により決定される。したがって、極間をなるべく小さくすることが点光源に近づけることにつながるが、実際極間はランプ入力により1.2mm程度(入力400Wクラス)から8mm程度(入力15kWクラス)にわたっている。一方、アーク輝点が陰極先端近傍に存在するので、集光鏡や光学系の設計上ほぼ点光源と見なしうる。しかし、現実的には極間が長くなるほど、アークの輝度分布を考慮することが正確な設計には必要となる。陰極輝点の輝度は109cd/m2程度と非常に高く、太陽の輝度よりも高くできる。
④ 安定時間が短く瞬時再点灯ができる。
キセノンガスは熱容量が小さく電気入力の変化に対して放射強度がすぐ追従して変化する。したがって点灯と同時に実用上差し支えない程度の放射輝度・照度、色合いになり、電力変化に対しても極めて早く追従する。
またこの性質と関連してキセノンランプの利点は消灯後すぐにでも再点灯が可能なことである。
⑤ 電気入力の変化に対して分光分布は一定である。
図4-17に見られるようにスペクトル分布は電気入力の変化に対してどの波長域でも光強度の変化がほぼ一定である。これよりキセノンランプは電気入力の変化に対して色の変化がほとんどないことがわかる。この色はランプの寿命期間中もほとんど変化しない。
また反面次のような短所もある。
- ① 高圧ガスが封入されているため取り扱いには注意が必要で使用時以外は保護カバーが必要である。
- ② ランプを始動するために高電圧を発生させるイグナイタが必要である。
- ③ ランプを安定して点灯させるために安定器が必要である。
- ④ ランプが高温であるため冷却系が必要である。
- ⑤ 赤外部に強い輝線スペクトルがあるため、熱線成分が多く発光効率が低い。
- ⑥ 高価である。
4.3.4 構造
キセノンランプはそのシール構造によって断継ぎランプと箔シールランプに分類される。また、ショートアークタイプは石英ガラス製と、セラミック製とがある。
① 段継ぎシール(グレーデッドシール)
図4-18に段継ぎシール型キセノンランプを示す。陽極あるいは陰極には高融点金属棒を使用して、電極とは反対側に金属棒とほぼ同一の熱膨張率を有するガラスを溶着し、さらに熱膨張率の異なるガラスを段々に継いで最後は容器とシールされている。段継ぎシールランプは金属棒(Φ3mmから7mmのタングステン棒)を使用しているため大電流を流すことができるが、段継ぎガラス部分の耐熱温度が約500°Cであるため発熱源のアークからの寸法を長くとらなければならず、ランプ寸法が長くなってしまう。キセノンランプには数気圧から数十気圧のキセノンガスが封入され、発光部の温度は数千度にも達するため、ガスを封入している容器は丸型の石英ガラスが使用されている。
② 箔シール
図4-19に箔シールランプを示す。箔シールランプは薄い金属箔(モリブデン)を使用しているため、膨張係数は石英ガラスが6×10-7/°Cでモリブデンが57×10-7/°Cであるにもかかわらずモリブデンの塑性変形によりクラックを起こさずシールされている。しかし導電部分に薄い金属箔(普通は厚さ10~40µmのモリブデン箔)を使用しているため大電流が流せない。そのために大電力のランプでは箔を5枚まで組み合わせて約130Aまで流せる構造をとっている。また箔シールランプは金属箔を使用しているために、段継ぎランプに比べて全長を短くすることができる利点がある。
③ 陽極
電子が突入してくるため温度が数千度近くなるために、タングステンが使用される。それでもアークがあたる先端部分はタングステンの融点である3300°C近くになるため、できるだけ体積や表面積を大きくして陽極温度を下げて、タングステンの蒸発を抑えている。また先端の形状や大きさもアークの安定度や大きさに関係するため、設計に工夫がなされている。
④ 陰極
電子が陰極先端から安定して飛び出しやすくするため、タングステンに約2%の酸化トリウムを入れ適当な熱処理を施すと、点灯時に表面に金属トリウムの単原子層が形成される。原子内の電子配列によってこのトリウム原子は電気双極子として表面電位障壁を下げるように働き、仕事関数が著しく小さくなって2.63eVぐらいになる。このタングステンをトリエーテッドタングステンといい、使用温度は純タングステンの場合より低くなる。先端部も熱電子放出や電界放出をし易くするため鋭角になっており、先端径もそれぞれ工夫がなされている。
⑤ 封入ガス
希ガスが用いられる。その中で光変換効率のもっとも高いXeガスが用いられる。封入圧は使用電圧範囲で決まるが約1×104~5×104paである。
⑥ 発光管
封入ガスを封じ込める部品を発光管という。その材料は石英ガラスである。発光管内にミラーを内蔵したタイプがミラー内蔵型であり、その発光管の材料にはアルミナが用いられる。
4.3.5 種類
① 石英ガラス製キセノンランプ
多くのキセノンランプは発光管が石英ガラスで作られている。その歴史も長く、50年以上にもなる。ラインナップも多彩であるが、反射型パネルを使用したプロジェクタに実際に使用されているものは、入力電力1kW以上のランプである。特にXGAやSXGAの高精細DMDパネルを使用した大型プロジェクタ用として1~2kWランプの使用が増えており、その用途向けにアーク長の短縮やランプ全長を短縮した、pXLシリーズが実用化されている3)。また、リフレクタに組み込んでユニット化し、高効率化、コンパクト化、光軸調整不要としたランプユニットも用意されている。
② ミラー内蔵型セラミックキセノンランプ4)
セラミック製キセノンランプはミラーを内蔵したタイプとして、最初に内視鏡用ファイバー光源として開発されたが、その後ファイバー照明用とプロジェクタ用に高出力タイプも開発された。このランプはUXRシリーズとしてラインナップしている。図4-20にその構造図を示す。セラミック-金属接合特有の堅牢かつ排熱が非常に良いという特性から、同程度の入力の他のキセノンランプよりもさらにショートアーク化が可能であること、ミラー内蔵型のため通常のキセノンランプにミラー外付けしたものに比べて、ランプハウスや光学系のレンズなどが小型化できること、光利用効率が高いこと、また優れた安全性から搬送時や交換時のハンドリングが容易であること、寿命末期でも破裂しないことなどの利点がある。一方では、部材が高価なため高コストであること、部材の特性上高出力化に限界があること、通常のキセノンランプに比べてキセノンガス中を通る光路長が長いため、キセノンガスの対流による明るさのちらつきが生じやすいといった欠点がある。現在のプロジェクタにはスクリーン上の照度均一性を向上するために、半導体プロセスに従来から利用されているフライアイレンズを使ったオプティカルインテグレータや六角柱や四角柱のカレイドスコープを使ったロッドインテグレータが採用されているものが多い。これらのインテグレータ光学系では照度均一性が向上するとともにUXR特有のキセノンガスの対流によるちらつきを抑制することができる。このため高光出力の業務用プロジェクタや色再現性を重要視したプロジェクタの中でも、ランプに対するハンドリングの良さや装置のコンパクト化を目指した設計のものの中で、積極的にインテグレータ光学系を採用し、画像表示素子には反射型であるILAやDMDを搭載したものにUXRは採用されている。
③ 水冷式キセノンショートアークランプ
現在ランプ業界では、空冷キセノンショートアークランプの最大入力は10kWが限界といわれている。これ以上では水冷式となる。大型映像システムではこの水冷式が選択される。弊社でも、UXWシリーズとして30kWまでの製品がある。
4.3.6 点灯方向
主として光の取り出し方向により、水平状態で使用するものと垂直状態で使用するものの2種類がある。一般的に映像用光源は、集光効率のよい水平点灯が多い。垂直に取り付ける場合は、発光管内の熱対流の関係で、温度の高くなる太い陽極を上に、温度の低い細い陰極を下にする。水平に取り付ける場合は、一般的にリフレクタと組み合わせて使用する関係から、リフレクタの第一焦点の位置に輝度の高い陰極がくるようにする。(リフレクタ側が陰極、光の取り出し方向が陽極になる。)間違って垂直点灯用ランプを水平に点灯すると、アークが発光管の内壁上部に接近し、その部分が異常高温となり石英ガラスの強度が劣化するため、破裂の原因となる。また水平点灯用ランプを垂直に点灯すると、アークが一定せず、ちらつきの原因になる。
4.3.7 点灯装置5)
点灯装置の回路方式は、図4-21に示すような下記の種類がある。
① チョークコイル方式、リーケージトランス方式
電流制御素子として、チョークコイルを使用したものである。チョークコイルは、銅と鉄で作られるため、大きく重い。また、制御精度も悪い。しかし、回路が簡単であり、構成部品点数も少なく、寿命も長いという利点がある。チョークコイルと絶縁トランスの複合素子であるリーケージトランスを使用した方式もある。
② シリーズドロッパ方式
電流制御素子として、トランジスタを使用したものである。入力電圧とランプ電圧の差をトランジスタで消費し、電流制御を行っているので、発熱量が大きい。また、絶縁トランスも必要であるので、スイッチング方式と比較して、大きくて重い。しかし、高速な電流制御応答、高い電流制御精度、動作時に回路から発生する電磁ノイズが少ない、等の利点がある。
③ スイッチング方式
電力変換効率が良く、発熱が少ない。高周波なので、絶縁トランスが小型にできる。しかし、回路は複雑であり、部品点数も多いという短所がある。
上記で紹介した方式のうち、大きさと重さは、スイッチング方式が最も優れている。精度は、シリーズドロッパ方式、スイッチング方式、チョークコイル方式の順で優れている。堅牢さは、チョーク方式が最も優れている。
上記のように各々優劣があるが、高い精度でランプ電流を制御し、同時に小型・軽量の市場要求を満たすために、スイッチング方式が採用される場合が多い。特にプロジェクタ用の電源としてはほとんどの場合、スイッチング方式が使われる。
回路動作としては次のようになる。
- ・交流入力電圧を直流電圧に整流・平滑する。
- ・直流電圧を20KHz~100KHzの周期の高周波に変換する。
- ・高周波用の絶縁トランスを介して、電圧変換を行う。
- ・高周波を整流し、直流に戻し、出力電流とする。
スイッチ素子によって、直流電圧を裁断(スイッチ)し、20KHz~100KHzの交流に変換するため、スイッチング方式と名付けられている。半導体素子をスイッチとして使用するために、スイッチでの電力損失を少なくすることが可能であり、電力変換効率が良く、発熱が少ない。
スイッチング方式は、1秒間に20K回から100K回という高い分解能で直流ー交流ー直流に変換していることになるので、高い精度で出力を制御することが可能となる。スイッチング方式の点灯装置の実力は、1%以下の安定度、1%以下の電流リップルである。前述のチョークコイル方式と比較すると、10倍以上の高い精度である。
また、高周波トランスによる絶縁と電圧変換が可能なため、トランスが小型・軽量化できる。(一般に、扱う周波数が高いほど、トランスは小型にできる)チョークコイル方式と比較すると、大きさと重さは1/3~1/5程度小さい。ただし、スイッチング方式の欠点は、チョークコイル方式に比べて、点灯装置自体の寿命が短いことである。チョークコイル方式の点灯装置寿命は10年をはるかに越えるが、スイッチング方式の場合はそれより短い。
最近では、ランプが使用される装置の複雑化、高度化に伴って、点灯装置もランプを点灯させる機能だけでなく、ランプ放電を安定に維持するシステムコントローラとしての役割を担うようになってきた。このため、ランプの状態や点灯電力によって冷却条件を最適に制御する機能や、ホストシステムとの通信によってランプ点灯状態を変化・報告する機能など、ユーザが使いやすいランプシステムの機能を含んだ点灯装置も製品化されている。この傾向は、今後ますます強まるだろう。
(甲斐 鎌三 志賀 浩之/加筆・編集)
4.4 メタルハライドランプ
4.4.1 はじめに
メタルハライドランプは、歴史的には水銀ランプの演色性や効率を改善するために、高圧水銀放電中に他の金属を高蒸気圧が得られるハロゲン化物の形で添加したことに依って始まり、1966年頃に一般照明用ランプが製品化された。一方、光学機器用メタルハライドランプとしては、1980年代にアーク長8mm程度のショートアークメタルハライドランプがOHP用光源として開発された。
1980年代半ばの液晶プロジェクタの開発段階では、当時の既存光源であるハロゲンランプやキセノンランプ、OHP用メタルハライドランプが流用され、使用された。しかし1980年代末の液晶プロジェクタの製品化時には稀土類金属ハロゲン化物を封入したアーク長5mmのショートアーク型メタルハライドランプが製品化され、液晶プロジェクタの中心的な光源として使用された(このランプのアイデアは1969年には既に発表されていた1))。以来、当初の矩形波交流点灯方式ランプからアーク長3mm以下への短アーク化を可能とした、直流点灯型ランプへと改良され、約10年間、入力電力125~160W(小型)、250~270W(中型)、350~400W(大形)などのメタルハライドランプが液晶プロジェクタ用光源としての中心的な地位を占めた。
1998年頃からの超高圧水銀ランプの本格的な実用化により、液晶プロジェクタの中心的な光源の地位は超高圧水銀ランプに譲ったが、メタルハライドランプは電力400W前後の大出力のランプが比較的容易に製作できるため、大出力プロジェクタ用の光源として、また125Wクラスの小電力のランプは信頼性が高く、比較的安価であるため、安価なプロジェクタ用光源として依然として使用されている。
4.4.2 交流点灯型メタルハライドランプ
液晶プロジェクタ用光源は、光のちらつき低減のために電子点灯回路を使用する必要がある。正弦波高周波電力(100kHz以下)による点灯はアークの不安定を発生するため採用できない。従って当初は矩形波交流電流による点灯が行われた。交流の周波数は当初は100Hz程度の低い周波数も使用されたが、周波数約200Hzまでは周波数が高いほどランプ効率が向上することが見出され2)、その後は200Hz~500Hz程度の周波数の交流が使用されている(周波数に依る効率向上の現象はメタルハライドランプの場合だけで、超高圧水銀ランプでは見られない)。
液晶プロジェクタの製品化の初期では、ランプのアーク長は150Wランプで5mm、250Wランプでアーク長6mmが標準的であった。スクリーン上の色むらを抑制し、照度の均一性を確保するために放電管の外側にフロスト処理が行われた。液晶プロジェクタの製品化の当初はAV画像を見ることが主な目的であったため、スクリーン照度が低く、スクリーン照度の均一性があまり良くなくとも通用した(中心照度に対し外周部照度30%以上程度)。フロスト放電管を使用したランプの寿命は150Wで約2000時間、250Wで約1000時間である。図4-22に150W交流点灯ランプの分光エネルギー分布の例を示す。発光物質としては稀土類金属の中のジスプロシウム、ホルミウム、ネオジウム、ガドリニウム、ランタン、ルテシウムなどの沃化物、臭化物などから2種類程度の組合せを選び、セシウムハロゲン化物と共に封入される。
一方、データプロジェクタとしての使い方が出現してから、スクリーン照度の均一性と(中心照度に対し外周部照度70%以上程度)、比較的明るい部屋でも見られる水準の絶対照度も求められるようになった。データプロジェクタとしての照度均一性と絶対照度の向上を共に満足する手段として取られた方法が、光学的インテグレータの採用である。インテグレータの出現と同一時期に多結晶シリコンTFT使用の1.3インチ液晶素子が出現した。小型液晶素子照明の集光率を向上するためと、インテグレータの性能を発揮させるためにはフロスト無しランプにすると同時に、更にアーク長約3mm以下への短アーク長化が必須条件になった。フロスト無し発光管では白濁発生時のスクリーン光束の低下が大きくなり、一方、アーク長を3mmに短縮することと入力電力の増大とは共に白濁の発生を加速し、交流点灯型ランプの寿命を著しく短くした。
この短寿命の問題を解決するために開発されたラ ンプが、直流点灯型メタルハライドランプである3)。
4.4.3 直流点灯型メタルハライドランプ
直流点灯型メタルハライドランプは、交流点灯型ランプがアーク長の短縮、入力電力の増大、透明型発光管の使用などのために寿命が短くなることへの対策として開発されたランプで、直流点灯型ランプにすることにより白濁の発生を抑制し、ランプ寿命を交流点灯型ランプの数倍に延ばすことができた。直流点灯型ランプにすることにより電子点灯回路も部品点数が大幅に減少し、小型化、軽量化、安価化が図られた。交流点灯でアーク長の短縮と共に問題になった、アークスポットの移動に依る光のちらつきの問題も、直流点灯により低減できた。しかし直流点灯型ランプには初期効率が交流点灯型ランプに比べて低い欠点がある。また放電空間に色むらがあり、光学的インテグレータを使わない光学系では色むらが大きい欠点もあるが、現在では光学的インテグレータを使うことが一般化したため、これは問題でなくなった。
直流点灯型ランプの電極は陰極を小さくし、陽極を大きくする。陰極電極先端の温度を高くし、電子放出を充分確保するためである。陽極は蒸発しない温度に保つため適度に大きくする必要がある。
図4-23に直流点灯ランプを反射鏡に組込んだときの構造例を示す。メタルハライドランプでは保温膜を塗布する陰極側が反射鏡の開口側になる。これは白濁が陰極側から発生する事実に対しても適切な配置になる。
図4-24にアーク長3.5mmの直流点灯型350Wランプの分光エネルギー分布の例を示す。単位アーク長当たりの入力電力が増大すると水銀スペクトル線の比率が増大する。また直流点灯では陽極近くに水銀スペクトル線が比較的強く発光する部分ができることによっても水銀スペクトル線の比率が増大し、これが効率の低下の原因にもなっている。
図4-25に直流点灯型250Wランプの輝度分布を示す(アーク長2.7mm)。図4-26にアーク中心軸に沿っての輝度分布を示すように、直流点灯では陰極前面に高輝度になる部分がある。しかしアーク軸に直角な方向の成分を積分すると、図4-27に示すようにアーク軸方向の光出力はほぼ一様になっており、光束を有効に利用するためにはアーク全長の光を利用する必要がある。
メタルハライドランプの寿命は特にスクリーン光束と逆相関関係が強く、直流点灯型、交流点灯型とも設計方針に依って、スクリーン光束は30%くらい変化し、寿命は数倍変化する。即ち直流点灯型メタルハライドランプもスクリーン光束重視の設計では、寿命は1500時間くらいであるが、スクリーン光束を落とせば寿命5000時間以上の設計も可能になる。
代表的な直流点灯および交流点灯型の液晶プロジェクタ用メタルハライドランプの特性を表4-2にまとめる。
4.4.4 メタルハライドランプの今後の課題
ほぼ2年前より画像プロジェクタ用光源として超高圧水銀ランプが本格的に導入され、汎用光源としての地位は超高圧水銀ランプに譲ったが、超高圧水銀ランプは製品化可能なランプ電力に限界があるため、1.7インチ以上の大きい液晶を使い、大光束を得たい場合は350~450Wのメタルハライドランプを使うことが有効になる。従ってメタルハライドランプは400Wクラスの高性能の高信頼性ランプを開発することが重要である。また安価な100Wクラスの高信頼性ランプも必要であろう。
(東 忠利)
- 1)東 忠利、斉田 淳:昭和44年照明学会全国大会no. 11 (1969)
- 2)K. Tomokiyo, Y. Kitahara, T. Watanabe, T. Uemura: 6th inten. symp. on the Science & Technology of Light Sources, no.73P(1992)
- 3)T. Higashi ,T. Arimoto : “Long life dc metal halide lamps for LCD projector “,SID’95 Digest, p135̃136(1995)
4.5 超高圧水銀ランプ(プロジェクタ用)
ここで解説する超高圧水銀ランプとはライトエッジNo.15で述べられている主に輝線スペクトルを利用する半導体向けの光源とは異なり、より連続発光成分の多い、光源サイズが小さく、そして輝度の高いプロジェクタ向けの光源に適した特性を備えている。これらの特性はその動作圧により決まっている。半導体向けでは高輝度の単色光を利用するのを目的としているために、その動作圧が数十気圧までにとどまっているのに対して、プロジェクタ用超高圧水銀ランプではその動作圧を100気圧を超えて設定することで、その光源サイズが径方向に収縮し、実用的なランプ電圧で短アーク化でき、そしてさらにその分光において連続発光成分が増大することにより演色性も改善することができる。これらの特性はすべてプロジェクタの照明効率を向上するために求められている特性である。動作圧が異なり、その応用分野が異なるため、プロジェクタ向け超高圧水銀ランプを、弊社ではNSHと称して半導体向けのそれと区別している。
4.5.1 発光スペクトル
水銀ランプの発光は低圧では輝線スペクトルが支配的であるが、動作圧が上昇するにつれ輝線幅が広がり、加えて連続発光が増大し、100気圧を超えて200気圧に迫るとプロジェクタ用の光源に使えるレベルまで十分な赤成分の発光が得られるようになる。点灯時の水銀蒸気圧と発光分布の関係は古くから測定されているが、図4-28に最近報告された水銀蒸気圧と分光分布のデータ例を示す。この連続発光成分は分子発光によるといわれている1)。ここでの分子とはHg2であるが2)、本来結合エネルギーが小さいためその分圧は圧力に強く依存し、温度が高いプラズマ中でも存在する。その分圧は圧力の二乗に比例するといわれており、この分圧が100気圧以上で急速に増えるために結果として連続発光成分が増えていると考えられる。しかし、温度の高いプラズマ付近では、バルブに近い温度の低い部分に比べてHg2の分圧は圧倒的に小さくなる。KrやXeなど希ガスと同様な解離電圧以上にたたき上げられた電子とイオンの再結合や電子の制動輻射による連続光成分が、水銀の分圧が高くなった時どの程度あるかを含めて、理論的に解明しなければならない課題が残されている。
4.5.2 輝度分布
輝度分布は空間的に狭い範囲に限定されるほどプロジェクタの照明光学系にとっては光の利用効率が高くなる。この考え方はe'tendue(geometorical extent)で説明されている。輝度分布を空間的に制限する要素は2つある。ひとつはアークギャップ、二つ目はアークの径方向への広がりである。
アークギャップは動作圧にかかわらず設定することが可能であるが、同一極間でのランプ電圧が動作圧にほぼ比例することから、実用的な点灯電圧を維持しながら極間を短くするためには動作圧を上げる必要がある。
さらに動作圧を上げると径方向へアークが絞られることから輝度を高く設定するためには動作圧が高ければ高いほど良いことになる。現在商品化している製品の輝度分布を図4-29に示す。
4.5.3 ランプ構造
これまで述べてきたように、プロジェクタ向けの光源に求められる分光特性、光利用効率のいずれをとっても、アークギャップを短くし動作圧力を高く設定すればよいことが明らかである。弊社では上記2点に加えさらに高輝度の光源が望まれていることを勘案し、1998年に提案した150Wのランプをベースに200Wまでの高出力ランプを提案してきた。ランプの性能を最大限に引き出すには動作圧力を高く維持するために発光管の最冷点の温度を高くする必要があり、一方で最高温度は長時間の動作を満足するためにある温度以下に抑える必要がある。電力が150W以下で大きな反射鏡を用いれば発光管に冷却を施すことなくこれらの要件を満足する設計が見出せるが、弊社では高出力高輝度の光源を提供する必要性を早くから認識し図4-30に示すようなクーリングリフレクタを提案している。
4.5.4 寿命特性
ランプの寿命を決める要因はランプからの放射照度の低下とランプに使用されている石英ガラスの劣化による破損が主なものである。
① 放射照度低下の主な原因は、熱蒸発した電極材料が石英バルブの内面に付着すること(黒化)や、紫外線などの作用によりガラスが結晶化する(失透)ことにより、石英バルブの透過率が下がるためである。電極の先端部分は高温になっており、ランプの動作原理から考えてこれを回避することはできない。しかし、微量のハロゲンガスを添加することにより、上記二つの作用を抑制することができる。
② 石英ガラスはすでに本項で述べたように、点灯中におよそ1000°Cになっている。また、各部分で温度差ができているため、長時間の点灯で石英ガラスに熱歪みが発生する。熱歪みの値が大きくなった場合、点灯中に石英ガラスにクラックが入り、破損につながることがある。
4.5.5 点灯方式
点灯方式はAC点灯が一般的である。しかし、フリッカや電源のコストを考えると、DC点灯にメリットがある。DC点灯方式なら、特殊な点灯回路を付加しなくても、フリッカが少なく、本来AC電源がDC出力を得た後にACを発生していることを考えれば電源の小型化、コストダウンも可能であることがわかる。
4.5.6 技術動向
超高圧水銀ランプは輝度が高く、理想に近い光源といえるが、映像用光源としては赤の演色性に課題がある。動作圧力を増加すれば、輝度がアップし、演色性も改善されるが、破裂に対する信頼性の向上が必要となる。プロジェクタのパネルサイズは小型化しているため、アーク長も短くしなければならない。1mm以下になるのは確実である。寿命については10,000時間が当面の目標となろう。電力は300W程度が当面の目標である。ただし、光学系やパネルの開発動向に左右され易いため、今後、場合によってはランプの開発方向が変わることもあり得る。
(杉谷 晃彦)