USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.20(2000年12月発行)

月刊ディスプレイ

(2000年8月)

液晶プロジェクタ用
光源の技術動向

ウシオ電機(株)東 忠利
Tadatoshi Higashi

1. はしがき

液晶プロジェクタが製品化されてより11年が経つが,後半のほぼ5年間におけるp-Si型TFT液晶パネルによる小型高精細画像パネルの開発,各種の高性能化光学素子の開発,点光源型ランプの開発などの成果により,高精細,高照度,小型化などの液晶プロジェクタの性能向上が著しく進み,液晶プロジェクタの生産量も著しく増大した。液晶プロジェクタの世界の生産量は1998年が約50万台,1999年が約70 万台で,今年2000年には100万台に達すると予想されている。

点光源型ランプの開発では,液晶プロジェクタ製品化当初の交流点灯型メタルハライドランプのアーク長(電極間距離)が5~6mmであったのに対し,直流点灯型メタルハライドランプの開発によりアーク長が約半分に短縮され1),超高圧水銀ランプの開発により更に半分に短縮された2),その結果,光学系の高性能化とも相まって比較的小電力の小型ランプの使用を可能し,リフレクタ(反射鏡)も含めた光源系の小型化をもたらした。

ここでは液晶プロジェクタに使用されている超高圧水銀ランプ,メタルハライドランプ,ハロゲンランプ,および大出力プロジェクタに必須のキセノンランプなどの光源に付いて動向を述べる。

2. 超高圧水銀ランプ

水銀ランプの点灯時の水銀動作圧力を150~200気圧にすると連続スペクトル成分が増大し,液晶プロジェクタ用光源として最適な発光特性を持つ光源になることは以前から知られていた。しかし石英ガラス製放電管の電極導入構造の関係で信頼性の良いランプを作ることが難しく,しばらく製品化されなかったが,1994年頃になってフィリップス社はランプを外管内に囲い込むことにより,ランプ破裂時の騒音を大幅に低下させた100Wランプ・リフレクタ系を開発した2)。しかしながら当初は,当時のプロジェクタ光学系では交流点灯に起因するアーク輝度の移動によるスクリーン上のちらつきが激しく,採用されなかった。

これに対し,フィリップス社はランプ点灯方法により輝点の移動を抑制する一方3),折りしもフライアイレンズによる光学的インテグレータが開発されたことにより,光のちらつきが実用レベルに抑えられ,1995年末に日本メーカの液晶リアプロジェクタに100Wランプが採用された。1997年には120Wランプが開発され,更に1998年初めには日本国内の2 社から,それぞれ交流点灯タイプと直流点灯タイプの150Wランプが発売されたことにより,液晶プロジェクタの汎用光源の位置がメタルハライドランプから超高圧水銀ランプに置き換わった。超高圧水銀ランプの生産が本格的になった1999年からは液晶プロジェクタの生産量も順調に伸びている。

超高圧水銀ランプの効率は60~70lm/Wであり,直流点灯型メタルハライドランプの効率とほとんど同じであるが,点光源型ランプとして優れている原因が二つある。第一には水銀蒸気圧がランプ電圧を非常に増大させることであり,その結果として高効率を保ちながらアーク長の短縮が可能になる。第二は水銀の励起エネルギーが高く,アーク中心でのみ発光することである。この両者の原因が点光源化をもたらし(光学系にもよるが),2倍に近い集光効率の向上をもたらした。

2.1 交流点灯と直流点灯

アーク輝点のふらつきの抑制のために導入された直流点灯方式は本質的にアーク輝点(アークスポットともいう)の移動が少ないが,全くないわけではない。直流点灯方式のもう一つの利点は点灯回路が簡単になり,小型且つ安価になることである。図1に示すように,短形波交流による電子点灯回路は大きく分けて,①商用電力を直流に変換する部分,②ランプ電力(電流)を一定に制御する部分,③直流を短形波交流に交換する部分,に分けられる。直流点灯型ランプでは③の部分は不要となり,その分が小型・安価になる。

一方,直流点灯型ランプの短所は,ランプ効率が若干低いとされていることである。効率低下の原因はまだ解明されていない。しかし光学系によっては光利用率が若干良くなり,効率低下部分を補償できるとの説もあるが,これはランプの配光(発光の方向依存性)の違いに関係したもので光学系によるであろう。

2.2 ランプ諸定格

ランプ電力定格は交流点灯型では100W,120W,150W,220Wの各ランプが製品化されている。直流点灯型では150~160W,180~200Wが製品化されており,250Wも開発済みである4)。これらのランプは一般にアーク軸を水平にして点灯されるが,直流点灯型ランプでは垂直点灯の200Wランプも製品化されている。

ランプのアーク長(電極間距離)の現状は100W~150Wでは約1.3mm,200W前後で約1.4mmである。アーク長は寿命特性との兼ね合いもあるが,100W~130Wクラスランプで平均アーク長1.0mmが下限と推定される。図2に直流点灯型超高圧水銀ランプの構造図を示す。交流点灯型ランプとの違いは電極の形状の違いのみである。図3に200W直流点灯型超高圧水銀ランプの分光エネルギー分布の例を示すが,超高圧水銀ランプは単一発光物質のため,交流点灯でも直流点灯でも分光分布はほとんど同じである。

ランプ寿命はデータプロジェクタ用では平均寿命2000 時間に設計されており,プロジェクタTV 用では平均寿命5000時間以上の設計になっている。

2.3 動作水銀蒸気圧

ランプ点灯時の水銀蒸気圧を増加するに従って水銀原子のスペクトル線に対する連続スペクトルの強度比が増大するため,連続スペクトルで構成されている赤色光の強度比が増加する。動作水銀蒸気圧と分光エネルギー分布の測定例は古くからあるが,最近報告された測定例を図4に示す5)。液晶プロジェクタ用光源として何とか使える水銀蒸気圧は約130気圧以上からであるが,最近のランプでは160気圧以上が実現できている。水銀蒸気圧が約200気圧まではその増加とともに赤成分が増大し,スクリーン光束を増大させる。

しかし水銀蒸気圧200気圧以上になるとスクリーンの白色色温度を9300Kに固定すると,白色を実現するために赤成分を減らす必要があり,スクリーン光束がかえって減少する(水銀分子の自己吸収のために青成分が減少するという理由もある)。もし白色色温度を9000Kより低くすれば,水銀蒸気圧の増加によりスクリーン光束を更に増大できる。しかし,現在のところではランプ耐圧の問題もあり,200気圧に近い動作蒸気圧が妥当なところと言えよう。

3. メタルハライドランプ

3.1 交流点灯と直流点灯

1989 年の液晶プロジェクタの製品化初期には,光源としてハロゲンランプと交流点灯のメタルハライドランプとが使用された。しかし,フライアイ式インテグレータレンズの利用やマイクロレンズの利用とともに光源の短アーク化が必要になり,一方,更なるスクリーン光束の増加のためにランプ電力の増加が要請された。これらの要求はともに交流点灯型ランプの寿命を大幅に短縮し,数百時間に縮めるものであった。これの解決方策として開発されたランプが直流点灯型メタルハライドランプであった1)

すなわち,直流点灯型メタルハライドランプは短アーク長ランプの寿命延長に著しい効果があり,また点灯回路が安価,アーク輝点のちらつきが少ないなどの長所がある。しかしランプ効率と光の利用効率では交流点灯型メタルハライドランプに比較して劣っている。従って,フライアイレンズのような光学系を使わないプロジェクタでは,低電力の交流点灯型メタルハライドランプもかなりの寿命を持っているため,安価のゆえに小型のプロジェクタに使用することも考えられる。

一方,1996 年~1998 年のほぼ3年間は液晶プロジェクタ光源の中心的な光源として採用され,液晶プロジェクタの普及に貢献した直流点灯型メタルハライドランプも,1999年以後は超高圧水銀ランプと主役の座を交代した。しかし1.8インチ以上の大形液晶パネルを使う場合は,電力400W 前後の高ワットメタルハライドランプ大光束を確保する上で優れており,依然として使われている。また,小型の直流点灯型メタルハライドランプも低コストのゆえに安価なプロジェクタに使用されている。

3.2 ランプの諸定格

ランプ電力としては交流点灯型メタルハライドランプは80W,150~155W,180~200W,250W,400Wなどのランプが製品化された。直流点灯型では125W,155W,250~270W,330W,350~375W,400W,440Wなどの諸定格のランプが製品化された。上記定格のランプの中には現在は生産中止になっていいる機種も多いが,保守用として供給されているランプもあり,新規入手も可能であろう。

ランプ寿命はフロントプロジェクタ用の設計では交流点灯の155Wと直流点灯の各ワットは1500 時間~2000 時間が一般的である。リアプロジェクター用には5000時間設計のランプもある。

4. ハロゲンランプ

ハロゲンランプはタングステンフィラメントを使用した白熱ランプの一種であるが,石英ガラス製で,ハロゲンによる管壁浄化作用のため,小型,寿命末期まで光束がほとんど低下しない,再現性がよい,安価などの特徴がある。一方,分光エネルギー分布が液晶プロジェクタに適合しないこともあり,効率が悪い,寿命が短いなどの欠点がある。

ハロゲンランプはプロジェクタ開発の初期から使用されているが,最近では特に安価な液晶プロジェクタ用としてのみ使用されている。最近の液晶プロジェクタの例では光学機器用の24V-150Wランプや100V-400Wランプが使用されている。

5. キセノンランプ

ショートアーク型キセノンランプは映画館の映写用光源として使用されているように,高輝度と色の良さで知られている。キセノンランプには瞬時立ち上がりや瞬時再起動ができる長所もある。また,ある範囲内ではあるが入力電力を変えても分光分布がほとんど変化しないことや,それに関連して任意の電力のランプを作れる長所がある。一方,短所は効率が低い,高価であるなどである。

キセノンランプの採用は液晶プロジェクタ開発の当初から検討されたが,高価のため本格的に採用されたのは,高輝度と大出力が要求される反射型画像パネルを使用した大出力プロジェクタ用光源としてであった。

ショートアーク型キセノンランプには古くより製品化されている石英ガラス製キセノンランプと,比較的最近開発され,反射鏡を内蔵したセラミックス製キセノンランプとがある。

5.1 石英カラス製キセノンランプ

石英ガラス製のショートアークキセノンランプは75W程度の小型ランプから7kWの大型ランプまで製品化されている。しかし,特にプロジェクタ用の超高圧水銀ランプが開発された今では,画像プロジェクタ用光源として興味のあるランプは1kW以上の機種であろう。以前は光書き込み型パネルを使用したプロジェクタ用として3kW~7kWなどのランプも使用されたが,DMD 画像素子が開発されてからは3板式DMDプロジェクタ用として1kW~2kWのランプがよく採用されている。

DMD あるいは反射型液晶プロジェクタに適したランプとして,アーク長を短縮したショートアークキセノンランプが開発されている。例えば,常温時のアーク長は1kWランプで3mm,1.6および2kWランプで3.5mmである。ランプの全長も短くなっている。図5に1.6kWキセノンランプの外観を示し,図6に分光エネルギー分布を示す。

5.2 セラミックス製キセノンランプ

当初ファイバー照明用として電力75W~300Wの反射鏡内蔵型セラミックス製キセノンランプが開発されていたが,反射型画像素子プロジェクタ用として400W~1kWのランプが開発された。図7にセラミックス製キセノンランプの構造例を示す。ランプ本体は400Wランプで直径50mmΦ,全長65mm,1kWランプで直径65mmΦ,全長70mmであるが,冷却フィンを装着する必要がある。冷却フィンを装着した大きさは400Wランプで直径85mmΦ,全長80mm,1kWランプで直径94mm,全長85mm 程度である。

セラミックス製キセノンランプの特徴は石英ガラス製キセノンランプに比較してランプ効率は低いが,反射鏡を含めた大きさで比較すると光源が小型,軽量になり,また反射鏡の口径が小さいため光学系を小さくできる利点がある。セラミックス製キセノンランプは破裂の可能性がないことも長所である。

セラミックス製キセノンランプは,DMD および反射型液晶プロジェクタ用光源として採用された実績はあるが,超高圧水銀ランプが開発された現在では新規の採用は少なくなっている。

8. あとがき

液晶プロジェクタが商品化されて以来11 年間の光源,光学素子などの発展,変遷を見てみると,現代技術の多様性と進歩の速さに改めて感銘を受ける。

もっとも,現在では考えられる基本的な技術はすべて採用された感があり,今後はこれらの技術の改良とコストダウンに重点が移るものと思われる。超高圧水銀ランプに関しても更に寿命の延長と信頼性の向上が必要であり,またコストダウンも課題である。

液晶プロジェクタはデータプロジェクタとしての用途のほかに,今後デジタルTV の本格化と共に大型デジタルTV の一形式としてリアプロジェクタ型液晶TV が伸びていくことが期待される。

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