USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.21(2001年4月発行)

照明学会 光関連材料・デバイス専門研究会

(2000年10月)

液晶プロジェクター用光源の技術動向
Technical Trend of Light Sources for LCD projectors

東 忠利(ウシオ電機株式会社)
Tadatoshi HIGASHI (Ushio Inc.)

1.はしがき

液晶プロジェクターが初めて製品化されてから11年になるが、その間に液晶パネル、光学系、光源とも著しい発達を遂げ、液晶プロジェクターの性能が飛躍的に向上した。これらの各部品の性能は独立に発達したものではなく、お互いに他の部品の開発を促しながら発展したものである。

例えば、アモルファス-シリコンTFT-LCDからポルシリコンTFT-LCDへの液晶パネルの小型化によりマルチレンズ(=フライアイ・レンズ)式オプティカル-インテグレータの使用が容易になり、さらにランプが短アーク長化されたことによりオプティカルインテグレータの性能が十分に発揮されるようになった。またランプの短アーク長化によりPS編光の分離-変換合成の性能も発揮できるようになった、などである。

液晶プロジェクターの製品化初期の光源としては、主に交流点灯型メタルハライドランプとハロゲンランプが使用されていたが、短アーク長化と高出力化に対し寿命特性が優れた直流点灯型ランプが1994年に開発され、数年間は液晶プロジェクターの標準的な光源になった。その後、1998年には日本国内でも液晶プロジェクター用超高圧水銀ランプの量産が開始され、液晶プロジェクタの中心的光源の座を獲得した。一方、高輝度の高出力光源として定評のあるキセノンランプは反射型画像パネルを使った大出力プロジェクターには必須光源として採用されている。

本報告では、これらの各光源に付いて、動向を概説する。

2.超高圧水銀ランプ

2-1.開発の経緯

水銀の動作蒸気圧を100気圧以上にすると可視全波長域にわたる連続スペクトルが増大し(1)、特に約150気圧以上にした超高圧水銀ランプは液晶プロジェクタ用光源に好適な光源になることは液晶プロジェクタの開発初期より知られていた。しかし当初は信頼性に問題があるため直ぐに製品化することができなかった(2)。これに対しPhilips社は液晶プロジェクターの製品化当初よりプロジェクター用ランプの開発に本格的に取り組み、1985年末になって100Wランプが日本製の液晶リアープロジェクターに初めて採用された。しかし100Wランプの光出力はフロント式液晶プロジェクターに対しては光束が不足したため、ほとんど採用されず、1997年に120Wランプが開発されてからフロント式液晶プロジェクターに採用され始めた。しかし当初はランプ供給量が少なく、使用量を増やせなかった。超高圧水銀ランプが本格的に採用されるようになったのは日本国内での量産が始まった1998年からであった。

優れた特製を持つ超高圧水銀ランプ(交流点灯型)も、初期のプロジェクターではアーク輝点の移動による画面のちらつきが問題になって採用できなかったが、オプティカルインテグレータの採用によって画面のちらつきが抑えられ、採用できるようになった経過もある。

1998年初めからの日本国内での量産は、Philips社と同じ矩形波交流点灯型ランプと日本独自の直流点灯型ランプとで始められた(3)。直流点灯型超高圧水銀ランプは画面のちらつきの対策として開発されたものであるが、点灯回路の小型化とコストダウンのメリットもある。

なお、超高圧水銀ランプがほぼ同じ効率を持つメタルハライドランプと比較して液晶プロジェクター光源として優れている原因は二つあり、一つは水銀蒸気圧を上げると放電中の電界(V/cm)が非常に上昇し、アーク長を短縮しても効率が低下しないことであり、第2は水銀の励起およびイオン化エネルギーが高く、発光がアーク中心に集中していることである。

2-2.交流点灯と直流点灯

一般に矩形波交流点灯型ランプの点灯は、図1に示すように商用周波電力を整流して直流電力に変換した後でFETを使って電流制御し、さらに4個のFETを使って矩形波交流電流に切り替えてランプを点灯している。従って直流電流で直接ランプを点灯すると矩形波交流電流への変換部分が不要になり、その部分は小型化、安価化が可能になる。

交流点灯ランプのアーク輝点の移動の原因は、ランプの陽極動作と陰極動作の動作機構の違いによる。すなわち陽極輝点が比較的大きいのに対して、特に高圧蒸気中の放電では陰極輝点は非常に小さいため、陽極輝点中のどこに陰極輝点ができるかが一定しないためアーク輝点の移動が起こるものと考えられる。これに対しPhilips社では図2に示すように矩形波電流の最後に高電流期間を作ることにより、陰極輝点の移動を制御できると報告している(4)

直流点灯では陽極と陰極はそれぞれ専用電極として動作するため、陰極輝点の移動は当然に小さくなるが、完全に無くなる訳ではない。直流点灯でも陰極の消耗、変形により陰極輝点の移動が発生する。

発光スペクトルについては、メタルハライドランプの場合と違い、超高圧水銀ランプは高水銀蒸気圧の単一物資中の放電のため(少量の稀ガスは存在するが)、直流点灯でも交流点灯でも基本的にはほぼ同じ発光スペクトルを示す。しかし発光光束は直流点灯の方が若干低いようである。これが電極形状を含む発光管形状によるものか放電特性によるものかは今のところ不明である(報告者は両者の寄与があると推定している)。

図1 矩形波交流点灯の電子点灯回路の構成図

図2 安全なアークを形成する電流波形(4)

2-3.ランプ定格

現在、既に液晶プロジェクターに採用され、販売されているランプの定格は、交流点灯タイプには100W、120W、150W、200W、220~230Wなどがあり、直流タイプでは130W、150~160W190~200W、250Wなどがある。

現在のアーク長は100~130Wがほぼ1.2mm、150W~200Wが1.3mm、220W~250Wが1.5mm程度である。効率は60~701m/W程度である。発光スペクトルの色温度8000~9000K程度である。

2-4.発光スペクトル

水銀蒸気圧が5気圧程度の高圧水銀ランプの発光スペクトルにもわずか連続スペクトルが見られるが水銀蒸気圧が約100気圧程度以上から、連続スペクトルの発光が顕著になる。約150気圧に達すると液晶プロジェクタ用光源としてかなり良好な発光を示すようになるが、特に約200気圧になると水銀原子の線スペクトルの発光がかなり小さくなり、良好な光源になる。この水銀蒸気圧と発光スペクトルの関係については、古くより幾つかの測定例が報告されているが(1)他、図3に最近の報告例を示す(5)

線スペクトルと連続スペクトルの比率は水銀蒸気圧の他に、放電管内径や電流密度にも依存するほか、水銀蒸気圧の測定自体にもかなり誤差があり、蒸気圧と分光分布の関係は一定のものではない。例えば蒸気圧は直接には測定できないから封入水銀量から推測することになるが、電極根本への逃げ込み量や、水銀分子と水銀原子単体の比率の推定に誤差が入るなどである。

液晶プロジェクタ用超高圧水銀ランプの蒸気圧は製品化初期には150気圧程度の動作蒸気圧であったが、最近では170~200気圧程度に増加している。

なお、連続スペクトルの発光機構の説明をMonch, Fisherら(5)は単純に水銀の分子スペクトルとしているが、これは非常に疑わしいと考える。特に赤成分となる610~700nmの連続スペクトルについてはキセノンランプの連続スペクトルの発光に類似した自由電子の再結合放射および制動放射が主要な発行機構になっていると考えるべきであろう。もっとも500nm以下の連続スペクトルはこれらの放射による連続スペクトルに水銀の分子スペクトルが多量に重なっていることは事実である(電子の再結合による発光スペクトルは波長依存性が小さく、また波長400nmの前後に水銀分子のスペクトルも確認されているからである)。

電子密度と陽イオン密度の積はアーク温度の増加により励起準位密度よりも急激に増加する。従って電力密度の増加により線スペクトルに対する連続スペクトルの比が増大し、発光の色温度は低下する。もし電力密度を一定にして水銀蒸気圧を増加すると青色領域の水銀の分子スペクトル発光が増加し、放電管の半径がある大きさ以下では色温度が上昇する。しかし放電管径が大きいときは分子吸収が勝り、低下する。{その意味では、報告者が書いた解説資料(6)で、水銀蒸気圧を増大すると色温度が単純に低下するように述べたのは誤りであり、訂正する。}

直流点灯型超高圧水銀ランプの構造図を図4に示し、図5に200W超高圧水銀ランプの輝度分布の例を示す。

図3 水銀動作蒸気圧と分光エネルギー分布(5)

図4 直流点灯型超高圧水銀ランプの構造図

図5 200W超高圧水銀ランプの輝度分布例

3.メタルハライドランプ

液晶プロジェクタの製品化当初は矩形波交流点灯型メタルハライドランプが、その後の1995-1998年は直流点灯型メタルハライドランプが液晶プロジェクタの中心的な光源として使用されてきた。現在は超高圧水銀ランプに中心的な光源の位置を譲ったが、現在もなおメタルハライドランプは信頼性の高い高出力ランプとして、あるいは比較的安価なランプとしての利用価値が残っている。

現在も利用されているメタルハライドランプは主に短アーク化が容易で点灯回路を小型にできる直流点灯型ランプである。電力定格は125W、270W、400W、440Wなどである。270W~440Wのランプは定格寿命までの高信頼性が評価され、また125Wランプは安価さが採用理由と思われる。アーク長1.6~3.5mm程度であり、効率60~70lm/Wである。封入物ハロゲン化物は日本ではDy系であるが、海外では稀土類ハロゲン化物を使わないランプも開発されている。

4.ハロゲンランプ

ハロゲンランプは点灯回路が不要または簡単でランプも安価の故に、効率的にはものたりないが、特に手軽な、安価な液晶プロジェクタに採用されている。使用実績のあるハロゲンランプには24V-150Wや100V-400Wの光学機器用ランプがある。しかし最近では採用例は非常に減っている。

5.キセノンランプ

ショートアーク型キセノンランプには高輝度と大出力のランプを容易に製作できる特徴が有り、高価ではあるが、反射型液晶やDMDなどの反射型画像素子を使った大出力プロジェクタには必須な光源として採用されている。現在のところプロジェクター光束が5000lm以上のプロジェクターには必須な光源であろう。また反射型液晶を使う画像品位の高いプロジェクターでは1000lm以上の出力光束を得る機種にもしばしば採用されてる。

ショートアーク型キセノンランプにはセラミック製キセノンランプと石英ガラス製キセノンランプとがある。

5-1.セラミック製キセノンランプ

30Φ~40Φの反射鏡を内蔵したアルミナセラミック製キセノンランプで前面の窓はサファイアでできている。定格入力75W~300Wのランプがファイバー照明用として使用されているが、液晶プロジェクタ用には400W~800W程度の高出力ランプが使われている。アーク長は1.2~1.5mmである。1000~2000lmのプロジェクタ出力が得られている。図6にセラミック製キセノンランプの断面構造例を示す。

図6 セラミック製キセノンランプの断面構造例

5-2.石英ガラス製キセノンランプ

石英製ショートアーク型キセノンランプには定格入力70Wから30kWの水冷電極式ランプまであるが、画像プロジェクタ用として使われているのは1kW以上のランプであり、特に最近DMD用として1kW、1.6kW、2kWなどのランプがよく使用されている。アーク長は3~3.5mmである。反射型液晶素子用ではさらに大出力のキセノンランプの使用例もある。現在、最大12000lm光束のプロジェクターが作られている。図7に入力電力1.6kWのキセノンランプの分光エネルギー分布を示す。

図7 1.6kWキセノンランプの分光エネルギー分布

6.今後の課題

現在の中心的光源である超高圧水銀ランプに付いては信頼性の向上が急務であろう。さらにプロジェクタ業界からは、特に100W~130Wランプについて10000時間以上への長寿命化、更なる短アーク長化、コストダウンなどが要請されている。耐圧信頼性の向上にはモリブデン箔と石英ガラスの接着力の向上や、構造的観点からの強度の向上が必要であろう。

石英製キセノンランプではアーク長の短縮や効率の向上が求められているが、両者は相反する特性であり、光学系との調整が必要であろう。

有電極のHIDランプでは20000時間以上の寿命を実現することには困難が予想され、長期的には無電極ランプの小型化、光輝度化の研究も必要であろう。

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