USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.26(2003年8月発行)

月刊ディスプレイ(2003年7月号)

札幌シネマフロンティアの
デジタルシネマプロジェクタ

(株)ジーベックス友岡 昭彦※
Akihiko Tomooka

1. はじめに

今年3月にJR札幌駅の大型商業施設「札幌ステラプレイス」(写真1)内にオープンしたシネマコンプレックス「札幌シネマフロンティア」(写真2)にジーベックス取扱い製品である米国クリスティ・デジタル・システムズ社のデジタルシネマプロジェクタ「DCP-H」が2台採用された。

「札幌シネマフロンティア」は日本を代表する映画会社である東宝(株)、松竹(株)、(株)ティ・ジョイ(東映(株))の3社が初めてひとつとなって展開するシネマコンプレックスであり、また北海道最大の12スクリーンを保有するなど、国内のみならず海外からも広く注目を集めている。そのため、ジーベックスとして力を入れていた案件であり、今回「DCPH」を納入することができたことは非常に喜ばしい限りである。

ジーベックスは、「DCP-H」2台を含めた12シアター全館のフィルム映写機・音響設備・スクリーンの納入・施工も合わせて受注し、また、ロビー映写設備および各シアターの本編上映前のコマーシャル(シネアド)用上映設備も納入している。ジーベックスはクリスティ社とともにウシオ電機のグループ会社の1社であり、映画館の映写・音響設備の販売・施工・メンテナンスを中心に活動している。近年のシネマコンプレックス建設ブームの中、多くの客先よりご評価をいただき、シネマコンプレックスへの設備納入実績は全国展開で7割近くをカバーしている。

1999年に「スターウォーズ/エピソード1」がアメリカにおいて初のデジタルシネマとしてデジタル上映されて以来、幾度となくデジタルシネマを話題とした議論が交わされてきたが、運用面での見通しが明確ではないことや、また、上映システムにおいて多くの規格が存在したことにより、実際の導入に関してはまだ様子見といった客先が多かった。しかしながら、ここにきてようやくデジタルシネマもその存在が認知されたようで、昨年あたりからデジタルシネマプロジェクタの導入を前提として劇場設備を設計する客先も多くなってきており、また客先からの具体的な問い合わせも増えてきた。そのような状況の下、今回札幌シネマフロンティアに導入したDLPシネマプロジェクタ「DCP-H」について述べる。

写真1 JR札幌駅と札幌ステラプレイスのあるJRタワー

写真2 札幌駅シネマフロンティア

2. DLPシネマプロジェクタ「DCP-H」

今回納入したクリスティ社製の「DCP-H」(写真3)は米国テキサス・インスツルメンツ社で開発されたDLPシネマ光学エンジンを使用したデジタルシネマプロジェクタである。DLPシネマテクノロジーについては、これまで様々な文献にて説明されており、また日本テキサスインスツルメンツ社のホームページ上でも紹介されているので、今回は特に詳しい説明は省略する。

ちなみに画像調整機能「CineCanvas」やセキュリティ機能「CineLink」を搭載したm15バージョンを採用している。

DCPシリーズには今回導入した「DCP-H」の他に小出力用の「DCP-I」があり、「DCP-I」がランプ出力1.6~3kW、「DCP-H」が4~6kWに対応している。劇場では、やはり大きなスクリーンへの投射が主流となるため、「DCP-H」が採用されている。

「DCP-H」は、現時点で下記5のサイトに合計6台が納入されている(平成15年4月末現在)。

  • ①京成ローザ10(千葉市中央区)
  • ②SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ホール(埼玉県川口市)
  • ③札幌シネマフロンティア(札幌市中央区)
  • ④109シネマズ富谷(宮城県黒川郡富谷町)
  • ⑤T・ジョイリバーウォーク北九州(福岡県北九州市)

本体部分の機器構成は、電源を設置してあるペデスタル部・ランプハウス・DLPシネマヘッドの主要3つの要素で構成され、シネマヘッド部分にマスターレンズ1本・アナモフィックレンズ2本を取り付ける。DCPシリーズは、従来タイプと比べユーザーフレンドリーな設計となっており、それぞれの特徴に関して以下の通り詳細説明をしたい。

写真3 DCP-H

2.1 マルチインプットモジュール「CineIPM」

当初のDLPシネマプロジェクタは主にデジタルシネマの上映用に特化しており、対応入力ソースもSMPTE292Mに準拠したハイクオリティなHD・24Pのフォーマットをベースにした映像信号に限られていた。しかしながら、劇場側としてはデジタル上映ならではの利点として、フィルム映写機では上映できない様々なコンテンツの上映を検討している場合も多く、通常のデータプロジェクタのようにNTSCレベルからHDTVレベルの入力信号に対応した機能を望む声が多かった。

このような背景において、クリスティ社は長年のプロジェクタビジネスで培われた技術・経験を生かし、マルチインプットモジュール「CineIPM」(写真4)を他社に先駆けて開発、オプション販売を行った。この「CineIPM」を搭載することにより下記入力ソースの上映が劇場のスクリーン上で可能となった。今回の札幌シネマフロンティアでも両機に採用されている。

<入力可能な信号>

  • ・アナログRGB(RGB・YPbPr)
  • ・コンポジット信号
  • ・Sビデオ

*以下オプションボード挿入により入力可能

  • ・SD-SDI/HD-SDI/DVI

また、「CineIPM」は入力映像のアスペクト比・色調・コントラスト・輝度等を自由に設定することができ、使用状況に応じた映像の上映が可能となっている。その条件は99ある設定チャンネルに保存することによって、いつでも呼び出すことができる。この「CineIPM」の使用により、DVDやビデオ・衛星放送等入力ソースのフォーマットを選ばない上映が可能となり、劇場において映像以外のコンテンツを簡単に上映できる環境を提供した。札幌シネマフロンティアでは、幕間に液晶プロジェクタを使用してシネアドのデジタル上映を行っているが、「DCP-H」が設置されているスクリーンにおいては、「DCP-H」にてシネアドを上映している。また、オープニングイベントの一環として、東京府中の森芸術劇場で3月8日に行われた「Dear BEATLES 2003」のライブ演奏の衛星同時中継を「DCP-H」にて劇場上映するなど、シネマプロジェクタのより効果的な活用を行っている。

複数のスクリーンを保有するシネマコンプレックスでは、上映スケジュールの調整を行うことにより映画以外のコンテンツの上映も十分可能であり、今後の展開が期待されるところである。

写真4 マルチインプットモジュール「CineIPM」

2.2 タッチパネルコントローラ「TPC」

「DCP-H」はデジタルシネマ上映に必要な入力信号のフォーマットやカラースペース等の各種条件設定をシネマヘッドにメモリすることができる。「TPC」(写真5)を活用することで、そのメモリされた設定を液晶パネル上から専門な知識を必要とせず簡単に選択・決定することができ、現場のオペレーションを簡便にしている。

以下に述べる各設定は、1つの選択ボタンにまとめてセーブすることができる。例えば「スクリーン:シネマスコープ/入力フォーマット:SXGAの場合はボタンA」、「スクリーン:ビスタヴィジョン/入力フォーマット:1920×1035の場合はボタンB」など、使用頻度が多いパターンを4パターンまでメインメニュー上に設定することができる(図1)。

写真5 タッチパネルコントローラー「TPC」

図1 「TPC」メインメニュー

2.2.1 スクリーンのマスキング

映写機を設置する際、本来であればスクリーンに対して垂直且つ中心位置に据付けるのが理想であるが、実際の劇場は通常打ち下ろし映写となっており、また、デジタルシネマプロジェクタが設置されるスクリーンではフィルム映写機との2台以上の設置が多く、状況によってはかなり中心より外れた位置からの投影が要求される。そのような状態で投影された画像は、実際のスクリーンサイズに対して上下左右方向に歪みが生じるため、スクリーン上に投影される部分を調整しなければならない。フィルム映写機の場合はアパーチャーマスクを実際に削ることによりスクリーン上の画像サイズを調整するが、「DCP-H」はその作業をソフトウエア上で行うことができる。スクリーンからはみ出る部分をプログラムの操作により削り取ることが基本で、状況によって画像周辺部でスクリーンに対し画像にへこみがある部分をスクリーン形状に合わせて膨らますことも可能である。この作業をシアター毎に合わせ行い、シネマヘッドに記録、必要に応じて「TPC」より選択する。通常はビスタヴィジョン(VV)用およびシネマスコープ(CS)用の設定を行うが、必要に応じてHDTV用の設定も行う場合がある。

2.2.2 入力ソースの設定

デジタルシネマ用の入力ソースの解像度は光学素子であるDMDチップのサイズがSXGAであるため、通常横方向にスクイーズされ、「1280×1024」サイズに変換されたフォーマットで入力される場合が多い。しかしながら、最近ではHD対応のデジタルビデオカメラの普及により「1920×1080」サイズの生素材をデッキより受けることも多くなってきた。「DCP-H」では入力ソースの解像度および上映時のアスペクト比をメモリすることができる。例えば「1280×1024」の解像度の入力ソースをVV(1.85:1)のアスペクト比で上映するのか、CS(2.35:1)で上映するのかを事前に設定することができ、設定後は「TPC」上にて選択することにより入力ソースを希望のアスペクト比にて上映することができる。アスペクト比はVV/CSに限らず、自由に選択することができる。

2.2.3 カラーアジャストメント

「DCP-H」は上映する作品毎にガンマ・カラースペース・ターゲット色を設定することができる。この機能により、製作サイドが望んでいる色での劇場上映が可能となる。基準色のRGBに対して作品により異なる設定を行い、その設定に基づき上映を行う。カラーアジャストメントについては、デフォルトデータとして数種類の設定がはじめからプロジェクタヘッド部にメモリされているが、それ以外の条件においても製作者サイドより色情報データを入手することにより指定色での上映が可能となる。

また、製作者サイドが望む色にて上映を行うためには、劇場の様々な状況(スクリーンゲイン・ポートガラス・周囲漏れ光等)を考慮し、その状況に応じて色を較正する必要がある。劇場でのプロジェクタ設置時に基準色テストパターンを専用測定器にて測定し、そのデータをシネマヘッドにメモリし、実際の上映時には基準値と実測値の差より目標の色を再現するようになっている。

2.2.4 ステータス表示

「TPC」上にてプロジェクタの現在の状態(入力信号フォーマット、内部回路状態、センサー温度等)が表示され、確認することができる。

2.3 デュアル・アナモフィックレンズ・フィクスチャー

「DCP-H」はマスターレンズの前にデュアル・アナモフィックレンズ・フィクスチャー(写真6)を取り付けることにより、VV用アナモフィックレンズ(×1.5)およびCS用アナモフィックレンズ(×1.9)を同時に装着することができ、作品上映に合わせて簡単にアナモフィックレンズを入れ替えることが可能となっている。使用するアナモフィックレンズをマスターレンズの前にスイング移動させ、固定用のサムホイールを締め込むことにより簡単に位置出し・固定ができる。

写真6 デュアル・アナモフィックレンズ・フィクスチャー

2.4 イーサネット接続機能

「DCP-H」はプロジェクタ毎にIPアドレスを設定することが可能である。イーサネット接続により外部との通信ができ、個別管理が可能となっている。ジーベックスでは、近日中に各サイトの「DCP-H」をイーサネット接続し、社内にて集中管理を行う予定である。集中管理することにより、プロジェクタのステータスのリアルタイムでの監視が可能となり、トラブル時の迅速な対応や未然での防止に有効である。また、新作上映の際に必要となるカラーアジャストメント用のデータファイルの送信も可能となる。このようにプロジェクタを外部よりコントロールするサービスを提供することによりユーザーの負担を軽減できると考えている。

2.5 ソフトウエアアップグレード

デジタルシネマヘッドおよび前述の「CineIPM」、「TPC」のオペレーションソフトウエアは、外部PCより簡単にアップグレードが可能となっている。

デジタルシネマ機は1999年に世間に登場してから現在まで、ハード・ソフトとも仕様変更が重ねられたが、「DCP-H」はヘッド部が本体より分離しているタイプのDLPシネマプロジェクタの完成型であり、各コンポーネントのソフトウエアをアップグレードすることにより、最新のパフォーマンスを提供することができる。

3. 今後のDLPシネマプロジェクタ

デジタルシネマ機が登場した当初は、デジタルシネマの上映することにより劇場側にどのようなメリットがあるのかということがかなり議論されていた。しかし結局、結論らしい結論は得られず、前述で説明したように様子見の客先がほとんどであった。

ところが現在では、デジタルシネマ映写機を導入することにより何ができるかを基準に検討を始めた客先も出てきており、ジーベックスもその点を踏まえ、それぞれの客先に応じたデジタルシネマプロジェクタのソリューションを伴う拡販を推し進めていくよう努力している。

DLPシネマプロジェクタについて、よく指摘されたポイント(特に製作サイドから)は、解像度不足ではないかということである。しかし、本年3月のShoWestにて米テキサス・インスツルメンツ社より2KのDMDチップの発表もあり、その点も解消され、今後デジタルコンテンツの増加に伴い、ますます普及していくと予想している。クリスティ社でもより多くの客先のニーズに応えるため、5機種のラインアップを揃えた「CPシリーズ」を発表し、万全の体制にて臨んでいる。

4. おわりに

今回、札幌シネマフロンティアに納入させていただいたことにより、このような機会を得ることができた。DLPシネマプロジェクタについては、DLPシネマテクノロジーの仕様・技術等は様々な文献で発表されているが、映写設備トータルとしてのその操作性および現場でのオペレーション性に関しては説明されることは少なく、使用するまではわからないことが多いのではないかと感じたため、今回は特にデジタルシネマプロジェクタ「DCP-H」に何ができるのかということを説明させていただいた。今後の導入検討の際の参考となれば幸いである。

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