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光技術情報誌「ライトエッジ」No.31

大学研究室を訪ねて Campus Lab⑲

(2008年10月)

究極の新エネルギー、次世代半導体
未来のライフサイエンスの道を拓く

国立大学 法人東京工業大学 大学院総合理工学研究科 創造エネルギ—専攻 堀田研究室
教授 堀田栄喜 先生

世界最高の理工系大学へ
―東京工業大学

米国Timesによる2007年の世界大学ランキングで、総合90位、工学系で22位、日本国内では総合4位と高位置にランク付けされた東京工業大学は、その評価にふさわしく125年あまりの歴史※1を刻み、90.000人を数える卒業生は、産・官・学のさまざまな分野で童要な役割を担ってきています。

現在は、大岡山(東京都目黒区)・すずかけ台(横浜市緑区)・田町(東京都港区)の3つのキャンパスを擁し、国際的に活躍し、先導的な役割を果たす多彩な教員陣によって、3つの学部※2、6つの大学院研究科4つの附置研究所、数多くの研究施設・センターが組織され、社会や産業界の要請に幅広く応えています。

すずかけ台キャンパス
1975年開設。2006年、大岡山キャンパスとともに「キャンパス将来計画」を策定し、すずかけ台キャンパスは「ペリパトスの研杜21」を計画。将来にわたり魅力あるキャンパス空間をつくるために、道・緑・安心・インフラなどで明確なルールを定め、恵まれた自然と共存するゾーイングなど、6つの設計コンセプトに基づいた造成、整備を進めている。

“創造型人間”を育成

知的好奇心に端を発した学術研究は、新しい技術と産業を生み、新しい社会を築く——東京工業大学では、理工系の各分野にわたって世界最高の学術研究を推進。その刺激の中で、学生一人ひとりの創造性の啓発、育成に注力し、ノーベル賞受賞学者の白川英樹博士をはじめ、多くの優れた人材を世に送り出してきています。基礎知識・実践能力・的確な判断力・統合する力が身につく教育目標を設定し、確かな基礎力を習得した“創造型人間"の育成を目指しています。

21世紀が求める〈創造エネルギー〉

6つの大学院研究科のひとつ、総合理工学研究科には、今回ご紹介する堀田研究室が所属する創造エネルギーをはじめ、物質科学創造・物質電子化学・材料物理科学など11の専攻があります。

この創造エネルギー専攻は、1975年、総合理工学研究科の創設と同時に開設(当時はエネルギー科学専攻)。現在では、3つの基幹講座※4と3つの協力講座※5からなり、エネルギーに関する課題を理学的な観点から検討し、工学的なセンスで解決できる能力を身につけるカリキュラムが編成されています。

「本専攻の目的は、エネルギーの視点から、地球環境や社会システムを見渡すことができ、種々のエネルギー問題の解決にあたることができる高度な知識、幅広い見識を持った創造的な研究者や技術者を養成することです」と堀田研究室の堀田栄喜教授が語るように、今日のエネルギー問題は、環境・資源、食料・人口、政治・経済と密接に関わりを持ち、全世界が取り組むべき最重要課題といっても過言ではありません。創造エネルギー専攻は、エネルギーの無秩序な大量消費の反省に立ち、自然エネルギーをはじめとする多様でクリーンなエネルギー源の開拓、環境と調和したエネルギー利用法の開発を目指しており、まさに、21世紀の学問領域を学ぶ専攻といえます。

創造エネルギー専攻の教員室や研究室が集結する20階建てのJ2棟。手前の円形建物は多目的ホールや学生食堂、ラウンジ、テラスなどあるすずかけホール。

堀田栄喜教授

高発光・高効率に向けて
基本物理現象の解明に挑む〈堀田研究室〉

創造エネルギー専攻の堀田研究室では、研究テーマに、●短パルス非平衡プラズマによる環境汚染物質の分解処理、●高温・高密度プラズマによる次世代半導体露光用EUV放電光源や軟X線レーザーの開発、●慣性静電閉じ込め核融合中性子/陽子源の開発と爆薬の探知への応用などを掲げ、プラズマ理工学とパルスパワー技術を基礎として、低密度から高密度、低温から超高温に至るまでの種々のプラズマ生成とその応用についての研究に取り組んでいます。

研究生の皆さん
博士課程3名、修士課程10名、学部1名の学生が学術研究に勤しんでいる。

半導体リソグラフィ用極端紫外光源の開発

(1)同軸2重ノズル型キセノンEUV光源

現在、最先端半導体の製造工程では、波長193nmのArFエキシマレーザーがリソグラフィ用光源として使用され、回路線幅が約45nmの半導体が量産されています。しかし実業界では、半導体デバイスのさらなる高集積化や高速化に向けて、より短波長のリソグラフィ用光源の開発を望んでいますが……。

堀田:32nm技術ノード以降における光源として、放電プラズマを用いた波長 13.5nmの極端紫外(EUV)光源が最有力視されています。現在までに開発されているEUV光源の性能は、出力や寿命、繰り返し周波数などで、量産時に求められる仕様にまだまだ届いていません。 当研究室では、キセノンのピンチ放電プラズマを用いたEUV光源の開発を進めています。これまでに、放電部の形状や電源回路の改良、装置の低インダクタンス化などを行い、光源の高出力化、高効率化を図っています。さらに、集光光学系などの劣化の原因となるデブリ(飛散粒子)の低減を目的として、ヘリウムガスジエットを用いた同軸2重ノズル型放電部の開発に取り組み、ピンチ放電に成功しました。現在は、実用化に向けた高出力化のために、十分な予備電離が可能な2段磁気パルス圧縮回路と絶縁トランスを用いた、新しいシステムを考案し、その開発を進めているところです。

(2)レーザートリガ型SnEUV光源

半導体リソグラフィ用光源として、EUV光源の実用化に向けた最重要テーマは、 EUV光の出力向上とされていますが…。

堀田:EUV光の出力向上に向けて、当研究室では、従来のキセノンよりもEUV光への変換効率が高いスズを、放電ガスとして用いる研究を行っています。

スズは常温で固体であることから、そのままでは放電媒体として用いることはできません。そこで、レーザートリガ型のEUV光源の開発を進めています。

電極の先に組み込んだスズにNd:YAG レーザー光を入射し、スズプラズマを生成させます。その結果、電極間に絶縁破壊が生じ、電流パスが作られます。その後、大電流が流れ、Zピンチまたはジュール加熱によってスズプラズマからEUV光を得ます。これまでに実験パラメータの最適化や電源回路の改良を行い、光源の高出力化を図ってきました。

現在は、さらに出力を向上するために、より高密度なプラズマを生成するためのパルスパワーシステムの改良、Zピンチダイナミクスの解明を進めています。

レーザートリガ型スズ放電生成プラズマEUV光源次世代半導体リソグラフィ用光源として期待されている、波長 13.5nmのEUV光源の基礎的研究を行っている。 この装置は、レーザー照射によりスズ蒸気を噴出させ、これに Zピンチ放電を行うことによって、温度40eV程度、 密度1019cm-3程度のプラズマを得、これから放射される EUV光を利用する。

キャピラリー放電励起軟X線レーザーの短波長化

軟X線レーザーは'最先端の研究開発に必要な微細構造物の計測技術への応用が考えられています。ナノテクノロジーやライフサイエンスに道を拓くものとして、この軟X線レーザーの短波長化を研究テーマに取り上げていますが……。

堀田:X線レーザーは波長が短くエネルギー密度が高いため、原子分子レベルにおいて物質と強く相互作用します。そのため、ナノテクノロジーやライフサイエンスから新しい物理化学現象の解明まで、幅広い分野への応用が期待されています。

1994年、米国コロラド州立大学のJ.J.Roccaらは、キャピラリー(細管)放電によるZピンチプラズマを用いた電子衝突励起によって、ネオン様アルゴンの3p - 3s遷移を利用して、波長46.9nmの軟X線レーザーの発振に成功しました。当研究室では、プラズマのピンチ過程における不安定性の成長がレーザー発振を妨げていることを突き止め、予備電離を有効に利用することによって、2001年に世界で2例目となるレーザー発振に成功しました。

現在は、短波長化と応用を見据え、多層膜ミラーを用いた集光や共振による高出力化を行うために、窒素プラズマの再結合過程におけるパルマーα線を利用した波長 13.4nmのEUVレーザー発振に向けた基礎研究を進めています。また、EUVレーザーの発振を実現するには、より高温で高密度なプラズマが必要となります。そこで、放電電流の高出力化と波形制御を目指し、新しいパルスパワーシステムの開発進めています。

キャピラリーZピンチ放電型軟X線レーザー装置長さ10〜30cm程度、直径3mmのセラミック細管にガスを封入し、波高値10~30kA、パルス幅100ns程度の電流パルスによって生成した高温(70〜100eV) ・高密度(1018〜1019cm-3)Zピンチプラズマにより、軟X線レーザー発振を行う。 これまで、ネオン様アルゴンによる世界で2例目となる46.9nm のレーザー発振に成功し、現在は、水素様窒素による13.4nm の発振を目指して、装置の改良を行っている。

可搬型核融合中性子/陽子源の開発

究極のエネルギーといわれる核融合の研究にも取り組まれていますが……。

堀田:核融合に関連した研究は世界各所でさまざまに行われています。当研究室が取り組んでいるのもそのひとつで、「放電型ビーム核融合」の研究です。

これは、同心の電極間放電で生成したイオンを電界によって中心に収束させ、加速したイオンビーム同士を衝突させて、核融合反応を導き出すというものです。この方式は、小型で簡単な装置ですむことから可搬性があり、安全で制御性のよい中性子/陽子源としての実用化が期待されています。当研究室では、現在、装置内の物理現象の解明、核融合反応の高出力化、中性子/陽子源としての応用に関する研究を行っています。これまでに、この核融合装置を中性子源として用いた地雷探知システムの開発プロジェクトを、京都大学と協力して進めてきました。

また、高エネルギーの陽子線を、最先端のがん検診法である陽電子放射断層撮影 (PET)診断用の製剤原料となる、短寿命放射性同位元素の生成に利用する研究も行っています。その結果、陽子線の引き出しを考慮した円筒型装置にバケット型イオン源を付加し、重水素を用いたパルス放電によって、世界最高となる毎秒7×109個の陽子生成率を達成しました。

さらに2007年度からは、大口径で高品位な半導体製造に有効である、中性子核変換ドーピングに使用するための新たな装置を製作し、実験を開始しました。これまでは巨大な原子炉でのみ可能であった中性子照射による半導体製造を、小型で廉価な装置で実現できるよう研究を進めているところです。

慣性静電閉じ込め核融合中性子/陽子源の放電の様子
(実際に核融合反応を起こしている)

慣性静電閉じ込め核融合中性子/陽子源重水素ガスに数10kVのBJEを印加してグロー放電を行い、生成されたイオン同士、あるいはイオンや荷電交換による高速中性粒子と背景ガスとの衝突による核融合反応によって、中性子や陽子を生成する。
中性子と火薬成分との核反応を利用した地雷探知や、陽子との核反応による短寿命放射性核種の生成によるPET(陽子断層法)用製剤などに利用できる。
パルス放電では、この種の中性子源として世界最高の生成率となる7×109/secを達成している。

プロフィール

堀田 栄喜 (ほった えいき)
国立大学法人 東京工業大学
大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻教授
工学博士(東京工業大学)

1951年 長野市生まれ
1978年 東京工業大学大学院理工学研究科電気工学専攻満期退学
東京工業大学工学部電気・電子工学科助手
1986年 同学部電子物理工学科助教授
1995年 同大学大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻教授
2007年 平成19年度創造エネルギー専攻長
電気学会会員
プラズマ・核融合学会会員
応用物理学会会員
IEEE会員
住所:〒226-8502横浜市緑区長津田町4259番地
電話:(045)924-5696
ファックス:(045)924-5697
E-mail : ehotta@es.titech.ac.jp/
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