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光技術情報誌「ライトエッジ」No.32(2009年5月発行)

日本学術振興会第162委員会 第61回研究会(日本学術振興会)

(2008年12月)

紫外光源の応用

蕪木 清幸
ウシオ電機株式会社 ランプカンパニー
技術本部開発センター E-110プロジェクト
E-mail : k.kabuki@ushio.co.jp

要約

固体光源(LED)は、既存の光源に比べて、長寿命化や省エネなどの環境性、使用する上での操作性、安全性、更には設計の自由度が高くデザイン性などの様々なメリットを有している。照明分野では、環境意識や価値観の多様化といった現代社会のニーズにマッチする次世代の光源1)として、液晶のバックライトや店舗照明等で、巨大市場での実用化が進んでいる。しかしながら、紫外域においては、一部の樹脂硬化や検査用として、徐々に普及が進んでいるものの、出力やコストの課題から市場が限定されているのが現状である。

本文では、従来の紫外光源の種類と特徴、用途の概要を紹介し、LEDが実用化に至るための課題についてまとめた。

1.既存光源(ランプ)の種類と特徴

既存光源であるランプは、白熱(フィラメント)電球と放電ランプに分類(図12))される。白熱電球は、フィラメントの熱輻射で広い波長領域で連続スペクトルを有するが、フィラメント材料のタングステンの温度(融点3400°C)が制限されるため、紫外域での放射強度は極めて小さい。

これに対して、放電ランプは、動作時の圧力、放電時のプラズマの形態、封入する物質によって、種々に分類(図1)され、可視~近紫外域はもとより、図23)に示すように、遠紫外、更には、真空紫外域での放射が可能である。

図1. 既存光源(ランプ)の種類と用途

図2. 主な紫外ランプの放射領域

2.紫外ランプの発光原理、構造、スペクトル分布

2-1.水銀ランプ4)

紫外域を放射する最も代表的なランプが、水銀(UV)ランプであり、点灯中の水銀蒸気圧により、低圧(100Pa以下)、高圧に分類される。陰極から放出された電子が基底状態の水銀原子に衝突し、水銀原子がエネルギーの高い励起状態に遷移する。励起状態から基底状態、または準安定状態に戻るときに、このエネルギー差分だけ放射されたものが輝線スペクトルである。低圧では、この輝線スペクトルが支配的である。その輝線波長λは以下の式(1)で算出される。

また、陰極から放出された電子が基底状態の水銀原子に衝突したとき、水銀原子が上記のような励起状態になる以外に電離してイオンになっている。この水銀イオンに高速で運動している自由電子が衝突すると正の電荷を持った水銀イオンと負の電荷を持った電子が再結合し、電子の運動エネルギーに見合うエネルギーが放射される。これが連続スペクトルである。そのスペクトル波長λは以下の式(2)で算出される。

図4にロングアーク型の低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、および、ショートアーク型超高圧水銀ランプの構造とスペクトル分布5)を示す。

図3. 水銀のエネルギー準位ダイヤグラム

図4-(a). 低圧水銀ランプのスペクトル分布と構造

図4-(b). 高圧水銀ランプのスペクトル分布と構造

図4-(c). 超高圧水銀ランプのスペクトル分布と構造

2-2.バリア放電ランプ6)

乾式洗浄、表面改質、光CVD等の光化学反応の分野では、より短波長で、ある特定の波長領域の放射効率が高い光源が望まれる。従来、紫外域のランプとしては、水銀ランプやキセノンランプが使用されてきたが、広い波長領域で放射するので、入力電力に対する利用効率が悪かった。これらの問題を解決するために、1990年代に新しい形態のランプが開発された。このランプが、誘電体バリア放電ランプである。

誘電体バリア放電ランプは、図5に示すように石英ガラスの二重構造になっており、内管の内側には金属電極、外管の外側には金属網電極がそれぞれ施されている。また、石英ガラス管内には、放電ガスが充填されている。電極に交流の高電圧を印加すると、2つの誘電体の間で細い針金状の放電プラズマ(誘電体バリア放電)が多数発生する。この放電プラズマは高エネルギーの電子を包含しており、かつ、瞬時に消滅するという特徴を持っている。この放電プラズマにより、放電ガスの原子が励起されて、瞬間的にエキシマ状態(ex.Xe2*)となり、このエキシマ状態から元の状態(基底状態)に戻るときに、そのエキシマ特有のスペクトルを発光(エキシマ発光)する。発光スペクトルは、充填された放電ガスによって設定することができ、Xeガスの場合は172nmに中心波長を持つ単色光を発光し、発光波長や入力にもよるが、数%~数十%の効率が得られる。(図6)

図5. 誘電体バリア放電ランプの構造

図6. 誘電体バリア放電ランプのスペクトル分布

3.各種紫外ランプの特徴と用途

各種紫外ランプ、及び、紫外LEDの特徴と用途実績、(将来性)について表1にまとめた。

ショートアーク型の高輝度光源は、主に露光やスポットキュア等、限定された領域を効率良く照射する用途に用いられ、ロングアーク型の光源は、より大面積を均一に照射する印刷や遠紫外光が要求される洗浄や殺菌等に使用される。

また、紫外光源の紫外域放射の効率は、アーク形態に関わらず、概ね、20~30%程度で、UV出力1W当りの単価は、ショートアーク型がロングアーク型より、圧倒的に高い。

表1. 各種紫外ランプの特徴と用途3)7)

4.LEDの特徴と紫外市場参入のための課題とまとめ

4-1. LEDの特長と採用効果

以下にLEDの特徴と採用効果をまとめる。

  • ・波長幅が狭く、特定波長域での放射効率が高い。
    ⇒特定波長を使用する用途に向く。[省エネ]
  • ・設置基板を冷却することで、熱の発生を防げる。
    ⇒対象物への熱線放射を防げる。[熱ダメージ防止]
    水冷が容易でクリーンルーム等での使用に向いている。[高い排熱性]
  • ・個々の光源が、小型で軽量。
    ⇒装置の小型化、軽量化が容易。[省スペース]
  • ・個々の光源の発光面積が小さい。(点光源)
    ⇒点の組合せで線光源・面光源を作れ、任意領域の照射が可能。
    設計の自由度が高く、照明設計が容易。[高いデザイン性]
  • ・瞬時ON/OFFが可能。
    [省エネ]
  • ・長寿命化が可能。
    [メンテナンスフリー][高稼働率]
  • ・水銀等の人体への影響のある物質を含んでいない。
    [安全性、環境性]

4-2. 紫外市場参入のための課題

上述した特長を持つLEDは、紫外域の分野でもスポット接着や印刷物(紙幣、証券)の判別光源等で採用が始まっている。また、将来的には、印刷分野や医療・バイオ分野、PCB露光の採用が期待されている7)

しかしながら、LEDが紫外市場に参入するには、以下のような課題がある。

  • ・遠紫外域の出力が極めて小さく、採用レベルにない。
  • ・ショートアーク型ランプに比べ、輝度が1桁程度低い。
    ⇒製造装置等においては、生産性が優先され、光源の置換えによるメリットが出し難い。
  • ・ロングアークランプのに比べ、単位出力当りの価格が、~2桁高い。
    ⇒余程の代替メリットが無いと困難。

4-3. まとめ

現在のところ、紫外LEDは、ランプと比べ特性面、コスト面で劣ることが多く、市場の受け入れに抵抗がある。従って、ここ数年は、特定分野での採用に限定され、大幅な市場拡大は見込めないだろう。

しかし、LEDは、省エネ・省スペース、長寿、安全性等、光源としての魅力が高く、例えば、印刷分野では、UVインクの感光感度を高め、何とか現LEDを使いこなそうとする動きがあるように、徐々に採用しようとする機運が高まっている。また、一方で、年々着実に、高出力化、短波長化の開発が進んでいる。

各紫外光源メーカーは、各用途での市場規模、光源コスト、開発難度を総合的に判断し、ロードマップを描きながら、代替採用を進めていくことになると予想される。(図7)

図7. 紫外用途での必要波長と光強度のイメージと開発の方向性

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