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光技術情報誌「ライトエッジ」No.34(2011年3月発行)

JETI 9月号(ジェティ)

(2010年9月)

拡大する産業用LEDの利用
― UVを中心として

小田史彦, 浅賀浩一, 永尾嘉彦, 蕪木清幸, 羽田博成

1. はじめに

グリーン・デバイスという言葉が流行し、「エコ」であることが重要な価値観として浸透してきている。低消費電力・長寿命の「エコ」照明としてLED 照明が爆発的な広がりをみせている。照明用LED の高性能化に平行して、紫外線(UV)域のLEDも高効率化・高出力化が進展しており、その産業利用も拡大している。本稿ではその現状を、利用例を挙げて展望する。

2. 産業用のUV 利用

弊社は産業用ランプ光源の総合メーカであり、様々な用途に応じ、真空紫外域から遠赤外域に至る波長の光を放射するランプ光源を製造している[1]。中でもUV域(波長200~400nm)はフォトンエネルギーが高く、照射物に対し種々の化学変化を起こすことができるため、広範な用途に利用されている。具体的には硬化(レジストの露光、印刷インク・接着剤などの硬化など)、殺菌、表面改質、医療等であり、光源には各種水銀ランプ、メタルハライドランプなどが用いられる。図1は主なUV用途と波長・光強度の関係の概略を示したものである。

図1. 主なUV 用途と波長・光強度の関係の概略図

3. LED化のメリットと課題

UV 域を放射するLED は近年高出力化が顕著であり、特に365nmよりも長波長の領域では、強力なランプ光に匹敵する照度(照射される単位時間・面積あたりの光のエネルギー)が実現できるようになってきた。ランプ光源に代えてLEDを採用するメリットをまとめると次のようになる。

  • (1) 省エネ:一般に多波長を放射するランプ光源に対し、LEDは放射波長幅が狭く、特定波長が必要な場合は実効的な電力効率が高い。また瞬時点灯・瞬時消灯可能である。
  • (2) 熱ダメージ低減:赤外線の不要な放射がない。
  • (3) 高稼働率・メンテナンス性:一般にランプより長寿命である。
  • (4) 省スペース:小型・軽量化が容易である。
  • (5) 設計自由度大:個々のLEDは発光面積が小さく、その組合せで点光源から線状光源、面状光源が作れ、任意領域の照射が可能。
  • (6) 低環境負荷:水銀など環境負荷の大きい物質を含んでいない。

一方、LEDを採用するための課題は、

  • (1) ランプに比べ(光量あたりの)価格が高い。
  • (2) 光源輝度(光源面積・放射角あたりの放射量)がランプよりも1桁程度小さく、集光照射には不適である。

LEDの利用は紙幣判別等のセンサ分野から始まり、徐々にパワーが必要な分野に広がってきた。図2にLED利用が増えているUV硬化の適用分野と具体例を示す。接着に用いられるスポット照射装置(図2に弊社のLEDスポット照射装置を示す)は最も早くLED化が進んだものであり、現在販売数量の約半数がLED方式である。次章に述べるUVインクジェットプリンタ等印刷分野等もLED化が進展してきた。今後は露光分野への適用が期待されている。

また、365nmより短波長の高出力LEDが具現化されれば、殺菌や表面改質といった用途にまで、利用が拡大すると予想される。(図1参照)

図2. UV 硬化の適用分野と具体例(上)とLED 方式スポット照射装置(ウシオ電機SPL-1)

4. UV― LED の産業利用例 ―UV インクジェットプリンタ

UVインクジェットプリンタは、従来のインクジェットプリンタが溶剤インク(溶剤揮発により硬化)を用いるのに対し、UV照射により瞬間硬化するインクを用いるプリンタである。インクにVOC(揮発性有機化合物)を含まないため、環境負荷の小さいプリンタとして広がっている。

従来は硬化用UV光源としてメタルハライドランプ等が使用されてきたが、次のような利点のため、UVLEDを用いたものが開発されている[2,3]。

  • (1) 瞬時点灯・消灯でき、使用時のみの点灯により低消費電力化できる。
  • (2) 小型・軽量であり、ヘッドへ実装しやすい。
  • (3) ランプ光源が放射する波長が200nmより短い光が出ないため、オゾンが発生せず、排気ダクトが不要である。
  • (4) 発熱が少なく、光源の直下でも高温にならない(安全性)。
  • (5) 用紙サイズに合わせて照射幅制御が可能。

(3)について、メタルハライドランプとLEDの放射スペクトルの例を図3に示す(2つの光源の強度は本グラフで直接比較はできないので注意されたい)。また弊社が開発した、UVインクジェットプリンタ用UV-LEDモジュールを図4に示す。ランプ光源ではミラーを用いて印刷面にUV光を集光するが、LEDはミラー集光が困難なため、出力窓から印刷面までを至近距離(標準で5mm)とし、印刷面において照度が均一になるように設計されている。LEDを効率的に冷却しながら、コンパクトな筐体に収めるため、冷却方式は水冷である。照射波長はインクの特性に応じ、365nm~405nmの中で選択可能である。

プリンタ高速化に対応するため、光源のみならずLEDに適したインク、プリンタヘッドへの改良も各メーカ協力のもと進められているが、インクの大幅な感度向上は難しく、光源出力の向上(及びコスト低減)が課題である。

図3. メタルハライドランプとLED(中心波長385nm)のスペクトル例

図4. UV インクジェット用LED モジュール

5. まとめ

拡大するUV-LEDの産業利用について述べた。今後LEDの高性能化、低価格化がますます進展し、応用領域はさらに拡大すると考えられる。LED産業利用拡大によって社会の要請に応えるためには、光源メーカと、光源を利用する材料メーカ、システムメーカ等の協力が不可欠である。

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