USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.37〈特集ウシオの新しい取り組み第二回〉

光源

(2012年6月)

デジタルプロジェクター用固体光源

畑中 秀和、 矢野 一晃、 小田 史彦

1. 概要

1980年代に、パソコンと接続してプレゼンテーションに使用する、いわゆる“データプロジェクター”が初めて市場に登場した。以来、プロジェクターの仕様は様々に変化を遂げ、また新機能が次々に追加されてきた。

プロジェクターの主要部品の1つである光源部(ランプ)には、従来、ハロゲンランプやメタルハライドランプが使用されてきた。しかし、プロジェクターの高効率化、コンパクト化、また低コスト化の観点から、表示デバイス(DLP、液晶)のチップサイズの縮小化が進められ、ランプにも点光源性(短アーク)が求められるようになり、1990年代に超高圧水銀ランプが実用化された。以降、超高圧水銀ランプは標準的な光源として、広く利用されている1)

ウシオ電機も、1998年にデータプロジェクター用の超高圧水銀ランプ(NSHランプ)を市場に投入、次いで2000年にはデジタルシネマ用のキセノンランプを投入し、プロジェクター市場の形成、発展に尽力してきた。特に、市場に広く行き渡った超高圧水銀ランプの開発においては、プロジェクターの明るさ向上の観点から、ランプの高電力化、短アークを実施し、2012年現在では、1灯式で7,000lmの明るさを実現している。また低コスト化、長寿命化に対する開発も継続している2)

一方で、ランプとは全く異なり、半導体のp/n接合による発光現象を用いた固体光源は、白色LEDや青色半導体レーザー(Laser Diode、以下LD)が開発、製品化され、近年の省エネ、環境保護の観点から、産業分野や照明分野で実用化されている。

プロジェクター用の光源としても例外でなく、RGBLEDを用いた小型プロジェクター3)や、レーザー光源と蛍光体を使用したHybridタイプ4)と呼ばれるプロジェクターも市場に投入され始めている。

プロジェクター用光源としては、明るさやコストパフォーマンスの観点から、ランプが依然として主要な位置付けであることに変わりないと考えるが、長寿命性、高機能付加などの観点から、固体光源が注目されており、今後、市場形成が進むと期待されている。

本解説では、このような固体光源を用いた近年の種々のプロジェクターについて、光源技術や周辺技術の動向およびプロジェクターの開発事例をまとめた。

2. プロジェクター用固体光源の技術動向

(a) プロジェクター用固体光源の特徴とメリット

LEDやレーザーに代表される固体光源は、幅広い産業分野で実用化されており、特にレーザーに関しては、プロジェクター用途に小型、高効率なLDが適しており、製品開発が行われている。

ランプと比較した場合、固体光源の特長として、長寿命、色域が広い、また、LDに関してはエテンデュー(Etendue)が小さいため光の利用効率が高い、などが挙げられる。

ランプ寿命は、入力電力や使用環境によっても変化するが、現状のランプの交換寿命の目安は2,000-5,000時間である。固体光源の寿命は10,000-20,000時間以上であることから、交換ランプの費用削減、メンテナンス作業の軽減が可能となる。さらに、ランプで問題となるバルブや電極部の劣化に起因した経時的な輝度低下も、半導体を使用したLEDやLDでは小さいため、高輝度で鮮明な画像を長時間キープできるなどのメリットもある1)

色域に関しては、ランプのブロードな可視域スペクトルから、カラーホイールを使用してRGBの各色を切り出すランプ方式と比較して、LEDやLDを使用する場合、RGB三原色が独立しており、また、スペクトルの幅が小さいことから、色域を広げることが可能となる。図1に示すように、レーザープロジェクターを使用することで、シングルチップを使用したランプ方式やDCI (Digital Cinema Initiative)規格よりも広い色域をカバーできることが分かる2)

さらにデータプロジェクター用途に限定すれば、水銀フリーであり環境負荷低減が可能、ランプで必要となる待機時間が不要なためクイックon/offが可能などのメリットもあり、固体光源は非常に魅力的な光源と言える。

また、レーザーに関しては、ランプ、LEDと比較してエテンデューが非常に小さいのが特長である。ここで、プロジェクターの表示デバイス(DMD、液晶)に集光される光量は、光源のサイズと発散角の積(エテンデュー)によってきまる3)。LDは、発散角がランプと比較して非常に小さい(mrad)ことから、エテンデューを小さくすることができ、結果として表示デバイスの小型化、光利用効率の向上が可能であり4)、ランプ、LEDと比較して、プロジェクターの高輝度化に有利である。LDベースの緑色レーザー、赤色レーザー、青色レーザーも実用化されており、それらを組み合わせたRGB光源も市場に登場している。

次の章では、各色レーザー光源の技術動向およびRGBレーザー光源やLED光源、蛍光体と組み合わせた各種固体光源の実用例について、詳述する。

図1. レーザープロジェクターのxy色度図例

(b) 緑色レーザー

プロジェクター用の固体光源は、プロジェクターの画面サイズ(デジタルシネマ、ラージベニュー、ホームシアター、データプロジェクター等)や使用環境によって、高出力(数W)タイプのレーザーを複数個使用する高輝度用途から、ピコプロジェクター等の低出力レーザー(数十mW)タイプのものまで、広く実用化が検討されている。全ての用途において共通なのは、RGB三原色のレーザー光を表示デバイスに入射して、プロジェクター画像を表示させる点である。

この中で、実用化が検討されている緑色レーザー光源は、

  • ①面発光レーザー(NECSEL)
  • ②半導体励起固体(DPSS)レーザー
  • ③直接発振半導体レーザー

に大別される。

以下、各方式について、特長、開発状況、課題等につい て、詳述する。

① 面発光レーザー (NECSEL)

面発光レーザーは、正確には垂直共振器型面発光レーザー(Vertical Cavity Surface Emitting Laser: VCSEL)と呼ばれ、特長として、

  • • 低コスト(ウエハーでの検査が可能であり量産に向く)
  • • 2次元化が容易(アレイエミッター)
  • • 消費電力が小さい(閾値電流が小さいため)
  • • ビーム品質が良い
  • • 長寿命である(ビーム密度が比較的小さいため、端面 発光レーザーと比較してCOD:Catastrophic Optical Damageが起こりにくいため)

が挙げられる。

米国のNECSEL社は、VCSEL型の半導体レーザー技術を保有しており、プロジェクター用途にRGBレーザーを製品化している。この中で、緑色レーザーの部品構成を図2に示す。赤外光を出すLDアレイと外部共振器ミラー(VBG)でレーザー共振器を形成し、その間に波長変換素子と呼ばれる光学結晶を配置する構成となっている。ここで、波長変換素子は、非線形光学効果による第二高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)を利用し、赤外域の光を短波長光に波長変換する。プロジェクター用途には、1064nmの赤外光を532nmの緑色に波長変換可能なMgO:PPLN(酸化マグネシウム添加分極反転ニオブ酸リチウム結晶)が実用化されており、NECSELレーザーにも使用されている。

VCSELの基本波には、1064nmの赤外面発光レーザーを使用し、24個のマルチエミッターからガウシアン分布をしたレーザー光が発振される。基本波は、波長ロック用のVBGで構成されるミラーで反射され、LDアレイとの間で共振器を形成する。波長変換用のバルクPPLN結晶は、LDアレイとVBGの間に配置され、532nm緑色レーザーが得られる。図2に示すように、LDからの24本の光は、直接出射されるセットと、VBGで反射されPPLNを通過して波長変換され、2回45度折り返されたセットに分割され、合計48本のレーザー光がレーザーパッケージから出射される1)

図3に、NECSELレーザーの(a)Far Fieldパターンと(b)Near Fieldパターン(Far Field像をレンズで分割した写真)を示す。各シングルビームは円形断面のガウシアン分布をしており、また、それぞれのビームは互いにコヒーレントではないため、クロストーク無しに重なり合い、結果としてFar Filedパターンでもガウシアン分布を維持しており、また、Divergenceもシングルビームと同じ値(~10mrad)となっており、良好なビーム品質を維持していると言える2)。一般的に、複数の光源を重ね合わせることでスペックル低減効果があるため(N個の独立したスペックル源がある時、その重ね合わせのスペックルコントラスト(S.C.)は、となる)、シン グルビームレーザーと比較して、NECSELレーザーはスペックル低減に有利であると言える。

図4に、製品化されている緑色レーザーの外観写真を示す。仕様は、レーザー出力3W、電気-光変換効率6%を達成しており、デジタルシネマ等の高輝度用途にサンプル出荷を開始している。LD部の特性は、プロジェクター用に比較的高温での動作を可能にするため、35-40°C程度で最適化されており、また外部の温度変動による出力変動が最小限になるように、PPLN結晶の周期構造等も最適化されている。レーザー寿命については、VCSELの特徴を生かした自社開発技術により40,000時間を越える実測データを報告しており(図5)、CODが問題となる端面発光型レーザーと比較して、高い信頼性を確保していると言える。

さらに、原理的に赤外域での発振波長の選択が可能なVCSELアレイを使用しているため、VBGおよびPPLNの波長を最適化することで、波長が数nm異なる緑色レーザーが実現できる。NECSELでは、1061nm、1065nm、1069nmのVCSELレーザーを使用して、532.5±2nmという波長の緑色レーザーを製品化している。中心波長の異なる光を混合することで、レーザー光の擬似的なスペクトル幅を広げることができ、レーザーの干渉性を低下させることができる3)。結果として、この多波長化技術によって、プロジェクターの商用化に非常に重要なスペックルの低減が可能であり、大きな強みとなっている。

ウシオ電機は、半導体レーザー事業に参入し、固体光源事業の加速化を推進するために、2009年5月、NECSELの発行済株式の49%を取得した。その後、2010年12月に全株式を取得し、完全子会社化を実施した4)。NECSEL保有の技術や特許を用いることで、プロジェクター用途のレーザー光源の開発、量産化に尽力していく。

図2. NECSEL 緑色レーザーの構成

(a) Far Field パターン

(b) Near Field パターン
図3. NECSEL レーザーのビームパターン

図4. NECSEL レーザーの外観写真と発振時の様子

図5. NECSEL 緑色レーザーの寿命試験データ

② 半導体励起固体(DPSS)レーザー

半導体励起固体(DPSS)レーザーは、NECSELタイプと同様に、波長変換素子を使用する構成ではあるが、基本波1064nmを得るのに、半導体レーザー励起の固 体レー ザ ーを 使 用する。実 用 化され ている532nmのDPSSレーザーは、808nmのLDアレイからの光でNd:YVO4結晶を励起して1064nmのレーザー光を発振し、さらに、その光を波長変換素子で532nmの光に変換している。

ソニーは、図6に示すように波長変換結晶にPPSLTを使用し、レーザー単体としては出力6.0Wを論文発表している1)。プロジェクター用途には、2005年の愛知万博でデモンストレーションしたGLV(GratingLight Valve)レーザープロジェクターディスプレイに搭載されており、また2010年3月に、大型プロジェクター用RGBレーザー光源モジュールの開発をプレスリリース2)している。

図7に、三菱電機が実用化した緑色DPSSレーザーの 構成を示す3), 4)。PPLNを波長変換素子として使用し、LDには15個のアレイ状エミッターを使用し、高出力化を実現している。図8に示すように、CW動作時に光出力10.3Wという値が得られており、同社が2008年に米国で市場投入した65インチのレーザーTV5)には、6Wの緑色レーザーが搭載されている。

ただ、上述したDPSS型の緑色レーザーでは、原理的に固体レーザーから発振される基本波1064nmは不変であるため、多波長化によるスペックル低減効果は期待できない。

この他に、小型プロジェクター用の低出力緑色レーザー光源としては、Corning6)、OSRAM7)、Spectralus8)などが製品開発の実績がある。

図6. ソニー 緑色レーザーの構成

図7. 三菱電機 緑色レーザーの構成

図8. 三菱電機 緑色レーザーの特性

③ 直接発振半導体レーザー

上述したように、NECSELやDPSSタイプのレーザーでは、数ワットクラスの高出力で高効率な緑色レーザーが実用化されており、高輝度プロジェクター用途の製品化が検討されている。ただ、今後、2,000lm級のデータプロジェクター用途に使用するためには、さらなる小型化、低コスト化、高効率化が必要となる。赤色、青色レーザーで実用化されている直接発振LDは、部品点数も少なく、また電気-光変換効率も高いことから、低コスト化、高効率化の観点から理想的な光源であり、直接発振緑色LDの実用化が切望されている。

このような市場からの期待もあり、近年、緑色LDの研究開発が加速され、複数の研究機関から緑色領域レーザー発振が報告されているが、実用化に向けて、さらなる効率改善、出力向上が必要である。

実用化を困難にしている一つの大きな課題は、デバイスの高い閾値電流密度である。一般的に緑色LD技術開発は、青色LDで得られたGaN技術を長波長域へシフトさせながら使用している。具体的には、InGaN層のIn組成比を増加させることで長波長化が可能であるが、これに伴い、格子定数差の増大による結晶劣化や、内部電界による発光効率の低下、屈性率の波長分散に起因したエピタキシャル層内での光閉じ込めの低下などが発生し、図9(上図)に示すように、閾値電流密度が増加する2)

日亜化学は、2009年に、c面GaN基板上にMOCVD法にて作成したInGaNベース緑色LDを開発、図9(下図)に示すとおり、510-515nm波長域で、出力5mW(@25°C)を達成している2)。また2010年には50mW品を開発しサンプル出荷を開始しており、主に、ピコプロジェクター等の小型プロジェクターへの採用、製品化の加速が期待されている。

Soraa(旧Kaai Inc.)は、日亜化学とは異なる半極性面、および非極性面GaN基板を使用した独自技術により、図10に示すように、CW動作で520nm波長域で60mW以上の出力を達成したと発表している3)。また、2011年のCESでは、520-525nmの波長域で75mW以上の緑色LDのデモンストレーションを実施している。

その他、OSRAMや住友電工などの企業でも同様の開発を行っており、現状をまとめると表1のとおりになる1)

図9. 日亜化学 緑色LDの特性

図10. 日亜化学 緑色LDの特性

表 2.1.4.1 これまでに報告されている極性面、半極性面、非極性面上の主な半導体レーザーの特性
表1. 各社 直接発振緑色LDの開発状況

(c) 赤色レーザー

赤色レーザー光源としては、LDで高出力、高効率かつ比較的安価なレーザー光源が実用化されており、プロジェクター用途への採用が検討されている。赤色LDの開発動向は、大きく2つに大別される。TO-CANパッケージで低コスト、コンパクト化が可能なシングルエミッター開発と、高出力化のためにバータイプのマルチエミッターをCSマウント等にパッケージする技術開発である。

大型スクリーン用の高輝度プロジェクター用途に使用するには、数Wクラスのバータイプのマルチエミッターレーザーを複数個使用する必要がある。NECSELでは、高出力化に有利なエミッター幅の比較的大きい横マルチモードのエミッターを複数個並べたバータイプのLDをパッケージし、高輝度プロジェクター用途に製品化している。図11に示すように、FAC/SACコリメーションレンズを付けた赤色レーザーパッケージや、ファイバーカップリング用途にも製品化を行っている。前者で、CW光出力5W、効率25%を達成している1)。また、図12に示すように、Typ.5Wに対して、20%加入力時(6W)のライフテストにおいても、~7,000時間で明らかな劣化は起こっていない。

シングルエミッターでは、三菱電機が横マルチモードLDを開発している2)。図13に示すように、40µm幅のワイドストライプエミッターを採用しており、638nmの波長域において、25°動作で500mW以上の出力を確認している(図14(上図))。また、図14(下図)に示すように、寿命試験も2,500時間を経過して、COD等に起因する劣化は起こっていない。同社は、上記LDを一般的なφ5.3mmのTO-CANにパッケージし、2010年11月から、超小型カラープロジェクター用の赤色レーザーとして販売を開始している3)。また同社は、エミッター20個を使用して、長さ4.2mmのバータイプLDも開発しており、8W出力時の変換効率27%、発振波長639nmを報告し2))、Bare Barでの製品化も行っている。

一方、ソニーが開発した赤色LDの外観写真を図15に示す。波長645nm、4.4Wの光出力の赤色レーザーを達成し、2005年の愛知万博で発表したレーザープロジェクターに搭載した。また短波長化への取り組みも行っており、635nm、7Wの赤色レーザーも開発している4)。近 年では、2010年に開発を発表した大型プロジェクター用の高効率RGBレーザー光源モジュール5)にも赤色レーザーが使用されており、642nm、10W(5W×2個)、22%で使用されている。

Modulightは、2011年のProjection Summitで赤色レーザーについて発表しており6))、TO-9 CANタイプで波長:633±3nm、出力:400mW(typ.)、効率:16%、CSマウントタイプで、波長:633±3nm、出力:7W(typ.)、効率:17.6%を達成している。また、この他に、n-Lightt7)、Dilas8)、Opnext9)などの企業も赤色レーザーの開発を行っている。

(a)赤色レーザーパッケージ

(b)ファイバーカップリング
図11. NECSEL 赤色レーザー外観

図12. NECSEL 赤色レーザーの寿命試験データ

図13. 三菱電機 横マルチモードLDの構成

図14. 電流-光出力特性と寿命曲線

図15. ソニー 赤色レーザーの外観写真

(d)青色レーザー

① 面発光レーザー (NECSEL)

青色レーザーについても、NECSELは先に述べた面発光方式レーザーを開発、製品化している。図16に示すように、外観は緑色レーザーと同じであるが、930nmLDを基本波として、緑色と同様の波長変換技術を用いており、PPLNおよびVBGの波長特性を最適化することで、465nm、出力3W、効率6%の青色レーザーを実現し、製品化している。また、緑色域と同様に、スペックル低減用途に467nmの青色レーザーも製品ラインナップに加えている。465nm青色レーザーは、図17に示すように、40°Cベース温度においても寿命試験38,000時間を越えて、顕著な劣化は確認されておらず、非常に高い信頼性を確保している1)。また、後述する440-450nm帯の直接発振青色レーザーと比較して、発振波長が長波長であり、視感度および色域の点で、プロジェクター光源と して優位である。

図16. NECSEL 青色レーザーの外観写真

図17. NECSEL 青色レーザーの寿命試験データ

② 直接発振半導体レーザー

NECSELの面発光レーザーの他に、Wクラスの直接発振青色LDも実用化されている。図18に日亜化学が製品化している青色LDの基本構造を示す。c面GaN基板上に作製されたInGaN量子井戸層を発光層に使用し、幅15μmのワイドリッジストライプ構造を採用しており、CODの低減を行っている。図19に、LIV曲線を示す2)。CW駆動で波長445nm、光出力1W 、変換効率20%以上を達成しており、同社は2007年11月、ディスプレイ用の青色LDとして、サンプル出荷を開始している。また、高出力化に対する開発として、最新のスペックシート(NDB7875)では、波長域435-455nmにおいて、出力1.6W(typ.)を達成し、製品化している3)

ここで、c面GaN基板を使用した場合、正に帯電したガリウムやインジウムのイオンの層と、負に帯電した窒素イオンの層が隣接しているため、これら層の間に働く静電気力と内部応力によって、c面に対して垂直に強い電場が生じる。このため、これが外から加えた電圧と逆向きに作用して電子とホールを引き離し、光を生み出す再結合を妨げるという問題が潜在している4)しかし、c面に対して非極性、半極性GaN基板を使用することで上記の問題が起きにくく、理論的には、高い効率を得ることが可能とされている。Soraaは、非極性、半極性GaN基板上にInGaN半導体を作製する技術を保有しており、青色LD についても750mW、23%で447nmでの発振を報告している5)。また同社は、2011年12月、日本で開催されたIDWʼ11国際会議において、445nm、2.0W出力の青色LDの開発を報告している。

一方、OSRAMは450nm波長域において、200mW、18%の青色LDを開発している6)(図20)。また同社は、2012年のPhotonics Westにおいて、研究レベルではあるが、450nmで2.5Wのロールオーバー出力を達成したと報告しており、各社が高出力化への取組みを加速させている。

また、次章で詳述するが、ソニーが発表した大型プロジェクター用RGBレーザー光源モジュールに搭載されている青色LDの波長は464nmであり、技術動向としては、長波長化への取り組みも行われていると考えている。

図18. 日亜化学 青色レーザーの基本構造

図19. 日亜化学 青色レーザーのLIV曲線

図20. OSRAM 青色レーザーの特性

(e)各種RGB光源 (Laser、蛍光体、LED)

① RGBレーザー方式

上述したRGB三原色のレーザー光源を使用したプロジェクターの開発、実用化の検討が進んでいる。レーザー光源は、その小さいエテンデューと高い光出力から、付加価値の高い大型のプロジェクター(特にデジタルシネマプロジェクター)や大画面用途への検討が進んでいる。

シネマプロジェクターの技術の大きな流れとして、21世紀に入り、従来のフィルムプロジェクターに変わり、デジタルシネマプロジェクター(以下DCP)の普及が進んだことがあげられる。特に2006年以降はデジタル化が急速に進展し、2009年時点で世界のDCP普及率は30%を超えており、今後数年でシネマプロジェクターが新規導入される数量には限りがある。

そこで、既存のDCPに後付でレーザー光源を搭載し、レーザープロジェクターとする、いわゆる「レトロフィット式レーザープロジェクター」が提案されている。レトロフィット式レーザープロジェクターは、既に普及したDCPへの後付市場を狙えるメリットを持つと考えられる。一方、レーザーの特性を生かし、新規に光学系等プロジェクター全体を最適化した「レーザープロジェクター」も検討されており、高い光学系効率を実現できる、光学系を小型化できるなどのメリットがある。さらに、レーザー光をプロジェクターの光学系に入射する方式についても、空間的に光を直接結合させる「空間伝播方式」や、ファイバーを使用して結合させる「ファイバー伝播方式」が考えられており、様々な取り組みがメーカー、シアター両者で模索されている。以下に開発事例を示す。

図21に、NECSELが開発したレトロフィット式レーザープロジェクター用の光源モジュールの外観写真を示す1)。RGBレーザーを各9個ずつ使用し、ファイバー伝播方式を採用している。合計27本のファイバーをバンドルし、ファイバー先端を既存のプロジェクターの光学系に直接入射できる構造になっている。光源部、電源、冷却系、制御系を全て19インチラックに搭載している。

また、NECSELは、RGB各1個のレーザーを使用した光源モジュールとして、「NECSEL RGB ボックス」を製品化している2)。図22に外観写真を示す。RGB光源は個別制御が可能であり、また1本のファイバーでボックス外に取り出し、既存のプロジェクターの光学系に入射できるため、簡易評価用の光源として使用可能である。

ソニーは、大型プロジェクター用途にRGBレーザー光源モジュールを開発している3)。1台モジュールでRGBレーザー合計21Wの光出力が得られる(図23参照)。複数のモジュールを組み合わせることで、10,000lm以上の大型プロジェクター用途への展開が可能としている。

また、三菱電機は、リアプロジェクター用途として、2008年に、米国でレーザー光源を使用した65インチTVを開発し、世界で初めて市場に投入した(図24)。レーザーの単色性を利用することで、NTSC 比約175%の広色域を実現している。また、色再現範囲はこれまでの液晶テレビの約2倍に相当し、従来のテレビでは表現しきれなかった色彩を再現することができるとしている4)

レーザーTV用の光源には、DPSSレーザーを使用した緑色光源、半導体レーザーを使用した赤色および青色光源が搭載されている。エテンデューの小さいレーザー光源を使用することで、同社の従来型UHPランプを使用したテレビと比較して、プロジェクションレンズのサイズを40%にまで低減している(図25)。各光源は、独自でファイバーカップリングされ、プロジェクター光学系に入射する構成となっており、光学エンジンの小型化を可能にしている5)

Kodakは、2010年9月に、シネマ向けの3Dデジタル レーザープロジェクターの開発を発表した6)(図26参照)。“Proof of Concept”機である試作機は、プロジェクター用光源として、NECSEL製RGBのレーザーを各色複数個ずつ使用しており、レーザーの特長である小さいエテンデュー(小発光点、小発散角)を利用し、各レーザーからの光を直接カップリングすることで、光学系を小型にすることを可能にしている。図27(左図)に示すように、RGB各レーザーの光(バンクと呼ばれる)を3枚のDLPチップに入射して画像を得る構成となっている。光学系の他にも、同社が特許を取得している種々のLaser Projector Technologyを搭載している。幾つかの特長を挙げると、2D/3Dの切り替えが可能(3Dレンズユニットは不要)、明るい3D映像が得られる、高いダイナミックレンジ(コントラスト比 10,000 : 1)、スケールアップ可能な拡張性のあるプロジェクター輝度(レーザーの数を増やすことで10,000lmから40,000lmまで対応可能)、広い色再現性(図27 (右図))、などが挙げられる7)。また、同社独自のスペックル低減技術により、低スペックルノイズを達成している。

Kodakは、デジタルシネマプロジェクター関連の企業に、レーザープロジェクターの製品化に向けたライセンスプログラムの打診を積極的に行っていたが、2011年1 月に、IMAXがKodakとライセンス契約をしたと、発表している8)

また、デジタルシネマ用プロジェクターの大手Barcoも、レーザープロジェクターの開発を積極的に行っている。図28に示すように、RGBレーザー光源からの光をファイバーカップリングして、既存のプロジェクターに入れている。緑色、青色レーザーには、波長変換タイプを、赤色には直接発振の半導体レーザーが使用されている。デジタルシネマで非常に重要な色の規格DCI規格を満たしており、3,000lmの明るさを達成している9)

さらにBarcoは、2012年1月、世界初となる、3D、高輝度レーザープロジェクターのデモを米国のシンポジウムで実施して、開発を加速している10)。レーザー光源のトータル出力は600W(プロジェクター全体の消費電力は8kWと記載)で、20×70フィートのスクリーン上に、55,000lmの明るさを達成しており、現状の高輝度ランププロジェクターと比較して、高効率化を達成していると言える。上記の一般公開されたデモでは、スペックルノイズも十分に低減されていたとの評価11)もあることから、条件によって、スペックルを改善する技術も開発されていると言える。

この他に、三洋電機12)やE&S13)等が、レーザーを使用した大画面用のプロジェクターを開発している。今後、デジタルシネマ用プロジェクターの実現のため、レーザーのコスト低減、他条件でのさらなるスペックルノイズの低減、安全規格の整備などが必要である。

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図21. NECSEL レトロフィット式レーザープロジェクター用の 光源モジュール

図22. NECSEL RGBボックスの外観写真

図23. ソニー RGBレーザー光源モジュール

図24. 三菱電機 レーザーTV

図25. 三菱電機 レーザーTVの光学系の構成

図26. Kodak 3Dデジタルレーザープロジェクターの外観

図27. Kodak レーザープロジェクターの構成と色域

図28. Barco レーザープロジェクター試作品のプロトタイプ

② Hybrid方式

上述してきた様に、レーザー光源はRGB各色が実用化されているが、ランプと比較するとコストが高く、特に価格競争の激しいデータプロジェクターなどのボリュームゾーンへの採用には、時間がかかると考えられる。一方で、近年、レーザーと比較して低コストであるLEDや蛍光体とレーザーを併用したデータプロジェクターの開発が加速化されており、一部で製品化されている。

カシオは、2010年1月、世界初となる、従来の水銀ランプを使用しない、レーザーとLED、蛍光体を使用したHybrid光源を搭載したプロジェクターの販売を開始した1)。彼らの第1世代のHybridプロジェクターでは、青色光源として、青色LDを使用し、緑色光源には、青色LDで励起した緑色蛍光体からの発光を利用し、赤色には赤色LEDからの光を使用して、2,000-3,000lmの明るさを達成している。従来の光源と比較して、長寿命、広色域、水銀レスなどの特徴がある。さらに同社は、2011年11月、図29に示すように、新たに、青色光源として青色LEDを使用した次機種モデルの販売を開始した2)

また、TI(テキサス・インスツルメンツ)は2012年のBETT Showにおいて3)、自社ブースにてOptoma4)や BenQ5)のHybridプロジェクターのデモを行っている。ViewSonicは、ホームシアターをターゲットにしたLaserLED HybridプロジェクターをヨーロッパISEの展示会で発表し、話題になっている6)。Hybrid光源を使用したプロジェクターは高効率であり、またレーザー光源と比較して、低コスト化が可能であるため、特にボリュームゾーンと言われる2,000-5,000lmクラスのプロジェクター用途として、市場に浸透していくものと考えられる。

図29. カシオ ハイブリッドプロジェクターの構成

③ RGB LED方式

Samsung Electronicsは、2010年のCESで、RGB全ての光源にLEDを使用したLEDプロジェクターを発表し、販売を開始した1)。製品の外観写真を図30に示す。3LCD方式を採用しており、世界で初めて、LED光源で1,000lmの明るさを達成した。LED光源の寿命は30,000時間を越えるとしている。他の固体光源プロジェクターと同様に、長寿命、低消費電力、広色域などがメリットとして挙げられる。

この他に、500lm以上のLEDプロジェクターは、Optomaなど数社から市場に投入されている2)-4)。またNECは高輝度化の一環として2000lmのLEDプロジェクターを2010年のInfocommでサンプル出展している5)。ただ、プロジェクター用光源に非常に重要なパラメーターであるエテンデューが、レーザー光源と比較して大きくなるため、理論的な光学系への取り込み効率は悪くなり、更なる高輝度化の障壁となっている。

図30. Samsung LEDプロジェクターの外観

3. プロジェクター周辺器機の技術動向

a) マイクロディスプレイ技術

現在主流であるプロジェクター用のマイクロディスプレイを大別すると、

  • ① DLP
  • ② LCD
  • ③ LCOS

が挙げられる。図31に、マイクロディスプレイの分類を示す1)

① DLP

DLPは、TIの二次元反射型のMEMS素子であり、ミラーの反射でon/offを行う。光学系は、RGBを別々に空間変調する3板式と、一つの素子で行う単板式がある。図32に、現在主流である単板式DLPプロジェクターの構成図を示す。ランプからの白色光は、回転カラーフィルター(CF)でR、G、Bの三原色に分離されて、DMDチップに入射される。DMDチップで反射された光がプロジェクションレンズを通して、スクリーンへ投射される仕組みである。液晶のように偏光を用いないので色むらが無いのが特長である。また、液晶方式の様に色分離が必要でなく、プロジェクターの小型化に向くが、原理的に3板式と比較して単板式は1/3の光量となるため、高輝度化には向かない。また、CFの境界で色割れという問題が発生するため、CFの回転速度を上げて対応している。

プロジェクターの光源に、RGBの固体光源を使用することで、CFが不要になり効率が向上する、色割れの問題が無くなる、などのメリットがあると考えられる。実際に実用化されているLEDやHybridプロジェクターにはDLPを使用したものが多くある。近年では、TIがDLP Picoデバイスを開発し、LED光源を用いたピコプロジェクターに使用されている2)

図31. マイクロディスプレイの分類

図32. 単板式DLPプロジェクターの構成

② LCD

LCDは、高温ポリシリコンTFTを使用した透過型液晶素子で、エプソンやソニーが製品化している。3板式のものを3LCDと呼び、データプロジェクター用途では広く利用されている。図33にランププロジェクターの3LCD光学系の構成図を示す3)。カラーフィルターを用いたDLP方式と比較して、損失が少なく高輝度化に向いており、また自然な色合いが再現できるのが特長である1)。Samsung Electronicsが発売した1,000lm RGB LEDプロジェクターや、NECが開発中の2,000lmプロジェクター(Sirius)4)にも、この3LCD方式が使用されている。RGB LEDからの直接光を利用できるため、ランプ方式で使用されている色分離ミラーが不要になる。

図33. ランプ方式 3LCDの構成

③ LCOS

LCOS(Liquid Crystal on Silicon)は、シリコン基板上に液晶パネルを配置した反射型の液晶素子である。透過型の液晶素子と比較して、画素電極をパネルの背面に設置でき、セルギャップを小さくすることができるので、高密度化が可能であり、3板式はソニーやJVCなどから高精細なハイエンドプロジェクターに実用化されている。図34に示すように、Micron社は、RGBレーザー光源を用いたLCOSパネル技術を開発し、ピコプロジェクターへの応用が期待されている7)。レーザーの偏光を維持することで、液晶での効率向上が期待できる。

b) スペックルノイズ

レーザー光源を使用したプロジェクターを実用化するには、スペックルの低減は必須課題であり、色々な取り組みが行われている。

スペックルは、レーザー光がスクリーンや壁などの粗面により、散乱を受け干渉して、被照射物の表面でギラギラと輝く無数の斑点が発生し、観測者にスペックルとして認識される。スペックル発生の要件は、照明光がコヒーレントであることと、反射面が粗面であることが挙げられ1)、レーザー光源および光学系に起因するスペックルと、スクリーンに起因するスペックルに大別できる。前者を低減する方策として、レーザー光源を複数化する方法、レーザーの波長幅を広くする方法や、偏光やホログラム素子を用いる等の方法がある。

先にも説明したように、NECSELレーザー等の特長である1つのレーザー光源がマルチエミッターからなる光源は、レーザー光源を複数化するという意味で効果的である。また、シネマ用プロジェクターなどの用途で、緑色の複数個レーザー光をカップリングして、高輝度化する用途などでも同様の効果があるものと考える。一般的に、N個の独立したスペックル源がある時、その重ね合わせのスペックルコントラスト(S.C.)は、となる。

レーザーの波長幅を広くする試みは波長多重とも呼ばれ、NECSELレーザーのように、複数の波長の緑色レーザーを使用することで効果が得られるほかに、一般的に直接発振の緑色LDは、DPSSなどのレーザーと比較して波長幅が広いため、スペックル低減には優位であると言われており、ピコプロジェクターなどの緑色光源としては期待されている。

光学系を用いた方策として、回転レンズアレイや揺動拡散板などを用いて、空間的、時間的にレーザー光を平均化することでスペックルの低減が可能であり、様々な研究が行われている2)。また、ホログラム技術を使用してスペックルを低減するデバイスの研究開発も進んでおり、大日本印刷3)などが研究開発を行っている。

スクリーンでのスペックル発生については、3D映画で用いられる特殊な表面処理を施したシルバースクリーンでその発生が顕著になることが知られており、対策が必要である。三菱電機が製品化したレーザーTVには、揺動スクリーンが用いられており、時間的な平均化を行い、スペックルを低減している4)

図34. RGB Laser + LCOSデバイスの構成

c ) 安全規格への対応

スペックル低減と同様に、レーザー光源の目の安全性の確保・規格の制定は、レーザープロジェクターの製品化に向けて大きな課題である。

レーザー安全規格については、IEC(国際電気標準会議)によるIEC60825がレーザー安全の世界基準となっており、また日本では、JIS C6802(レーザー製品の安全基準)が基本となっている。さらに製品化においては、クラス1またはクラス2に準拠している必要があり、かつ消費生活用製品安全法の適用を受ける必要がある。平成21年には、レーザーディスプレイやレーザー照明等の製品化への課題を整理し、応用形態を模索することを目標に「レーザーディスプレイ技術研究グループ」が結成され1)、種々の働きを行っている。2011年に、米国Microvision社の走査型のRGBレーザーピコプロジェクター2)が日本で初めて発売の認可が下りた背景には、本委員会の働きかけも大きい。また、三菱電機のレーザーTVについては、JIS C 6802「レーザー製品の安全基準」のクラス1を満たしており、テレビ内部への不正なアクセスや不測の事態を想定し、複数のインターロック(安全機構)を採用している。

高輝度プロジェクターへのレーザー光源搭載に向けて、米国ではLIPA(Laser Illuminated Projector Association)が2011年に発足した3)。LIPAは、一企業や機関だけでなく産業界全体での活動を通して、レーザープロジェクターの採用をスピードアップさせることを目的に発足され、シネマプロジェクターメーカーや映画関係企業など、国内外から多数の企業が参画している。種々のレーザー規格を制定する機関(FDA (CRDH), IEC (60825-1), ANSI(Z136)等)に働きかけ、規制・法律などに対して特例許可(または規制適用除外)を得る動きを取る。5,000lm以上のレーザープロジェクター製品は、クラス4に分類される可能性が高いが、上記活動により、インストールに必要な手続きを必要最低限に抑え、市場参入の障壁を低くする(費用的、時期的)ことを目的としている

また、近年では、Kodakが独自にFDAに働きかけ、映画館などのインストールに限っては、同社のレーザープロジェクター技術を使用できる特例措置を受けており4)、今後、日本でも同様の動きが始まることを期待したい。

4. まとめ

デジタルプロジェクター用光源としての固体光源について、近年の技術進歩と今後の課題をまとめた。固体光源の持つ特長である長寿命・広色域や、レーザー光源の高い光利用効率は、既存のランプ光源には無い新しい付加価値を形成している。今後、実用化に向けて取り組むべき課題も多いが、昨今の技術の進展、製品化の流れが、近い将来、固体光源プロジェクターの市場を形成するものと期待している。

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