USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.41(2014年12月発行)

電気化学会第81大会(電気化学会)

(2014.3)

平板型電気化学チップを用いた
大腸菌の直接検知

DETECTION OF E.COLI. BY USING A THREE-ELECTRODE-SENSOR CHIP
(北大院環境科学a、日立化成b、ウシオ電機c、北大院工d
○川口俊一a, 大森 徹a, 中村 英博b, 森田 金市c,
坂槙 有紀恵d, 山田 健太d, 津田 収d, 佐藤 久d, 嶋津 克明a
○Toshikazu Kawaguchia, Toru Omoria, Hidehiro Nakamurab, Kinichi Moritac,
Yukie Sakamakid, Kenta Yamadad, Osamu Tudad, Hisashi Satod, Katuaki Shimazua
aGraduate School of Environmental Science, Hokkaido University, Sapporo-shi,
Hokkaido 060-0810 bHitachi Chemical. Co. Ltd., Tokyo 100-6606
cUshio Inc., Tokyo 100-8150 dFaculty of Engineering, Hokkaido University,
Sapporo-shi, Hokkaido 060-8628

This work aims to develop the miniaturized electrochemical sensor system for practical use. The planar sensor chip equips the Au working electrode, the conductive polymer-reference electrode, and the Au auxiliary electrode. For sensing O157:H7 in sewage, monoclonal antibody of O157:H7 was immobilized onto the carboxy-terminated alkanethiol monolayer by amide coupling reaction. In this work, two types of mixed monolayer were fabricated on the sensor surface. One is mixed antibody-terminated alkanethiol and ethanolamine-terminated alkanethiol monolayer. This immunosensor detected e.coli. in the range of 10-7 cell ml-1 to 10-9 cell ml-1, and 10-3 cell ml-1 to 10-9 cell ml-1 by cyclic voltammetry and impedance measurement, respectively. Another type of immunosensing electrode was consisted of antibody-terminated alkanethiol and ferrocene-terminated alkanethiol monolayers. In order to enhance the signal, ferricyanide was added to the phosphate buffered saline solution (pH 7.4). Because a ferrocene played a role of electron-mediator on the electrode, the oxidation current was drastically increased. As e.coli. bonded to antibody and blocked the ferrocenes on the sensor surface, the oxidation of ferrocene was decreased. As a result, e.coli of a lower concentration than 10-3 cell ml-1 could be detected by cyclic voltammetry.

1. 緒言

本研究は、電気化学バイオセンサを使って、下水や農業用水に含まれる大腸菌を選択的に検知することを目指している。電気化学センサチップは、小型化が容易であり、簡単な電気回路を組み込むことにより、高感度かつ高選択的に物質を検出することができる。ここで、抗原抗体反応を組み合わせれば、被検物質を高選択的に検出することが可能になる。これまで報告されている抗体固定化電気化学チップでは、高分子の表面に抗体を固定化する方法が検討されてきた1-3。高分子を電極表面に修飾した場合には、立体的に抗体を配置することができるため、大きな反応表面積がある。そのため、検出では、大きな電流応答変化を得ることができる。その反面、抗体の配向が制御されていないため、高い検出感度を得ることは難しかった。そこで、本研究では、表面プラズモン共鳴バイオセンサなどで用いられてきたアルカンチオール自己組織化単分子層上に抗体を高配向で固定化する方法を電気化学センサに応用して、高感度に大腸菌を検知することを検討した。また、大腸菌の検出では、フローセルを使った場合、大腸菌が壁面やジョイントに非特異吸着を起こしてしまうことがある。そこで本研究では、フローセルを使わなくても、直接、試料水中に電気化学チップを挿入して抗体で大腸菌を捕捉させてから、水洗いし、その表面にリン酸緩衝溶液を滴下することで、簡易に大腸菌を電気化学検出する方法を提案する。

2. 実験方法

平板型電気化学センサチップ(3.5 cm x 1.2 cm)は、樹脂性のプレートにAuで構成された三電極の表面のみが露出した構造になっている。センサチップは、USBコネクタで容易に交換が可能である。また、配線は全て樹脂内に埋め込まれているため、長期安定性を有している。対極にはAu電極を用い、参照電極には内圏型酸化還元能を有する導電性高分子修飾電極を用いた。試験電極には機能性アルカンチオールを自己組織化法によって修飾したAu電極を用いた。

導電性高分子や機能性アルカンチオールをAu電極上に固定化する前に、エキシマランプで真空紫外光 (172 nm)を3分間照射することにより、Au表面に付着していた汚染物質を除去した。この処理により、高い表面密度のアルカンチオール単分子層をAu表面に形成させることができた。また、導電性高分子の密着性も向上し、安定な参照電極として使うことができた。

試料の測定は、マイクロピペットを使って電極面に50µLの液滴を滴下して、電気化学検知を行った。Fig.1に示したように、基板の樹脂面が疎水性であり、電極が親水性であるために、液滴を安定して電極の検知部に保持することができる。

センサ基板の表面構造は表面プラズモン共鳴(SPR)、電気化学測定、X線光電子分光測定(XPS)、走査型トンネル顕微鏡(STM)などを用いて評価した。

Fig.1 Electrochemical biosensor chip.

3. 結果と考察

本研究では、機能性アルカンチオールによる自己組織化法を用いて、2種類の試験電極を作製した。はじめに、O157:H7モノクロナール抗体とエタノールアミン末端を有するアルカンチオール単分子層修飾Au電極を試験電極として用いて、大腸菌の検知を試みた。サイクリックボルタモグラム測定によるキャパシタンス応答で大腸菌の検出を試みたところ、107cell ml-1の検出感度が得られた。つづいて、+0.1Vに電位を保持して、インピーダンス測定による大腸菌の検知を試みた。インピーダンス測定では、拡散領域の複素インピーダンスが大腸菌の濃度に対して敏感に応答することがわかった。ナイキストプロットの拡散領域を外挿して得られたX切片から、103cell ml-1の検出感度が得られた。ここで得られた電気化学応答が大腸菌そのものによる信号であることを確かめるために、O157を検出した後に、センサチップをフリーズドライしてSEMによるセンサ表面の観察を行った(Fig.2)。その結果、表面に一様に大腸菌が固定化されている様子がみられた。また、表面には、大腸菌が結合できるスペースがまだ十分にあることを確認することができた。よって、さらに高い濃度の大腸菌も検出ができると考えられる。

また逆に、さらに低濃度側の大腸菌を高感度に検出することを目指して、O157:H7モノクロナール抗体とフェロセン末端を有するアルカンチオール単分子層修飾Au電極を試験電極として用いて、大腸菌の検知を試みた。Fig.3に示したように電解質溶液に5mMのフェリシアン化カリウムを添加することにより、フェロセンの電子メディエーション作用によって、フェロセンの酸化電流応答は大きく増大した。大腸菌が抗体と結合してフェロセンの酸化応答を阻害する効果によって、サイクリックボルタモグラム測定でも高感度に大腸菌を検出できる結果を得ることができた。

以上のように、平板型電気化学センサと抗原抗体反応を組み合わせた測定法によって、簡易かつ高感度に大腸菌を検知することができた。また、本測定で必要とする試料は50µLであるため、微量な試料の測定へも適用できる。さらに、抗原抗体反応を使うことができるため、この平板型電気化学チップを使えば、様々なタンパク質やDNA、バクテリアなどの検出へも応用が期待できるだろう。

Fig.2 SEM image of the immunosensor surface consisted of O157 antibody –undecanethiol/ethanolamine-terminated undecanethiol monolayer.
The image was obtained after sensing of 108 cell mL-1 e.coli.

Fig.3 Cyclic voltammgrams of mixed FcC6SH/O157 Antibody-undecanethiol SAM modified Au for the detection of e.coli. in the PBS solution containing 5 mM potassium ferricyanimde. Sweep rate was 0.05 V s-1

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