USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.41(2014年12月発行)

第 2 回ホログラフィック・ディスプレイ研究会

(2014.5)

デジタルホログラフィック顕微鏡の
開発とその応用

Development of Digital Holographic Microscope and its application
松尾司*、木下晴之**、安木政史***、大島まり**、藤井輝夫**
*ウシオ電機株式会社、**東京大学生産技術研究所、***西華デジタルイメージ株式会社
Tsukasa Matsuo*, Haruyuki Kinoshita**, Masashi Yasuki***,
Marie Oshima**, Teruo Fujii**
*Ushio Inc,**Institute of Industrial Science, The University of Tokyo,
***Seika Digital Image Corporation

This article reports the technology of our developed digital holographic microscope (DHM) and its application to microfluidics. The developed DHM system enables to measure 3-dimensional 3-component data of object only by one flame at a time in high throughput without scanning and without a multiple cameras system. Successive holographic data sequence of objects is obtained by using our developed GUI software and measurement algorithm. Using the developed system, we have successfully measured and visualized the 3D internal flux of a droplet.

1. 緒 論

 近年のデジタル撮像素子の高精細化や並列演算処理能力の進化を受け、「ダメージレス・リアルタイム・3D」を特徴とするデジタルホログラフィック顕微鏡(DHM)の研究が盛んである1)。また、DHMを計測ツールとして開発し、MEMSや細胞などのバイオメディカル分野へ応用する研究例も知られている2)3)。これらのDHMは、デジタルホログラフィの像再生計算によって得られる複素振幅分布のうち、位相成分を抽出して再生像として用いることで、ナノメートルオーダの高さ変化や屈折率変化を検出可能としている。

我々は、DHMの計測ポテンシャルをより引き出すことを狙いに、高精度な位相計測可能な機能に加えて、機械的なスキャンを必要とせず一枚のホログラムから任意のピント位置の再生像を得ることができる、2つの高さ計測機能を実現するシステムを開発した4)。次に我々は、これら2つの高さ計測機能を組み合わせることで、マイクロスケールで高精度な3次元空間流れ計測を実現する、DHM-PTVを開発した5)。DHM-PTVは、粒子検出アルゴリズムに粒子の位相計測結果を用いており、また任意のピント位置の再生像を得ることができる機能を用いて3次元空間での粒子検出を行っており、まさに本システムの特徴である、2つの計測機能を活用した技術であるといえる。本稿では、2つの計測機能を可能とする本システムの特徴を示し、またDHM-PTVを用いて、インクジェットノズルの解析評価用等の産業上価値があると見込まれる、液滴内部の流動を可視化・計測することで、本システムの3次元計測機器としての有用性を示す。

2. 開発したDHM

2.1 システム構成

開発したDHMの外観を図1に示す。顕微鏡本体寸法は幅540mmx高さ640mmx奥行き240mm、重量15kgであり、卓上に置ける程度の大きさとなっており、持ち運びも可能である。図2にシステム構成図を示す。システムの特徴として、時系列計測可能で特別な光学素子の不要なオフアクシス光学系を採用していること、対物レンズと結像レンズをアフォーカル系の配置とすることで、通常顕微鏡測定で不可避の球面上の位相歪み6)を生じさせず、デジタルな位相補正7)が不要な構成となっていることが挙げられる。また、図3に示す通り、アフォーカル系は、原理的に単レンズ系と異なり、物体と像の拡大比率が、ピント位置が変化してもずれないため、ホログラム再生計算で得られる再生像の3次元空間データを、顕微鏡物体の寸法に容易に換算できる特徴も持つ。

図1 顕微鏡外観

図2 システム構成図

図3 アフォーカル系での物体と像の比率関係

2.2 ホログラム再生計算

次に、本システムで用いているホログラム再生計算について述べる。まず初めに、本システムで得られたオフアクシスホログラムに、フーリエ変換法8)を施すことで、物体光のみの複素振幅分布に変換する。次に、変換した複素振幅分布に対して回折計算を行うことで、任意距離での再生像を得る。回折計算の内容は、複素振幅分布の各点から出る球面波の畳み込み積分とし、数値計算にあたって、再生距離が変わっても、ホログラムと再生像の表示比率が変わらないことが特徴の Convolution Approach9) を採用した。なお、ホログラム再生計算プログラムは、高速演算システムにて開発しており、1024x1024pixelsのフルフレームホログラム画像に対し、30msec以下で回折計算できるようになっている。

回折計算にあたり、2つの再生像改善アルゴリズムを実装した。図4の通り、デジタルホログラフィは、回折計算をそのまま行うだけでは、ノイズの影響により、本来得られるべき3次元空間を満足に再生できない課題がある。

課題の一つは、折り返し誤差の発生である。これは、球面波の伝搬計算を考えた時、観察面のピッチが離散的であることから、伝搬距離が短いときに再生像の周囲で折り返し誤差が発生してしまう現象10)である。我々は、畳み込み積分に用いる球面波に対して、あらかじめ距離に応じたマスキングをかけることで、折り返し誤差を発生させないアルゴリズムを考案・実装することで、この課題を解決した。

もう一つの課題は、枠ノイズの発生である。これは、回折計算を行う際に、ホログラムの開口自身が原因となり、再生像の周囲に、矩形の回折模様が重畳してしまう現象である。我々は、これを枠ノイズとして、回折計算時に、前もってホログラム面を完全な開口としたときの、伝搬距離に応じた回折模様を生成し、この模様を使って差分を取ることで、枠ノイズを補正した。

図4 通常回折計算時に発生するノイズとその箇所

2.3 Graphical User Interface (GUI)

システムに付属するGUIを図5に示す。本ソフトウェアは、入力データとして、カメラからの実時間メモリデータと、システムのカメラ交換などで別途取得した時系列ファイルデータのそれぞれを再生できる設計とした。本ソフトウェアの特徴として、前述のホログラム再生計算プログラムを組み込んでいるため、リアルタイムで(フルフレーム30fps以上で)像解析や再生ができるため、測定しながら結果が画面上に逐次表示、更新される点である。また、もう一つの特徴は、あらかじめ取得されたホログラム時系列画像群に対して、巻き戻しや早送り、そしてデジタルホログラフィならではの像再生距離調整や再生角度調整などを行うための各種GUI部品を実装したことである。加えて、本ソフトウェアでは、図に示すように強度再生像(左画像)と位相再生像(右画像)を同時表示できるようにもなっている。強度再生像と位相再生像はともに256階調グレースケールで表示出力される。このGUIを使うことで、通常のデジタル光学顕微鏡と同等の、リアルタイムな顕微鏡像の観察に加え、デジタルホログラフィならではの、ナノメートルオーダの位相再生像の観察、そして機械的なスキャン動作を必要とせず、任意のピント位置の再生像を得ることができる。

図5 システムのGUI

3. 計測実験

 本研究では、図6に示すように、カバーガラスの一面に付着させた液滴の内部流動を計測対象とした。実験条件として、あらかじめ液滴内部に体積比濃度0.008%(粒子数密度換算19,200個/mm3)のポリスチレン製トレーサ粒子2µmを混入させている。計測条件として、倍率20倍の対物レンズ(M Plan Apo 20X,(株)ミツトヨ)を用いた。本システムで得られた位相再生像を図7に示す。図より、粒子データに加えて、液滴界面が可視化されている。計測結果を図8に示す。計測範囲は282x282x282µmの立方体とした。粒子追跡処理には、2時刻間で最近接の粒子を同一粒子とする基本的アルゴリズムを用い、Δtは0.4secとした。検出されたベクトルは193個であった。図の通り、液滴内部の対流が可視化されている様子が分かる。

図6 計測対象

図7 位相再生像

図8 計測結果

4. 結論

高精度な位相計測可能な機能に加えて、機械的なスキャンを必要とせず一枚のホログラムから任意のピント位置の再生像を得ることができる、2つの高さ計測機能を可能とする本システムの特徴を示した。そして、その特徴を活かしたDHM-PTVのアプリケーションとして、産業上の価値があると見込まれる、液滴内部流動の計測実験を行い、一辺282µmの立方体領域にて、液滴内部の対流が可視化されている様子を確認した。以上より、本システムの3次元計測機器としての有用性を示した。

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