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光技術情報誌「ライトエッジ」No.42(2015年05月発行)

月刊塗装技術

(2014.8)

最近,注目される
UV 硬化システム/表面親水化用システム

熊渕 和幸

昨今、塗装プロセスにおいて紫外線(UV)光を使用する機会が増えている。この塗装プロセスに使用される弊社 UV照射装置は二つに大別される。一つは、UVを利用し、樹脂や接着剤、インク等を硬化・乾燥させるもので、もう一つは、材料表面の洗浄や、親水化および改質を行うものである。

本稿では,それらの特徴を記述する。

1. UV硬化システム

(1) 特徴

UV硬化システムとは、UVを照射すると瞬時に硬化する感光剤「UV硬化樹脂」を塗布した物質に、短い波長で化学反応を引き起こすエネルギーである UVを照射することで硬化させるものであり、UV硬化樹脂は以下の特徴を持つ。

①速硬化
UVの照射により、通常数秒で硬化する。溶剤系樹脂と比較して、短時間で硬化が可能。

②ダメージレス
低温処理が可能で、熱ダメージが少ない。

③省スペース化
光学ミラー等の光学系中心のシステムなので、熱乾燥で使用する加熱炉等の大型設備が不要。

④クリーンテクノロジー
無機材のため、有毒ガスや水質汚濁の心配が少なく環境に優しい。また、臭気による作業環境への影響も少ない。

これらの特徴から、UV硬化技術は、塗装・印刷・電子部品・機能性材料・半導体、フラットパネルディスプレー等の多くの分野で使用されている。

(2) UV硬化技術

UV硬化樹脂は、ラジカル重合型とカチオン重合型とに大別される。それぞれに求められる光は異なるために、最適な光を選択する必要がある。

また、被照射物材料によってもさまざまな要求があることから、最適な光(UV)とシステム(ランプハウス)を選択する必要がある。

①光

ランプは光品質を特徴づける最も重要な要素であり、樹脂・材料双方の目的に合ったタイプを選択する必要がある。 UV硬化で使用される代表的ランプとして、高圧UVランプとメタルハライドランプがある。

高圧UVランプは、石英ガラス製の発光管の中に高純度の水銀と希ガスが封入されたもので、365nmを主波長として 254nm、303nm、313nmのUVを効率良く放射する。メタルハライドランプと比較し、短波長側のUV出力が高いことが特徴である(第1図参照)。

メタルハライドランプは、発光管の中に水銀に加えてハロゲン化物が封入されたもので、200〜450nmまでの広範囲にわたりUVを放射する。高圧UVランプと比較し、365nm付近の出力が高いことが特徴である(第2図参照)。

低波長域(230nm以下)では、酸素とUVの光化学反応によりオゾンが生成される。使用される樹脂や材料の特徴に合わせてオゾンの生成を抑える必要がある場合は、発光管に使用されている石英ガラスに少量の不純物を混ぜ、低波長域の発光を抑えることも可能である。

一般的にオゾンレスタイプと呼ばれ、高圧UVランプで使用される。また、両ランプにおいて、高入力タイプ(最大 280W/cm)のランプも製作可能である。

第1図 高圧UVランプ(オゾンあり)

第2図 メタルハライドランプ

②低温化

樹脂材料への塗装の場合では材料の特徴から、より低温処理が必要な場合がある。

UV硬化に必要な波長域の発散ロスは可能な限り抑え、かつ被照射物への熱伝導を抑えるために、不要な波長を徹底的にカットするフィルター技術がある(第3図参照)。 

第3図 光学フィルターによる低温化実績データ
注)ワーク材質:素ガラス,ランプ:メタルハライドランプ。

③安定性

生産品質安定を目的として、常時一定の照度で照射しラインスピードを変えることなく同光量を照射したい場合は、光フィードバックシステムを使用する。UVランプは使用時間により照射強度が減少する特徴を有するが、フィードバックシステムでは、必要な設定照度を入力することで、定照度での照射が可能である。

常時UV照度を自動的にモニターし、その照度を信号に変換しランプ電源にフィードバック制御して、ランプへの投入電力を自動調整し、照度を一定に保つことができる(第4図参照)。

また、本UVランプはランプ端の照度が弱いため,均一度が悪い傾向にある。

このため、弊社で培った光学シミュレーション技術を生かして、安定したムラのない光を照射できる均一照射ユニットをオプションとして提案できる。安定した光を供給することでプロセスマージンが広がり、安定生産につながる(第5図参照)。

このように樹脂や材料種、その使用目的、環境によって、光(波長)・温度・定照度・クリーン化を考慮して、最適なシステムを構築する必要がある。

第4図 光フィードバックシステム構成

第5図 均一照射ユニット使用時の均一度データ

2. 表面親水化システム

材料表面にさまざまな機能の付与や、目的に合わせた表面に加工するため、塗装を行う材料表面の親水化が注目されている。UV光にて材料表面の親水化を行うことが可能であり、大気中で使用できるドライプロセスとなり、表面にダメージを与えないうえに高度な親水化能力を併せ持っている。

この処理を行うために、弊社ではエキシマ光照射装置を提供している。

(1)高フォトンエネルギー

エキシマ光からの172nmは酸素分子に対する吸収係数が185nmの約20倍である。そのため、高濃度の活性酸素種の生成が可能である。また、酸素に直接作用して酸素種の生成が可能である。また、酸素に直接作用して酸化力の強い励起状酸素原子を生成するため、効率が良い。

有機物汚染は、光の高いエネルギーによる分解と光分解で生成された活性酸素の協働作用により洗浄される。

172nmの波長は、エネルギーが高いため、結合を切断できる分子の種類が多い(第6、7図および第1表)。

第6図 誘電体バリア放電エキシマランプによるVUV/O3洗浄

第7図 各種分子結合エネルギーと結合を切断できる波長の関係
注)このグラフは光エネルギーの大きさを結合エネルギーと単に比較したもので,結合エネルギー以上の光を照射すると必ず解離するわけではない。
  光の吸収があること,励起ポテンシャルが解離型であることなどの条件が必要である。

第1表 有機物の結合エネルギーとフォトンエネルギー

(2)単一波長

172nmの波長のみ効率よく発光させるため、ワークへの熱・ダメージを与えにくい。

また、水銀が含まれていないため、瞬時点灯・点滅が可能であり、ランプハウスの設計をコンパクトにすることが可能である(第8図参照)。

第9図は、プラスチックにおける表面改質のデータを示すものである。また、樹脂、ガラス、金属等の各材料において、親水化の度合いは異なるが、数多くの材料において、短時間に接触角を大幅に落とすことができる。

これまでにはない、新型材料や産業によりUVを使用する必要性はますます拡大している。今後も生産性向上・省スペース化・高品質化・環境対応の要求が高まることが予想され、要求を満たす「光」と「システム」の開発が重要であると考える。

第8図 Xeタイプ誘電体バリア放電エキシマランプの分光分布

第9図 プラスチックの表面改質
注)Radiation intencity:43nW/cm2
  Radiation distance:1mm。

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