光技術情報誌「ライトエッジ」No.18(2000年3月発行)
月刊ディスプレイ 平成11年11月号
特集2バックライト用光源
(1999年7月)
DMD対応
ショートアークキセノンランプ
ウシオ電機(株)東忠利※, 藤名恭典※
Tadatoshi Higashi, Yasunori Fujina
1. はじめに
近年,透過型液晶,反射型液晶,DMD(Digital Micro-mirror Device)などの画像素子に大出力光源で光を照射し,その透過光または反射光を拡大投射することにより,スクリ一ン上に映像を投写するタイプの画像プロジェクターの開発,改良が急速に進んでおり,製品生産量も拡大している。その際の光源は,透過型液晶画像素子用には従来はメタルハライドランプが主流であったが1),最近は集光効率の高い超高圧水銀ランプが閉発され,使用され始めている2)。
一方,DMDと反射型液晶の反射型画像素子に対しては比較的低出力のプロジェクターにはメタルハライドラシプや超高圧水銀ランプが使用されているが,光出力の大きいプロジエクターにはkW オーダーの太型キセノンランプが必須光源になっている。これは高輝度の大出力光源はキセノンランプしかないためである(大型ランプとしては高ワットメタルハライドランプもあるが,輝度が必ずしも十分でない)。特に最近,XGA,SXGA などの小型の高精細DMDが開発されてからは3),大出力キセノンランプの更なるショートアーク化も要求されるようになった。
なお,透過形液晶画像素子で大出力キセノンランプが使用されない理由は,液晶の耐熱性の問題で高密度の光照射ができないためである。小型プロジェクターの場合はメタルハライドランプや超高圧水銀ランプの方が効率が良く,また安価でもある。
2. ショートアークキセノンランプの特徴
ショートアークキセノンランプの長所は,
- (1)可視域の光スペクトルが連続スペクトルであり,演色性が良い
- (2)極めて高輝度にできる
- (3)ランプ間の色ばらつきが少なく,且つ寿命中の色変化も極めて少ない
- (4)瞬時再点灯,瞬時立ち上がりが可能である
- (5)大出力光源が比較的容易に製作できるなどである。一方,短所としては,
- (a)効率が30~401m/Wと低い
- (b)ランプ電圧が低いため電流値が大きく,ランプおよび点灯回路が高価になる
- (c)保管時のランプ内圧力が高いため(約10気圧),ランプ交換に専門知識が必要である
などが挙げられる。
ショートアークキセノンランプには上記のような特徴があるため,従来からの代表的な応用として映画館用の映写用光源,劇場用の大型スポットライト.サーチライト,ファイバー照明用光源(胃カメラなど)などがある。また,比較的ロングアークの小型キセノンランプが写真撮影用フラッシユランプとして使用されている。
ショートアークキセノンランプには石英ガラス製ランプでは75Wの小型ランプから7kWまでの大型ランプがある(電極水冷式では入力30kWのランプもある)。他にアルミナセラミック容器を使い,小型の反射鏡をランプ中に内蔵した0.3~1kW入力電力のセラミック製キセノンランブもある。
3. DMD対応ショートアークキセノンランプ
特にDMD対応のショ一トアーグキセノンランプとして1kW,1.6kW,2kW入力電力の石英ガラス製キセノンランプと,500W,lkW 入力電力のセラミック製キセノンランプとが開発されている。
3.1 石英ガラス製キセノンランプ
石英ガラス製のショートアークキセノンランプには,かなり小型のランプから定格電力7kWの大型ランプまで製品化されている。しかし,小型画像素子であるDMDを使用したプロジェクター用の光源として興味のあるキセノンランプは入力電力が約1kW以上のショートアークキセノンランプである。従って最近,DMD対応としてアーク長を従来ランプより短縮した1kW,l.6kW,2kWなどの入力電力の石英ガラ入製キセノンランプが開発され,使用されている。表1にこれらのランプの特性をまとめる。
例として,最近では3板式DMDブロジエウタ一にしばしば採用されている1.6kWキセノンランプの外観を写真1に示す。図1に同ランプの相対輝度分布を示し,図2に同ランプの分光分布を示す。このランプは常温時の電極間間隔は3.5mmであるが,定常点灯時は電極が伸びるため点灯時の電極間隔(=アーク長)は3mm程度になる。これらのランプは,同電力の従来のショートアークキセノンランプに比較してDMDプロジェクター対応としてアーク長が1.0~2mm短縮され,またランプ全長が短縮されている機種もある。
陰極直前の輝点の輝度が非常に高いが,光束を稼ぐためには発光部の全体の光を取り込む光学設計が望ましい。
3.2 セラミック製キセノンランプ
反射鏡内蔵型のセラミック製キセノンランプは,当初はファイバー照明用光源(主に胃カメラ用)として開発された。その後,入力電力を増大したランブがDMDプロジェクター用として開発された。反射鏡内蔵型のセラミック製キセノンラシプの断面構造図の例を図3に示す(実際にはこの周りに放熱ファンを取り付けて使用される)。アーク長1.2mm~1.6mmで,最大定格電力が500Wと1kWの2機種が開発されている。反射鏡は一般には回転楕円鏡が使われ,反射鏡の有効直径は30~40mm程度であり,楕円鏡の焦点はランプ前方約10~20mmにある。放射状放熱フィンを装着した1kWラシプの大きさは直径94mm,全長85mm程度である。また500Wランプで直径85mm,全長80mm程度である。
一般にキセノンランプの入力電力は定格最大電力の70%程度まで可変で低減でき,最大定格電力より少し低い電力で点灯することにより,ランプ寿命を延長できる。
セラミック製キセノンランプの特徴は,石英ガラス製キセノンランプに比較して効率は低いが,反射鏡まで含めた大きさを考慮すると,光源が小型軽量になる利点がある。また反射鏡の口径が小さいため光学系を小さくできる利点もある。セラミック製キセノンランプには破裂の可能性がないことも特長である。
4. さいごに
最近のプロジェクターの動向として,中級汎用機種には透過型液晶3板式が使用され,小型・安価な機種には単板式DMDが使用されている。また大出力の据付型大型機種こは反射液晶3板式のほかに3板式DMDを使用したプロジェクターが増えている。
3板式DMプロジェクターにはショートアークキセノンランプが最も適合した光源と見なされている。これは映画映写用大型投影機に大型ショートアークキセノンランプが使われているのと同じ理由によるものであり,デジタル情報機器の発展と共に今後の伸びが期待される。