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光技術情報誌「ライトエッジ」No.22(2001年9月発行)

ハロゲンランプ

ハロゲン電球の基礎

1. 光とハロゲン電球

10nm(10×10-9m)~10万nmの波長をもつ電磁波を「光」といい、この波長域の電磁波を発生する放射体をすべて「光源」といいます。わたしたちが、ふつうに光といえば、可視光線をさしていますが、これは400nm~750nmの波長を持つ電磁波で、これより短かい波長(10nm~400nm)の光は紫外線、長い波長(750nm~10万nm)の光は赤外線と呼ばれています。

また、光源を歴史的な視点から分類すれば自然光源(太陽・月など)、燃焼光源(たいまつ、ガス灯)、電気エネルギーとした光源(電気的光源…フィラメント電球、発光ダイオード)に分けられます。電気的光源は、その発光機構によって、さらに概略3つに分類されます。

  • (1)熱幅射光源…電気エネルギーを熱エネルギー(例えばジュール熱)に変換し、固体の温度を上げ、その温度に相当する輻射線を利用する光源。〈例〉フィラメント電球(一般白熱電球、ハロゲン電球)
  • (2)気体の発光光源…電気エネルギーで気体の原子または分子を励起し、励起状態からより低い状態へもどる時に発する光を利用する光源。〈例〉水銀ランプ、クセノンランプ
  • (3)固体光源……固体の原子または分子、もしくはエネルギー帯中の電子を、電気的な方法で励起し、より低い状態へもどる時に発する光を利用する光源。〈例〉エレクトロルミネッセンス、発光ダイオード、半導体レーザー

2. ハロゲン電球(HALOGEN LAMP)

ハロゲン電球(ハロゲンランプ)とは、その封入ガスに微量のハロゲンガスを添加した白熱電球のことです。ハロゲンガスとは、沃素(Iodine,I)、臭素(Bromine,Br)、塩素(Chlorine,Cl)、弗素(Fluorine,F)などの総称で、かつてハロゲン電球は、沃素電球と呼ばれていたこともあります。ハロゲン電球は、1959年に米国GE社(General Electric)のZublerとMosbyによって、沃素を用いて開発されました。

白熱電球は、発熱体を電流によって白熱状態に加熱し光を放射します。ふつう白熱電球には、高融点(約3400°C)のタングステンフィラメントが使われています。タングステンは融点以下ですでに蒸発が始まり、これによってフィラメントはやせほそり、やがて最終的にある位 置で切れてしまいます。これが白熱電球の自然寿命です。また、電球のバルブ内壁は、蒸発したタングステンの付着によって黒化していき、外部に放射される光がだんだん減少し、その減少率は20%近くにも達します。このような、タングステンの蒸発を防止するために、ハロゲンガスが有効であることが判明しました。

ハロゲンガスの動作原理

フィラメントから蒸発したタングステン(ゾーン1)は、ハロゲンガスと反応して(ゾーン2)、タングステン-ハロゲン化合物が生成されます。このタングステン-ハロゲンは、250°C以上1400°C以下でその状態を維持しています(ゾーン3)。したがって、バルブが250°C以上であれば、バルブ壁に付着することはなく、黒化もおこりません。タングステン-ハロゲンは熱対流によってフィラメント付近に運ばれると、高温のためにタングステンとハロゲンガスに分解され(ゾーン2)、タングステンはフィラメントに沈澱し、自由になったハロゲンガスは、再び次の反応を繰り返します。このような一連のサイクルをハロゲンサイクル(Halogen Cycle)といいます。

現実のハロゲン電球では、フィラメント温度が均一でなく、分解されたタングステンはタングステンの蒸発の激しいフィラメントの高温部分には戻らず、温度の低い部分に戻りやすいため温度の高い部分のフィラメントがやせ細りついには断線することになり、有限の寿命となります。

3. ハロゲン電球の特長

4. ハロゲン電球の品種構成

5. ハロゲン電球の構造と各部の名称

6. ハロゲン電球の使用材料

(1)バルブ(石英ガラス)

ハロゲンサイクルに必要な高温を維持するためには、一般に、石英ガラス管を使用します。石英管には、透明石英管(Transparent Quartz)と不透明石英管(Translucent Quartz)があります。

不透明石英管は一部のヒーターいn使用されていますが、ほとんどのハロゲン電球では、透明石英管が使用されています。

フィラメントの像を散らしたり、大きな放射面として使用するために、透明石英管をフロスト加工をほどこして使うことが増えてきています。

なお最近では、自動車用ハロゲン電球においてアルミナシリケートガラス系の硬質ガラスが、バルブ材料として使用され始めています。

(2)フィラメント(タングステン)

ハロゲン電球のフィラメントには、線の柔軟性と高温での蒸発率の低いことからタングステン線が用いられます。そして長時間使用中のフィラメント変形防止(ノンサグ性)のために、タングステン線の軸方向に長く伸び、かつ互いにインターロックした再結晶組織(図10)をつくる特別 な仕様のタングステン線を使用します。

このノンサグ性タングステン線はK2O-SiO2-Al2O3系のドープタングステン線と呼ばれています。

(3)シール部(モリブデン)

モリブデンは、シール部で、ハロゲン電球の内と外を電気的に接続する箔として使用されています。このモリブデン箔は、厚さ数10µmで図11のように、フェザーエッジになっています。これによって、シール部の気密性が保たれます。表3にモリブデンの特性を示しています。

(4)封入ガス

ハロゲン電球は、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、及びクリプトン(Kr)などの不活性ガス(Inert gas)と微量のハロゲンガスを、電球内に封入しています。現在、一般に使用されているハロゲンガスは、沃素(I2)系、臭素(Br2)系および塩素(Cl2)系の化合物です。

ハロゲン電球を設計する時、実際の使用状態に即してハロゲンガスの種類と量 を選択する必要があります。またきわめて長寿命が要求される場合には、加圧します。常温時に1~3気圧のガス圧で不活性ガスを封入し、高いガス圧によって、タングステンの蒸発を抑制して、長寿命をはかります。

(5)ベース(BASE)

ハロゲン電球のベースは、高温で使用されるため、材料は、通常、ステアタイトあるいは耐熱性金属が使用されます。ダブルエンドタイプのハロゲン電球には、従来、使いやすいR7Sベースが使われることが多かったのですが、最近では、ヒーターなどにおいてソケットが設計しやすく、接点の接触不良の心配の少ないリード線タイプベースの使用が増えています。

リード線は、耐熱条件や使用環境によって、ニッケル裸より線、シリコン被覆電線、シリコン被覆ガラス編組電線、テフロン電線などが使用されます。

7. ハロゲン電球の特性

(1)色温度と分光分布

一般に電球に入力される電力の75~95%が光と熱として放射されます。そのうち6~12%が可視光として放射され、残りは赤外線となります(図12)。この割合は電球の構造等によって変わります。

ハロゲン電球の色温度と分光分布の関係は図13のようになります。同図が示すように色温度が高くなると短波長側、すなわち可視光側にピークが移り、光出力が増加します。

ピークの波長は2897÷色温度(K)で求めることができます。また放射される可視光の分光分布は、そのハロゲン電球の色温度を使って、プランクの放射側から計算することができます。

電圧を変化させた時の分光分布エネルギーの変化は図14のようになります。

(2)効率(Im/W)と色温度

効率と色温度の関係を図15に示します。複写機用の光源に使用されるセグメントタイプのフィラメント構造になった場合は、発熱体が小さくなり、不発光部などへの熱損失が大きくなります。そのため、一般ハロゲン電球に比べ同一効率なら色温度が少し高くなります。

(3)電圧変化と諸特性変化

ハロゲン電球においては、各特性の変化率(F/Fo)は、電圧の変化率(V/Vo)に対し、近似的に次の関係があります。

表4は、Kの値を示しています。(但し、電球の構造によってKの値は若干変化します。)図15にその関係を図示します。

(4)電圧変化と寿命変化

ハロゲン電球においては、電圧の変化に対 し、寿命は次の関係があります。

この式に基づけば、定格電圧に対し90%の電圧で点灯した場合に、寿命は約3倍に、また、110%で点灯すれば約1/3になります(図16)。ただし、ハロゲン電球には、定格電圧で最適なハロゲンサイクルが働くように、そのフィラメント温度(色温度)に合わせた濃度のハロゲンガスが封入されています。したがって、電圧を下げて使用した場合、フィラメント温度が低くなり相対的に濃い濃度のハロゲンガスとなり、フィラメントは浸食されて短寿命になりやすく、また過電圧で使用した場合には、フィラメント温度は高くなり相対的に薄い濃度のハロゲンガスとなりますのでバルブの黒化が起こりやすくなります。

すなわち、ハロゲン電球では電圧を変化させて使用するには、その適正範囲を考慮しなければなりません。

実際に使用する電圧が、定格電圧と大きく異なる場合その使用電圧を定格値としたハロゲンガス濃度に再設計し直す方が良いと思われます。

(5)効率と寿命

電球寿命(フィラメント寿命)は、フィラメントからのタングステンの蒸発速度に関連し、蒸発速度はフィラメント温度すなわち効率に比例しています。

一般用ハロゲン電球および複写機露光用のハロゲン電球における効率と寿命(平均)の関係を図17-図19に示しています。

図でわかるように一般用ハロゲン電球と複写機露光用ハロゲン電球では、同じ効率であっても一般 用ハロゲン電球の方がはるかに長い寿命となります。これは前述(2)のように複写機露光用のハロゲン電球ではセグメントフィラメントのため、熱損失が大きいためです。また同じ複写 機露光用ハロゲン電球においても、定格電圧が高い方が短い寿命となります。これは、電球寿命は効率だけではなく、フィラメントのタングステンワイヤーの線径(定格電圧が高くなると線径は細くなります。)にも影響されることを示しています。

(6)シール部温度と寿命

ハロゲン電球の寿命は、フィラメント溶断のほかに、シール部の故障も要因になります。シール部温度とシール部の寿命の関係を図20に示しています。これは一般 的なデータで電球の種類によってその傾きは若干変わります。またシール部温度が高くなれば寿命時間のバラツキの分布は大きくなります。

シール部には、前述6-(3)のようにモリブデン箔は完全には外気と遮断されているわけではなく、外部リード棒と石英ガラスとの微細な隙間を通 して空気にふれています。モリブデンは350°C程度の高温になると非常に酸化しやすい性質があります。このため350°C付近でモリブデン箔に酸化が始まり、体積が増えていきます。そして石英ガラスがモリブデンの体積増に耐えられない時点で破損が起こり、モリブデン箔も切れてしまいます。したがってシール部は350°C以下であることが望まれます。(寿命5000時間のヒータにおいては300°C以下であることが望まれます。)ただし、定格寿命の短い高効率のハロゲン電球では、350°Cを超えるシール部温度であっても実用上使用可能な場合があります。シール部温度の測定は、通常、熱電対を使用して行ないます。測定の具体的な方法については参考資料13-(2)に示しています。なおウシオでは、シール部温度測定のために熱電対付きのサンプル電球の供給も行っています。

(7)バルブ温度と寿命

ハロゲン電球の寿命は、バルブ温度によっても影響されます(図21)。

このグラフは、一般的なパターンを示しています。実際には各電球の構造によっても多少の差異が生じます。

温度限界は、下限で250°Cとなります。これはさらに低温になる場合、ハロゲンサイクルが適正に働かなくなり黒化しやすくなるためです。一方上限は、複写 機用ハロゲン電球等では約550°C(ヒーターの場合は、約800°C)となります。これより高温になると、バルブの吸蔵不純ガスなどが放出され、黒化を早めたり、フィラメント溶断がおこりやすいなどの影響が出ます。したがって、高温に対しては、強制空冷や、より太いサイズのバルブ使用が必要となります。

定格電圧より大幅に低い電圧で点灯したとき、バルブ温度が250°Cより低くなることがあります。この場合には、フィラメントからのタングステンの蒸発が極端に少なくなっていますので、通 常は黒化にはいたりません。

そのほか、電球は構成材料と封入ガスとの化合物によって、バルブの冷たい部分に変色の起こることがあります。この変色は、フィラメント付近までにはいたらないので、電球の性能には影響を与えません。

なお、低電力化した複写機露光用ハロゲン電球として、外径6Φ(従来8Φ)の細バルブが、世界に先がけて、ウシオによって開発量 産されています。これもハロゲンサイクルが有効に動作するよう適正なバルブ温度を保つための工夫の一つです。

(8)配光分布特性各種

ハロゲン電球を組み込む照明装置は、それぞれの配光分布特性を考慮して設計されます。各ハロゲン電球の配光分布特性を図22に示します。

8. 参考資料

(1)フィラメント温度について

フィラメント温度の表わし方には、真温度、輝度温度、色温度、分布温度の4つがあります。

真温度 ……放射体そのものの温度です。

輝度温度 …特定の波長での放射体の輝度が、ある温度の完全放射体(黒体)の同波長での輝度に等しいとき、この完全放射体の温度を、その放射体の輝度温度といいます。輝度温度を、光高温計で測定するとき、その波長(λ)は、655nmが用いられています。輝度温度は真温度より低くなります。

色温度 ……ある放射体の光色に等しい光色を持つ完全放射体の温度を、その放射体の色温度といいます。色温度は、真温度よりも高くなります。

色温度の測定方法は、色温度計(カラーメーター)によるもの、輝度温度からの換算、分光分布特性からの算出の3つがあります。

色温度計(カラーメーター)を使えば、その被測定電球の色温度は直接表示されます。輝度温度から換算する場合は、光高温計(パイロメーター、PYRO-METER)を使い、フィラメントの輝度温度を測定して換算します。

フィラメントの1ターン部だけの温度測定のため、電球の局部的な温度が測定可能です。

分光分布法は、可視範囲の分光放射強度を測定し、色度座標から求めます。

分布温度 …ある放射の可視域での相対分光分布が、ある温度の黒体の分光分布に等しいかあるいは近似のとき、この温度をその放射体の分布温度といいます。JISC7527(ハロゲン電球)では「分布温度」を使っていますが、ハロゲン電球の場合、分布温度と色温度の値は等しいため、当資料では色温度で統一しています。

(2)シール部温度の測定方法

①熱電対 …温度測定用の熱電対は公称直径0.3mm以下のJIS C1602に規定するクロメルーアルメル熱電対を約150°の開き角度で点溶接したものであること。

②熱電対の固定方法…封止部への熱電対の固定は規定に準ずること。

③方法(I)…電球の準備
電球シール部の外部導入線とモリブデン箔の溶接部上で、電球軸に垂直な方向に、最大厚さ0.5mm、直径約100mmのダイヤモンドカッターを用いて、注意深く外部導入線に達するまで切り込みを入れます。この際、切り込み角度αは、モリブデン箔を傷つけない角度にします(図49)。

固定方法 …熱電対の接点は、露出した外部導入線と接点を、確実に接触させ、上からセメントを盛り固めます。さらに、熱電対は、切り込みの中で両方向に引張り、切り込み全体にセメントを充填します(図50)。

④方法(II)…電球の準備
電球シール部の外部導入線とモリブデン箔の溶接部上の外部導入線に対向する封止面 に、起音波ドリルを用いて、直径約1mmの穴を開け、外部導入線の表面を露出させます(図51)。

固定方法 …熱電対の接点は、露出した外部導入線と、確実に接触させ、接点の上からセメントを充填します(図52)。

備考…熱電対を外部導入線に固定するとき、熱電対が外部導入線と、確実に接触していることを電気的導通 で確認します。さらに、外部導入線と熱電対の接点部は通常ろうづけ、または溶接で固定するのが望ましい。

⑤方法(III)…電球シール部の表面に、直接熱電対の接点を押し当て、この上からセメントで固定します。この場合の固定点は、温度の相関を確認して決定します(図53)。

⑥測定 ……測定にあたっては、熱的な平衡を得るため、0.5~1時間点灯した後で、熱電対の起電力を測定し、シール部温度を求めます。C-A熱電対の起電力は、次の式で求めることができます。
T=24.27×V
T:温度(°C)V:起温度(mV)

(3)複写機露光用ハロゲン電球の配光分布測定方法

ウシオでは、独自に開発した配光分布測定用受光器を使用して測定しています。この配光分布測定用受光器は、受光角度特性をCOSθに近似させています。

通常では、90°分割で配置した4つの受光器の出力を加算し、チャート上に記録しています(図54)。

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