USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.24(2002年4月発行)

月刊ディスプレイ11月号
トレンド クローズアップ 最新プロジェクタ動向

(2001年10月)

プロジェクター用光源の
現状と今後の展開

ウシオ電気(株) 東 忠利、杉谷 晃彦、藤名 恭典
Tadatoshi Higashi, Akihiko Sugitani, Yasunori Fujina

1. はじめに

透過型および反射型液晶やDMDを使った画像プロジェクターは、各種プレゼンテーションや娯楽用機器としての応用が拡大しており、さらには今後は投写型大型テレビとしての応用が伸びると予想されている。液晶およびDMDなどの画像表示素子はライトバルブとして働き、別に高輝度光源を必要とする。したがって装置の明るさは基本的には高輝度光源の光出力(厳密にはetendue当たりの光束)に依存する。

画像プロジェクターに使われる高輝度光源としては、1989年の開発当初はハロゲンランプと交流点灯型メタルハライドランプ(アーク長5~6mm)であった。その後、短アーク長に適した直流点灯型メタルハライドランプ(アーク長1.5~3mm)が開発され、さらに点光源性に優れた超高圧水銀ランプ(高輝度水銀ランプ、アーク長1~1.5mm)が開発された。さらに当初は実験的に使われていたキセノンランプが、反射型画像素子の出現と共に大出力プロジェクターには必須の光源として採用されるようになった。

液晶プロジェクターの立ち上がり期の光源の役割を果たしたメタルハライドランプは保守用ランプとしての役割の他に、現在も手軽な高出力ランプとしても採用されている。

本稿では、これらの各ランプに付いて現状を述べるとともに、今後の展開を予想してみたい。

2. 超高圧水銀ランプ(高輝度水銀ランプ)

原理:水銀ランプの点灯中の水銀蒸気圧を150気圧以上程度に増加すると、赤成分に相当する600~700nmの波長域の連続スペクトルが顕著に増大し、9000K程度の高色温度の白色が要求されるカラー画像用の光源として好適なランプになる。図1に50年前に測定された水銀蒸気圧と分光エネルギー分布の関係を示す1)

一方、水銀の蒸気圧を増加するとランプ電圧が増大し、短アーク長でも高いランプ効率が得られる。さらに水銀は可視スペクトル線の励起エネルギーや連続スペクトルの原因になる電離エネルギーが高く、アークの中心軸付近で発光するため点光源に適している。

交流点灯と直流点灯:直流点灯型ランプが開発された直接の理由は、交流点灯型ランプで問題になった電極輝点の移動に伴う光のちらつきを低減するためであった。交流点灯ランプと直流点灯ランプの違いは電極の形態だけである。交流点灯ランプでは1つの電極で陰極と陽極の役割を担う必要があるのに対し、直流点灯ランプでは陰極と陽極の役割が決まっており、各電極を最適な形状に設計できる利点がある。

直流点灯には点灯回路が簡略化されるという利点もある。基本的には短形波交流点灯のための電子点灯回路は、商用周波電力を直流に整流し、その直流電流を一定値に制御し、直流電流を短形波交流電流に切り替える3部分から成り立っている。直流点灯では最後に直流電流を交流電流に切り替える部分が全く不要になるため、 その分が小型、かつ安価になる。

一方、最近では交流の電流波形を図2のように加工することにより、交流点灯ランプのちらつきを低減できることが報告されている2)

図1 水銀蒸気圧と分光エネルギー分布1)

図2 安定なアークを形成する電流波形2)

2.1 超高圧水銀ランプの現状

ランプ電力:プロジェクター用超高圧水銀ランプは、最初に矩形波交流点灯タイプの100Wランプが開発され、1995年末にリアプロジェクターに搭載された。その後1997年には120Wランプが開発され、フロントプロジェクターに搭載された。1998年には日本で150Wの交流点灯型ランプと直流点灯型ランプとがほとんど同時に開発され、量産が始まったためプロジェクターへの採用が急速に進んだ。また、1999年に200Wランプが開発され、さらに2000年には交流点灯で230Wランプ、直流点灯では250Wランプが開発された。2001年に直流点灯の275Wが開発されるなど、年々ランプの大出力化が進んでいる。したがって現在は交流点灯ランプでは定格入力100W、120W、150W、200W、220~230Wなどのランプが、また直流点灯ランプでは130W、150W、200W、250W、275Wなどのランプが生産されている。上記のランプは一般にアーク軸を水平にして点灯するように設計されているが、直流点灯型ランプにはリアプロジェクター用として垂直点灯専用の200Wランプも製品化されている。

寿命特性:リアプロジェクター用として設計されている交流点灯100Wランプと垂直点灯専用の直流点灯200Wランプは5000時間以上の平均寿命を持っているが、他のランプはフロントプロジェクター用ランプを目的に設計されており、平均寿命は2000時間になっている。

アーク長:アーク長はすべての電力のランプが開発当初は1.3~1.5mm程度であったが、現在は100~200W入力のランプはアーク長1~1.3mmに短縮されている。

発光特性:プロジェクター用超高圧水銀ランプの製品化の初期には点灯時の水銀蒸気圧が150~170気圧程度であったが、年々改良され、現在では170~210気圧程度が実現されている。最近の200W超高圧水銀ランプの分光エネルギー分布の例を図3に示す。色温度は約8500Kであり、かなり良好な分光分布になっている。

図4に200W直流点灯型超高圧水銀ランプの輝度分布の例を示す。超高圧水銀ランプでは電極の大きさに対してアーク長が短いため、光はアーク軸に直角な方向を中心にして±45度程度の比較的狭い角度内に集中して出ている。これが超高圧水銀ランプの集光効率を高くしている一因でもある。

反射鏡(リフレクター):プロジェクター用ランプは回転放物面または回転楕円面の反射鏡に組み込んで使用される。初期プロジェクターには3.1インチ液晶素子が使用されていたこともあり、反射鏡も直径100mm以上の比較的大きいものが使用された。その後高温p-Si-TFT液晶板の実用化により1.3インチ液晶素子が標準的な画像素子になり、さらに画像表示素子が液晶、DMDとも0.9インチ、0.7インチと進むにしたがって、反射鏡も小型化の要請がますます強くなり、また低入力の超高圧水銀ランプが製品化されたことにより、現在では前面解放タイプでは130Wランプ用として高さ42mmx横45mmの反射鏡も実用化されている。前面密閉タイプでは120Wランプ用として高さ52mmx横56mmが製品化されている。

また大出力ランプの小型化のためには前面密閉とし、図5に構造を示すような内部に空気を流して冷却する反射鏡も開発されている。

図3 超高圧水銀ランプの分光エネルギー分布の例(直流点灯、200W)

図4 超高圧水銀ランプの輝度分布の例(直流点灯、200W)

図5 前面密閉型反射鏡の強制冷却方法

2.2 超高圧水銀ランプの今後の展開予想

ランプ電力:現在、大出力ランプとしては直流点灯で275W、交流点灯で230Wまでのランプが量産されている。今後はまず、300Wランプが開発され、さらに現行のものより大きい画像パネル用として350~400Wランプ程度までは開発されることが予想される。

一方、小出力化では現在交流点灯の100Wランプがあるが、交流点灯でも直流点灯でも技術的には80Wランプ、60Wランプを開発することは可能であろう。

発光特性:超高圧水銀ランプの分光エネルギー分布はアーク長を固定すれば蒸気圧と電力とデザインに依存する。ランプ効率は、一定以上のランプ電圧と一定の蒸気圧範囲では蒸気圧にはほとんど依存しない。しかし、分光分布的には蒸気圧の増大とともに線スペクトルが減少し、連続スペクトルが増大するため、設計思想による最適な蒸気圧が存在する。

製品化初期には150~170気圧程度であった水銀気圧が発光管の耐圧性能が年々改良され、現在は170~210気圧が達成されている。これ以上水銀蒸気圧を上げてもスクリーン特性の向上はわずかであるため、耐圧信頼性との兼ね合いから現在の水銀蒸気圧が選ばれている。

170~210気圧という水銀蒸気圧は、従来考えられていた値よりも低い。この理由は、大出力ランプでは電流が必然的に増加するため水銀蒸気圧を増やさなくとも連続スペクトル比率が増加すること、および図6に示すように高い水銀蒸気圧においては水銀分子の形成が意外に多く、多量に水銀を封入しても圧力は従来考えられていたほど上がっていないという事実がある3)

最適な蒸気圧は未だ不明である。この蒸気圧はランプ電力に依存するが、200気圧からはあまり離れていない圧力に最適値があると予想される。今後、プロジェクター側の光学的仕様が確定すれば最適な分光分布になる水銀蒸気圧が選ばれるようになろう。

アーク長:プロジェクター用超高圧水銀ランプの製品化初期には1.5mmのアーク長が標準的に選ばれた。その後、光学系側の要求とランプ製作技術の向上により、200W以下の小型ランプでは平均アーク長を1~1.3mmに選ぶようになった。今後、どこまでアーク長を短縮するかは、光学系とランプの組み合わせで検討する必要がある。

図7に、アーク長を1.4mmから0.8mmまで0.2mm間隔で変化させたときの集光率をプロジェクターのエテンデュー(etendue=利用できる光源の面積x立体角)に対してシミュレーション計算した結果を示す4)。図7の計算ではランプ効率は入れていないので、 スクリーン光束はこれにランプ効率を掛ける必要がある。このようにプロジェクターのetendueの低下とともに(etendueは主に画像素子の大きさと、投射レンズの明るさによって決まる。0.9インチPBS & F2.5投射レンズ系では約14であり、0.7インチ系では約8.5に相当する)、集光率が低下するが、ランプのアーク長が短いほど集光率の低下が小さい。

実際には150Wランプではアーク長0.8mm以下ではランプ電圧の低下や電極の影による効率の低下のためにスクリーン光束が上がらない。また、ランプ製作上の誤差が現在では±0.1mm程度あり、これを考慮に入れると、150W以上の現在のランプに対しては約1mmのアーク長が限界になっている。したがって将来、アーク長の製作精度が向上すれば、入力電力80~130Wのランプなどでは0.8mm程度までの短縮が可能かもしれない。

長寿命化:現在、フロントプロジェクター用ランプは2000時間のランプ寿命を目標にランプ設計がなされている。リアプロジェクターでは長寿命のランプが要求されており、交流点灯100Wランプと垂直点灯専用の直流点灯200Wランプで5000時間以上の寿命が得られている。将来、これらのランプ寿命をそれぞれ2~3倍程度に伸ばすことは十分可能であろう。

点灯回路:グロー放電やトリガーワイヤなどの始動補助具の採用によって、点灯回路の始動パルス電圧をかなり低下させることが可能であり、将来、これにより電子点灯回路が大幅に小型、軽量化される見込みである。

図6 水銀蒸気圧と水銀分子分圧の計算例3)

図7 円柱モデルによるアーク長とetendueと集光率のシミュレーション結果

3. キセノンランプ

キセノンランプは可視波長域に良好な連続スペクトルを発光し、演色性の良い光源として知られている。また高ガス圧で短アーク長のランプにすると高輝度が得られることも知られている。演色性の良さを生かした用途に写真撮影用フラッシュランプがあり、高演色性と高輝度を生かしたランプに映写機用ランプなどの画像プロジェクター用ランプがある。

短アークキセノンランプには、石英ガラス製キセノンランプの他に、比較的最近開発された反射鏡内蔵型のセラミック製キセノンランプがある。

3.1 キセノンランプの現状

ランプ定格:従来のフィルム映写用ランプとしては電力1kWから7kWの石英ガラス製ランプが製品化されている。一般の映写フィルムは1.1インチ以上の画面であるが、最近のDMDや反射型液晶の画像表示素子は0.7~0.9インチと小さく、これに対応した大出力プロジェクター用としてアーク長をより短縮した電力1kW~2.5kWのキセノンランプが新規に開発されている。写真1に新規開発の1.6kWキセノンランプの外観を示す。

セラミック製キセノンランプは反射鏡を内蔵するために1.2~1.6mmの短アーク長になっており、効率は低下するが、反射鏡を含めた光源装置としてコンパクトな構成になっている。反射型画像素子を使ったプロジェクター用のランプとして400W~1kWランプが開発されている5)

発光特性:図8に1.6kWキセノンランプの分光エネルギー分布を示す。このような連続スペクトル発光の特徴から、2kWクラスのランプでも効率は40 lm/W程度である。キセノンランプには陰極前面に非常に輝度の高い場所があるが、光を有効に利用するためにはアーク全体からの光を使う必要がある。

表1にDMDや反射型液晶利用の大出力プロジェクター用として新規に開発されたキセノンランプの主な定格値を示す。新規開発のランプはアーク長の短縮、ランプ全長の短縮、動作蒸気圧の増加に依る効率の向上などの特徴がある。

反射鏡:キセノンランプも回転楕円面または回転放物面を持った反射鏡と組み合わせて使用されるが、kWオーダーのキセノンランプは大きいため1枚の反射鏡で集光効率を上げようとすると反射鏡は非常に大きいものになる。これを避ける方法として図9に示すような合わせ鏡方式がある。これはランプの背後と前面に回転楕円鏡と球面鏡を向かい合わせに置いたもので、ランプから前方向に出た光の一部をランプ内に戻し、背後の楕円鏡によって前方に反射し、光を有効に利用するものである。

写真1 キセノンランプの外観例(電力1.6kW)

図8 1.6kWキセノンランプの分光エネルギー分布

表1 主要なキセノンランプの定格値

図9 合わせ鏡方式による反射鏡の構成例

3.2 キセノンランプの今後の展開予想

ランプ電力:現在、反射型画像素子に対応した短アーク長のランプとして1kW~2.5kWが開発されているが、今後は高精細反射型画像素子を使用したデジタルシネマ対応のランプとして4.5~6kWのランプが開発されることが予想される。

アーク長:短アーク型キセノンランプでは入力電力に対する電極損失の割合が大きく、40~50%に達するため、アーク長を短縮すると効率の低下が大きい。したがってプロジェクター光学系との整合でアーク長は決まると考えられる。

ランプ効率:アーク長が同じならばキセノンガス圧力が高いほど効率が向上する。最近のランプはキセノン封入圧力が非常に高くなってきているが、信頼性を確保しながらどこまで高くできるかが課題である。

4. メタルハライドランプ

原理:高圧水銀ランプの効率や演色性を向上するために、ディスプロシウム、スカンジウムなどの稀土類金属や、インジウム、タリウム、ナトリウムなどの金属のハロゲン化物(沃化物、臭化物)を添加封入したものである。開発初期のプロジェクター用メタルハライドランプは短形波交流点灯ランプであったが、後には短アーク長化に強い直流点灯ランプが多く使用されるようになった6)

4.1 メタルハライドランプの現状

ランプ電力:交流点灯では100W、150~160W、180~200W、250W、400W、575~600Wなどのランプが、直流点灯では125W、150~160W、200W、250~280W、330~370W、400~440Wなどのランプが一度は製品化された。現在も生産されている代表的なメタルハライドランプは、直流点灯型では125W、270W、400W、440W、交流点灯型では600Wなどのランプである。

アーク長:開発初期の矩形波交流点灯ランプのアーク長は5~6mmであった。しかし、画像パネルの小型化とともにランプのアーク長の短縮が必要となり、交流点灯型のアーク長3mmの150Wランプも製品化された。短アーク長に強い直流点灯型メタルハライドランプの開発により300W以下のランプではアーク長1.5~2mmのランプも生産可能になった。アーク長2.2mmの400~440Wランプも製品化あれている。

発光特性:メタルハライドランプは封入物質について種々の組み合わせがあり、高演色性のランプを製作できる。しかし、飽和蒸気圧型ランプ(封入物が管壁に残っている)のため寿命中に発光色が変化する。また寿命中の維持率も単一封入物のランプに比較すると若干劣る。

4.2 メタルハライドランプの今後の展開

超高圧水銀ランプやキセノンランプに比較したメタルハライドランプの特徴は、400~600W程度の中出力ランプを作りやすいことであろう。しかしアーク長は2.2~4mm程度になるため、1.8インチ以上の高精細透過型画像素子に適している。また現在のところ、超高圧水銀ランプよりも低コストのため、安価なプロジェクター向きとして100~300Wの小型ランプが採用される可能性がある。

5. 結び

超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプとも、ランプの高出力化、さらなるアーク長の短縮、長寿命化、コストダウンなどが共通した開発課題であろう。また超高圧水銀ランプについては高信頼化も重要な課題であろう。

これらの特性の進歩によって高品質で安価な投写型ディスプレイがますます普及することが期待される。

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